離婚を検討しておられる会社員の方の中には、離婚に伴う仕事への影響や離婚後の生活について不安を感じる方も少なくないでしょう。

会社員の方が離婚する際に取り決めておくべき内容や離婚時の留意点は、個々の事情に応じて異なります。

この記事では、会社員の方が離婚をする際に知っておくと役立つ基礎知識や留意点を解説します。

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会社員が離婚したら会社への報告は必要?会社に言わないで済む方法はある?

法律上、離婚の事実を会社に報告しなければならないという決まりはありませんが、会社から受けている福利厚生や社会保険の手続き上、報告が必要なケースもあります。

ここでは、会社員の方の離婚に際して、会社への報告が必要なケース・不要なケースを解説します。

離婚時に会社への報告が必要なケース

離婚時に会社への報告が必要な代表的なケースは以下のとおりです。

元配偶者や子供がご自身の会社の社会保険に被扶養者として加入していた場合

例えば、夫が会社員で妻が専業主婦等の場合、婚姻中は、妻と子も含めた家族全員が被扶養者として夫の会社の社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入していることが一般的でしょう。

離婚すると、元妻は元夫の被扶養者ではなくなるため、資格喪失(扶養解除)の手続きが必要です。元妻が親権者として子を扶養する場合は、子についても資格喪失の手続きを取らなければなりません。

実際の手続きは勤務先の会社が行いますが、元配偶者や子が扶養から外れた場合、速やかに会社に被扶養者の健康保険証を提出して資格喪失の手続きを取ってもらう必要があります。この際、離婚した事実を会社(人事部や総務部の担当者)に伝えることになるでしょう。

併せて、会社が発行する資格喪失証明書を、元配偶者に交付する必要もあります。

所得税の配偶者控除または配偶者特別控除の適用を受けていた場合

会社員の方が、年末調整において配偶者控除または配偶者特別控除の適用を受けようとする場合には、その年の最後に給与等の支払を受ける日の前日までに、給与所得者の配偶者控除等申告書を、会社を経由して所轄税務署長に提出しなければなりません。

離婚後は配偶者控除を適用できなくなるため、年末調整の書類を提出する際に会社内の年末調整を担当する部署等に離婚の事実を報告せざるを得ない可能性があるでしょう。

所得税の扶養控除の適用を受けていた場合

控除対象となる子を扶養家族として扶養控除の適用を受けていた場合も、離婚後に提出する扶養控除等(異動)申告書の内容が、婚姻中と異なる内容となれば、それをきっかけに年末調整を担当する部署に離婚の事実を報告せざるを得ない場合があります。

なお、控除対象となる子を扶養親族として扶養控除の適用を受けていた場合、離婚後に支払った養育費が以下2つの条件をどちらも満たす場合は、生計を一にしている子の養育費用であると捉えられるため、引き続き扶養控除を受けられることもあります。

  • 養育費が扶養義務の履行のため支払われている
  • 子が成年に達するまでなど一定の年齢に限定して支払われている

ただし、扶養控除は両親のどちらか一方に適用される制度であるため、子と同居している元配偶者が扶養控除の適用を受ける場合は、養育費を支払っていても別居している親は適用を受けられません。

離婚に際しての話し合いの中で、どちらが扶養控除の適用を受けるかを決めておくと後のトラブルを避けられます。子が複数いる場合は、養育費を支払っている親の扶養親族に長男、同居している親の扶養親族に長女などと定める方法もあります。

会社から家族手当や扶養手当が支給されていた場合

一般企業の中には、福利厚生の一つとして扶養手当や家族手当などを支給している企業があります。会社からこれらの手当を受け取っていた場合も、離婚の報告が必要になるでしょう。

税法上の扶養家族であることを扶養手当や家族手当の支給条件としている企業も多く、離婚した場合、従業員の元配偶者は手当の対象から外れることが一般的だからです。

会社から福利厚生としてこれらの手当が支給されている場合には、会社に離婚の報告をしなければ、不正受給に該当するおそれがあります。

離婚に伴い住所を変更した場合

離婚に伴い転居した場合には、住所変更の手続きが必要です。

会社から支給される通勤交通費は住所を基準として決定されるため、最新の住所を伝えておく必要もあります。

住所を変更した旨を伝える際に離婚の事実を報告する義務はありませんが、会話の流れから報告せざるを得ない状況になることもあるでしょう。

離婚に際して苗字を変更した場合

離婚後も、婚姻時の苗字を使い続けたい場合は、離婚の3か月以内(離婚の届出と同時でも可)に、離婚のときに称していた氏を称する旨の届(戸籍法77条の2の届)を役所の戸籍係に提出すれば、婚姻時の苗字を名乗れます。

この届出を行わない場合、婚姻時に配偶者の戸籍に入っていた場合は自動的に旧姓に戻ります。

通称使用(婚姻後も旧姓を使用することや離婚後に婚姻時の姓を名乗ること)を認めている企業も多くありますが、仕事上のすべての場面で通称を使用できるわけでもありません。

公的書類では戸籍名が用いられるため、社内で扱う社会保険・労働保険や税金などの法律に根拠がある書類では通称を使用できません。

通称使用が認められる場合でも、人事部や総務部の担当者など戸籍名で表記する必要がある書類を扱う部署には離婚の報告が必要になるでしょう。

苗字の変更に伴い給与振込先口座の名義を変更した場合も報告が必要です。

ポイント

会社に離婚を報告する際、どこまで説明すべきか悩まれる方もいらっしゃるでしょう。

会社には離婚理由などの詳細を伝える必要はなく、会社側の手続き上必要となる情報を事務的に伝えるだけで問題ありません。

離婚時に会社への報告が不要なケース

離婚時に会社への報告が必要なケースで挙げた事項のいずれにも該当しない場合には、差し迫って会社に離婚を報告する必要はないと考えられるでしょう。

しかし、周囲と円滑な人間関係を築くという観点からは、離婚の事実を隠し続けることがマイナスに働く場合もあります。

思い切って報告することも、ご自身の心理的負担を軽くすることに繋がるのではないでしょうか。

会社に離婚を隠すとどんなデメリットがある?

ここでは、会社への報告が不要なケースであっても離婚の事実を隠すと、どのようなデメリットがあるのかについて解説します。

寡婦控除やひとり親控除の適用を受けられないことがある

年間所得が500万円以下の会社員が離婚し、その後再婚せず事実上婚姻関係と同様の事情もない場合に、一定の条件を満たせば寡婦控除ひとり親控除を受けられる可能性があります。

年末調整でこれらの控除の適用を受けるためには、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書に必要な情報を記入しなければなりません。

会社に離婚の事実をひた隠しにしていると、年末調整でこれらの控除の適用を受けられないこともあります。ご自身で確定申告をすれば控除の適用が可能ですが、手間を考えると年末調整で申請した方が簡便でしょう。

参考:No.1170 寡婦控除|国税庁 (nta.go.jp)

参考:No.1171 ひとり親控除|国税庁 (nta.go.jp)

望まぬ業務命令や人事異動が生じる可能性がある

結婚や妊娠、出産、育児、介護は会社として特別な配慮を考える事象と言えます。

離婚後にシングルマザーあるいはシングルファザーとして、一人で子を養育している状況である場合には、会社としても転勤を命ずることを避けてあげたいと考えるでしょう。

離婚の事実や離婚後の家庭環境をひた隠しにしていると、そのような配慮を得られず、不本意な業務命令や人事異動が生じる可能性があります。

会社に離婚の報告をするタイミングや報告の相手は?

ここでは、会社に離婚の報告をするタイミングや報告の相手について解説します。

会社への離婚報告のタイミング

離婚報告のタイミングは、基本的には離婚することが決まった時点あるいは離婚届を提出した後で良いでしょう。

ただし、離婚の時期が各種保険や年末調整の手続きに差し掛かるときは、人事総務関連の担当者の負担が大きくなることも考えられます。離婚を報告することに抵抗がない場合には、離婚が決まった段階で伝えておくと良いかもしれません。

離婚報告する相手の範囲

基本的に報告の必要があると考えられる範囲は、直属の上司人事総務関連の担当者と考えます。

上司に報告する前に、周囲から上司の耳に届いてしまうと面目がつぶれてしまったと気分を害してしまう可能性もありますので、直属の上司には優先的に報告した方が良いでしょう。

婚姻に際して、仲人をしてくれた上司や結婚を祝ってくれた人、家族ぐるみの付き合いがある同僚などがいる場合は、礼儀として離婚の報告はした方が良いという考えもあります。

会社員が離婚した場合、財産分与はどうなる?

ここでは、会社員の方の離婚に伴う財産分与の注意点について解説します。

婚姻中に夫婦が協力して築いた財産は財産分与の対象となる

婚姻中の財産には、以下の3つがあります。

  • 特有財産(遺産など名実ともに夫婦の一方が所有する財産)
  • 共有財産(名実ともに夫婦の共有に属する財産)
  • 実質的共有財産(名義は夫婦の一方に属するが、夫婦が協力して得られた財産)

このうち、共有財産実質的共有財産財産分与の対象となります。

会社員の場合は退職金や財形貯蓄・社内積立なども分け合う必要がある

会社員の場合、将来支給されうる退職金や財形貯蓄・社内積立があれば、それらも財産分与の対象となります。

退職金の精算方法について裁判所の考え方が分かれていますが、通常は以下のいずれかを対象とするのが一般的です。

  • 離婚時点で任意に退職すれば支給されるであろう退職金の額を精算の対象とする
  • 将来支給されることを条件として精算の対象とする
  • 将来の退職金自体を現時点で精算の対象とする

金額は、原則として以下の計算式で求めます。

財産分与の額=退職金総額×(婚姻期間/退職金基準期間)÷2

会社員の夫(妻)と離婚した場合、妻(夫)の年金はどうなる?

ここでは、会社員の方の離婚に伴う年金分割について解説します。

年金分割制度

現行の年金制度は、20歳以上60歳未満の全国民が強制的に加入を義務付けられている国民年金(基礎年金)を1階部分、被用者年金である厚生年金を2階部分とした2階建て構造となっています。

年金分割の対象となるのは、2階部分の厚生年金(年金一元化前の共済年金を含む)です。

年金分割には、合意分割3号分割2種類があります。

合意分割

合意分割は、按分割合について当事者の合意または裁判手続き(調停・審判)により定めて分割改定請求を行う方法です。平成1941日以降の離婚を対象として適用されます。按分割合は2分の150%)以下の範囲で定められます。

3号分割

3号分割は、平成204月以降の第3号被保険者(被扶養配偶者)を有する第2号被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという理解に基づき創設された年金分割制度です。

夫婦の平成204月以降の第3号被保険者期間につき、同年41日以降に離婚が成立した場合、当事者の一方が単独で請求できます。按分割合は2分の150%)となります。

年金分割に関する注意点

年金自体が分割されるわけではない

年金分割といっても、年金そのものが分割されるわけではありません。夫婦の婚姻期間中のそれぞれの厚生年金(年金一元化前の共済年金を含む)の保険料納付記録(標準報酬月額と標準賞与額)の合計額を当事者間で分割します。

分割を受けた側は、分割された分の保険料を納付したものとして扱われ、それに基づいて算定された老齢厚生年金を将来受給することになります。

離婚後2年を過ぎると請求できなくなる

合意分割・3号分割のいずれの場合も、社会保険庁に分割改定請求をしないかぎり、年金分割は行われません。この請求は、原則として離婚成立時から2年以内(審判等により2年を経過した場合は、審判等が確定した日から1か月以内)に行わなければなりません。

まとめ

会社員の方が離婚の際に考えておかなければならないことには、退職金を含む財産分与や年金分割の他にも、離婚までの婚姻費用や離婚後の子の養育費、親権など様々な問題があります。

離婚後の人生を安定・充実したものとするためには、離婚前に適切な条件を取り決めることが大切です。

当事者同士での話し合いがスムーズに進まないときは、弁護士へご相談されてみてはいかがでしょうか。離婚問題に関する経験が豊富な弁護士のアドバイスを受けることで、最適な解決策が見つけられるでしょう。

ネクスパート法律事務所は、ご依頼者様の離婚後の生活を見据え、悔いの残らない形で人生の再スタートを切っていただけるよう、ご依頼者様の気持ちに寄り添う事件解決を目指します。