離婚調停は取り下げができる?

離婚調停を申し立てたものの、「やっぱり復縁したい」「調停が長引いて疲れてしまった」と、途中で気持ちが変わったり、状況が変化したりすることは決して珍しいことではありません。
もしあなたが離婚調停の取り下げを検討しているのであれば、手続きは複雑ではないか、費用はかかるのかといった不安を抱えていることでしょう。
本記事では、離婚調停の取り下げが可能かどうか、具体的な手続きや注意点について解説します。

離婚調停の取り下げはできる?

離婚調停手続きを進めている中で、このまま続けていいのだろうかと立ち止まる瞬間は誰にでもあります。この章では、離婚調停の取り下げができるかどうかについて解説します。

離婚調停の取り下げはいつでも可能

離婚調停の取り下げは、調停が終了する前であれば、申立人がいつでも行えます。離婚調停を申し立てた人には、その調停自体をなかったことにできる権利が法律で保障されています。この権利を行使するにあたり、相手方(配偶者)の同意や裁判所の許可は、原則として必要ありません。

「調停が終了する前」には、調停期日当日も含まれます。例えば、調停期日に出廷したものの、話し合いの途中で復縁の意思が固まった場合でも、終了前であれば取り下げの意思を示し、必要に応じて取下書を提出できます。

取り下げが申立人固有の権利として強く認められているのは、調停という手続きの性質上、話し合いの場を求めるかどうかは申立人の自由な意思に委ねられているためです。
調停は、あくまで申立人が裁判所に話し合いの場をセッティングしてもらうことから始まります。この話し合いの場自体が、もはや申立人にとって不要になった、あるいは不利益になると判断した場合、裁判所が手続きの続行を強制する理由はないという考え方に基づいています。

離婚調停を取り下げた場合に生じる効果

離婚調停の取り下げた場合、申立ては撤回され、当該調停手続きは終了します
離婚調停の手続きが終了する原因はいくつか存在します。主な終了形式としては、夫婦双方が合意に至る調停成立、合意に至らず話し合いが打ち切られる調停不成立、あるいは裁判所が判断を下す調停に代わる審判などがあります。
これらに対し、離婚調停の取り下げは、調停による結論が出る前に、申立人自身の意思で手続きを終結させるという点が特徴です。離婚調停の取り下げは、家事事件手続法第273条1項により認められており、調停が終了する前であれば、申立人の判断で行えます。

申立人が調停を取り下げた場合、原則として相手方に通知されます
調停が終了した事実を相手方に知らせることは、手続き上の公平性を保つために必要です。取下書には、相手方へ取下げの意思を通知済であるかを確認する欄が設けられています。申立人が通知を行っていない場合は、裁判所書記官が代わりに相手方に対し、調停が取り下げられた旨を通知します。
取下げをした場合、通常は相手方にも手続き終了が通知されるため、相手方に知られないまま進行するものではありません。そのため、取り下げの決断を下す際には、取り下げ後の相手方との関係性、特に復縁ではない場合の協議再開への影響を考慮して、理由を含めて誠実に通知することが、後の関係性を円滑にするために推奨されます。

離婚調停を取り下げたこと自体が、再度調停や訴訟を申し立てる際に不利な事情として評価されるとは限りません

離婚調停の取り下げと不成立の違い

取り下げと調停不成立は、どちらも調停の終了形式ですが、決定権者と手続きの法的効果において、明確な違いがあります。
調停の取り下げは、申立人の一方的な意思による手続きのリセットです。一方で調停不成立は、調停委員会(裁判官と調停委員2名)が、話し合いを継続しても双方の合意形成が不可能だと判断し、調停を打ち切る終了を意味します。
調停が不成立となった場合、離婚を強く希望する側は、次の手段として家庭裁判所へ離婚訴訟の提起を検討するのが一般的です。しかし、取り下げを選んだ場合は、申立人が自らの意思で調停外の話し合いに戻るなど、訴訟を避け、費用や時間を節約する方法を選ぶことができます。

離婚調停の取り下げを検討する主な理由は?

離婚調停の取り下げを検討する理由は多岐にわたります。この章では主な理由について解説します。

夫婦関係が円満に修復し、復縁を決意した場合

離婚調停を通じて夫婦関係が円満に修復し、復縁を決意したケースです。離婚調停は、第三者である調停委員を介して冷静に相手方の意見を聞く機会です。この過程や、調停のために物理的な距離を置いた冷却期間を通じて、離婚したいという気持ちが変化し、夫婦関係を修復したいと結論に至ることがあります。
復縁を選択した場合、離婚調停を続けることに意味がありません。このようなケースでは、早期に取り下げを行うことが、家庭生活の再構築に向けた選択肢となる場合があります。家庭裁判所に提出する取下書には、取り下げ理由として円満同居を選択する項目があります。

調停を一旦終了し、当事者間の話し合いに戻る場合

調停手続きが長期間に及び、裁判所を介するよりも当事者同士で直接交渉した方が早期解決につながると判断した場合、離婚調停の取り下げが行われます。
調停では、裁判所の手続きという制約された中で解決を図らなければなりません。しかし、相手方の主張を十分に聞き出せた後、当事者間で柔軟な解決を目指す協議に戻るほうが効率的だと判断することがあります。この段階で調停を取り下げるのは、当事者間の協議に切り替えて解決を図るための手段といえます。

調停委員の対応や手続きの進行に不満がある場合

調停委員が相手の味方をしていると感じたり、調停の進め方や中立性に疑問を感じたりした結果、精神的な疲弊から調停を打ち切りたいと考え、取り下げに至るケースもあります。
離婚調停では、調停委員は中立・公平であることを求められています。しかし、話し合いが進む中で、相手の意見ばかり尊重されている、こちらの主張が理解されていないと感じ、中立・公平性が損なわれていると感じる場面は少なくありません。このような不満を抱えたまま調停を継続することは、申立人にとって精神的負担となります。
離婚調停の取り下げは、手続きを中断し、今後の方針を整理し直す契機となります。ただし、調停委員への不満が理由の場合は、取り下げる前に離婚調停に代わる案を検討することが重要です。

離婚調停を取り下げる具体的な方法は?

この章では、離婚調停を取り下げる具体的な方法について解説します。

調停申立て取下書を提出する

離婚調停を取り下げる際、原則として裁判所に調停申立て取下書を提出します。取下書は、申立人が署名捺印をした上で、事件を担当している家庭裁判所(または支部、出張所)に提出します。取下書が裁判所に受理された時点で、申立ては取り下げられます。
取下書には、以下の事項を正確に記載します。

事件番号と事件名の記載

申立てを行った際に付与された事件番号(例:令和〇年(家イ)第〇号など)と事件名(夫婦関係調整(離婚)事件)を正確に記載します。

当事者情報の確認

申立人と相手方の氏名を明記します。

取り下げ理由を選択する

取り下げ理由を選択し、必要に応じて具体的な理由を記入します。取下書には、取り下げの理由として、協議離婚成立、円満同居、金員支払い等の協議成立、話し合いがつかない、都合により、その他といった選択肢が設けられています。正確に選択し、具体的な理由を記入することが望ましいです。

口頭で取り下げる

調停申立て取下書の提出が原則ではあるものの、例外的に調停期日に出席している場合に限り、裁判官や調停委員に対して口頭で取り下げの意思を伝えることも認められています
口頭での取り下げは、突発的に復縁が決まった場合など、緊急性が高い場合に利用される手段です。しかし、口頭で取り下げた場合でも、手続きの確実性を担保するため、裁判所書記官がその内容を調書に記載する作業を行います。

離婚調停を取り下げる際の注意点は?

離婚調停の取り下げをするにあたり、いくつかの注意点があります。

離婚調停にかかった費用に関する注意点

離婚調停を取り下げる手続き自体には、裁判所に納める追加費用は発生しません。しかし、申立人が離婚調停の申立てを弁護士に依頼している場合、すでに支払った弁護士費用が返金されるかどうかという問題があります。
着手金の返金は、弁護士との委任契約の内容と弁護士がどれだけ業務に着手していたかによって判断されます。
弁護士に依頼をした場合、委任契約はいつでも解消できます。契約を解消し、調停を取り下げた場合、着手金は原則として、弁護士が費やした労力を精算した上で、残額があれば返金されます。弁護士の業務着手前であるなど、契約内容・進捗によっては、着手金が返金される(または返金額が大きくなる)可能性があります。
すでに裁判所への申立て、書類作成、相手方への連絡、調停期日への出席準備など、具体的な業務が進展していた場合は、弁護士が費やした労力に見合う金額が差し引かれます。残額があれば、依頼者に返金されます。
取り下げを決断した場合、時間が経過し、弁護士の業務が進むほど精算額が増え、返金額が減少してしまう可能性があります。取り下げの意思が固まったら、できる限り早く弁護士に相談し、費用精算について協議することをおすすめします。

相手方の心証への影響に関する注意点

離婚調停の取り下げは法的に不利になることはありませんが、相手方との人間関係、特に心証に影響を及ぼす可能性があります。相手方から見ると、調停で結論を出す前に突然手続きを取り下げたという事実は、不信感や困惑につながりかねません。特に、復縁ではなく、調停を避けて協議離婚に戻ろうとする場合、相手方がまた話し合いから逃げたと受け止め、その後の協議が難航するリスクがあります。
取り下げ後の話し合いを円滑に進めるためにも、復縁の場合はその旨を明確に伝えることが望ましいでしょう。協議を目指す場合は、裁判所を介さず双方の負担を減らして話し合いたい旨を、理由と併せて伝えるとよいでしょう。

調停委員への不満で取り下げる際の注意点

調停委員への不満は取り下げの理由になり得ますが、取り下げる前に、裁判官への相談や弁護士の同行といった代替手段を検討しましょう。そうすれば調停を継続しつつ、公正な解決を目指せる可能性があります。
調停委員が中立性を欠いていると感じる状況は、申立人にとって大きなストレスであり、調停手続きへの信頼を損ないます。しかし、調停を取り下げてしまうと、それまでの努力が無駄になります。取り下げる前に、まずは状況を改善するための措置を講じることが賢明です。
調停委員は、夫婦それぞれの主張を聞き、冷静に第三者の視点からアドバイスや提案をして、話し合いを促進する役割を果たします。本来、調停委員には中立性を保つことが強く求められており、一方の立場に偏ることなく、双方を尊重しながら公平な解決案を提案する義務があります。
もし、調停委員が相手方の味方をしていると感じ、不満を抱いたとしても、感情的になって調停委員と対立することは避けるべきです。感情的な対立は、手続き進行に支障を生じさせるおそれがあります。まずは、中立的な判断が損なわれていると感じる具体的な事実に基づいて、調停委員に対し、冷静に中立性を保って判断するよう指摘することが大切です。
それでも状況が改善しない場合、申立人は家庭裁判所に調停の進め方について相談することができます。問題点を具体的に裁判所に伝えれば、裁判所は手続きの見直しを求めることが可能です。調停委員会は、通常2名の調停委員と1名の裁判官で構成されています。どうしても調停委員の進め方に納得がいかない場合は、裁判官を呼び出して直接相談するのも有効な対策です。
調停委員への不満がある場合、弁護士を調停に同行させることも有効です。
弁護士は、単なる代理人ではなく、法的な専門知識を持つ第三者として調停に参加します。弁護士が同席することで、調停委員に対し、主張の根拠となる法的な観点や裁判例を明確に提示し、中立的な判断を促すことができます。これにより、調停の質が向上し、調停委員が一方に偏った判断をしにくくなります。
この結果、調停が公正に進み、申立人が取り下げを検討していた場合でも、調停を継続して解決を図れる可能性が高まります。

まとめ

離婚調停の取り下げは、状況の変化に応じて方針を見直すための手段の一つです。離婚調停の取り下げを検討する背景には、復縁や協議への移行といった前向きな理由から、調停手続きへの不満といった切実な理由まで、さまざまな状況が絡み合っています。取り下げは申立人の意思により行える一方、相手方との関係や今後の協議への影響といった実務上の留意点もあるため、事情を踏まえて慎重に判断することが望ましいでしょう。
ネクスパート法律事務所には、離婚案件を多数手掛けた経験のある弁護士が在籍しています。離婚調停の申し立てを考えていたり、申し立てをしたものの上手くいかないと悩んでいたりする方は、初回相談は30分無料ですので、一度お問い合わせください。