夫婦間で離婚協議が進展しないとき、調停を申し立てて話し合いを行います。調停は裁判官と調停委員2名によって進められますが、場合によっては調停を取り下げた方がいいケースがあります。
どのようなケースにおいて調停を取り下げた方がいいのでしょうか。ここでは、調停を取り下げた方がいい場合と、調停取り下げのデメリットについて詳しくご紹介します。
目次
離婚調停の取り下げとは
離婚調停を申し立てた人が調停を取り下げて終了させることがあります。調停は裁判とは異なり、必ずしも終了するまで進める必要はありません。申立人がいつでも取り下げすることができます。
調停の「取り下げ」は、「調停不成立」と勘違いされやすいかもしれませんが、調停不成立は話し合いの末に合意できなかったことをいい、話し合いがうまくいっていかなくても調停を終わらせることができる取り下げとは意味合いが違ってきます。
また、調停不成立と判断するのは申立人ではなく調停委員です。数回の調停を経て不成立になるのに対し、取り下げは調停の途中でも申立人が強制的に終了させることができるので、この点でも調停不成立とは性質が異なります。
取り下げの方法
離婚調停を取り下げるには申立人が申立書を作成し裁判所に提出します。相手の同意は不要で、理由を問わず、いつ取り下げても構いません。なお、申し立てられた相手側からは調停を取り下げることはできません。
取り下げになる割合
司法統計を見ると令和元年度に調停を申し立てた件数は約6万件で、半数以上が「調停成立」しています。その次に多いのが「調停の取り下げ」で、取り下げ自体は特段珍しいことではないのです。
終局区分 | 件数 |
---|---|
総数 | 60,542 |
調停成立 | 32,532 |
調停不成立 | 10,360 |
取下げ | 12,597 |
参照:第16表 婚姻関係事件数―終局区分別審理期間及び実施期日回数別―全家庭裁判所
離婚調停を取り下げるケース
夫婦間の問題解決を目指して調停を申し立てているのに、それを自ら取り下げるのはどのような意図があるのでしょうか。実は案件によっては調停を取り下げた方がいいケースも少なからずあります。代表的な例を3つご紹介します。
離婚条件が不利になりそうな場合
離婚するために調停を申し立てたものの、話し合いを重ねていくうちに自分にとって不利な流れに進んでしまうことがあります。例として以下のような理由です。
- 不倫やDVなどの証拠が十分でない
- 相手の主張に説得力があり、こちらから反論するのが難しい
- 調停をしている時に失言があった
- 話し合いをしていくうちに調停委員が相手の味方についてしまった
万が一自分にとって不利な解決策になりそうな場合、調停を取り下げて仕切り直しをする方法があります。取り下げた後に、不倫やDVの十分な証拠を用意したり、相手の主張に対してどのように反論すればよかったのかなどを振り返ったりした上で再度調停を申し立てることもできます。
調停が進まない場合
次のようなケースで調停が進まないと判断されます。
- 指定された期日に相手が調停に来ない
- 相手が調停で一歩も譲歩しようとしない
相手が調停に来ない場合、調停不成立として終わらせることもできますが、申立人が取り下げて終了させる方法もあります。また調停は、夫婦関係や問題を修復することを目的としているので、お互いにある程度の歩み寄りが必要な時もあります。ところが、相手が譲歩する姿勢が見られなければ調停での話し合いが無駄に終わってしまうとして調停を取り下げ、すぐに裁判で争った方がいいと判断されるのです。
調停をやめて復縁をめざす場合
調停を申し立てたものの、話し合ううちに相手に対して気持ちが戻ってきたときや、反対に調停を申し立てた相手が離婚を思い直し、夫婦関係を修復したいときに調停を取り下げることがあります。
調停を取り下げた後、復縁できる可能性はゼロとは言い切れません。しかし、一度は亀裂が入ってしまった夫婦関係を再構築するのは極めて難しいのが現実です。調停を申し立てる側は、話し合いを重ねた末に自分たちでの解決が難しいと判断したために申し立てているので、離婚の意思は非常に固く、簡単には気持ちを切り替えられないためです。
また、離婚調停をする場合、弁護士に相談した上で自分に有利な条件で離婚したいという人がほとんどです。弁護士費用は決して安い金額ではありません。ある程度お金と時間をかけている以上、納得のいく結果を得ようと離婚調停に臨んでいます。
どうしても復縁したい場合は、自分の態度を改めたり、これまでの行いを謝罪したりして、相手に誠意を尽くすことで復縁を目指す方法もあります。
離婚調停を取り下げた後復縁できる確率
先述したように離婚調停を取り下げて復縁するケースも少なからずあります。令和元年の司法統計のデータでは、離婚調停が成立した後に「同居」に至った夫婦の件数は以下のとおりです。
離婚調停 | 件数 |
---|---|
総数 | 23,879 |
調停離婚 | 21,895 |
協議離婚届出 | 269 |
婚姻継続-別居 | 1,344 |
婚姻継続-同居 | 371 |
参照URL:第15表 婚姻関係事件数―終局区分別
上記のデータでは、離婚調停を申し立てた件数が約2万3千件、そのうち婚姻を継続し「同居」に至ったのが371件となっています。しかし、同居に至ったからと言って、必ずしも復縁できたとは限りませんが、離婚調停をしたからといって必ず離婚に至る訳ではありません。
離婚調停を取り下げるデメリットは?
離婚調停を取り下げることでどのようなデメリットがあるのでしょうか。
大きなデメリットはない
調停を取り下げること自体に大きなデメリットはありません。なぜなら調停不成立とは異なり、申立人が離婚について争いがない、あるいは別の方法で解決を目指すと考えられるためです。
それが仕切り直しなのか復縁なのか、取り下げる理由はさまざまですが、取り下げたことで何らかの不利益が生じることはないのでご安心ください。
裁判に進めない可能性がある
離婚裁判は「調停前置主義」といって、調停がなければ裁判に進むことができないのが原則です。調停開始から取り下げた期間が短いと十分な話し合いが行われていないと判断され、訴訟提起が認められない可能性があります。
調停を1回終えただけで取り下げすると裁判に進めなくなるおそれがあるので、裁判ありきで調停取り下げを考えている場合は、だいたい2回か3回以上調停を経て取り下げると良いでしょう。
再度調停をするには一定期間たってから
一度は申し立てた調停が自分に不利に進んでしまったために取り下げた人が、仕切り直しのために改めて調停をすることもできます。
その場合、調停取り下げから2回目の調停申し立てまでの期間が短いと調停を軽んじられたと判断されてしまい、調停委員の心証が悪くとられる可能性があります。再度調停を申し立てる場合はある程度期間を置いた方が良いでしょう。
・離婚調停申し立ての手続きや流れ|有利に進める3つのポイント
離婚調停を取り下げた場合の弁護士費用
離婚調停を取り下げた場合、弁護士費用はどうなるでしょうか。弁護士費用の内訳は相談料、着手金、成功報酬金、実費などが含まれています。相談を受けている段階で相談料を返金してもらうことは難しいでしょう。
実費は調停手続きにかかる印紙代、切手代がすでに発生しているので返金を求めることはできません。成功報酬金は調停や裁判を経て離婚が成立した後に支払うので、調停成立の前に取り下げるなら成功報酬金はかかりません。
また、依頼した弁護士によっては着手金の一部を返還してもらえる可能性があります。詳しくは弁護士に依頼した際に交わした契約書に調停を取り下げた際にどのような対応がなされるか確認するか、弁護士に費用について相談してみましょう。
まとめ
調停を取り下げる方法と取り下げた時のデメリットについてご紹介しました。離婚調停の取り下げは取り下げ書を提出するだけで簡単にできます。しかし、その後夫婦関係を修復することは簡単ではありません。
夫婦関係の修復・問題を解決ができていないうちに調停を取り下げた後、その後どの行動するのかは申立人が決めなければなりません。調停を取り下げる場合は、取り下げ後のことを考えた上で慎重に行うべきでしょう。