
自分が有責配偶者にあたるかもしれないと考え「一生離婚できないのではないか」「法外な慰謝料を請求されるのではないか」と心配している方も少なくありません。
この記事では、有責配偶者の定義や離婚を成立させるために何をすべきか等について解説します。
目次
有責配偶者とは?|該当する行為
有責配偶者とは、婚姻関係を破綻させた主要な原因を作った配偶者を指します。有責性が問題となるのは、夫婦の話し合い(協議)や調停で離婚が成立せず、最終的に裁判で離婚を争うことになった場合です。
日本の裁判所は、自ら婚姻関係を破綻させた側からの離婚請求を原則として認めないという厳しい立場をとっています。これは、責任のない相手の配偶者を保護し、社会正義を守るための考え方に基づいているからです。
裁判で離婚が認められるためには、民法第770条1項に定められた法定離婚事由のいずれかに該当しなければいけません。このうち配偶者に責任を問うことができる事由は、以下の3つです。
- 不貞行為(不倫・浮気)
- 悪意の遺棄
- その他、婚姻を継続し難い重大な事由
これらのいずれかの行為により、夫婦の共同生活が維持できなくなったと判断された場合、その行為を行った配偶者が有責配偶者と認定されます。有責性が重いと判断されれば、離婚請求が制限されるだけでなく、相手方に対する高額な慰謝料支払い義務が生じます。以下でそれぞれについて詳しく述べます。
不貞行為
不貞行為とは、配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係を持つことを指します。不貞行為は、法定離婚事由の中でも、最も有責配偶者としての責任が重く評価されやすい原因です。
不貞行為の責任が重く評価されるのは、それが夫婦の貞操義務という婚姻の根幹を揺るがす行為であり、婚姻共同生活の平和を直接的に破壊するためです。そのため、裁判において不貞行為の証拠が提出された場合、離婚は認められやすく、行為を行った側が有責配偶者となります。
ただし、肉体関係がない場合の有責性については、判断が分かれます。単なるキスやデートなど、肉体関係を伴わない異性との親密な交際は、厳密には不貞行為そのものには該当しません。しかし、配偶者のいる身でありながら、そのような行為が夫婦関係の信頼を損ない、共同生活の平和を害したと認められれば、民法第770条1項5号の婚姻を継続し難い重大な事由と認定され、結果として有責配偶者と判断される可能性は残ります。
また、同性愛者との関係についても、日本の裁判例や通説上、不貞行為は配偶者以外の異性との肉体関係を指すと一般に理解されているため、同性との関係は原則として不貞行為には該当しません。しかし、その行為が原因で夫婦間の生活に重大な不和や精神的苦痛を与えた場合は、婚姻を継続し難い重大な事由として有責性が考慮される可能性があります。
悪意の遺棄
悪意の遺棄とは、夫婦がお互いに負っている3つの基本的義務を、婚姻生活の破綻を意図して積極的に果たさない場合に成立します。民法で定められている夫婦の義務は以下の3つです。
- 同居義務|夫婦は共に生活すべき義務
- 協力義務|生活のさまざまな場面で助け合う義務
- 扶助義務|経済的な生活費を相互に負担する義務
これらの義務違反の具体例は多岐にわたります。例えば、正当な理由のない家出や、配偶者の同意のない一方的な別居は同居義務違反に当たります。また、一時的に外出した配偶者を家に入れない行為や、配偶者が家から出ていかなければならないように仕向ける行為も、同居義務違反と判断されます。
扶助義務違反としては、健康で働ける状況にあるにもかかわらず、正当な理由なく生活費(婚姻費用)の負担を拒否するケースが該当します。
悪意の遺棄で有責配偶者の責任が重くなるのを防ぐためには、別居を開始する際の態度と、その後の経済的な対応が重要です。別居自体は、婚姻関係が破綻した後に起こる自然な現象であり、直ちに悪意の遺棄とはなりません。しかしあなたが家を出た後、意図的に婚姻費用の送金を停止したり、子どもの扶養を放棄したりした場合は、悪意の遺棄が成立し、有責性が決定的に重くなります。別居中の婚姻費用の確実な支払いは、悪意の遺棄の主張を防ぐための重要なポイントです。
婚姻を継続し難い重大な事由
不貞行為や悪意の遺棄といった明確な原因には該当しないものの、夫婦関係を破綻させた行為全般は、婚姻を継続し難い重大な事由と評価され、行った側は有責配偶者と判断されます。この事由に含まれる代表的な行為は以下のとおりです。
- 暴力・DV・虐待、重度の侮辱(モラハラ)
- 犯罪行為による服役(家族を養えず生活に重大な支障をきたした場合)
- 長期間の性生活の拒否や性的不能(異常な行為の強要など悪質な場合を含む)
夫婦関係がすでに冷え切っている状態での別居は、婚姻を継続し難い重大な事由
として扱われますが、離婚したいという明確な意思を持って別居を開始した場合、その別居自体が婚姻関係破綻の有責な原因と判断される場合があります。そのため、別居の経緯や目的は、裁判における有責性の判断に影響する可能性があります。
有責配偶者からの離婚請求が原則として認められない理由は?
日本の離婚裁判においては、信義誠実の原則(信義則)に基づき、婚姻生活の破綻について主要な責任がある有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。
自ら不貞行為や悪意の遺棄などの離婚原因を作った者が、その原因を利用して、責任のない相手方配偶者に対して一方的に離婚を強いることは、社会正義に反するという考え方です。この原則は、責任のない配偶者の精神的・社会的・経済的な保護を目的として、日本の裁判実務において長らく維持されてきました。
有責配偶者からの離婚請求が認められるケースは?
原則として有責配偶者からの離婚請求は認められませんが、例外となるケースがあります。
きっかけとなったのが、最高裁判所昭和62年9月2日判決です。夫(有責配偶者)が不貞行為を行い、その後妻に対して離婚を請求したというものでした。この事案では、同居期間8年に対し、別居期間が36年という極めて長期間にわたっていたこと、そして夫婦間に子どもがいなかったことがポイントとなります。
この判決は、単なる責任論だけでなく、破綻した夫婦関係をいかに社会的に合理的かつ公正に解決するかという視点を取り入れた画期的なものとして、現在も有責配偶者からの離婚請求における指針となっています。そして、有責配偶者が離婚を成立させるための、3つの考慮要素を確立しました。裁判所は、これらの要素を総合的に考慮し、離婚請求を認めるかどうかを判断します。
長期間の別居の事実がある
長期間の別居は、婚姻関係の修復が不可能であることを示す重要な客観的証拠です。長期間の法的定義は存在しませんが、実務上、少なくとも5年〜10年以上の別居期間が必要なケースが多いとされています。過去の裁判例では、最高裁が8年程度の別居期間が一つの目安になると解されており、この期間が参考にされることが多いです。長期間の別居が認められることで、裁判所は、夫婦関係が修復不能な状態にあり、もはや名ばかりの婚姻を続ける必要性がないと判断しやすくなります。
別居期間が5年未満の場合、別居の事実だけを理由に判決離婚が認められる可能性は低くなります。この場合、別居期間中に夫婦間の交流がまったくないこと、DVやモラハラといった婚姻関係の破綻を明確に示す他の重大な証拠が必要です。
さらに重要なのは、単に物理的に離れているだけでなく、長期間会話がない、生活が完全に分離している、親族関係も途絶しているなど、社会通念上、夫婦関係が修復不能であることを立証しなければいけません。例えば、別居期間が7年間に及んでいても、離婚の話し合いを一方的に拒否し続けているなど、形式的な破綻しか認められない場合には、離婚が認められないケースがあります。
未成熟の子がいないこと
未成熟の子とは、年齢に関係なく、経済的・精神的に親の扶養が必要な子どもを指します。未成熟子が存在するかどうかは、有責配偶者からの離婚請求の可否を判断する上で、非常に重い要素です。
未成熟の子がいると、親の都合で離婚を認めることは、子どもの生活基盤や精神的安定を不安定にさせ、最善の利益に反すると判断される可能性が高くなります。特に子どもが幼い場合や発達などの関係でさまざまな支援が必要な場合は、有責配偶者からの離婚請求は認められにくいです。
ただし、例外的に子どもが高校生など、ある程度の年齢に達しており、かつ長期の別居期間があったことを理由に有責配偶者からの離婚が認容された裁判例も存在しますが、これは特殊なケースです。原則として、未成熟の子がいないことが、離婚成立に向けた重要な前提条件となります。
相手配偶者が極めて苛酷な状況に置かれない
責任のない相手配偶者が、離婚によって精神的、社会的、特に経済的に困窮し、自立の目途が立たないような極めて苛酷な状況に置かれる場合、裁判所は離婚請求を認める可能性が低いです。この相手方の過酷な状況回避という条件は、有責配偶者が取り組むべき重要な法的要件です。
苛酷な状況の具体例としては、長年専業主婦(夫)として生活し、離婚後の自立が難しい方や、難病を抱える配偶者、あるいは障害のある子どもを介護し続けなければならない配偶者などが挙げられます。
この条件をクリアするためには、有責配偶者は単に謝罪するだけでなく、財産分与、慰謝料、婚姻費用、養育費などにおいて、相手方が自立できる程度の十分な金銭的援助を提供し、誠実な対応を示すことが必須です。相手方の経済的な不安を解消できる条件を用意し提示することは、裁判官の心証を良くするだけでなく離婚成立へのきっかけになるかもしれません。
有責配偶者が離婚請求する際に取るべき行動は?
あなたが有責配偶者である場合、残念ながら法的な交渉において不利な状況にあることは間違いありません。しかし、感情的な対立を避け、冷静に法的原則に基づいた戦略を取ることで、状況は好転します。解決への第一歩は、自己の責任を真摯に認め、誠実な姿勢で対応することです。あなたが取るべき行動について解説します。
金銭的な解決で主導権を握る
あなた自身の現在の収入、支出、そして保有資産を詳細に整理し、金銭的な解決で主導権を握るための準備をしましょう。離婚を認めてもらうための3条件をクリアするには、相手配偶者の生活を保障できるかを示す必要があります。例えば、慰謝料や財産分与を相場よりも手厚く提示し、可能であれば一括支払いで清算するとよいでしょう。これにより、相手方の経済的な不安を一掃し、交渉を迅速に完了させることが期待できます。誠実な経済的提案は、裁判所や調停委員に対しても、責任を果たそうとする姿勢を示すことにつながります。
相手方にも有責性がないか調べる
相手方にも有責性がないか調べましょう。裁判所は離婚について、どちらか一方が100%悪いと考えることは稀で、双方の言動や婚姻に至る経緯を総合的に踏まえて判断します。あなたに責任があったとしても、相手方にも婚姻生活を破綻させた原因があれば、双方有責として主張しましょう。具体的には、相手方による長期にわたる生活費の不支給、過度な浪費、DVやモラハラ、あるいは長期間の性交渉拒否などがこれに当たります。
双方が有責性を負う場合、裁判所は、どちらの責任がより重いかを比較し、責任の度合いに応じて離婚の可否や慰謝料額を判断します。この双方有責の主張が認められれば、あなた自身の責任割合が軽減され、離婚のハードルが下がるだけでなく、慰謝料減額交渉において強力な材料となります。
有責配偶者が支払う可能性がある慰謝料の相場は?
婚姻関係を破綻させた有責配偶者は、相手方に与えた精神的苦痛に対して、不法行為に基づく損害賠償責任(慰謝料支払い義務)を負います。
慰謝料の金額は、婚姻期間の長さ、有責行為の悪質性、子どもの有無、夫婦双方の責任の度合いなどにより、個別の事案で変動します。夫婦が離婚する場合は、婚姻関係を継続する場合と比較して高額になる傾向があります。これは、離婚が婚姻共同生活の破綻そのものを意味し、その原因を作った有責行為の影響が甚大であると評価されるためです。
以下の相場は、あくまで一般的な目安ですが、参考にしてください。
| 有責行為 | 一般的な相場(離婚成立時) | 補足事項 |
|---|---|---|
| 不貞行為(不倫・浮気) | 100万円〜300万円程度 | 悪質なケースでは300万円〜500万円を超えることもある |
| 悪意の遺棄 | 50万円〜300万円程度 | 相手方が生活困難に陥るなど、生活への影響度合いで変動 |
| DV・モラハラ | 50万円〜300万円程度 | 身体的・精神的な影響の重さ、期間が重要 |
| 性生活拒否・家庭放棄 | 0円〜150万円程度 | 有責性の立証が難しく、金額レンジが広い |
慰謝料を増減させる具体的な要因は?
慰謝料の金額は、以下の要因によって増減します。これらの要因を理解することは、慰謝料交渉の戦略を立てる上で欠かせません。
慰謝料が高額になる可能性がある3つの要因
一般的に慰謝料が高額になる可能性がある3つの要因について解説します。
- 未成年の子どもの存在
未成年の子どもがいる家庭での有責行為は、配偶者だけでなく子どもにも悪影響を与えるため、慰謝料が増額される要因となります。特に子どもの前での不適切な行為や、教育環境への悪影響がある場合は顕著です。 - 行為の悪質性
不貞行為の期間が長い、回数が多い、不倫による妊娠・出産があった、DVにより重傷を負わせた場合など、行為の悪質性が高い場合は慰謝料が高額になる傾向があります。 - 発覚後の不誠実な態度
有責行為の発覚後、事実を認めようとしない、不合理な弁解をする、あるいは開き直った態度をとるなど、相手の精神的苦痛を増大させる不誠実な態度をみせると、慰謝料が高額になる傾向があります。
慰謝料が減額される可能性がある5つの要因
一般的に慰謝料が減額される可能性がある5つの要因について解説します。
- 有責配偶者の経済力
あなたの資産や収入が少ない場合、裁判所は支払能力を考慮せざるを得ず、慰謝料を減額できる可能性があります。ただし、慰謝料の支払義務自体がなくなることはありません。 - 行為の軽微さ
不貞行為の期間が短い、または一度きりの関係であった場合など、行為が軽微な場合は慰謝料を減額できる可能性があります。 - 誠実な対応
心からの謝罪と反省の意を示し、離婚条件において誠実な経済的援助(財産分与や婚姻費用など)を適切に行った場合は、慰謝料を減額できる可能性があります。 - 相手方の過失
離婚原因について、相手方にもDVやモラハラ、生活費の不支給、あるいは長期間のセックスレス(性行為の拒否)などの過失が認められれば、あなたの責任割合が軽減されます 。例えば、配偶者からのDVやモラハラが原因であなたが他の異性に精神的な安らぎを求めて浮気してしまったような場合、慰謝料の減額が認められる可能性があります。 - 婚姻関係の破綻
あなたの有責行為が始まる前に、すでに夫婦関係が修復不能な状態(例えば長期の別居や長年のセックスレス状態)にあったと証明できれば、あなたの行為が婚姻破綻の唯一または主要な直接原因ではないと判断される可能性があります。この場合、あなたの行為が相手方に与えた精神的苦痛が相対的に小さいと評価され、慰謝料の支払いが認められない、あるいは大きく減額される可能性があります。
有責配偶者が受ける財産分与、親権においての影響は?
有責配偶者は、財産分与、親権において不利な影響を受けるのかどうか、それぞれ解説します。
財産分与について
あなたが有責配偶者であったとしても、財産分与を請求する権利は法的に保障されています。財産分与は、夫婦が共同生活において協力して築いた共有財産(夫婦の共同財産)を清算することを目的としています。この清算の権利は、離婚の原因を作った側の責任(有責性)とは原則として切り離して考えられます。そのため、交渉や裁判の際は、通常通り2分の1の割合での分与の主張が可能です。ただし、慰謝料の支払い義務がある場合、財産分与の額と慰謝料の額を相殺して清算するケースが一般的です。
親権獲得について
親権者の決定は、親の有責性や離婚原因とは直接関係なく、子どもの最善の利益を最優先して判断されます。裁判所は、どちらの親が子どもにとってより良い環境を提供し、継続的な監護・養育ができるか(監護能力)を重視します。しかし、あなたの有責行為が親としての監護能力を疑わせる場合は、親権獲得において不利になります。具体的には以下の事例です。
- 悪意の遺棄
悪意の遺棄が原因で子どもの監護に具体的な問題が生じた場合(例えば、生活環境が激変したり、経済的に困窮したりした場合)は、悪意の遺棄をした側を親権者とするのは不適切だと判断される可能性があります。 - DV・モラハラ
DVやモラハラが子どもに心理的な悪影響を与えた場合、親としての適格性(監護能力)が問題視され、親権を獲得するのは難しくなります。
あなたが有責配偶者であったとしても、子どもと離れて生活している場合、定期的に直接会ったり電話や手紙でやり取りしたりする権利(面会交流権)は、原則として認められます。ただし、過去にDVなどがあり、面会交流が子どもの安全を脅かすと判断される特段の事情がある場合は、面会交流が拒否または制限されることがあります。
有責配偶者が弁護士のサポートを受けるべき理由は?
もしあなたが有責配偶者にあたる行為をしていた場合、離婚請求をするにあたって困難な道のりが待っています。どうしても離婚を成立させたいと考えているなら、弁護士のサポートが不可欠です。
弁護士であれば、あなたが100%有責なのか、それとも相手方にも過失(DV、モラハラ、生活費不支給、別居後の不誠実な対応など)がなかったかどうかを再評価できます。双方有責を証明することは、慰謝料減額と離婚難易度の引き下げに繋がります。さらに相手方の有責性(双方有責)の証拠収集のアドバイスも可能です。
とかく感情的になってしまいがちな状況でも、弁護士がサポートすることで自分自身の行動に抑止ができます。不適切な言動や行動を取るリスクを回避できるのは、重要なポイントです。
まとめ
自分は有責配偶者にあたるのではないか…と不安に感じている方は、ぜひこの記事を参考にして冷静な判断をしてください。この記事で述べた点を理解し、弁護士のサポートを受けながら困難な状況を乗り越えてください。
ネクスパート法律事務所には、離婚全般に実績のある弁護士が在籍しています。初回相談は30分無料ですので、自分が有責配偶者にあたるのではないかとお悩みの方は、一度ご相談ください。

