自己破産で処分される財産・残せる財産を解説

借金が膨れ上がり返済ができなくなったときの債務整理の方法のひとつに、自己破産があります。

全ての財産と債務を洗い出し、財産を換価(お金に換えること)して債権者に分配する手続きです

その財産は実際、どのように換価されるのかというと、裁判所に選任された破産管財人弁護士が、財産を換価していくことになります。

そして、その手段は、現金や預貯金、不動産など財産の種類により違います。

ここでは自己破産で財産がどのように処分されるかについて、わかりやすく解説します。

目次

「自己破産=全ての財産を失う」ではない

みなさんは自己破産に対してどのようなイメージを持っているでしょうか。

おそらく「ほぼ全ての財産を失ってしまう」というイメージを持っている方もいらっしゃるかと思います。

また、そうしたイメージが先行し、なかなか自己破産手続きに踏み切れない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

結論から言うと、個人が行う自己破産については、全ての財産を失うわけではありません(法人破産の場合は全ての財産・資産が破産財団となり換価処分されます)。

これは、全ての財産を取り上げてしまうことで、破産者が破産後に生活できなくなってしまうことを防止しているためです。

では、具体的にどのような財産が残せるのか見ていきましょう。

「自由財産」は破産後も自由に処分・利用できる

破産後も破産者が自由に処分、利用できる財産を「自由財産」と言います。

自由財産に属するのは、以下のものです。

  • 新得財産
  • 差押禁止財産
  • 99万円以下の現金

このほかにも、裁判所によって自由財産の拡張が認められた財産や、管財人によって破産財団から放棄された財産も残して良いことになっています。

では、「新得財産」と「差押禁止財産」とは具体的に何かを見ていきましょう。

破産手続き開始後に取得した「新得財産」は破産財産に組み込まれない

新得財産とは、破産手続き開始後に取得した財産のことです。

破産手続きが開始するまでは、破産手続きを開始してほしいという申し立てを裁判所に対して行い、裁判所との面接が済んだあとに行われるのが一般的な流れです。

通常であれば、申し立てから2〜3週間あれば破産手続きが開始されます。

この後取得した財産は新得財産となるので、処分されることはありません。破産手続き後も自由に処分・利用することができます。

第三十四条 破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
引用:破産法34条1項 e-GOV

「差押禁止財産」も処分の対象とはならない

今まで持っていた財産についても、法律で差し押さえが禁止されている財産(ただし、民事執行法第百三十一条第三号に規定する金銭を除く)については原則的に処分の対象とはなりません。

特に一般の方に関わりのありそうなものは以下の通りです。

  • 債務者等の生活に欠くことができない衣服、寝具、家具、台所用具、畳及び建具
  • 債務者等の一月間の生活に必要な食料及び燃料
  • 仏像、位牌はいその他礼拝又は祭祀しに直接供するため欠くことができない物
  • 債務者等の学校その他の教育施設における学習に必要な書類及び器具

引用:民事執行法第百三十一条

これらのような財産は法律で差し押さえが禁止されているため、原則的に処分の対象とはなりません。

ただし、かなり高額なものは換価価値があると認められるので、処分の対象となってしまいます。

具体的には、換価すると20万円を超えるようなものについては処分の対象となる可能性があることも覚えておきましょう。

99万円までの現金

そして、99万円までの現金も残せます。

現金というのは、あくまで手持ちのお金であり、銀行への預貯金はこれには含まれません

ですから、現金は銀行に預けたままにせず、破産手続きを開始する前には必ず引き出しを行っておくようにしましょう

ただし、東京地裁(本庁)の運用方式に従えば、自由財産の拡張基準として20万円までの預金も処分対象から外れることになります。

その他の地裁の運用方式については、当事務所の弁護士にお問い合わせの上ご確認ください。

自由財産は拡張されることもある

そして、自由財産は法律で決まった範囲しか認められないというわけでなく、破産者が営んでいる生活の実態に基づき、拡張されることもあります。

例えば、財産処分を受けることで、その人の生活に極めて大きな制限が発生したり、収入が得られなくなるような事態が予想される財産に関しては、自由財産として扱われることもあります。

必ずしも自由財産は法律で決められた範囲だけでないので、ご不明点があれば当事務所の弁護士までご相談ください。

なお、東京地裁では、以下を自由財産の拡張基準として設定しています。

  • 残高(複数ある場合は合計額)が20万円以下の預貯金
  • 見込額(数口ある場合は合計額)が20万円以下の生命保険解約返戻金
  • 処分見込額が20万円以下の自動車
  • 居住用家屋の敷金債権
  • 電話加入権
  • 支給見込額の8分の1相当額が20万円以下の退職金債権
  • 支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7相当額
  • 家財道具

家族の財産まで処分されることはない

また、自己破産を行うと家族の財産まで処分されてしまうと勘違いしている方も多いですが、原則的に処分の対象となるのは破産者本人名義のものです。

ですので、家族の財産まで処分されることを心配する必要はありません。

ただし、家族名義のものでも、実態としては破産者本人の財産と認められるものは処分対象となる可能性があります。

また、家族名義の財産であれば処分されないことを利用して、名義を破産者の家族に変更することを考える方もいらっしゃいますが、これは財産隠しとみなされ、破産手続きの開始が却下されることもありますので、そのようなことはしないようにしてください。

一定の財産がある場合の自己破産手続き

自己破産手続きは原則として以下の手順で進みます。

  1. 財産、負債の調査
  2. 財産の換価
  3. お金に換えた財産を負債額に応じ配当
  4. 免責(支払い義務の免除)

3までの手続きは裁判所に選任された破産管財人弁護士が行いますが、手間もかかるため弁護士への報酬等の手続き費用が必要です。

手続き費用を支払う財産がある場合、上記の手続きをすすめます。

一方その手続き費用を支払う財産さえない場合、この手続きを省略して免責まで進みます(破産廃止といいます)。

実際の換価作業

破産管財人弁護士は破産手続き開始決定後、財産を順次お金に換えていきます。

そしてお金に換えられた財産を、最終的に配当して破産手続きは終了です。

なお、破産手続き開始決定前に債務者が財産を処分してお金に換えて、一部の債権者に弁済することは認められていません

破産管財人弁護士がその財産処分に対し否認権という権利を行使して、財産処分自体を無かったことにすることが可能です。

現金

もっともわかりやすく、作業も簡単な財産です。

現金を、破産管財人弁護士が開設した口座に入金して終了です。

預貯金

管財人弁護士は債務者の持つすべての預金口座の残高を確認し、全て管財人弁護士が管理する口座に送金します。

不動産

不動産の場合は少し厄介です。

担保のついていない不動産で価値が見込める場合、売却を図ります

担保がついていても、競売より高い値が付く任意売却をします。

この場合、担保権者から担保権を外してもらう必要があるので、担保権者の同意を取り付けます。

しかし明らかに住宅ローンなど担保されている債権額が不動産の価値より大きいときは、破産管財人弁護士が競売を待つメリットはありませんので、破産財団から放棄します。

動産やその他の財産

裁判所により若干取り扱いが異なりますが、概ね20万円以上の価値がある財産は処分されることになります。

具体的には自動車や貸付金、過払金や株式などの有価証券、生命保険の解約返戻金や退職金、売掛金や商品在庫等がこれに当たります。

美術品や骨とう品で価値が見込める場合に鑑定を行うこともありますが、鑑定費用も無視できませんので慎重に対応します。

換価しない財産

破産手続きの中で、お金に換えないで済む財産が定められています。

自由財産

先ほど20万円以上の価値がある財産は原則処分されると解説しましたが、すべて処分されるわけではありません。

自己破産を行うにあたり今後の再出発に必要な財産は「自由財産」としてお金に換えることなく手元に残すことが認められています。

以下の3つが認められています。

①99万円までの現金

裁判所により若干取り扱いに違いがあります。

②差押禁止財産

最低限の生活に必要な衣服、寝具、家具、台所用品などの家財道具や冷暖房器具、洗濯機、冷蔵庫、テレビなどの電化製品は、破産しても手元に置くことが可能です。

職業に応じた業務に欠かせない器具等(農業従事者の農機具や肥料等、漁業従事者の漁具等)も、換価せず所持が可能です。

給料や賃金などの債権、年金も引き続き受け取ることが可能です

③新得財産

破産の手続きが始まった後に取得した財産(手続き開始決定後に得た給料等)は、配当しなくても構いません

拡張された自由財産

裁判所は「破産者の生活の状況、破産手続開始の時において破産者が有していた前項各号に掲げる財産の種類及び額、破産者が収入を得る見込みその他の事情を考慮して」自由財産を拡張することが可能です(破産法第34条第4項)。

一律な判断基準はなく、上記のような様々な事情を考慮して判断することになります。

この判断には高度に専門的な知識が必要ですので、弁護士などの専門家に相談するといいでしょう。

破産財団から放棄された財産

僻地の別荘用不動産や山林など処分性が見込めず換金できそうにない財産は、破産財団から切り離して破産手続きを進めます。

お金にならない財産を換価対象にしても、時間の無駄だからです。

まとめ

自己破産手続きにおいて一定以上の財産があるとき、管財事件と呼ばれ財産をお金に換えて配当を行います。

最低限換価せずに済む財産がありますが、高度な専門知識によってさらに換価せずに済む財産を増やすことが可能なケースがあります。

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