自己破産は、裁判所に申立てをする法的手続きです。
自己破産が裁判所に認められ、免責許可決定が出ると借金の返済義務はなくなります。自己破産は、借金問題の有効な解決方法のひとつですが、誰でも無条件にできるわけではありません。
この記事では、自己破産ができる条件を解説します。
条件に当てはまらない場合の対処方法もあわせて解説するので、ぜひ最後までご覧ください。
自己破産できる条件
自己破産できる条件は次の2つです。
- 支払不能の状態であること
- 免責不許可事由がないこと
ここでは2つの条件について説明します。
ひとつずつ見ていきましょう。
支払不能の状態であること
裁判所に自己破産を認めてもらうには、支払不能の状態でなければなりません。
支払不能とは、次の状態をいいます。
債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態
引用:破産法第2条11項 e-GOV
つまり、収入や財産がなく、返済しなければならない時期なのに、一般的継続的に借金を返済できないことが明らかな状態です。
次のような場合には、支払不能とは言えません。
- 収入がなくても財産を処分すれば借金を返済できる場合
- まだ弁済期が到来していない借金を返済できる見込みがない場合
- 継続的ではなく、一時的に返済ができない場合
- 自分が返済できないと思っているだけで、客観的には返済が可能だと判断される場合
裁判所は、支払不能の状態かどうか、次の情報から総合的に判断します。
- 借金の総額
- 収入状況
- 保有財産
- 年齢
- 健康状態
- 家族構成 など
免責不許可事由がないこと
自己破産をして借金の返済義務を免除してもらうには、裁判所から免責許可をもらわなければなりません。
免責不許可事由があると、裁判所が免責を認めない可能性があります。
次のような行為が免責不許可事由に該当します。
- 過去7年以内に破産している
- 借金の理由が浪費やギャンブル
- 意図的に財産を隠す
- 一部の債権者にのみ返済する
- 返済する意思がないのに借入れする
- 裁判所に事実と異なる報告をする
- 破産管財人等の業務を妨害する など
自己破産できる条件に当てはまらなくても自己破産できる?
免責不許可事由に該当している場合でも諦めないでください。
免責不許可事由があっても、免責が認められるケースがあります。
ここでは、自己破産できる条件に当てはまらなくても自己破産できるケースについて説明します。
裁量免責を得られる可能性がある
裁量免責とは、免責不許可事由に該当する場合でも、裁判所の裁量で免責を認めることです。裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯、その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認める場合に、免責許可を出します。
裁判所に裁量免責を認めてもらうためには、次の3点が重要です。
- 借金の原因を取り除き、生活を改めること
- 自己破産手続きに積極的および誠実に対応すること
- 裁判所および弁護士の調査に協力的であること
裁量免責を得られる可能性がある具体例を見てみましょう。
ギャンブルで借金をした場合
ギャンブルは典型的な免責不許可事由といえるでしょう。ギャンブルをしていた場合でも、ギャンブルに使った金額が少額である場合などには、裁量免責が得られる可能性があります。
もっとも、ギャンブルに全財産をつぎ込んで借金を繰り返した場合や、ギャンブルを隠して自己破産の申し立てを行った場合などには免責許可が得られない可能性もあります。
FXや株取引で借金をした場合
FXや株取引のための借金も、免責不許可事由に該当し原則自己破産できません。
しかし、免責不許可事由に該当する行為が軽微な場合、借金ができた経緯に同情する余地がある場合、免責許可を出す必要性がある場合などには裁量免責が認められる可能性があります。
ただし、自己破産申立準備中や手続中にも取引を続けた場合や、過去に自己破産したときにも同じ理由で借金をしていた場合には免責許可が得られない可能性があります。
高級ブランド品や飲食で浪費した場合
身の丈に合わない浪費は免責不許可事由になります。浪費したことを反省し、収支を見直し収入の範囲で生活していることを裁判所に認めてもらえれば、裁量免責が得られる可能性があります。
自己破産はいくらからできる?借金額の基準
いくら借金があれば自己破産できるのでしょうか?
ここでは、自己破産手続きにおける借金額の基準について説明します。
借金額の目安
自己破産するための具体的な借金額の基準はありません。
目安は、3~5年で借金の返済ができるかどうかです。3~5年以内に完済できる見込みがなければ、自己破産ができる支払不能と判断される可能性があるでしょう。
ただし、あくまでこれは目安であり、支払不能と認められるかは裁判所が総合的に判断します。
支払不能の状態かどうか
支払不能の状態であることが自己破産の条件です。
借金が少額でも、現在の収入や財産状況では継続的な弁済ができないと判断されれば、自己破産できる可能性があります。多額の借金があっても、収入や財産から返済が可能と判断されれば、自己破産できない可能性があります。
自己破産できる条件に家族の収入は関係する?
家族の収入が多いと自己破産できないのでしょうか。
ここでは、家族の収入が自己破産に与える影響について説明します。
生計を同一にしているかどうか
申立人以外の収入が影響するのは、申立人と生計を同一にしている同居人がいる場合です。
例え家族であっても、生計が別々であれば、原則自己破産の条件に影響しません。
同居人の収入や財産の資料も提出する必要がある
申立人と生計を同一にしている場合は、同居人の収入や財産に関する資料も提出が必要になります。主な資料は以下のとおりです。
- 収入が分かる資料(例:給与明細、所得証明書)
- 保険証券
- 自動車検査証
- 不動産登記簿 など
資料を提出するのは、裁判所が家計の収支の流れを確認するためです。次のような心配はありません。
- 生計を同一にしている家族の収入が高いことを理由に自己破産できないことは原則ない
- 生計を同一にしている家族の財産は没収されない
ただし、生計を同一にしている家族の収入が高いのに、生活費のほとんどを破産者が出している場合などには、家計の見直しが必要です。
同居人に手続きを内緒にしている場合はどうすればいいか
自己破産することを同居人に内緒にしている場合は、資料の提出が難しい場合もあるでしょう。
生計を同一にしている場合は、同居人に説明して、協力してもらうのが一番です。
しかし、協力が得られない場合やどうしても知られたくない場合は、任意整理を検討するなど、別の解決方法を弁護士と相談するとよいでしょう。
自己破産は2回目でもできる?何回できるか?
以前に自己破産したけど、また借金を抱え込んでしまった方もいるでしょう。
ここでは、2回目以降の自己破産について説明します。
2回目以降の自己破産はいつでもできる?
2回目以降の自己破産は、前回の自己破産(免責許可決定の確定)から7年経過しなければできません。
前回の免責許可決定から7年以内の自己破産申立は、免責不許可事由の1つです。
しかし、やむを得ない事情により破産せざるを得ない状況になった場合には、裁量免責により自己破産できる可能性もあります。悩んでいる場合は弁護士に相談しましょう。
自己破産は何回できる?
自己破産する回数に制限はありません。自己破産の申立ては何度でもできます。
しかし、裁判所のチェックは回数を重ねるたびに厳しくなります。何度も自己破産するのは難しいでしょう。
自己破産できる人とは?
ここでは、自己破産できる人について説明します。
個人も法人も破産できる
自己破産は、個人だけでなく、法人も利用できる手続きです。
個人の自己破産の場合、裁判所から免責許可が出ると借金の返済義務がなくなります。ただし、非免責債権は免除されないため、滞納していた税金の支払いなどは免除されません。
法人破産には免責制度はありません。
法人破産の場合は、破産手続きが終了すると、法人そのものが消滅するため、借金の返済義務も消滅します。滞納していた税金も支払わなくてよくなります。
年金受給者は自己破産できる?
年金を受給していても自己破産は可能です。
定期的な年金収入があっても、支払不能の状態で自己破産の条件を満たせば、自己破産できます。
自己破産後も、年金は受給できますのでご安心ください。
生活保護受給者は自己破産できる?
生活保護を受給していても自己破産は可能です。
自己破産後も生活保護は受給できます。
しかし、受給した生活保護で借金を返済するのは禁止されています。お困りの方はお早めに弁護士にご相談ください。
専業主婦は自己破産できる?
専業主婦の方でも自己破産は可能です。
しかし、たとえ無職でも、自己破産にかかる費用の準備は必要です。
費用について心配な場合は、分割払いや法テラス利用など方法はありますので、弁護士にご相談ください。
※なお、当事務所では法テラスの民事法律扶助制度の利用を希望される方からのご相談は現在受け付けておりません。
自己破産の対象外になる借金もある?非免責債権とは
自己破産すると借金の返済義務はなくなります。
しかし、自己破産しても支払わなければならない借金があります。
ここでは、自己破産の対象外となる債権について説明します。
非免責債権の種類
自己破産をしても返済義務が免除されない債権を、非免責債権といいます。
非免責債権は、破産法第253条1項で定められています。
第二百五十三条 免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。ただし、次に掲げる請求権については、この限りでない。
一 租税等の請求権(共助対象外国租税の請求権を除く。)
二 破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
三 破産者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(前号に掲げる請求権を除く。)
四 次に掲げる義務に係る請求権
イ 民法第七百五十二条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
ロ 民法第七百六十条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
ハ 民法第七百六十六条(同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
ニ 民法第八百七十七条から第八百八十条までの規定による扶養の義務
ホ イからニまでに掲げる義務に類する義務であって、契約に基づくもの
五 雇用関係に基づいて生じた使用人の請求権及び使用人の預り金の返還請求権
六 破産者が知りながら債権者名簿に記載しなかった請求権(当該破産者について破産手続開始の決定があったことを知っていた者の有する請求権を除く。)
七 罰金等の請求権
引用:破産法第253条1項 e-GOV
自己破産の条件に当てはまらない場合の解決方法
自己破産できる条件に当てはまらない場合はどうしたらよいでしょうか。
債務整理の方法は自己破産以外もありますので、弁護士と相談して一番良い解決方法を見つけましょう。
ここでは、検討すべき解決方法について説明します。
支払不能の状態でない場合
支払不能の状態であると認められないと、自己破産できません。
この条件を満たさない場合、自己破産に代わる別の債務整理を考えましょう。
個人再生
個人再生では、支払不能が生じるおそれがあることが申立要件になっています。
支払不能の状態であることが必要な自己破産よりも、早い段階で認められる可能性があります。裁判所に申立てをして、概ね5分の1程度に減額された借金を原則3年かけて返済します。
任意整理
任意整理は、債権者と直接交渉して、合意が得られれば利用できます。
将来利息のカットや分割回数などを交渉しますが、元本までは原則減額できません。
免責不許可事由がある場合
免責不許可事由がある場合、原則として免責許可が得られません。
裁量免責も得られる可能性がない場合には、別の債務整理を考えましょう。
個人再生
個人再生では、免責不許可事由の定めがありません。個人再生の利用条件を満たせば、手続きできる可能性があります。
任意整理
任意整理は、債権者と直接交渉により合意が得られれば利用できます。
借金のすべてが非免責債権のみの場合
非免責債権は、自己破産をしても支払義務は免除されません。非免責債権以外に借金がない場合には、弁護士に相談しても債務整理できません。
債権者に対して、支払いの負担を軽減する交渉をしてみるとよいでしょう。たとえば税金を滞納している場合、市区町村役場や税務署の担当部署に相談しましょう。
事情をきちんと説明すれば、分割弁済や支払いの猶予が認められる可能性があります。
自己破産以外の債務整理をした方がよいケース
自己破産の条件を満たしていても、場合によっては別の債務整理をした方がよいケースがあります。
ここでは、考えられるケースを説明します。
失いたくない財産がある場合
自己破産をすると、一定額以上の価値ある財産は処分しなければなりません。
不動産や高級車などは原則処分されます。どうしても手放したくない財産がある場合は、任意整理または個人再生を検討しましょう。
資格制限のある職業に就いている場合
自己破産すると、手続中は特定の職業に就くことができません。
資格制限のある主な職業は以下のとおりです。
- 弁護士
- 司法書士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 行政書士
- 公認会計士
- 宅建建物取引士
- 通関士
- 旅行業務取扱管理者
- 警備員
- 公証人
- 生命保険外交員 など
このような職業に就いている場合は、任意整理または個人再生を検討しましょう。
資格制限のある職業に就いていても、自己破産をせざるを得ない場合もあるでしょう。その場合は、会社に相談すれば一時的に資格制限を受けない別の部署の仕事に変えてもらえる可能性もあります。
まとめ
自己破産できる条件を解説しました。
自分が条件にあてはまるのか分からない場合は、遠慮なく弁護士に相談してください。自己破産するしかないと思っていた方でも、任意整理で解決できる場合もあります。
相談者様にとって、一番良い債務整理の方法を提案します。