痴漢を疑われて逃走するのは正解なのか?
痴漢を疑われた場合は逃げるしかないといった俗説がありますが、痴漢を疑われて逃げることはかえって危険で、さまざまなリスクを伴います。
痴漢を疑われた際に現場から逃走するのはやめた方がよいでしょう。
本コラムでは、以下の点を解説します。
- 痴漢を疑われて逃走するリスク
- 痴漢を疑われた際にとるべき対応
- 痴漢で逃走してしまった場合にできること
目次
痴漢を疑われて逃走するリスク
痴漢を疑われて逃走することには、以下のリスクが伴います。
事故に遭う
ご自身が事故に遭う可能性があります。
痴漢を疑われ、パニックになって逃走すると、冷静な判断ができなくなるものです。実際に、痴漢を疑われて逃走し、電車にひかれたりビルから転落したりして、疑われた人が死亡したケースもあります。
別の罪を犯す
逃走に伴い、別の罪を犯す危険性もあります。
鉄道営業法違反
例えば、駅のホームから飛びおりて線路上を逃走する行為は、停車場その他鉄道地内にみだりに立ち入りたる者は科料に処すと規定した鉄道営業法第37条に抵触するおそれがあります。科料は刑罰の一種で、科されると1000円以上1万円未満を納付しなければなりません。
傷害罪
また、逃走を制止しようとした駅員や周囲の客を突き飛ばすなどし、相手にケガを負わせれば、刑法204条の傷害罪に問われる可能性もあります。傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
威力業務妨害罪
その他にも、線路上の逃走によって鉄道会社の正常な業務を妨げたとみなされれば、刑法第234条の威力業務妨害罪が適用されます。威力業務妨害罪の法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
罪が重くなる
痴漢を疑われて逃走すると、刑事裁判で罪が重くなる可能性があります。
罪を犯した後に逃走する行為は、反省をしておらず刑事罰から逃れようとしていると受けとめられ、被告人にとって不利な情状となります。不利な情状は量刑に際して刑が重くなる方向に働くため、逃走は被告人にとってデメリットです。
損害賠償を請求される
逃走に伴うリスクは刑事責任だけではありません。
線路上の逃走行為によって列車の運行が止まれば、鉄道会社は振替輸送を実施することがあります。こうした混乱によって生じた費用は損害賠償として請求でき、高額になるおそれもあります。
逮捕される可能性が高まる
痴漢を疑われて逃走すると、かえって逮捕される可能性が高まります。
逃げても人物の特定は可能
近年は防犯カメラの導入が進んでおり、電車内やホーム上、駅構内と多数の防犯カメラが設置されています。警察が防犯カメラの記録を集めて分析すれば、逃走した人物の特定は可能です。
人物が特定され、被害者の証言などから犯罪の嫌疑が固まれば、後日逮捕される可能性が出てきます。
逃亡・証拠隠滅のおそれがあるとみなされる
さらに、逃走した事実は「痴漢行為をし、逮捕されることから逃れようとしている」と受けとられかねません。被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、逃亡・証拠隠滅のおそれもあると認められれば、逮捕状発付の条件がそろいます。
また、逃走したことは反省をしていないと受けとめられ、被疑者・被告人にとって不利な情状となります。
このように、現場からの逃走はデメリットの方が多く、得策ではありません。
痴漢が冤罪の場合、逃走以外にしてはいけないこと
痴漢の冤罪を疑われた場合は、逃走以外にもしてはいけないことがあります。
相手に謝罪する
痴漢が冤罪の場合、相手に「痴漢したでしょう」と詰め寄られても、謝罪をしてはいけません。とっさに口をついて出た言葉でも、相手に「すみません」などと言うと、痴漢行為を認めたと受けとられるおそれがあります。
痴漢行為をしていない場合は、「痴漢していません」とはっきり伝えましょう。
相手の服を触る
痴漢されたと主張する相手の女性の服を触らないようにしましょう。痴漢事件では、被疑者の手などに被害者が着ていた服の繊維片が残っていないかを確かめるため、繊維鑑定を行うことがあります。
被疑者の手などから被害者の服の繊維片が検出されると、痴漢の証拠になるおそれがあります。不用意に相手の服に触らないよう注意しましょう。
警察に個人情報を隠す
痴漢を疑われ、被害者や駅員が警察に通報すると、警察はすぐに駆けつけます。その際、警察官に名前や住所など個人情報を聞かれたときは、素直に答えましょう。
痴漢を疑われている状況で個人情報を隠していると、警察に逮捕されるおそれがあります。痴漢を疑われている人の名前や住所、連絡先などがわからなければ、警察からすると逃げられた際に行方を追うのが難しくなります。
逃亡のおそれがあると判断されれば、警察は逮捕にふみ切る可能性があり、個人情報を隠してはいけません。
供述調書をよく確認せず署名押印する
警察の取調べを受けると、警察は供述調書を作成します。供述調書には、取調べで聴き取った内容が記載され、最後に署名押印を求められます。
供述調書の内容を十分確認せず、署名押印しないようにしましょう。
供述調書は一度署名押印されると、刑事裁判で証拠として採用されます。供述調書には、被疑者にとって不利な内容が記載されているかもしれません。
供述調書に署名押印するときは事前に内容を精査すべきで、安易に署名押印しないことが重要です。

痴漢逃走で状況が悪化した例
痴漢を疑われて逃走し、状況が悪化した例を紹介します。
線路に飛びおり電車にひかれて死亡
男性は電車内で痴漢を疑われ、周囲にいた別の男性客らに取り押さえられました。電車から降ろされると、駅のホームで駅員が駆けつけ、駅員室に行くよう促されました。
男性はこのときに「俺じゃない!」と叫び、駅員の制止を振り切って線路に飛びおりたということです。
駅にはホームドアが設置されておらず、男性は後続の電車にひかれて、死亡しました。
参考:「痴漢」と叫ばれ、線路に逃走して命を落とした男の悲劇…
ビルから転落死
男性は電車内で女性客から痴漢を疑われ、電車を降りて逃走し、駅の改札を突破してビルに逃げ込みました。男性はビルの屋上から隣のビルに飛び移ろうとしたところで誤って転落したとみられ、死亡しました。
参考:痴漢疑い男性、転落死か JR上野駅から逃走後 – 産経ニュース
線路を逃走し、高架下に転落
電車内での痴漢を疑われた男性は駅のホームから線路に飛びおり、逃走しました。数十メートル逃げたところで高架上から転落し、腰の骨を折りました。
鉄道会社は一時運転を見合わせ、乗客約6600人に影響が出たということです。
参考:痴漢を疑われ線路を逃走、高架下に転落…日比谷線が一時運転見合わせ : 社会 : ニュース
痴漢を疑われた際にとるべき対応
痴漢を疑われた場合、どのような対応をとるべきなのでしょうか。
時間の猶予があれば家族に連絡をしましょう。
家族に連絡する
痴漢を疑われていることをすぐに家族に伝えた方がよいでしょう。
弁護士をどのように呼べばよいかわからない場合は、家族に弁護士の手配を頼むべきです。その際、自身がどの駅にいるのかも忘れず伝えることが重要です。依頼を受けた弁護士がすぐに駆けつけられるようにするためです。
会社に欠勤の連絡をする
会社など勤務先に欠勤の連絡もしましょう。
もし、痴漢の現行犯で逮捕されると、身柄拘束が一定期間続く可能性があります。身柄拘束中は携帯電話を使用できなくなるため、逮捕前に連絡しておかないと無断欠勤扱いになるおそれがあります。
無断欠勤が長引くと懲戒解雇される可能性があり、体調不良などを理由に欠勤の連絡をしておいた方がよいでしょう。
痴漢事件では早期釈放が実現するケースも多く、勤務先に知られずに済む可能性があります。
痴漢で逃走してしまった場合にできること
痴漢行為後に逃走してしまった場合は、警察に自首することも検討しましょう。
自首をする
刑法第42条は、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができると定めており、刑の減軽が期待できます。
また、警察に自首するとともに、任意の取調べに応じる誓約書を提出したり、被疑者が逃亡・証拠隠滅しないよう監督する身元引受人を用意したりすれば、逮捕されずに済む可能性があります。
自首同行を弁護士に依頼する
警察に自首することが不安な人は、弁護士に自首同行を依頼できます。
弁護士は誓約書や身元引受書の作成をサポートするだけでなく、取調べにどう臨むべきか助言もできます。
あわせて、犯罪の事実や反省の意思を記載した上申書を作成して提出することで、逮捕される可能性を下げられます。
まとめ
痴漢を疑われて逃走するのはおすすめできません。
痴漢をしたのであれば素直に取り調べに応じましょう。
冤罪の場合の対応については以下記事をご参考ください。
