更新日:2026年8月1日 (土)

公開日:2023年7月27日 (木)

遺言執行者の選任|家庭裁判所への選任申立ての手順を徹底解説

遺言執行者の選任|家庭裁判所への選任申立ての手順を徹底解説 遺言執行者の選任|家庭裁判所への選任申立ての手順を徹底解説

サマリー

遺言書は、故人がその生涯をかけて築き上げた財産を、誰にどのように承継させるかを定める最終的な意思表示であり、民法上の法的効力を持つ重要な法律行為です。しかし、この遺言書が法的に有効(民法の方式・要件を満たし、実務上も有効と評価される状態)であったとしても、不動産の名義変更(相続登記)や金融機関における預貯金の解約・払戻しといった具体的な相続手続きが自動的に進むわけではありません。

とりわけ実務上は、金融機関や法務局における手続対応、遺言分割との関係整理などが必要となり、これらを担う主体が不在の場合には手続が停滞する傾向があります。その結果、相続人間の利害対立が顕在化し、紛争に発展するリスクが高まる可能性があります。

なお、相続登記は法改正により2024年(令和6年)4月から義務化されており、期限内の適切な手続対応の重要性は従来以上に高まっています。

こうした相続手続きの停滞を防ぐうえで重要となるのが遺言執行者の存在です。

遺言執行者とは、遺言内容を実現するために選任される法的主体を指し、民法に基づく権限(民法第1012条以下)により遺言の執行を担う立場です。具体的には、相続財産の管理、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金の解約・払戻しなどの実務上重要な手続きを行う権限を有し、一定の範囲で相続人に代わって単独で手続きを進めることができるとされています。このように、遺言執行者は遺言者の意思を具体的な権利関係へと反映させる中核的な役割を果たします。

この記事では、遺言執行者の役割・権限をはじめ、どのような場合に選任が必要または望ましいのかといった判断基準、遺言書での指定方法、家庭裁判所への選任申立ての具体的な流れ、必要書類や費用の目安までを体系的に整理して解説します。

また、家族や親族を遺言執行者に指定する場合のリスクや留意点、弁護士を遺言執行者とする場合のメリット・デメリット、実務上よくある疑問についても触れながら、遺言内容を適切に実現するための判断材料を網羅的に整理します。

なお、相続関係や財産内容、相続人間の関係性などの個別事情によって最適な対応は異なるため、実務上は弁護士等の専門家へ相談しながら検討することが重要と考えられます。

遺言執行者とは?|役割・権限と選任が必要とされる理由(なぜ必要なのか)

遺言執行者とは、遺言者が作成した遺言書の内容を具体的に実現するために選ばれる人や機関であり、民法上(主に民法第1012条以下)、遺言の執行を担う法的主体を指します。

遺言書がある場合でも、不動産の名義変更(相続登記)や金融機関での口座解約などの相続手続においては、実務上、相続人全員の協力(署名・実印の押印等)が求められる場面が少なくありません。

遺言執行者には、遺言者の意思を実現するために相続財産の管理や名義変更、預貯金の解約などを行う包括的な法的権限(民法上の権限)が認められているため、遺言執行者が選任されている場合には、原則として遺言執行者が主体となって、相続人の関与を一定程度排除しつつ手続を進めることが可能とされています。

特に以下のようなケースでは、遺言執行者の有無が相続手続の進行速度や円滑性に大きく影響する傾向があります。

  • 相続人間の協力が得られない場合(連絡不通・押印拒否など)
  • 相続人が多く、意思統一が困難な場合
  • 相続人と疎遠である、または関係性が良好でない場合
  • 相続人間で利害対立が生じており、紛争化のリスクがある場合

一方で、遺言執行者には広い権限が与えられる反面、善管注意義務(民法上求められる注意義務)などの重い責任も課されます。そのため、誰を遺言執行者に選ぶかは重要な判断要素となります。選任にあたっては、遺言内容の複雑性や相続人間の関係性、紛争の可能性などを総合的に考慮することが重要であり、必要に応じて弁護士などの専門家へ相談することも実務上有効と考えられます。

遺言執行者が持つ権限と職務内容(民法上の位置付け・根拠条文)

遺言執行者には、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務が認められています(民法第1012条)。実務上も、この規定を根拠として、名義変更や解約手続などを含む広範な権限が認められると解されています。

選任された遺言執行者は、一定の範囲で相続人の意思に左右されずに手続きを進める権限を有する一方で、それに対応する重い義務も負います。この権限と義務のバランスを十分に理解していない者が遺言執行者に選任された場合、手続の進め方や説明不足を巡って相続人間のトラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。

遺言執行者の具体的な職務内容として、実務上は以下のような行為が挙げられます。

  • 相続財産調査と財産目録の作成
  • 財産の占有・保存管理
  • 不動産の相続登記(名義変更)
  • 預貯金の解約・払戻し
  • 株式や投資信託など有価証券の移転手続
  • 生命保険(保険金請求権は原則として受取人固有の権利と解されるもの)を除く各種契約の解約手続
  • 遺贈(相続人以外に財産を渡す行為)の履行・引渡し

このように、遺言執行者は単なる事務代行にとどまらず、遺言者の意思を実現するための独立した法的地位に基づいて活動します。相続人間で意見が対立した場合でも、遺言執行者が手続の中心となることで、役割分担を巡る混乱や紛争の発生を抑制し、紛争予防の観点からも有効に機能することが期待されます。

遺言執行者が守るべき5つの義務(責任・法的義務の概要)

遺言執行者は、相続人や受遺者などの利害関係人の利害が交錯する場面で職務を行うため、公平性・中立性を意識した慎重な職務遂行が求められます。権限の濫用を防ぐ観点からも、遺言執行者には相続人に対する誠実な対応や善管注意義務に基づく行動が法律上求められています。

具体的に、遺言執行者には民法および実務上の運用に基づき、主に以下のような5つの義務(責任)が課せられます。

①善管注意義務(民法第1012条第644条準用)

善良な管理者の注意をもって職務を行う義務。

②財産目録の作成・交付義務(民法第1011条

遅滞なく相続財産の目録を作成し、相続人に交付する義務。

③報告義務(民法第1012条第645条準用)

相続人の請求があるとき、および任務終了時に状況を報告する義務。

④受領物等の引渡義務(民法第1012条第646条準用)

執行にあたって受け取った金銭等を相続人等に引き渡す義務。

⑤就職通知義務(民法第1007条2項)

就任後、遅滞なく遺言の内容を相続人に通知する義務。

さらに、利益相反の回避も実務上重要なポイントとなります。

たとえば、遺言執行者自身が遺産を多く受け取る立場にある場合には、利益相反関係が生じやすく、手続きの順序や情報開示の方法によっては不信感が生じる可能性があります。疑念を招かない運用(手続の記録化や十分な説明の実施)まで含めて職務の一部と捉えることが、紛争予防の観点からも重要です。

遺言執行者になれない人の条件(欠格事由)

遺言執行者は、原則として特別な資格がなくても就任することができます(資格制限は限定的です)。家族や相続人、受遺者といった利害関係人や、弁護士法人などの法人も、法律上は遺言執行者に就任できるのが原則です。

ただし、法律上、未成年者と破産者は遺言執行者になることができません民法第1009条)。

未成年者は法的な判断能力や責任能力が十分でないとされ、また破産者は故人の財産を管理・処分するにあたって経済的信用が十分でないと考えられるためです。

遺言執行者の候補がいる場合は、欠格事由の有無などの形式的要件を事前に確認しておくことで、手続の手戻りを防ぎやすくなります。

また、欠格事由に該当しない場合であっても、遺言執行者として適任かどうかについては別途検討が必要です。以下のような事情がある人を遺言執行者に指定した場合、相続手続が円滑に進まない可能性があるため、第三者や専門家の関与も含めて慎重に検討することが望まれます。

  • 高齢で相続手続の遂行が困難と考えられる場合
  • 相続人間の利害対立の当事者となっている場合
  • 事務処理能力に不安がある場合

遺言執行者の資格要件については、「遺言執行者になれる人とは?資格要件と選び方を詳しく解説」で詳しく解説しています。

遺言執行者を選任すべき6つのケース|必要性が高い具体例(どんな場合に必要か)

遺言執行者の選任は法律上必須ではないものの、遺言内容や相続人の関係性によっては、選任していない場合に相続手続が円滑に進まない、あるいは手続が滞る可能性が実務上少なくありません。

また、法律上必須でない場合であっても、相続人の状況によっては相続人全員で手続きを進めることが現実的でないケースも見られます。

たとえば、連絡が取れない相続人がいる場合や、相続人間に感情的な対立(利害対立)がある場合、相続手続が多岐にわたる場合には、遺言執行者を置くことで遺言執行を円滑に進めやすくなります。

ここでは、遺言執行者を選任すべきケースを具体的に紹介します。以下で詳述するケースに該当する場合は、遺言執行者の選任を前提とした遺言設計を検討することで、死後の相続手続が円滑に進みやすくなります。

遺言で子の認知をする場合(遺言執行者の選任が必要なケース)

法律上の親子関係は、分娩した母と子の間には当然に発生します。一方で父と子の関係については、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定される(嫡出推定)ものの、婚姻関係にない男女の間に生まれた子については、父が認知しなければ法律上の親子関係は発生しません。

子の認知は、遺言によってもすることができます(民法第781条2項)。

ただし、遺言による認知の届出を行うことができるのは遺言執行者に限られています(戸籍法64条)。そのため、遺言で子の認知をする場合には、遺言執行者の選任が実務上必須となります。

認知は身分関係に重大な影響を与える行為であり、戸籍上の届出などの手続も伴います。遺言書に認知の意思を記載するだけでは手続は完了しないため、遺言執行者を選任しておくことが実務上重要となります。

相続関係が変動する可能性もあるため、関係者の混乱を抑える観点からも、遺言執行者が中心となって手続きを進められる体制を整えておくことが重要と考えられます。

遺言で相続人廃除・廃除の取り消しを行う場合

相続人廃除とは、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)について、以下の事由がある場合に、被相続人が家庭裁判所にその廃除を請求することができる制度です(民法第892条)。

  • 被相続人に対して虐待したとき
  • 被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

相続人廃除や廃除の取消しは、遺言書に記載するだけで直ちに効力が生じるものではなく、家庭裁判所に対して廃除または廃除の取消しの申立てを行う必要があります。故人の意思を実現するためには、これらの実務手続を担う主体が必要となります。

また、「相続させない」と遺言書に記載するだけでは、遺留分を有する相続人には一定の取り分(遺留分)が残るのが原則です。廃除が認められた場合には相続権自体が失われるため、遺留分の帰属にも影響を及ぼします。

感情的対立が生じやすいテーマであるため、相続人が実務を進める場合には、相続人間の紛争に発展する可能性があります。遺言執行者が法的に必要な手続きを適切に進められる体制を整えておくことで、相続人間のトラブルの予防につながると考えられます。

相続人廃除の条件や注意点については、「相続人の廃除はどんな制度か?手続きの方法と注意点を解説」で詳しく解説しています。

遺言書で指定された人がすでに死亡している・就任を拒否した場合(遺言執行者が機能しないケース)

遺言書で遺言執行者を指定している場合でも、実務上、以下のような理由により機能しないケースが見られます。

  • 指定された人がすでに死亡している場合
  • 指定された人が健康上の理由により職務遂行が困難な場合
  • 指定された人が就任を拒否した場合

このような場合には、家庭裁判所に対して選任申立てを行い、遺言執行者を選任してもらうことが可能です。

ただし、選任までには一定の時間を要するため、預金の解約や不動産登記などの手続が先延ばしとなり、相続税申告(原則として相続開始から10か月以内)などの期限対応にも影響が生じる可能性があります。

予防策としては、候補者に生前の段階で相談し、就任意思の確認を行っておくことが有効です。必要に応じて、遺言書で予備的な遺言執行者を含め複数の候補者を想定しておくことも有効な選択肢となります。

遺言執行者が解任または辞任した場合

遺言執行者は就任後であっても、正当な事由がある場合には家庭裁判所の許可を得て辞任することがあり(民法第1019条2項)、また職務を怠ったとき等の理由で利害関係人の申立てに基づき家庭裁判所によって解任されることもあります(同条1項)。

解任や辞任により遺言執行者が途中で不在となると、相続手続が一時的に停滞する可能性があります。特に、不動産登記や金融機関での手続は、担当者や提出書類の変更により手戻りが生じやすい点に注意が必要です。

相続人間で「誰が新たに遺言執行者となるべきか」が争点となり、結果として家庭裁判所による選任が必要となるなど、遺言の実現が遅れるおそれがあります。

こうしたリスクを踏まえ、相続手続が停滞しないための以下のような仕組みをあらかじめ用意しておくことが実務上重要です。

  • 遺言書で予備的な遺言執行者を想定しておく
  • 遺言執行者が不在となった場合には速やかに家庭裁判所へ選任申立てを行う

遺言書に遺言執行者の指定がなく、相続人が非協力的・連絡が取れない場合

遺言執行者の指定がない場合、相続実務は原則として相続人が協力して進めることになります。

しかし、相続人のうち1人でも非協力的であったり、連絡が取れない状況にあったりする場合には、遺贈や名義変更が進まず、手続が長期化するケースも少なくありません。

相続手続は多岐にたり、金融機関や法務局など、手続を行う窓口も複数に分かれます。その都度、相続人全員の意思確認や署名押印が求められる場面では、対立している相続人の存在が手続の進行を妨げる要因となり得ます。

中立的な立場の遺言執行者がいれば、遺言の趣旨に沿った実行を基軸として手続を進めやすくなります。また、相続人同士の調整役を相続人自身が担わずに済む点は、紛争予防の観点からも遺言執行者を選任する大きなメリットの一つといえます。

遺言内容が複雑・必要な手続が多い場合

遺言内容が複雑であり、必要な手続が多い場合ほど、「実務を誰が担うか」という点が重要となります。担当が分散すると、手続の漏れや重複、書類の不整合などが生じやすくなるためです。

相続では、相続税申告(必要な場合は原則として相続開始から10か月以内)など、期限のある手続も関係します。遺言どおりに配分する前提で評価や資料収集が必要となるため、手続の遅れが生じるほどコストや不利益が拡大する可能性がある点に注意が必要です。

遺言執行者を置くことで、財産調査から名義変更、引渡し至るまでの工程管理を一元化して進めることが可能となります。

以下のような事情がある相続では、遺言執行者の選任が実務上強く推奨されるケースといえます。

  • 不動産が複数あり、かつ地方に点在している場合
  • 解約手続が必要となる金融機関が多数存在する場合
  • 株式や事業用資産などの管理・承継が必要な財産が含まれる場合
  • 相続人および受遺者の数が多い場合

遺言執行者を選任する方法|遺言書での指定と家庭裁判所での選任(手続の流れと違い)

遺言執行者の選任方法は、大きく遺言書で指定する方法と家庭裁判所で選任する方法の2つに分類されます。

遺言執行者の選任方法は、相続開始後の相続手続の進行速度に大きく影響する傾向があります。生前に遺言書で指定しておく方法が一般的に円滑とされていますが、指定した人が健康上の理由により就任できない場合や、就任を拒否される可能性もあります。そのような場合でも、家庭裁判所に選任申立てを行い、遺言執行者を選任してもらう方法が用意されています。

想定外の事態に備え、これら2つの選任方法の違いや手続の流れを正しく理解しておくことが重要です。

以下で詳しく解説しますので、遺言内容や相続人の状況に応じて、遺言執行者の選任方法を検討する際の参考としてください。

遺言書で指定する方法(遺言者による選任・生前対策)

遺言書で遺言執行者を指定する場合は、特定可能性を高めるため、氏名だけでなく住所や生年月日なども併せて記載しておくことが望ましいとされています。同姓同名の可能性や、転居・改姓などにより本人特定に時間を要する場合、手続の遅延につながる可能性があります。

遺言執行者に指定された人は、指定されたからといって必ず就任しなければならないわけではありません。そのため、指定する予定の人に生前に相談し、就任の了承(内諾)を得ておくことで、死後に拒否されるリスクを低減できると考えられます。

また、遺言内容が複雑な場合には、執行に必要となる権限や想定される業務内容をあらかじめ整理しておくことで、実務を円滑に進めやすくなります。実際の手続先(法務局、金融機関、証券会社など)で求められる書類や手続の流れを意識した記載とすることで、遺言書の実務対応性を高めることができるでしょう。

家庭裁判所に選任申立てを行う方法(相続開始後の選任手続)

遺言書に遺言執行者の指定がない場合や、指定された人が死亡・辞退などにより就任できない場合には、相続開始後に家庭裁判所へ選任申立てを行い、遺言執行者を選任してもらうことができます。

なお、選任申立てが可能となるのは相続開始後であり、生前に家庭裁判所で遺言執行者を選任しておくことはできません。

申立てができるのは、相続人や受遺者などの利害関係人に限られます。中立性や実務処理能力の観点から、弁護士などの専門家を候補者として選定するケースも実務上多く見られます。

家庭裁判所での選任手続では、必要書類の準備や裁判所からの照会への対応が求められます。手続を迅速に進めたい場合には、必要書類の収集や候補者の同意確認を早期に行うことが重要となります。

遺言執行者選任申立ての具体的な手続方法については、「遺言執行者選任申立ての手続き方法についてわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

家庭裁判所に遺言執行者の選任申立てをする際の具体的な流れ|手続き・必要書類・注意点(申立先・期間の目安)

遺言執行者の選任申立ては、手続の流れを理解していれば進めることは可能ですが、一定の準備と正確な対応が求められます。

特に、戸籍関係書類や遺言書の取扱いなど事前に準備すべき事項が多いため、準備不足の場合には補正(追加提出)を求められ、選任までに時間を要する可能性があります。

また、自筆証書遺言を自宅などで保管していた場合には、原則として家庭裁判所での検認手続が必要となるため注意が必要です(法務局の遺言書保管制度を利用している場合を除きます)。

ここでは、以下の3つの項目に分けて、遺言執行者の選任申立てについて体系的に解説します。

  • 遺言執行者選任申立てができる人と申立先となる家庭裁判所
  • 申立てから選任までの流れ(書類提出〜照会〜審理〜審判)
  • 遺言執行者選任の審判書と選任後の手続き

遺言執行者選任申立てができる人と申立先となる家庭裁判所

遺言執行者の選任申立てができるのは、利害関係人です。

具体的には、相続人や遺贈を受けた者(受遺者)、遺言者の債権者などが該当します。遺言の執行に関して利害関係を有し、手続を進める必要がある者が申立人となることができます。

申立先は、原則として遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所となります。

一般的には住民票上の住所を基準に判断されますが、実務上は個別の事情により確認が必要となる場合もあります。

管轄を誤ると申立てが受理されない、または他の裁判所へ回送されるなどして時間を要する可能性があります。裁判所の案内や管轄一覧を事前に確認し、提出先を確定した上で書類を整えると効率的です。

申立てから選任までの流れ(書類提出〜照会〜審理〜審判)


大まかな流れは、申立書および必要書類の提出、裁判所から候補者への照会、回答の提出、審理を経て審判に至るという順序です。候補者に対して就任意思の有無や適格性に問題がないかが確認されるため、照会への迅速な対応が重要となります。

自筆証書遺言の場合には、原則として検認手続を先に行う必要があります。検認は遺言の有効性を判断する手続ではなく、偽造や変造を防止するための形式的な手続ですが、これが未了の場合には次の手続が進めにくくなる可能性があります。

また、以下のような理由により、裁判所から追加資料の提出(補正)を求められることもあります。

  • 相続人の戸籍関係書類が不足している場合
  • 利害関係の説明が不十分である場合
  • 候補者に関する情報が不十分である場合

「なぜこの候補者を選定したのか」という理由を簡潔に説明できるよう整理しておくことで、手続を円滑に進めやすくなります。

遺言執行者選任の審判書と選任後の手続き

遺言執行者に選任されると、家庭裁判所から審判書が送達されます。遺言執行者は、この審判書等により権限を証明しつつ、金融機関、法務局、証券会社などで各種手続を進めていきます。

就任後の初動として重要なのは、関係者への通知(就職通知)、財産調査の実施、財産目録の作成および交付といった基本的義務の履行です。これらを適切かつ丁寧に行うことで、相続人の不信感を抑制し、その後の名義変更や引渡し手続を円滑に進めやすくなります。

その後は、遺言内容に従い、各資産の名義変更や解約・払戻し、遺贈の履行(引渡し)を進めていきます。手続先ごとに必要書類や形式が異なるため、早期の段階で全体の工程表を作成し、期限のある手続(相続税申告など)から逆算して進行管理を行うことが実務上の重要なポイントとなります。

遺言執行者選任申立てに必要な書類と費用|必要書類一覧・費用の内訳と目安

家庭裁判所への申立てでは、申立書そのものよりも必要書類の準備に時間を要するケースが多く見られます。

特に戸籍関係書類は本籍地への請求が必要となる場合もあり、取得までに一定の日数を要する点を見込んでおく必要があります。

また、裁判所は提出された資料に基づいて事実関係を確認します。利害関係や遺言書の内容・状況が十分に読み取れない場合には、追加資料の提出(補正)を求められ、結果として選任までに時間を要する原因となる可能性があります。

遺言執行者選任申立てにかかる費用は比較的限定的とされていますが、郵便切手代などの郵便料は裁判所ごとに運用が異なる点に注意が必要です。管轄家庭裁判所の案内に従って準備することが確実といえます。

ここでは、遺言執行者選任申立てに必要な書類と費用について、実務の流れを踏まえて整理して解説します。

遺言執行者選任申立てに必要な書類一覧

遺言執行者選任申立てを行う際には、主に遺言者の死亡事実および申立人の利害関係(相続人・受遺者であること等)を証明する資料の提出が必要となります。

具体的に、以下のような書類の提出が求められることが一般的です。

①家事審判申立書

裁判所指定の書式に申立ての理由や候補者の情報等を記載します。

②遺言者の戸籍謄本

遺言者の死亡の記載があるものが必要となります。

③遺言書の写し

遺言内容を確認するための資料として提出します。

④検認調書謄本

自筆証書遺言の場合には、検認済みであることを証明する資料として必要となります(法務局保管制度を利用していない場合)。

⑤利害関係を証する資料

申立人が相続人等であることを示す戸籍謄本などが該当します。

なお、検認事件記録が申立先の家庭裁判所に保存されている場合など、状況によっては一部書類の添付が省略できることもあります。ただし一律ではないため、裁判所の案内に従い、不明点については指示に沿って追加提出できるよう、余裕をもって準備しておくことが重要です。

遺言執行者選任申立てに必要な実費(費用)

実費としては、申立手数料として収入印紙の納付が必要となります。

目安として、執行対象となる遺言書1通につき800円分の収入印紙が必要とされる運用が一般的です。

さらに、裁判所からの連絡用として郵便切手等の郵便料が必要となり、その金額や内訳は各家庭裁判所によって異なります。提出前に、管轄家庭裁判所の案内ページで最新の郵便料を確認しておくことが重要です。

納付方法は、郵便切手による納付のほか、裁判所によっては保管金や電子納付などが案内される場合があります。どの方法が利用できるかも含め、提出先の案内に従って準備することが求められます。

遺言執行者選任申立てを専門家に依頼した場合の費用目安

専門家に遺言執行者選任申立てのサポートを依頼する場合には、数万円から数十万円程度の報酬が発生するケースが一般的です(事案の複雑性や対応範囲により変動します)。

一般的な申立代行の費用目安は、以下のとおりとされています。

依頼先 申立代行の費用目安 主な特徴
弁護士 16.5~33万円程度 相続人間に紛争がある場合や、そのまま遺言執行者としての業務も依頼する場合に適しています。
司法書士 3~5万円程度 書類作成や不動産登記手続と併せて依頼する場合に適しています。

目先の費用のみで依頼先を決定すると、後から追加業務が発生し、結果として想定以上の費用となる可能性があります。見積りの段階で、どこまでが基本業務に含まれるのか、どの範囲から追加費用が発生するのか(例:紛争対応、複数不動産の登記、海外資産対応など)を確認することが重要です。

費用が発生したとしても、手続の遅延や紛争の長期化を防止できれば、結果として全体のコストを抑えられる場合があります。相続人間の関係性や遺産の内容を踏まえ、費用対効果の観点から総合的に判断することが有効です。

なお、複雑な相続関係や紛争が予見される場合には、申立段階から弁護士へ相談しておくことが望ましいと考えられます。

家族や親族を遺言執行者に選任する場合に注意すべきリスク・デメリット

家族や親族を遺言執行者に指定するメリットとしては、費用を抑えやすい点や、遺言者の事情(財産状況や家族関係)を理解している可能性が高い点が挙げられます。

しかし、相続実務の現場では、これらの利点がそのまま遺言執行上のリスクやデメリットに転じるケースも一般的に見られます。

典型的なリスクとして挙げられるのが、相続人間における利害対立です。遺言執行者自身が相続人である場合、たとえ誠実に職務を遂行していたとしても、「自己に有利に遺言執行を進めているのではないか」といった疑念を持たれやすく、説明対応や合意形成に想定以上の時間を要することがあります。特に、遺産分割の内容に不満を持つ相続人がいる場合には、執行者の判断や手続が争点化し、裁判等における心証形成にも影響を及ぼし得る点に注意が必要です。

次に、心理的・時間的負担の問題があります。遺言執行の実務では、戸籍謄本等の収集、相続財産の調査、金融機関や役所との各種手続、不動産登記の手配など、多岐にわたる業務が発生します。これらは想像以上に作業量が多く、仕事や育児との両立が難しくなることで手続が遅延するケースもあります。その結果として、相続税申告(原則として相続開始から10か月以内)の期限対応などに影響が生じる可能性もあるため、事前の見通しが重要です。

家族や親族を遺言執行者に選任する場合には、相続人間のトラブルを防止する観点から、透明性と説明責任を意識した運用設計(情報開示や記録化)が実務上重要とされています。

遺言執行を円滑に進め、相続人間の紛争リスクを抑えるためには、以下のような対策が実務上有効と考えられます。

  • 事前に遺言執行者となる本人の了承(事前承諾)を得たうえで、具体的な役割や責任範囲(権限の範囲)を明確にしておく
  • 相続人全員に対して定期的に手続の進捗を共有し、その内容を記録として残す(後日の説明や証拠として活用できる形にする)
  • 不動産登記は司法書士、相続税申告などの税務は税理士といった形で、職務の一部については専門家(司法書士・税理士等)と連携して進める体制を整える

遺言執行者に弁護士を選任するメリット

弁護士を遺言執行者に選任する最大のメリットは、中立性と法的専門性に基づく段取り力(進行管理能力)にあると一般的に評価されています。

相続においては、手続の適法性だけでなく説明責任を果たすことによる納得感も重要であり、中立的な第三者である弁護士が関与することで、相続人間の感情的対立が増幅しにくくなる傾向があります。

また、遺言執行は、相続人の協力が得られない場合や、家庭裁判所の手続が関与する場面では難易度が上がりやすいとされています。弁護士であれば、法的見通しを踏まえたうえで、必要な手続を同時並行で進める進行管理(工程設計)を行いやすい点も実務上の強みです。

費用負担は生じるものの、紛争発生後の対応コストや時間的損失を考慮すると、紛争予防の観点から合理的な選択となるケースもあります。判断にあたっては、遺産の規模だけでなく、相続人間の関係性や利害の複雑さも踏まえて総合的に検討することが重要です。

以下では、弁護士を遺言執行者に選任する具体的なメリットについて整理しますので、判断材料として参考にしてください。

紛争の交渉や裁判対応ができる

相続人間に対立がある場合、遺言執行そのものが交渉材料として利用され、手続が停滞しやすくなる傾向があります。

弁護士を遺言執行者に選任することで、交渉の進め方に加え、調停・訴訟といった紛争解決手続を見据えた対応まで含め、現実的な解決水準(いわゆる落とし所)を探りながら進行しやすくなります。

当事者同士の直接連絡は、表現や伝え方次第で対立が深まる要因となりがちです。弁護士が窓口となることで、連絡内容の整理や論点の切り分け、書面化(記録化)が進み、感情的な衝突を抑制しやすくなると考えられます。

特に、特定の相続人が強く反発している場合や、遺留分侵害額請求が予想されるなど、対立が構造的に生じている場合ほど、中立的第三者である弁護士の関与価値は高まると考えられます。

特殊な事情がある相続にも対応できる

相続人廃除や子の認知など、家庭裁判所の手続が前提となる遺言内容については、法定要件や証拠資料の整え方(立証方法)によって結論が左右される可能性があります。

弁護士を遺言執行者に選任することで、法的見通しを踏まえたうえで必要資料を整理し、各種申立手続の段取りを適切に組み立ててもらいやすくなります。

事業承継や自社株の移転に関する遺言執行では、株主名簿の管理や議決権の扱い、関係者への説明対応など、実務が複雑になりがちです。法的リスクを踏まえつつ手順を誤らないよう進める必要があるため、専門性の高い執行者の関与が有効とされる場面です。

遺産の種類が多岐にわたる場合、同時並行で進めるべき手続も増加します。全体最適の観点から工程管理(進行管理)を行えるかが重要であり、法務と実務を一体として設計できる点は大きなメリットといえます。

紛争コストや精神的・時間的な負担を回避しやすくなる

相続人自身が遺言執行を行う場合、相続人間の調整に加え、役所や金融機関への対応、各種書類の取り寄せなどが重なり、時間的・精神的負担が大きくなりやすい傾向があります。

弁護士を遺言執行者に選任することで、連絡・対応の窓口が一本化され、相続人の実務負担を軽減しやすくなります。

また、期限管理の面でもメリットがあります。相続税申告など、期限に遅れることで不利益が生じ得る手続については、早期に必要資料を収集し、税理士等の専門家と連携して進めることが重要とされています。その結果として、手戻りや行き違いが生じにくくなり、紛争の長期化を防止しやすくなる傾向があります。

相続の場面では、家族が無償で対応することが、トータルコストの観点から必ずしも最も合理的とは限らない点にも留意が必要です。

遺言執行者の選任でよくあるお悩みQ&A

ここでは、遺言執行者の選任に関してよくある疑問や不安について、Q&A形式で整理します。

選任時の判断材料として参考にしてください。

遺言執行者は1人しか選任できない?

遺言執行者は1人に限られるものではなく、複数人を選任することも制度上可能です(いわゆる複数選任・共同執行の形態)。

たとえば、財産管理に強い人と親族対応に長けた人を組み合わせるなど、役割分担(専門性の分担)を意図して複数名とする考え方があります。

ただし、複数名とする場合には調整コストが増加し、意思決定の遅延や手続の停滞といったリスクが生じる可能性があります。誰がどの権限を有するのか、共同(連名)で進めるのか、単独で処理できる範囲をどう設定するのかが曖昧であると、手続が停滞しやすくなります。

実務上は、遺言執行者を1人に集約し、必要に応じて専門家と連携する形が運用しやすいとされることが多いです。複数名とする場合には、担当範囲や意思決定方法まで具体的に定めておくことが重要です。

遺言執行者の変更・解任はできる?

遺言執行者は、就任後に変更が必要となった場合や、職務を適切に行っていないなどの事情がある場合には、利害関係人の申立てにより家庭裁判所を通じて解任されることがあります(民法上の制度に基づく解任)。

もっとも、遺言執行者の変更・解任が必要となった場合に問題となりやすいのは、遺言執行者が不在となることで手続が停滞する点です。手続の途中で停止すると、金融機関対応や不動産登記のやり直しが必要となることもあり、相続人間の不信感が高まる要因となり得ます。

対策としては、遺言作成時に予備的な遺言執行者を指定しておくこと(いわゆる予備的指定)や、不在となった場合には速やかに家庭裁判所へ新たな選任申立てを行うことが重要とされています。実際に紛争が生じている場合には、中立的な第三者の執行者へ切り替える判断が、結果的に早期解決につながる可能性もあります。

職務の一部のみ弁護士に依頼することは可能?

遺言執行者の職務の一部について、専門家に委任して進めることは実務上可能です(いわゆる専門家との連携・部分的委任)。

たとえば、不動産登記は司法書士、相続税申告などの税務は税理士、相続人間の対立が生じた場合には弁護士に相談するといった形で役割分担を行うことが考えられます。

この場合に重要となるのは、最終的な責任の所在を明確にしておくことです(遺言執行者には善管注意義務が課されるため)。遺言執行者は、各業務を専門家に委ねた場合であっても、全体の工程管理や相続人に対する説明責任を負う立場にある点に留意が必要です。

費用面では、すべてを一括で依頼する場合と比較して、部分的な依頼の方がコストを抑えられるケースもあります。ただし、依頼範囲が不明確であると追加費用が発生しやすいため、業務範囲や見積りの前提条件を事前に確認しておくことが重要です。

遺言執行者選任申立てを却下されたらどうすればいい?

遺言執行者選任申立てが却下された場合には、まず却下理由(不備・適格性・要件不充足など)を確認することが重要です。

法定要件を満たしていないのか、提出資料が不足しているのか、あるいは候補者の適格性に問題があると判断されたのかによって、その後の対応は異なります。

資料不足や説明不足が理由である場合には、補正や追加資料の提出により対応できる可能性があります。一方で、候補者の適任性が問題とされている場合には、候補者を見直したうえで再申立てを検討することになります。

却下理由が不明確な場合や、候補者選定に迷いがある場合、相続人間に対立がある場合には、早めに弁護士等の専門家へ相談することで、再申立てまでの時間や手続の手戻りを抑えやすくなると考えられます。

まとめ|遺言執行者の選任で遺言を確実に実現する

遺言執行者は、遺言の内容を書面上の意思表示から実際の手続へと具体化(執行)するうえで、重要な役割を担う存在といえます。

遺言書が作成されていても、手続を進める担当者が不明確である場合には、不動産の名義変更や預貯金の解約、財産の引渡しといった各種手続が停滞しやすくなります。また、認知や相続人廃除など、遺言執行者の関与が実務上必要となる場合もあります。必須とまではいえないケースであっても、相続人が非協力的である場合や連絡が取れない場合、遺言内容が複雑である場合には、遺言執行者を選任することで、手続の停滞防止や円滑な進行といった観点から確実性が高まる傾向があります。

遺言執行者の選任方法には、遺言であらかじめ指定する方法(生前指定)と、被相続人の死亡後に家庭裁判所へ選任申立てを行う方法(事後選任)の2つがあります。家族を選任する場合には透明性の確保や負担の見積りが重要となり、弁護士を選任する場合には中立性や法的対応力といった価値を踏まえて、遺言の内容を適切に実現できる体制を検討することが望まれます。

遺言執行者の選任についてお悩みがある場合には、一般的な情報だけで判断せず、ネクスパート法律事務所への相談もご検討ください。弁護士が個別の状況を丁寧に確認し、事情に応じた対応方法についてアドバイスを行います(相続は個別事情により結論が異なるため、具体的な判断には専門家の関与が重要とされています)。

初回相談は30分無料で、オンライン(リモート)相談にも対応しています。事務所への来所が難しい場合でも、お気軽にお問い合わせください。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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