更新日:2026年10月16日 (金)

公開日:2026年10月16日 (金)

熟年離婚と財産分与|増加の背景と手続きで押さえるべきポイント

熟年離婚と財産分与|増加の背景と手続きで押さえるべきポイント 熟年離婚と財産分与|増加の背景と手続きで押さえるべきポイント

サマリー

熟年離婚が過去最高に。財産分与の割合や対象財産、年金分割の手続き、修復のステップを踏まない離婚増加の背景を弁護士が解説します。

近年、同居期間20年以上の「熟年離婚」が増加傾向にあり、その件数が過去最高水準に達しているとの報道がありました。

「別れを切り出すのは7〜8割が女性」“熟年離婚”の割合が過去最高に 修復のステップを踏まずに離婚するケースが増加 財産分与を巡りトラブルも
出典:Yahoo!ニュース(FNNプライムオンライン)

2026年10月14日に配信されたこの報道では、離婚を切り出すのは7〜8割が女性であること、夫婦関係の修復に向けた話し合いのステップを踏まずに離婚に至るケースが増えていること、そして財産分与を巡るトラブルが目立つようになっていることが指摘されています。長年連れ添った夫婦が離婚する場合、財産分与の対象が多岐にわたり、年金分割や退職金の扱いなど若年層の離婚にはない論点が多く発生します。本コラムでは、熟年離婚における財産分与の法的な仕組みと、トラブルを避けるための注意点を解説します。

熟年離婚が増加する背景

熟年離婚が増えている背景には、子どもの独立により夫婦間の緩衝材がなくなること、定年退職を機に夫婦で過ごす時間が急増し関係の歪みが顕在化すること、女性の経済的自立が進んだことなどが挙げられます。報道でも、離婚を切り出すのは女性が多数派であるとされており、これは経済力の向上や年金分割制度の整備によって、専業主婦であっても離婚後の生活設計が立てやすくなったことが一因と考えられます。

また、報道が指摘するように夫婦関係の修復に向けた話し合い(別居期間を設けたカウンセリングや夫婦関係調整調停など)を経ないまま、一方的に離婚を切り出すケースが増加している点は注意が必要です。民法770条1項5号は「婚姻を継続し難い重大な事由」を裁判離婚の要件の一つとして定めていますが、協議離婚であれば法律上の理由を問わず双方の合意のみで成立します(民法763条)。そのため、感情的な対立のまま協議を進めてしまい、後に財産分与や慰謝料を巡って紛争化するケースが少なくありません。

財産分与の基本的な考え方(民法768条)

財産分与は民法768条に基づき、離婚後、相手方に対して財産の分与を請求できる制度です。対象となるのは婚姻中に夫婦が協力して築いた「共有財産」であり、名義がどちらか一方になっていても、実質的に婚姻中の協力によって形成された財産であれば分与の対象となります。典型例は以下のとおりです。

財産の種類 分与対象となるか
自宅不動産(住宅ローン含む) 対象(ローン残債は控除して評価)
預貯金・有価証券 婚姻後に形成された部分が対象
退職金 勤続期間のうち婚姻期間に対応する部分が対象
結婚前の貯蓄・相続財産 原則対象外(特有財産、民法762条1項)

分与割合は原則として2分の1ずつとする運用が裁判実務では定着しています(いわゆる「2分の1ルール」)。専業主婦(主夫)であっても家事・育児による内助の功が財産形成への貢献と評価されるため、収入のなかった配偶者であっても原則として半分の財産分与を受けられる点は押さえておくべきポイントです。

熟年離婚特有の論点:退職金・年金分割

熟年離婚では、婚姻期間が長期に及ぶため、退職金や年金の扱いが大きな争点となります。退職金は既に支給されている場合はもちろん、将来支給される予定であっても、支給の蓋然性が高い場合には財産分与の対象となり得るとするのが実務上の傾向です。算定にあたっては、勤続年数全体に占める婚姻期間の割合に応じて按分するのが一般的です。

年金については、財産分与とは別の制度として年金分割制度があります。厚生年金の保険料納付記録を分割する制度で、当事者間の合意または家庭裁判所の審判により按分割合(上限2分の1)を定める「合意分割」(厚生年金保険法78条の2)と、2008年4月以降の第3号被保険者期間について相手の合意なく2分の1の分割を請求できる「3号分割」(同法78条の13)があります。年金分割の請求には、原則として離婚成立の翌日から起算して2年という期限(除斥期間)があるため、離婚協議が長引いた場合でも手続きを失念しないよう注意が必要です。

財産分与トラブルを避けるための実務上の注意点

報道にもあるとおり、財産分与を巡るトラブルは近年増加しています。主な原因は、(1)相手の財産を正確に把握できていない、(2)財産分与の請求期限を知らずに放置してしまう、(3)離婚協議書を作成せず口約束で済ませてしまう、といった点です。

財産分与請求権には民法768条2項ただし書により、離婚の時から2年以内に家庭裁判所に請求しなければならないという期間制限があります。この期間を過ぎると原則として請求ができなくなるため、離婚後に財産状況を精査する時間的余裕がない場合は、早めに弁護士へ相談し、必要であれば財産開示を求める手続き(調査嘱託や弁護士会照会など)を活用することが重要です。

また、合意した内容は口頭ではなく、必ず離婚協議書・公正証書として残すことをお勧めします。特に退職金や年金分割のように将来発生する財産を扱う場合、強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことで、後に相手が支払いを拒んだ場合でも迅速に強制執行の手続きに移行できます。

まとめ

熟年離婚は、婚姻期間の長さゆえに財産分与の対象財産が多岐にわたり、退職金や年金分割といった特有の論点が絡むため、一般的な離婚よりも手続きが複雑になりがちです。報道が指摘するように、修復のステップを十分に踏まないまま離婚に踏み切るケースが増えている中で、感情的な勢いだけで財産分与の取り決めを済ませてしまうと、後々大きな損失につながる可能性があります。

財産分与の請求には離婚後2年という期限があり、年金分割についても同様に期限が設けられています。熟年離婚をお考えの方、既に離婚協議を進めていて財産分与の内容に不安がある方は、早い段階で弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

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