更新日:2024年8月30日 (金)

公開日:2026年9月13日 (日)

主婦の休業損害の算定(計算)方法と請求する際の2つのポイント

主婦の休業損害の算定(計算)方法と請求する際の2つのポイント 主婦の休業損害の算定(計算)方法と請求する際の2つのポイント

サマリー

交通事故でケガをして家事や育児ができなくなった際、給与収入がない専業主婦やパート勤務の方は、休業損害を請求できるのか疑問に感じることもあるでしょう。法律上、家事労働には経済的価値が認められているため、専業主婦だけでなく兼業主婦も交通事故による休業損害を請求できます。この記事では、主婦の休業損害の算定方法や計算基準ごとの違い、請求に必要な書類や押さえておくべきポイントについて分かりやすく解説します。

専業主婦や兼業主婦も交通事故の休業損害を請求できる

家事労働における経済的価値と休業損害の考え方

休業損害とは、交通事故で負ったケガの治療や通院のために仕事を休まざるを得なくなり、本来得られるはずだった収入が減少したことに対する補償です。会社員や事業所得者の場合は、仕事を休んだことによる直接的な減収が休業損害に該当します。

一方で、主婦業においては日々の家事や育児に対して直接的な給与が支払われるわけではありません。そのため、損害が発生していないのではないかと疑問に思われることもあります。しかし、調理や清掃、育児や介護といった家事労働を外部の家政婦や代行サービスに依頼すれば相応の費用が発生します。

このように、他人のために行う家事労働には財産的な対価に匹敵する経済的価値があると認められており、交通事故により家事ができなくなった期間について休業損害を請求することが可能です。

専業主婦と兼業主婦(パート・会社員)の請求対象範囲

休業損害を請求できる主婦(家事従業者)には、家庭での家事に専念している専業主婦だけでなく、パートやアルバイト、契約社員、正社員などとして働きながら家事を行っている兼業主婦も含まれます。

専業主婦の場合は、現実の金銭的な減収が証明できなくても、家族のために家事を行っている実態があれば請求の対象となります。事故による入通院や身体の痛み等により家事に従事できなかった度合いに応じて損害が算定されます。

兼業主婦の場合も同様に家事従業者としての側面が認められます。兼業主婦については、勤務先を休業したことによる現実の給与減収分を請求する方法のほか、主婦としての家事労働分の損害として請求する方法があり、状況に応じた検討が行われます。

主婦の休業損害の算定(計算)方法と基準の違い

交通事故における主婦の休業損害は、基本的に「1日当たりの基礎収入×休業日数」という計算式で算出されます。ただし、適用する算定基準や就労形態によって、基礎収入や休業日数の評価方法が異なります。

基礎収入における自賠責基準と裁判所基準の違い

休業損害の基礎収入を算定する基準には、主に自賠責保険が用いる「自賠責基準」と、過去の裁判例をもとに設定されている「裁判所基準(弁護士基準)」があります。

自賠責基準では、専業主婦の休業損害の基礎収入は原則として1日当たり一律6,100円と定められています。最低限の補償を目的とした制度であるため、実際の労働価値にかかわらず固定の金額が適用されます。

一方で裁判所基準では、厚生労働省が実施する賃金構造基本統計調査(賃金センサス)における女性労働者の全年齢平均賃金を基礎として算出します。例えば、令和5年(2023年)の女性全年齢平均賃金(年額399万6,500円)をもとに計算した場合、1日当たりの基礎収入は1万0,949円となります。

算定基準 基礎収入の目安(専業主婦) 特徴
自賠責基準 1日当たり6,100円 法令に基づき一律で算出される最低限の補償基準
裁判所基準(弁護士基準) 1日当たり1万0,949円(※令和5年賃金センサス全女性平均に基づく例) 賃金センサスの平均賃金を基礎として裁判実務で用いられる基準

どの基準を用いて計算するかによって基礎収入の金額が大きく変動するため、算定の根拠を確認することが大切です。

専業主婦における休業日数の捉え方

会社員のように勤務記録がない専業主婦の場合、ケガによって実際に家事が行えなかった期間をどのように評価するかが重要となります。実務上は主に以下の3つの考え方が用いられます。

  • 実通院日数を休業日数とする方法:病院や整骨院などに実際に通院した日数のみを休業日数として算定します。
  • 通院期間を休業日数とする方法:治療開始から終了(治癒または症状固定)までの全期間を休業日数として扱います。
  • 段階的に割合を逓減させる方法:受傷直後などの一定期間は家事労働が100%制限されたとし、その後の回復状況に応じて制限割合を段階的(例:60%、20%など)に下げて計算します。

家事への影響度は受傷部位や症状の重さ、治療の経過によって個別に判断されるため、どの方法が適用されるかはケースごとに異なります。

パート・会社員など兼業主婦の場合の算定方法

パートや正社員として働きながら家事も行っている兼業主婦の場合、休業損害の基礎収入は「賃金センサスの女性全年齢平均賃金」と「事故前3か月の給与所得から算出した実収入」のいずれか高い方を基準として検討することが一般的です。

パート収入が賃金センサスの平均賃金を下回っている場合は、家事従事者としての基礎収入(賃金センサス基準)をもとに請求を行う余地があります。この場合の休業日数は、専業主婦と同様に通院状況や家事制限割合に基づいて評価されます。

一方、現実の収入の方が高い場合や給与所得者として請求する場合は、勤務先が作成する休業損害証明書に記載された「実際に仕事を休んだ日数」をベースに減収分を算定します。

主婦の休業損害の請求に必要な書類と実際の裁判例

主婦の休業損害を保険会社へ請求する際には、交通事故によるケガの状況や家事に従事している事実、兼業主婦の場合は減収の事実などを証明する書類を揃える必要があります。

主婦の休業損害の請求に必要な書類

請求に必要な書類は、専業主婦として請求する場合と、兼業主婦が給与所得者として請求する場合で異なります。状況に応じた主な書類は以下のとおりです。

請求の区分 主な必要書類
専業主婦 ・医師の診断書
・世帯全員の住民票
・非課税証明書
・配偶者の所得証明書
兼業主婦(主婦として請求) ・医師の診断書
・世帯全員の住民票
・非課税証明書
・配偶者の所得証明書
兼業主婦(給与所得者として請求) ・医師の診断書
・前年分の源泉徴収票または直近3か月分の給与明細書
・休業損害証明書

兼業主婦が給与所得者として減収分を請求する際に必要となる「休業損害証明書」は、事故により仕事を休んだ日数や減収額を勤務先に証明してもらうための書類です。

通常は相手方の保険会社から専用用紙が送付されますが、保険会社のウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。書類が手元に届いたら勤務先の人事担当部署等に記入を依頼しましょう。

主婦の休業損害が認められた裁判例

過去の裁判例では、被害者の家庭環境やケガの程度、治療経過などを総合的に考慮して基礎収入や家事労働の制限割合が判断されています。

制限割合を平準化して休業損害を認めた事例(東京地裁令和2年3月2日判決)

原告(被害者)が自転車を運転中、自動車との接触の危険を感じて転倒・負傷した事案です。裁判所は、原告が同居する夫のために主として家事に従事していたことを認め、事故当時の女性の学歴計・全年齢平均賃金である年額377万8,200円(日額1万0,351円)を基礎収入としました。

傷害の内容や治療経過を踏まえ、事故日から症状固定日までの190日間について家事労働が30%制限されたと平準化して認定し、59万0,007円の休業損害が認められました。

入院と通院で制限割合を段階的に分けて認めた事例(東京地裁令和元年10月29日判決)

原告(被害者)が運転する自転車と歩行者が接触した事案です。原告は長女や孫と同居して家事に従事していたため、賃金センサスの女性学歴計全年齢平均賃金である年額372万7,100円(日額1万0,211円)が基礎収入として認定されました。

傷害の程度や家族構成を考慮し、事故日から退院日までの61日間は休業割合100%、退院後から症状固定日までの368日間は休業割合25%と判断され、合計156万2,283円の休業損害が認められています。

実際の裁判では、同居家族の有無やケガの経過、家事への具体的な支障の度合いに応じて休業割合が判断されます。

主婦の休業損害で判断が分かれやすい8つのケース

主婦の休業損害は、家族構成や被害者の生活状況、ケガの程度などによって算定の考え方が大きく異なる場合があります。どのような場合にどのような判断がなされやすいか、代表的な8つのケースを解説します。

1. むちうちなどの軽傷の場合

むちうち(頸椎捻挫など)のような外見から分かりにくい軽傷の場合、事故当初から症状固定までの全期間において完全に家事ができなかったとは認められにくい傾向があります。

そのため、治療の経過とともに徐々に回復して家事労働ができる範囲が広がっていくと考え、家事労働の制限割合を段階的に引き下げて算定されることが一般的です。

2. 家政婦や家事代行を雇った場合

事故によるケガで家事ができなくなり、代替手段として家政婦や家事代行サービスを利用した場合は、実際に支払った費用が損害として認められることがあります。

ただし、利用の必要性や金額の相当性が求められるため、領収書などの客観的な証拠を保管しておくことが大切です。

3. 2世帯で暮らしている場合

同居する親や子などと2世帯で暮らしている場合、普段から家族間で家事を分担しているケースが少なくありません。

被害者本人が担っていた家事の負担割合が限定的であると判断されると、その分担割合に応じて基礎収入や休業損害の金額が調整される場合があります。

4. 一人暮らしの場合

家事従業者としての休業損害は、他人のために行う家事労働に経済的価値を見出す考え方に基づいています。

一人暮らしの場合は、自分自身のための家事を行っている状態であり、原則として「他人のために家事に従事している」とはみなされないため、主婦としての休業損害は認められません。

5. シングルマザー・シングルファザーの場合

配偶者がいない場合であっても、同居する子どものために日常的な家事や育児を行っていれば、家事従業者として認められます。

そのため、シングルマザーやシングルファザーであっても、専業主婦や兼業主婦と同様に主婦(主夫)としての休業損害を請求することが可能です。

6. 高齢者の場合

高齢者の場合でも、同居家族のために現実に家事を行っていれば家事従業者として休業損害を請求することができます。

ただし、年齢や健康状態に伴う労働能力の低下を考慮し、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、年齢別の平均賃金に基づいて基礎収入が算定される傾向にあります。

7. 妊娠中の場合

妊娠中の被害者がケガをした場合でも、原則として通常と同様に全年齢平均賃金などを用いて休業損害を算定します。

ただし、出産のために産院等に入院していた期間などは、事故によるケガの影響で家事ができなかった期間とは区別され、休業日数から除外されることがあります。

8. 病院に行っていない場合

痛みや不調があっても医療機関を受診していない場合、交通事故による休業損害が認められる可能性は極めて低くなります。

家事ができなかった事実を医学的に裏付けるためには医師の診断書や通院実績が不可欠となるため、事故後は速やかに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが重要です。

主婦の休業損害を請求する際の2つのポイント

主婦の休業損害を請求するにあたっては、家事の実態やケガによる支障を適切に示すための準備と確認が大切です。保険会社との示談交渉をスムーズに進めるために押さえておきたい主なポイントとして、以下の2点が挙げられます。

ポイント1:事故により家事に生じた具体的な支障の記録を残す

家事労働は家庭内で行われるため、事故によるケガでどの程度家事に支障が生じたのかは、第三者からは把握しにくい側面があります。そのため、相手方の保険会社から実際の支障よりも短い休業日数や低い制限割合を主張されることも少なくありません。

こうした事態を防ぐためにも、事故直後から日々の家事労働にどのような影響が生じたのかを具体的に記録しておくことが推奨されます。

記録をつける際は、料理、洗濯、掃除、買い出し、育児などの作業項目ごとに、「痛みのために全くできなかった」「家族に代行してもらった」「時間をかけて一部のみ行った」といった具体的な状況を日付とともに残しておくと有益です。

どのような家事にどの程度の影響が生じたかを時系列で詳細に記録しておくことが、適切な休業損害を主張するための重要な資料となります。

ポイント2:保険会社から提示された金額の算定基準や日数の内訳を確認する

相手方の保険会社から賠償額の提示を受けた際には、提示額の総額だけを見るのではなく、休業損害の計算根拠や内訳を細かく確認することが重要です。

保険会社からの提示では、基礎収入が自賠責基準である日額6,100円や任意保険基準をベースに設定されていたり、休業日数が実通院日数のみに限定して計算されていたりすることがあります。

裁判所基準(弁護士基準)による賃金センサスに基づいた基礎収入が用いられているか、また治療期間全体の家事労働の制限状況が適切に考慮されているかについて、提示された計算書の内訳をしっかりと見極める必要があります。

提示された金額の算定基準や休業日数の算出根拠を慎重に確認し、不明な点や乖離がないかを精査することが大切です。

主婦の休業損害に関する弁護士への相談

交通事故における主婦の休業損害は、会社員のように減収が給与明細に直接現れないため、保険会社の提示額が本来受け取れる水準よりも低く抑えられてしまうケースがあります。

適切な補償を受けるためには、提示された計算基準や日数の妥当性を慎重に見極めることが重要です。

適切な算定方法の選択と法的な検討の有用性

主婦の休業損害を算定する際、自賠責基準や任意保険基準ではなく裁判所基準(弁護士基準)を用いることで、基礎収入額の評価が大きく変わることがあります。

また、パートや会社員として働いている兼業主婦の場合は、実収入に基づく休業損害と賃金センサスに基づく主婦としての休業損害のどちらを基準にすべきか、個別の事情に応じた法的な検討が必要です。

治療の経過に応じた家事労働の制限割合や休業日数の評価についても、過去の裁判例などを踏まえて主張を組み立てることが求められます。

慰謝料を含む損害賠償全体の確認

交通事故による損害賠償の対象は、休業損害だけにとどまりません。通院や入院に対する入通院慰謝料、後遺障害が残った場合の後遺障害慰謝料や逸失利益など、請求項目は多岐にわたります。

保険会社から示談案が提示された段階で、個々の損害項目が適正に算定されているかをご自身だけで判断するのは容易ではないケースも少なくありません。

示談書へ署名・捺印する前に弁護士へ相談することで、損害賠償全体の妥当性を法的な観点から確認し、納得のいく解決を目指すためのサポートを受けられます。

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