更新日:2026年11月4日 (水)

公開日:2026年11月4日 (水)

給付金不正受給による法人破産とは―破産開始決定の手続きと経営者の法的責任を解説

給付金不正受給による法人破産とは―破産開始決定の手続きと経営者の法的責任を解説 給付金不正受給による法人破産とは―破産開始決定の手続きと経営者の法的責任を解説

サマリー

給付金不正受給により破産開始決定を受けた事例を題材に、法人破産の手続きの流れと経営者が負う刑事・民事上の法的責任をわかりやすく解説します。

新型コロナウイルス関連の給付金をめぐる不正受給問題は、受給企業の破産という形で後を絶ちません。2026年11月4日、東京商工リサーチは給付金の不正受給をしていたとされる株式会社絆ホールディングスほか4社について、破産開始決定が出されたと報じました。

給付金の不正受給をしていた(株)絆ホールディングスほか4社 破産開始決定(東京商工リサーチ)
出典:Yahoo!ニュース

報道によれば、同社を含むグループ5社が給付金の不正受給を行っていたとされ、最終的に裁判所から破産手続開始決定を受けるに至ったとされています。本コラムでは、この事例を手がかりに、給付金不正受給が発覚した企業がたどる法人破産の手続きの流れと、経営者個人が問われうる法的責任について解説します。

給付金不正受給が発覚した企業に何が起きるのか

持続化給付金や家賃支援給付金などの各種給付金制度には、不正受給を防止するための返還請求・加算金制度が設けられています。たとえば中小企業庁が運用した持続化給付金では、不正が発覚した場合、受給額に加えて年3%の延滞利息および受給額の2割に相当する加算金の返還を求められる仕組みが公表されていました。これに加えて、刑法上の詐欺罪(刑法246条1項)が成立すれば、「人を欺いて財物を交付させた」ものとして10年以下の懲役が科される可能性があります。

企業が多額の返還請求や加算金の支払いを求められると、資金繰りが急速に悪化し、本業の収益だけでは支払いを賄えなくなるケースが少なくありません。取引先への信用低下や金融機関からの融資引き揚げも重なり、給付金不正受給の発覚は、企業にとって資金ショートと信用失墜という二重のダメージをもたらし、法人破産に直結しやすい事情となります。今回報じられた5社の事例も、こうした構図の典型例と考えられます。

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法人破産手続きの流れと裁判所の判断基準

法人破産は破産法に基づく清算型倒産手続きです。会社が支払不能(破産法15条1項)または債務超過(同法16条1項、株式会社等の場合)にあると認められるとき、裁判所は破産手続開始決定を行います。具体的な流れは次のとおりです。

①破産申立て(債務者自身による自己破産申立てのほか、債権者による申立ても可能)→②裁判所による審尋・資産調査→③破産手続開始決定→④破産管財人の選任→⑤財産の換価・配当→⑥破産手続の終結、という順序で進みます。開始決定と同時に、会社の財産管理処分権は破産管財人に移り(破産法78条1項)、経営者は原則として会社財産を自由に処分できなくなります。

不正受給が疑われる事案では、破産管財人が受給経緯を調査し、国や自治体に対する返還債務も破産債権として扱われます。破産手続開始決定が出された時点で、会社の財産はすべて破産財団に組み込まれ、債権者への公平な配当に充てられることになります。

経営者個人が問われる刑事・民事上の責任

法人破産はあくまで会社という法人格を清算する手続きであり、原則として経営者個人の財産には及びません。しかし、給付金不正受給の場面では、経営者個人が別途責任を追及される可能性があります。

まず刑事責任として、前述の詐欺罪(刑法246条)のほか、虚偽の申請書類を作成していた場合には私文書偽造罪(刑法159条)や偽造私文書行使罪(刑法161条)が成立しうるほか、補助金等の不正受給については補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)29条による罰則が適用される場合もあります。なお、報道段階では捜査・処分の有無や詳細は明らかではなく、不正受給の疑いが報じられた段階にとどまる場合、関係者について有罪が確定したわけではない点には留意が必要です。

民事責任としては、会社法429条1項に基づき、取締役が悪意または重大な過失により第三者(国・自治体を含む)に損害を与えた場合、個人として損害賠償責任を負うことがあります。また、破産手続中に財産を隠匿・毀損する行為は詐欺破産罪(破産法265条)の対象となり、経営者個人が刑事訴追されるリスクもあります。経営者としては、破産を決断した際にこそ、資産の保全・開示に誠実に対応することが不可欠です。

経営者が取るべき対応と専門家への相談の重要性

給付金の不正受給が疑われる状況に陥った場合、経営者が自己判断で資産を処分したり、返還請求を無視したりすることは、かえって刑事責任や損害賠償責任を重くする結果を招きかねません。早期に弁護士に相談し、返還交渉の方針、破産申立ての要否、刑事手続への対応方針を整理することが重要です。

特に、支払不能の兆候が見えた段階で対応を先延ばしにすると、破産管財人による否認権行使(破産法160条以下)の対象となる財産処分が増え、経営者自身の信用にも傷がつきます。資金繰りの悪化や給付金返還請求を受けた時点で速やかに専門家に相談することが、経営者自身の法的リスクを最小化する最も確実な方法です。

まとめ

今回報じられた株式会社絆ホールディングスほか4社の破産開始決定は、給付金不正受給が企業の存続そのものを揺るがす重大な問題であることを改めて示しています。法人破産手続きそのものは会社の清算を目的とする制度ですが、不正受給が絡む場合には詐欺罪や会社法上の損害賠償責任など、経営者個人の法的リスクも同時に検討しなければなりません。

給付金不正受給に関する返還請求への対応や、資金繰り悪化に伴う法人破産の手続き、経営者個人の責任範囲の見極めなどでお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。

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コラム監修者

佐藤 塁

佐藤 塁

所属:代表(東京オフィス)

東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。

早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。

公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。

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