更新日:2024年6月7日 (金)

公開日:2024年6月7日 (金)

【弁護士解説】従業員を解雇する場合の注意点と法的手続き

【弁護士解説】従業員を解雇する場合の注意点と法的手続き 【弁護士解説】従業員を解雇する場合の注意点と法的手続き

サマリー

度重なる遅刻や欠勤など、勤務態度に問題がある従業員への対応に苦慮する企業経営者や人事担当者の方は少なくないでしょう。しかし、労働契約の解約である解雇には法律上厳格な規制が設けられており、安易に進めると解雇が無効と判断され、トラブルに発展するおそれがあります。適切な対応を行うためには、関連する法律や要件を正確に理解しておくことが重要です。この記事では、普通解雇に関する法規制や有効性の判断基準、手続きにおける注意点を分かりやすく解説します。

普通解雇とは|懲戒解雇との違いと民法上の原則

普通解雇の定義と懲戒解雇との違い

普通解雇とは、使用者(企業側)が従業員に対して一方的に行う労働契約解約の意思表示を指します。病気やケガによる労務提供の不能、著しい能力不足や勤務態度の不良など、労働契約を継続することが困難とされる客観的な事由がある場合に検討される解雇手続きです。

これに対して懲戒解雇は、職場の規律や企業秩序を乱す重大な違反行為があった場合に、制裁罰として行われる解雇処分を指します。

普通解雇が「労働契約の円滑な継続が困難であること」を理由とする解約手続きであるのに対し、懲戒解雇は「秩序違反に対するペナルティ」という性質を持ちます。そのため、手続きや要件の厳格さ、退職金の支給可否などの面で両者には大きな違いが存在します。

民法における雇用契約解約の原則

解雇を含めた契約関係の解消について、法律上の基礎となるのは民法の規定です。民法上は、雇用契約に期間の定めがあるかどうか(有期雇用か無期雇用か)によって解約の要件が区別されています。

期間の定めのない雇用契約の場合、民法第627条第1項により、当事者はいつでも解約の申入れをすることができます。この場合、解約の申入れから2週間が経過することで雇用関係が終了するというのが民法上の原則です。

一方、契約社員のように期間の定めがある雇用契約の場合、民法第628条において、原則として契約期間の到来により終了すると定められています。期間途中であっても「やむを得ない事由」があれば直ちに解約できますが、期間満了前の解約には厳格な理由が求められます。

民法の原則にとどまらず、実際の労使関係においては従業員保護を目的とした労働基準法をはじめとする労働法規が優先して適用されます。

解雇に関する法規制と解雇予告の義務

民法においては、期間の定めのない雇用契約について解約の申入れから2週間が経過することで雇用が終了すると規定されています。しかし、労働契約の終了に関しては労働者の生活基盤を保護する見地から、民法の原則よりも労働基準法をはじめとする各種労働法規が優先して適用されます。

したがって、企業が従業員を解雇しようとする場合には、民法の規定に従って申入れを行うだけでは足りず、労働基準法で義務付けられている解雇予告の手続きを正確に履行しなければなりません。

30日前の解雇予告と解雇予告手当のルール

労働基準法第20条第1項本文では、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない」と定められています。これにより、労働者は突然職を失う事態を避け、新たな就職先を探すための準備期間を確保できるようになっています。

もし企業が30日前までに解雇の予告を行わない場合には、予告に代えて「30日分以上の平均賃金」を解雇予告手当として支払う必要があります。

解雇の予告日数と解雇予告手当の支払いは、組み合わせて短縮することも認められています。

たとえば、解雇の予告を解雇日の10日前に行った場合には、不足している20日分以上の平均賃金を支払うことで、法的な予告義務を満たすことが可能です。このように、予告を行う日数と手当の支払日数の合計が30日以上となるよう手続きを整える必要があります。

区分 民法の原則 労働基準法の規定(第20条)
予告期間 解約申入れから2週間で終了 少なくとも30日前の解雇予告が必要
予告を短縮・免除する場合 特段の補償規定なし 不足日数分の平均賃金(解雇予告手当)の支払が必要

法律上禁止されている解雇制限事由

労働契約の終了に関しては、たとえ就業規則上に解雇事由の定めがあったとしても、法律によって解雇そのものが厳格に制限または禁止されている場面が存在します。

労働基準法が定める解雇制限

労働基準法では、労働者が特に保護を必要とする期間中の解雇を禁止しています。具体的には、業務上の負傷や疾病によって療養のために休業する期間、およびその後30日間の解雇が制限されます。

同様に、産前産後の女性労働者が労働基準法の規定によって休業する期間、およびその休業明け後30日間についても、使用者は原則として解雇を行うことができません。

また、事業場における労働基準法違反の事実を労働者が労働基準監督署などの行政官庁へ申告したことを理由とする解雇も、同法によって明確に禁止されています。

労働組合法・均等法・育児介護休業法等による制限

労働基準法以外にも、各種の個別法によって特定の理由に基づく不利益な解雇が禁止されています。これらの規定は、労働者の権利行使や育児・介護との両立、平等な処遇を保護するためのものです。

根拠法令 主な解雇制限事由
労働組合法 労働組合の組合員であることや、正当な組合活動を行ったことを理由とする解雇
男女雇用機会均等法 労働者の性別を理由とする解雇、女性労働者の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業の取得等を理由とする解雇
育児・介護休業法 育児休業や介護休業等の申出をしたこと、または実際に休業を取得したことを理由とする解雇

これらの法律上禁止されている事由に抵触する解雇は無効とされる可能性が極めて高く、法令違反として企業側に重大な責任が生じるおそれがあります。

解雇の検討にあたっては、対象となる従業員の直近の就労実態や休業状況、過去の申告履歴などが解雇制限の対象に該当していないかを事前に詳細に確認しておく必要があります。

勤務態度不良等を理由とする普通解雇の有効性判断基準

債務不履行と解雇が認められるハードル

労働者は雇用契約に基づき、使用者の指揮命令に従って労務を提供する義務を負っています。そのため、就業規則等で定められた勤務時間を守らず、遅刻や欠勤を繰り返す行為は契約上の義務を怠る債務不履行に該当し得ます。

しかし、労働契約の終了は労働者の生活に極めて大きな影響を与えるため、単に数回の遅刻や欠勤があったという事実のみでは、解雇に相当するほどの重大な事由とは認められない傾向があります。

解雇の有効性を判断するための総合的な考慮要素

勤務態度の不良を理由とする解雇が法的に有効とみなされるかどうかは、形式的な事実の有無だけでなく、個別具体的な事情を総合的に考慮して判断されます。

主な判断要素 確認すべき具体的内容
不良行為の態様と程度 遅刻・欠勤の回数や頻度、継続期間、無断欠勤か否かなど
行為に至った理由 本人の健康状態や家庭の事情など、やむを得ない事情の有無
業務への影響度 業務の遅延や他従業員への過度な負担、取引先への損害の程度
注意指導の経過 使用者側が適切な注意・指導や警告をどの程度行ってきたか
改善の見込み 本人の反省の有無や指導後の改善状況、過去の勤務成績

客観的な記録と証拠資料の保存

従業員に対する普通解雇の有効性が争われた場合、企業側は勤務態度の不良や適切な指導を行った経緯を客観的な証拠に基づいて説明する必要があります。

勤怠不良を証明するタイムカードや出勤簿のほか、いつどのような内容で注意指導を行ったかを記録した書面や面談記録などを日頃から適切に保存しておくことが重要です。

十分な注意指導の機会を与えずに解雇を行ったり、客観的な証拠が不足していたりすると、解雇が無効と判断されるリスクが高まるため、慎重な事実確認と記録の管理が求められます。

解雇が無効と判断された場合のリスクと弁護士への相談

解雇が無効となった場合の金銭的・時間的リスク

解雇の有効性を巡って従業員とトラブルになり、裁判などで解雇が無効であると判断された場合、法律上は解雇の時点から労働契約が継続していたものとして扱われます。

解雇が無効と判断されると、解雇を行った時点から現在までに生じた賃金相当額(バックペイ)を遡って支払わなければならないリスクを負うことになります。

労使間の紛争が裁判や労働審判などに発展して長期化した場合、遡及して支払うべき賃金額が高額になるだけでなく、対応に費やす時間や労力、組織内の士気低下など、企業活動に与える影響は小さくありません。

適切な手続きとトラブル防止に向けた弁護士への相談

解雇は従業員の生活基盤に重大な影響を及ぼす行為であるため、法律上厳格な制限が課されており、企業側の恣意的な判断による解雇は認められにくい傾向にあります。

勤務態度の不良などを理由に解雇を検討する場合であっても、就業規則の規定やこれまでの指導実績、客観的な証拠資料が十分に揃っているかを多角的に見極めることが不可欠です。

企業内部だけで判断を下すのではなく、事前に労働法務を取り扱う弁護士へ相談し、対応の妥当性を慎重に検討することが望まれます。

早い段階で弁護士に相談することで、解雇の有効性に関する法的見通しの確認や必要な証拠の整理、合意退職に向けた話し合いの進め方などについて客観的な助言を受けられ、将来的な紛争リスクの軽減につながります。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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