更新日:2023年8月18日 (金)
公開日:2023年8月18日 (金)
飲食店の衛生管理に関する法律と食中毒発生時の法的責任
サマリー
飲食店を経営・運営するうえで、日々の衛生管理や食中毒への対策は極めて重要な課題です。万が一食中毒事故が発生してしまうと、営業停止などの行政処分を受けるだけでなく、民事上の損害賠償責任や刑事責任を問われるリスクが生じることもあります。店舗の安全な運営を継続するためには、関連する法規制や責任の所在をあらかじめ正しく把握しておくことが大切です。この記事では、飲食店が遵守すべき主な衛生管理に関する法律や、食中毒が発生した場合に生じる法的責任とリスクについて解説します。
飲食店が遵守すべき衛生管理に関する主な法規制
人の口に入る食品を取り扱う飲食店では、衛生管理を徹底し、安全な食品を提供することが法的な観点からも求められます。飲食店の営業には、公衆衛生の確保や消費者の健康保護を目的とした複数の法規制が関係しています。
食品衛生法に基づく営業許可と行政処分
食品衛生法は、飲食に起因する衛生上の危害発生を防止し、公衆衛生の向上および増進を図ることを目的とした法律です。飲食店経営における衛生管理の基本的な事項が定められています。
飲食店を営業する際には、食品衛生法に基づき都道府県知事の営業許可を受ける必要があります。都道府県は、施設基準などを条例で具体的に定めることとされています(同法54条、55条)。
また、食品衛生法には営業許可の基準だけでなく、衛生管理に問題が生じた際や法令違反があった場合に行われる行政指導や行政処分に関する規定も整備されています。
食品安全基本法における事業者の責務
食品安全基本法は、個別の営業許可手続きを定めるものではなく、食品の安全性の確保に関する基本理念や各主体の責務を定めた包括的な法律です。
同法第8条では、食品関連事業者の責務として、食品の安全性を確保するために必要な措置を適切に講じることや、正確かつ適切な情報を提供すること、国または地方公共団体が実施する施策に協力することなどが明記されています。
食品表示法をはじめとする関連法規
飲食店の衛生管理や食品の取り扱いにおいては、食品衛生法や食品安全基本法に加えて、食品表示法に基づく表示基準など、関連する他の法令にも留意する必要があります。
事業者は、提供する商品や営業の形態に応じて適用される法規制を正しく把握し、関係法令に基づいた適切な管理体制を維持することが大切です。
食中毒の定義と原因物質の分類
飲食店における衛生管理を適切に行うためには、まず食中毒がどのような概念として定義され、どのような物質によって引き起こされるのかを正しく把握しておく必要があります。
食中毒の定義と症状
農林水産省の定義によれば、食中毒とは「食品に起因する下痢、腹痛、発熱、嘔吐などの症状の総称」とされています。提供された飲食物に付着・混入した病原体や有害物質を摂取することで、身体に急性または慢性の健康被害が生じる状態を指します。
症状の種類や発症までの潜伏期間は原因物質によって多岐にわたり、軽度な消化器症状にとどまる場合もあれば、重篤な脱水症状や全身症状に発展する場合もあります。
厚生労働省による食中毒病因物質の6分類
厚生労働省では、食中毒を引き起こす病因物質を大きく以下の6種類に分類して整理しています。
- 細菌(カンピロバクター、サルモネラ属菌、黄色ブドウ球菌、腸管出血性大腸菌など)
- ウイルス(ノロウイルスなど)
- 動物性自然毒(フグ毒、シガテラ毒、有毒貝など)
- 植物性自然毒(毒キノコ、ジャガイモの芽に含まれるソラニンなど)
- 化学物質(ヒスタミン、洗剤や有害金属の混入など)
- 寄生虫(アニサキス、クドアなど)
なお、食品への異物混入によって口内を切るといった物理的障害は、上記の病因物質による食中毒の分類には含まれません。
物理的な混入事故と病因物質による健康被害とでは、原因調査や保健所等への報告、衛生管理上の再発防止策が異なる点に留意が必要です。
食中毒発生状況と厚生労働省の統計情報
日本国内における食中毒の発生件数や患者数、原因となった食品や施設の傾向については、厚生労働省が「食中毒統計資料」として定期的に公表しています。
季節ごとの発生ピークや流行している病因物質の傾向を把握することは、調理現場における重点的な衛生チェックや加熱・冷却工程の見直しを行う際にも役立ちます。
食中毒が発生した場合に飲食店が負う法的責任とリスク
飲食店で万が一食中毒事故が発生した場合、経営者や店舗は多方面から重大な責任を追及される可能性があります。生じる影響は、行政上の処分、民事上の損害賠償責任、刑事上の処罰、そして社会的信用の失墜という事実上のリスクに大別されます。
行政上の処分(営業停止・営業禁止など)
食中毒が発生した場合、食品衛生法に基づき、販売が禁止されている有害な食品等を提供したことなどを理由として、都道府県知事等から行政処分を受けることがあります。
具体的には、原因究明や衛生環境の改善がなされるまでの間の営業停止処分や、重大な事案では営業禁止処分などが命じられる可能性があります。
被害者に対する民事上の損害賠償責任
食中毒の原因となる飲食物を提供された顧客との関係においては、安全配慮義務違反等に伴う債務不履行責任(民法第415条)や、不法行為責任(民法第709条)に基づく損害賠償責任を負うことがあります。
損害賠償の対象には、治療費や休業損害、慰謝料などが含まれます。症状が重症化したり後遺障害が残ったりした場合、または死亡事故に至った場合には、賠償額が極めて高額になるケースも少なくありません。
実際の裁判例においては、飲食店の責任が認められ、被害者遺族に対して約1億9000万円の損害賠償金の支払いが命じられた事例も存在します(東京地裁平成30年3月13日判決)。
刑事上の責任(食品衛生法違反・業務上過失致死傷罪)
食中毒の発生態様や過失の程度によっては、食品衛生法違反としての刑事罰が科される可能性があります。さらに、業務上の必要な注意を怠って人を死傷させたとして、刑法上の業務上過失致死傷罪(刑法第211条)に問われることも考えられます。
社会的信用の失墜と営業への重大な影響
法的な責任にとどまらず、食中毒事故が公表されることによる社会的信用の低下は深刻です。報道や口コミの拡散によって客足が大きく遠のき、店舗の存続や事業継続そのものが困難になるリスクを伴います。
| 責任・リスクの区分 | 主な内容と想定される影響 |
|---|---|
| 行政処分 | 食品衛生法に基づく営業停止処分、営業禁止処分など |
| 民事責任 | 債務不履行または不法行為に基づく治療費・休業損害・慰謝料などの損害賠償請求 |
| 刑事責任 | 食品衛生法違反による罰則、刑法上の業務上過失致死傷罪が問題となる可能性 |
| 事実上の影響 | 店名公表や報道等による社会的信用の低下、顧客離れによる売上減少 |
衛生管理体制の整備と法律トラブルに関する相談
日頃の衛生管理体制と法令遵守の徹底
飲食店を安定して運営するためには、食品衛生法や食品安全基本法をはじめとする関連法令の趣旨を理解し、日頃から衛生管理体制を徹底しておくことが不可欠です。
調理器具や設備の衛生維持、原材料の適切な温度管理、従業員の健康状態の確認など、日常的なオペレーションにおいて関係法令の基準やガイドラインを遵守することが求められます。
安全な食品の提供を継続するためには、関係法令のルールを正しく把握し、店舗全体で適切な管理体制を維持することが大切です。
万が一の事故・顧客対応と弁護士への相談
万全を期していても、万が一食中毒の疑いや顧客からの健康被害の申出といったトラブルが発生した場合には、保健所による調査への協力や顧客への対応など、多角的な対応が求められます。
食中毒事故が生じた際には、行政手続きへの対応のみならず、民事上の損害賠償責任の範囲や過失の有無など、法的な観点から慎重に事実関係を整理しなければならない局面が生じます。
顧客との示談交渉や行政処分への対応、紛争の予防策について判断に迷う場合は、弁護士などの法律の専門家に相談し、法的な助言を得ながら適切に対処を進めることも検討するとよいでしょう。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。