更新日:2023年6月1日 (木)

公開日:2023年6月1日 (木)

特別受益としての贈与は遺留分侵害額請求の対象となる?

特別受益としての贈与は遺留分侵害額請求の対象となる? 特別受益としての贈与は遺留分侵害額請求の対象となる?

サマリー

共同相続人の中に、被相続人から遺贈を受けたり、生前に贈与を受けたりした人がいる場合に、相続に際して、その相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば不公平になります。

民法は、共同相続人間の公平を図ることを目的に、特別な受益(贈与)を相続分の前渡しとみて、計算上贈与を相続財産に加算して相続分を算定することにしています。

特別受益は、遺留分を算定する場面でも考慮されます。

この記事では、特別受益と遺留分の関係について解説します。

特別受益としての贈与は遺留分侵害額請求の対象となる?

ここでは、特別受益と遺留分との関係について解説します。

特別受益とは

特別受益とは、相続分の前渡しと評価できる遺贈や生前贈与です。

共同相続人の中に、被相続人から遺贈や贈与を受けた人がいる場合には、共同相続人間で現に存在する遺産のみを対象として遺産分割をすると不公平になります。

そこで、民法は、具体的相続分を算定する際に、相続分の前渡しと評価できる遺贈や生前贈与を相続財産に持ち戻して(加算して)、相続分を算定することと定めています。

つまり、特別受益は、相続分の修正要素として考慮される特別な利益です。

特別受益の種類

民法は、特別受益の対象を遺贈または婚姻・養子縁組のため若しくは生計の資本としての贈与と規定しています。

遺贈

遺贈とは、遺言によって遺言者の財産の全部または一部を相続人等に無償で譲渡することです。

遺贈は、その目的を問わず、包括遺贈も特定遺贈もすべて特別受益となります。

婚姻または養子縁組のための贈与

婚姻または養子縁組のための贈与の典型例として挙げられる持参金支度金は、一般的には特別受益になると考えられています。

ただし、以下のような場合には特別受益とならないと解されています。

  • 被相続人の資産・収入に比べて金額が少額である場合
  • 共同相続人全員が同程度の贈与を受けている場合

結納金や挙式費用、新婚旅行の費用等は、一般的には特別受益にならないと考えられています。

生計の資本としての贈与

生計の資本としての典型例として挙げられる以下のような贈与は、特別受益となります。

  • 居住用不動産の贈与またはその取得のための金銭の贈与
  • 営業資金、独立資金としての金銭の贈与
  • 借地権の贈与

大学や大学院の費用(入学金、寄付金、留学費用、学費等)など、高等教育にかかる学資は、将来の生計の基礎となるものであるため、一般的には生計の資本としての贈与です。

しかし、現在の日本の教育水準からみて、大学進学等が必ずしも特別なこととは言えないため、実務では、被相続人の生前の資力・社会的地位他の相続人との比較などを考慮して判断します。

具体的には、以下のいずれかに該当する場合には、特別受益として考慮しないのが相当と考えられています。

  • 被相続人の生前の資産や生活状況に照らして、扶養の一部と認められる場合
  • 共同相続人全員が同程度の教育を受けている場合

特別受益も遺留分侵害額請求の対象になる

共同相続人への特別受益にあたる生前贈与は、遺留分算定の基礎となる財産に含まれ、遺留分侵害額請求の対象となります。

遺留分計算における特別受益の持ち戻し対象期間は民法改正で10年に?

ここでは、民法改正で特別受益の期間制限がどのように変わったかを解説します。

遺留分計算上は相続開始前10年以内のものに限定された

2019年7月1日施行の民法改正により、遺留分算定の基礎財産に算入される(遺留分侵害額請求の対象となる)特別受益にあたる贈与の範囲が変更されました。

改正前は、特別受益にあたる贈与は、原則として時期や加害の認識を問わず、すべて遺留分算定の基礎財産に含まれていました。

民法改正後は、相続開始前10年以内になされた特別受益にあたる贈与に限り、遺留分算定の基礎財産に算入されます。

ただし、特別受益にあたる贈与が相続開始10年以上前になされた場合でも、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合は、遺留分算定の基礎財産に算入される可能性があります。

なお、改正民法の施行前である2019年6月30日以前に開始した相続には、改正民法は適用されません。

相続分計算上は期間制限なし

共同相続人の中に特別受益を受けた人(特別受益者)がいる遺産分割では、特別受益を相続財産に持ち戻して、各人の相続分を計算します。

遺留分の場合とは異なり、受益の時期にかかわらず算入期間の制限なく)、すべて持ち戻しの対象となります。

特別受益に持ち戻し免除の意思表示があれば遺留分侵害額請求の対象とならない?

ここでは、持ち戻し免除の意思表示と遺留分との関係について解説します。

持ち戻し免除の意思表示とは

被相続人は、意思表示により特別受益者の受益分の持ち戻しを免除できます。

被相続人が、特別受益分を遺産に持ち戻す必要がないとの意思を示すことを、持ち戻し免除の意思表示といいます。

被相続人が、相続開始時までに、特別受益を遺産分割において持ち戻す必要がない旨を明示または黙示に意思表示していれば、相続分の計算上、特別受益を持ち戻す必要はありません。

持ち戻し免除の意思表示があっても遺留分算定の基礎財産に算入される

持ち戻し免除の意思表示があっても、共同相続人への特別受益となる生前贈与は遺留分算定の基礎財産に算入され、遺留分侵害額請求の対象となります。

持ち戻し免除の意思表示により基礎財産を減少できると、他の相続人との関係で不公平であり、遺留分制度の意義をなくすことになりかねないからです。

特別受益がある場合の遺留分の計算方法

ここでは、特別受益がある場合の遺留分の計算方法を解説します。

遺留分額の計算方法

各相続人の遺留分は、以下の順序で求められます。

  • 遺留分算定の基礎となる財産額を計算する
  • 個別的遺留分の割合を計算する
  • 遺留分額を計算する

遺留分算定の基礎となる財産額を計算する

遺留分算定の基礎とのなる財産額は、以下の計算式で求められます。

遺留分算定の基礎となる財産額 = 被相続人が相続開始時に有していた財産の価額 + 贈与財産の価額 - 相続債務の全額

遺留分額を算定するための基礎となる財産は、相続開始時に被相続人が有していた財産(遺贈を含む)の価額に、贈与した財産の額を加えて、その中から債務全額を控除したものです。

遺留分侵害額請求の対象である遺贈、死因贈与、生前贈与の有無を調査し、その財産価格の評価を経て、控除されるべき債務を確認します。

特別受益にあたる贈与以外で、遺留分算定の基礎となる財産に算入される贈与は以下のとおりです。

  • 相続開始前1年間にされた贈与
  • 遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与
  • 遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた不相当な対価の有償行為
  • 贈与とみなされる無償処分(例 貸付金の免除)

個別的遺留分の割合を計算する

個別的遺留分の割合は、以下の計算式で求められます。

個別的遺留分の割合 = 総体的遺留分の割合 × 法定相続分の割合

総体的遺留分は、直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1であり、その他の場合は2分の1です。

例えば、配偶者と子3人が相続人の場合の個別的遺留分は、以下のように求められます。

配偶者の個別的遺留分=総体的遺留分(1/2)×法定相続分(1/2)=1/4
子3人の個別的遺留分=総体的遺留分(1/2)×各人の法定相続分(1/2×1/3)=1/12

遺留分額を計算する

遺留分額は、以下の計算式で求められます。

遺留分額 = 遺留分算定の基礎となる財産額 × 個別的遺留分の割合

遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額は、以下の計算式で求められます。

遺留分侵害額 = 遺留分額 - (遺留分権利者が相続によって得た財産額 - 相続債務負担額)- 特別受益額

上記計算結果がゼロよりも大きい場合は、遺留分侵害があると考えられます。

特別受益がある場合の遺留分侵害額請求の順序

遺留分侵害額について、受遺者または受贈者がどの範囲で負担するかは、民法でその対象と順序が決まっています。

ここでは、特別受益がある場合の遺留分侵害額請求の順序を解説します。

遺贈と特別受益にあたる生前贈与がある場合

遺贈と贈与がある場合は、遺贈を受けた人(受遺者)が先に負担します。

すなわち、遺留分権利者は、遺贈を受けた人(受遺者)に遺留分侵害額を請求し、遺留分侵害額に満たない場合は贈与を受けた人(受贈者)に請求します。

遺贈が複数ある場合

遺贈が複数ある場合は、遺贈を受けた人(受遺者)全員に対して、受遺者が受けた利益の額の割合に応じて遺留分侵害額を請求します。

遺言書で特定の遺贈から先に遺留分侵害額請求するよう意思表示があった場合には、被相続人の意向を尊重し、その順番で遺留分減殺額を請求します。

特別受益にあたる生前贈与が複数ある場合

贈与が複数ある場合は、日付の新しい贈与から順に負担します。

死因贈与と生前贈与がある場合、相続開始時に近い時期から順に請求するので、死因贈与が優先です。

死因贈与を受けた人(受贈者)への請求のみで遺留分侵害額に満たない場合は、日付の新しい生前贈与の受贈者に請求します。

まとめ

共同相続人の中に、特別受益にあたる生前贈与を受けた人がいる場合、その贈与が相続開始前の10年間になされたときに限り、遺留分侵害額請求の対象となります。

ただし、贈与者と受贈者が遺留分権利者に損害を加えることを知ってなされた贈与は、相続開始10年以上前になされたものも遺留分算定の基礎となる財産に含まれます。

特別受益として評価される遺贈または贈与といえるかの判断について悩まれている方や特別受益によりご自身の遺留分を侵害されているかどうか分からない方は、ぜひ一度ネクスパート法律事務所にご相談ください。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:東京オフィス

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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