サマリー
自社サイトの商品説明に一般用語を使用していたところ、他社から商標登録を理由とする警告文や削除依頼が届くことがあります。商品説明として一般用語を使用しているだけであれば、原則として商標権侵害(商標的使用)には該当しません。本記事では、商品説明における一般用語の使用と商標権侵害の判断基準について、実際の相談事例をもとに解説します。
この記事のポイント
- 自社のホームページ上で商品説明として、成分の効果等を表す一般的な言葉を使用しているだけであれば、原則として商標権侵害には該当しないと考えられます。
- 商標権侵害の成否は3つの要件で判断され、特に標章の使用が、商品の出所を識別させる「商標的使用」に該当するかどうかが重要になります。
- 一般用語であっても、文字の大きさ、色、配置などを工夫してロゴのように目立たせると、商標的使用とみなされ、商標権侵害に問われるリスクがあります。
- 警告文が届いても慌てて表示を削除したり感情的に反論したりせず、自社の使用状況が商標的使用に該当するかを見極め、法的根拠に基づく回答書の送付を検討します。
自社のホームページやECサイトで商品を販売する際、その魅力を伝えるためにさまざまな言葉を用います。
しかし、ごく一般的な言葉(一般用語)を商品説明に使用していたにもかかわらず、ある日突然、他社から「その言葉は当社が商標登録しているため使用を中止してほしい」という警告文や削除依頼が届くことがあります。
このような場合、ただちに商標権侵害となり、文言を削除しなければならないのでしょうか。
本記事では、商品説明における一般用語の使用と商標権侵害の判断基準について、実際の相談事例をもとに解説します。
なお、本記事で紹介する相談事例は、実際のご相談内容を一般化・匿名化して構成したものです。
ホームページでの一般用語使用に対する商標権侵害の警告
企業からのご相談事例をご紹介します。
ある企業が、自社ホームページ上で化粧品の商品説明として、保湿効果など成分の特徴を表す一般的な言葉を使用していました。すると、スキンケア用品を扱う他社から、その言葉は自社で商標登録済みであるためホームページなどでの使用をやめてほしい旨の削除依頼が届いたという経緯があります。
自社で商標検索を行ったところ、確かに先方の企業が化粧品などの区分において当該の言葉の商標登録を行っている事実が確認できました。しかし、相談元の企業としては、その言葉は一般用語であり、特定の商品名やブランド名として使っているわけではないため、商標の無断使用には抵触しないのではないかという疑問を抱き、ご相談を頂いたという経緯です。
商品説明としての一般用語の使用は原則として商標権侵害に該当しない
結論から申し上げますと、本件のように自社のホームページ上で化粧品の商品説明として、成分の効果等を表す一般的な言葉を使用しているだけであれば、原則として商標権侵害には該当しないと考えられます。
ただし、これには重要な前提条件が存在します。
それは、該当の言葉が商品の特徴を説明する文章の一部として自然に用いられており、商品パッケージやウェブサイト上でロゴマークのように大きく強調表示されていないことなどが挙げられます。
登録商標と同一の言葉であっても、あくまで商品の特徴を説明するための事実表記として用いられている限り、消費者が他社の商品と誤認するおそれは生じにくいため、通常は商標権の侵害にはあたらないという判断になります。
商標権侵害の成立要件と「商標的使用」の考え方
なぜ一般的な言葉の使用が商標権侵害にならないのか、法的な判断基準を整理します。
商標権侵害の3つの要件
商標権侵害が成立するかどうかは、主に以下の3つの要件を満たすかどうかで判断されます。
- 被疑侵害者(警告を受けた側)による標章(マークや文字)の使用があること
- 使用している標章が、登録商標と同一または類似していること
- 標章が使用されている商品やサービス(役務)が、登録商標の指定商品・指定役務と同一または類似していること
本件の相談事例では、使用していた言葉自体が登録商標と一致しており(要件2)、対象となる商品区分も化粧品関連で共通している(要件3)状態といえます。
そのため、一見すると商標権を侵害しているように見えるかもしれません。
しかし、ここで最も重要になるのが要件1の「標章の使用」が、法律上の「商標的使用」に該当するかどうかという点です。
「商標的使用」とは何か
「商標的使用」とは、ある商品やサービスが「どこの誰のものか」を消費者に識別させる目的で、マークや言葉を使用することを指します。これを自他商品・役務識別機能と呼びます。
ある言葉の表示が商標的使用にあたるかどうかは、言葉そのものの識別力の強さ、表示されている位置、他のブランド名や商標と一緒に使われているかなどの諸般の事情を総合的に考慮して判断されることになります(大阪地判昭和51年2月24日、東京地判平成10年7月22日等)。
単に商品の効果や特徴を説明する言葉として使っている場合、消費者はそれを特定のブランド名とは認識せず、単なる説明文として受け取る傾向にあります。
そのため、商品の出所について誤認が生じることはなく、商標的使用には該当しないと判断されるのが通常と考えられます。
類似ケースにおける判例の動向と表現上の注意点
過去の裁判例を見ても、商品の出所を示す表示なのか、単なる説明の表示なのかは慎重に判断されています。
例えば「巨峰事件(福岡地飯塚支判昭和46年9月17日)」では、包装用容器に言葉を表示する場合、その言葉が見やすい位置に見やすい方法で表されていれば、中身の商品の商品名(出所を示す標章)として受け取られるのが取引上の経験則である、といった旨が示されています。
これは、表示の方法次第で商標とみなされる可能性があることを意味するものです。
一方で、「CHANEL No.5事件(東京地判平成5年3月24日)」のように、特定の部分のみが強調され、登録商標の表示(Ⓡマーク)とともに表記されているような場合には、単なる事実の表記とは認識されず、商標権侵害に該当すると判断されたケースも存在します。
つまり、いくら一般用語であっても、文字の大きさ、色、配置などを工夫してロゴのように目立たせたり、あたかも自社のブランド名であるかのように表示したりすると、商標的使用とみなされ、商標権侵害に問われるリスクを伴うことになります。
警告文への対応を弁護士に相談するメリット
他社から商標権侵害の警告や削除依頼が届いた場合、慌てて要求をのんで表示を削除したり、逆に感情的に反論したりすることは推奨されません。
まずは冷静に、自社の使用状況が「商標的使用」に該当するかどうかを見極める必要があります。
このような場面で経験豊富な弁護士にサポートを依頼することで、過去の判例や法的基準に照らし合わせて、自社の表示が適法であるかどうかの客観的な判断を得ることが可能です。
もし商標権侵害にあたらないと判断される場合には、先方に対して「本件表示は商品説明としての使用にとどまり、商標的使用には該当しないため商標権侵害は成立しない」旨を、法的根拠に基づいて丁寧に説明する回答書(返信)を作成し、送付することができます。
当事者同士の直接交渉では平行線になりがちな問題も、弁護士が法的な見解を論理的に伝えることで、相手方の理解を得やすくなり、円満な解決につながる可能性が高まります。
また、日頃から自社サイトの表記や契約書等についてチェック体制を整えたい場合は、法務アウトソーシング(LPO)サービスを利用することも有効な選択肢となります。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
本記事では、商品説明における一般用語の使用と商標権侵害の判断基準について解説しました。要点は以下のとおりです。
- 商品説明として一般用語を使用しているだけであれば、原則として商標権侵害(商標的使用)には該当しない。
- 商標権侵害が成立するには、その言葉が「誰の商品か」を識別するためのマークとして使われている必要がある。
- 文字を極端に強調するなど、表示方法によっては商標的使用とみなされるリスクがあるため注意が求められる。
- 警告文が届いた際は、法的な根拠に基づいた対応を検討することが有効となる。
ネクスパート法律事務所では、企業の法律問題に関するご相談を承っております。お気軽にお問い合わせください。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。
コラム監修者
寺垣 俊介
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。