更新日:2026年11月3日 (火)
公開日:2025年8月15日 (金)
フリーランス新法の就業環境整備義務とは
サマリー
業務委託契約で働くフリーランスの中には、発注事業者とのやり取りでハラスメントや突然の契約終了、育児・介護との両立の難しさといった不安を感じている方もいるのではないでしょうか。2024年11月に施行されたフリーランス新法では、報酬支払などの取引適正化に加えて、発注事業者に「就業環境の整備」に関する義務が課されています。
この記事では、ハラスメント対策の体制整備や募集情報の表示義務、育児・介護への配慮、契約解除時の予告・理由開示といった制度の内容と、トラブルが生じた際に利用できる相談窓口について解説します。
フリーランス新法の「就業環境の整備」とは
フリーランスとして業務委託契約を結ぶ働き方は、組織に属さない自由さがある一方で、発注事業者との力関係によって立場が不安定になりやすいという一般的な課題が指摘されてきました。
ハラスメントを受けても相談先がわからない、育児や介護と業務の両立に配慮してもらえない、契約の打ち切りを事前の説明なく告げられるといった状況は、これまで一般論としてフリーランスが直面しやすい課題として挙げられてきました。
こうした背景を踏まえ、2024年11月に施行されたフリーランス新法(正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)では、報酬の支払期日や発注内容の明示といった「取引の適正化」に関するルールに加えて、フリーランスが業務に従事する環境そのものを整えるための規定が設けられました。
これが「就業環境の整備」に関する義務であり、下請法には存在しなかった新法独自の枠組みとされています。
就業環境の整備義務は、フリーランス本人に課されるものではなく、業務を発注する側の事業者、新法上は「特定業務委託事業者」に該当する者に課される義務として位置づけられています。
義務の具体的な内容は、発注事業者が従業員を雇用しているかどうか、契約期間が6か月以上かどうかといった条件によって異なります。
次節以降では、それぞれの義務の内容を具体的に見ていきます。
従業員を雇用する事業者に課される2つの基本義務
ハラスメント対策に係る体制整備義務
従業員を雇用する特定業務委託事業者には、フリーランスの就業環境を害するハラスメントを防止するための体制整備が義務付けられています。
対象となるのは、性的な言動により不利益を与えたり就業環境を害したりするセクシュアルハラスメント、取引上の優越的な関係を背景に業務の適正な範囲を超えた言動で就業環境を害するパワーハラスメント、妊娠・出産等を理由とする嫌がらせであるマタニティハラスメントの3類型です。
具体的な措置としては、ハラスメントを許さないという方針を明確化して社内やフリーランスに周知・啓発すること、相談を受け付ける窓口を設置して周知すること、実際に問題が生じた場合には事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた側への配慮や再発防止策を講じることなどが求められます。
フリーランスがハラスメントについて相談したことを理由に、発注事業者が契約解除などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
募集情報の的確表示義務
特定業務委託事業者が広告やウェブサイトなどでフリーランスを募集する際には、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保つ義務があります。
例えば、実際の報酬額よりも高い金額を意図的に提示することは、問題となり得ます。
このほか、募集を終了したにもかかわらず情報を削除せずに掲載し続けることや、業務内容や報酬といった重要な事項を記載しないまま募集を行うことも、的確表示義務との関係で問題となる可能性があります。
こうした規律は、フリーランスが誤った情報に基づいて契約を結んでしまうことを防ぐ趣旨によるものです。
契約期間6か月以上で追加される2つの義務
業務委託契約の期間が6か月以上にわたる場合(契約更新によって通算6か月以上となる場合を含みます)には、ここまで説明した基本義務に加えて、特定業務委託事業者にさらに2つの義務が課されます。
契約が一定期間継続することで、フリーランス側の生活設計への影響がより大きくなることを踏まえた規律といえます。
育児・介護との両立への配慮義務
特定業務委託事業者は、フリーランスから育児や介護との両立に関する申し出を受けた場合、必要な配慮を検討する義務を負います。
進め方としては、まず申出の内容を正確に把握し、次に納期の調整やオンライン対応への切り替えなど取り得る選択肢を検討したうえで、検討結果をフリーランスに伝えて実施するという流れが想定されています。
配慮が難しいと判断された場合には、その理由を説明することが求められます。
育児・介護に関する申し出や、配慮を受けたことのみを理由に契約を解除したり報酬を減額したりすることは認められていません。
中途解除等の事前予告・理由開示義務
契約期間が6か月以上となる業務委託契約を中途で解除する場合や、契約を更新しない場合には、特定業務委託事業者は原則として30日前までに予告しなければならないとされています。
これは、フリーランスが契約終了後の生活や次の仕事の確保に備える時間を確保できるようにする趣旨によるものです。
予告期間中にフリーランスから解除や不更新の理由について開示を求められた場合、事業者は遅滞なく理由を開示する義務を負います。
ただし、フリーランス側に重大な責任があると認められる場合など、一定の事情があるときは例外的に予告が不要となるケースもあるとされています。
義務違反が疑われる場合の相談先
発注事業者がハラスメント対策や募集表示、育児・介護への配慮、中途解除の予告といった義務を果たしていないと感じられる場合、フリーランスには公的な相談先や申出の仕組みが用意されています。
一人で抱え込まず、利用できる制度を知っておくことが大切です。
厚生労働省・都道府県労働局への申出制度
フリーランス新法に違反する事実があると考えられる場合、厚生労働省や各都道府県の労働局に対して申出を行うことができます。
申出を受けた行政機関は必要に応じて調査を行い、事実関係を確認する仕組みになっています。
調査の結果、義務違反が認められた場合には、事業者に対する指導や助言が行われるほか、改善が見られない場合には勧告や命令に至ることもあるとされています。
こうした行政の関与は、個々のフリーランスが直接事業者と交渉することが難しい場面での選択肢の一つとなります。
フリーランス・トラブル110番などの無料相談窓口
行政への申出のほかに、弁護士が相談に応じる「フリーランス・トラブル110番」といった無料の相談窓口も設けられています。
取引に関する疑問やトラブルの内容を相談し、一般的な法的情報を得られる場として利用されています。
この窓口では、相談だけでなく、希望に応じて弁護士が間に入り、発注事業者との話し合いを仲介する「あっせん」の制度が用意されている点も特徴です。
話し合いによる解決を試みたい場合の一つの手段として位置づけられています。
どの窓口を利用するかは、トラブルの内容や状況によって異なり得るため、まずは情報を確認したうえで検討することが望ましいといえます。
弁護士への相談
フリーランス新法が定める就業環境整備義務は、ハラスメント対策や募集表示、育児・介護への配慮、中途解除時の予告など多岐にわたります。
これらの義務がどのように適用されるかは、契約期間や業務委託の形態、発注事業者の規模など個々の状況によって異なり得る点に留意が必要です。
そのため、自身の契約が法律上どのような保護の対象となるのか、発注事業者の対応が義務違反にあたるかどうかを一般的な情報だけで判断することが難しい場合もあります。
契約書の内容や発注事業者とのやり取りの経緯によって事情は様々であり、同じように見える状況でも結論が異なることは珍しくありません。
疑問点や不安な点がある場合には、弁護士に相談し、状況を整理してもらうという選択肢もあります。
弁護士に相談する際は、契約書や発注事業者とのやり取りの記録などを整理しておくと、状況を伝えやすくなると考えられます。
行政の相談窓口とあわせて、必要に応じて弁護士への相談も検討しながら、ご自身の就業環境について理解を深めていくことが望まれます。
コラム監修者
寺垣 俊介
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。