更新日:2026年10月27日 (火)
公開日:2026年10月27日 (火)
B型肝炎給付金と「除斥期間」の壁 ― 20年の時の経過で請求権が消える問題とは
サマリー
B型肝炎給付金請求における「除斥期間」の壁を最新報道から解説。20年経過で請求権が消滅する仕組みと、給付金額に差が生じる問題、早期相談の重要性を弁護士が解説します。
B型肝炎給付金の請求をめぐり、「除斥期間」という時間の壁が給付額の格差を生んでいることが改めて報じられています。
B型肝炎訴訟、20年で賠償請求権が消える「除斥期間」との闘い…「時の壁で給付金に差が出るのはおかしい」
出典:Yahoo!ニュース
2026年10月25日に配信されたこの報道では、発症から20年が経過すると法律上の損害賠償請求権が消滅してしまう「除斥期間」の存在によって、同じようにB型肝炎に感染しながらも受け取れる給付金額に大きな差が生じている現状が取り上げられています。本コラムでは、この除斥期間とは何か、なぜ給付金に差が出るのか、そして今からでも打つべき対策について、法的根拠を交えて解説します。
B型肝炎給付金制度の概要と「除斥期間」とは
B型肝炎給付金は、幼少期の集団予防接種等における注射器の連続使用によってB型肝炎ウイルスに感染した方々を救済するため、特別措置法(特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法)に基づき支給されるものです。給付金を受け取るには、国を被告として訴訟を提起し、和解によって感染経路や発症状況を確定させる必要があります。
ここで問題となるのが民法724条後段に定められる「除斥期間」です。改正前民法では、不法行為による損害賠償請求権は「不法行為の時から20年」を経過すると消滅すると規定されており、これは時効と異なり当事者の援用を要せず当然に権利が消滅する性質を持つとされてきました(最高裁平成元年12月21日判決)。B型肝炎訴訟においては、この「20年」の起算点を「発症時」とするのか「感染時(集団予防接種等を受けた時)」とするのかが長年争われてきた経緯があります。
慢性肝炎を発症してから20年が経過すると、原則として国に対する損害賠償請求権そのものが法律上消滅してしまい、給付金を請求できなくなるおそれがあります。これが報道で指摘されている「時の壁」の正体です。
なぜ給付金額に差が生じるのか
特措法に基づく給付金は、病態(無症候性キャリア、慢性肝炎、肝硬変、肝がん等)に応じて金額が定められていますが、除斥期間が経過してしまった場合には、たとえ重い病態に至っていても、満額ではなく除斥期間の壁を理由に減額された金額、あるいは給付自体が困難になるケースがあります。すでに時効・除斥期間が完成してしまった方と、発症から20年以内に請求できた方との間で、同じ病態でありながら受け取れる金額に差が生じるという不公平が、今回の報道でも「おかしい」と指摘されている論点です。
なお、2020年の民法改正により、改正後は「時効」として構成され、裁判上の請求等による時効の完成猶予・更新の余地が認められるようになりましたが、改正前に除斥期間が満了したと評価される事案には改正の効果が及ばない点に注意が必要です。また、特措法上の請求権にも給付金請求権自体の時効(特措法に基づく除斥期間の経過日から原則5年以内に提訴する必要があるとされる運用)があり、感染被害者が気づかないまま期限を徒過してしまう例が後を絶ちません。
発症時期や感染経路の立証の遅れが、そのまま受給額の減少や請求不能に直結しかねない点が、この制度の最も厳しい部分です。
除斥期間の起算点をめぐる争いと立証のポイント
除斥期間の起算点については、最高裁平成18年6月16日判決などにより、身体に蓄積した場合に生じる損害について「損害の全部または一部が発生した時」を起算点とする考え方が示されており、B型肝炎訴訟でも「感染時」ではなく「発症時」を起算点とする主張が支持されてきた経緯があります。もっとも、個別の事案で発症時期をいつと認定するかは、カルテ等の医療記録の有無に大きく左右されます。
そのため、幼少期の集団予防接種の記録(母子健康手帳等)と、発症時期を示す医療記録の両方を早期に確保できるかどうかが、給付金の満額受給を左右する重要な分かれ目になります。記録が散逸してからでは、本来受け取れたはずの金額よりも低い金額しか認められない、あるいは除斥期間の壁に阻まれて請求自体が認められないリスクが高まります。
まとめ
今回取り上げた報道は、B型肝炎給付金をめぐる「除斥期間」という時間的制約が、感染被害者間の給付額格差という形で不公平を生んでいる実態を伝えるものでした。民法724条後段の除斥期間、特措法上の請求期限、そして発症時期の立証という複数のハードルが重なり合う本制度では、「まだ大丈夫」と先送りにすること自体が、将来受け取れるはずだった給付金を失うリスクに直結します。
母子健康手帳や過去の診療記録が手元にあるうちに専門家へ相談し、除斥期間や時効の壁にかかる前に請求手続きを進めることが何より重要です。B型肝炎給付金の請求や除斥期間の問題でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
佐藤 塁
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。