サマリー
「婚姻関係は破綻していた」として不貞慰謝料請求が棄却された判例報道をもとに、婚姻破綻と不倫慰謝料の関係、認定基準、判断要素を弁護士が解説します。
不倫をされた側が慰謝料を請求しても、必ず認められるとは限りません。2026年10月16日、読売新聞は、元夫が元妻の不倫相手に慰謝料を求めた訴訟で、控訴が棄却されたという裁判例を報じました。
「離婚する」と聞き不倫、慰謝料の支払いを求めた元夫側の控訴棄却…「婚姻関係は破綻していた」
出典:読売新聞
報道によれば、相手方は「離婚する」と聞かされた上で元妻と交際しており、裁判所は不貞行為があった当時すでに婚姻関係が破綻していたと認定し、元夫側の請求を退けたとされています。本コラムでは、このニュースを手がかりに、不倫 慰謝料請求において「婚姻破綻」がどのような意味を持つのか、法律上の根拠や判断基準を解説します。
不貞慰謝料請求の法的根拠と成立要件
配偶者の不貞行為によって精神的苦痛を受けた場合、被害を受けた配偶者は、不貞相手に対して民法709条(不法行為)に基づき損害賠償(慰謝料)を請求できます。判例上、不貞相手への慰謝料請求が認められるためには、一般に次のような要件が必要とされています。
①相手方と自らの配偶者との間に性的関係(不貞行為)があったこと、②請求時点で婚姻関係が法律上継続していたこと、③不貞行為によって婚姻共同生活の平和の維持という権利・利益が侵害されたこと、④不貞相手に故意または過失(配偶者がいることを知っていた、または知り得たこと)があったことです。
ここで特に重要なのが②と③で、不貞行為の時点ですでに夫婦関係が実質的に破綻していた場合には、そもそも保護されるべき「婚姻共同生活の平和」が存在しないため、不法行為は成立しないと考えられています。最高裁判所も、婚姻関係がすでに破綻していた場合には、第三者が配偶者と肉体関係を持っても、特段の事情がない限り不法行為責任を負わないとの判断を示しており(最高裁平成8年3月26日判決)、今回報じられた事案もこの考え方に沿ったものと見られます。
「婚姻関係の破綻」はどのように判断されるのか
では、どのような事情があれば「婚姻関係が破綻していた」と認定されるのでしょうか。裁判所は、別居の有無・期間、夫婦間の会話や生活実態、離婚協議の進行状況、婚姻継続の意思の有無など、複数の事情を総合的に考慮して判断します。具体的には以下のような要素が重視される傾向にあります。
・長期間の別居が続いていたか
・夫婦間で離婚の合意や離婚協議がすでに進んでいたか
・一方または双方に婚姻継続の意思が失われていたか
・生活費の分担や同居実態など、夫婦としての実質的な共同生活があったか
今回の報道でも、不貞相手が「離婚する」と聞かされた上で交際を始めたという経緯が、婚姻関係の破綻を裏付ける事情の一つとして考慮されたとみられます。
単に「配偶者から離婚すると聞いた」というだけで常に免責されるわけではなく、実際に婚姻関係が客観的に破綻していたと評価できるかどうかが決め手になる点に注意が必要です。口約束だけで同居や経済的な協力関係が続いていれば、破綻とは認められない可能性もあります。
不倫慰謝料を請求する側・された側が注意すべきポイント
慰謝料を請求する側(配偶者)にとっては、不貞行為の証拠だけでなく、不貞行為時点で婚姻関係が維持されていたことを裏付ける事情(同居の継続、婚姻費用の分担、夫婦としての交流の記録など)も重要な立証材料になります。逆に請求される側(不貞相手)にとっては、交際開始時にすでに夫婦関係が破綻していたことを示す客観的資料(別居期間、離婚協議の記録、第三者の証言等)が有力な反論材料となります。
また、民法724条により、不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年で時効消滅します。不貞慰謝料請求を検討する場合は、証拠収集とあわせて時効の管理も重要です。
「配偶者から離婚すると言われていた」という弁解を鵜呑みにせず、婚姻破綻の有無は個別の事情を丁寧に積み上げて立証・反証する必要がある点が、今回の裁判例からもうかがえます。
まとめ
不貞慰謝料請求は、不貞行為があれば自動的に認められるものではなく、行為当時の婚姻関係の実態が大きな争点となります。今回報じられた裁判例のように、婚姻関係がすでに破綻していたと認定されれば、たとえ不貞行為自体があったとしても慰謝料請求が認められない可能性があります。請求する側・される側いずれの立場でも、婚姻関係の実態を示す証拠の有無が結果を左右します。
不倫慰謝料請求や離婚問題、婚姻関係破綻の立証でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
東京都杉並区出身。明治大学付属中野高校、明治大学法学部を経て、明治大学法科大学院を修了。2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2012年12月に弁護士登録(東京弁護士会)し、都内の法律事務所での勤務を経て、2016年1月に寺垣俊介とともにネクスパート法律事務所を創業。代表弁護士として一般民事から企業法務まで幅広い分野を手がけるとともに、全国に拠点を持つ事務所の経営にあたる。
早くからテクノロジーと法務の融合に取り組み、2021年にはAIを利用した法律文書作成サービスを開発するLegal AI株式会社の代表取締役に就任(現在は退任)。当時はAI技術が発展途上で技術的な壁に直面したが、この挑戦を通じて「法務業務こそAIの力を借りれば飛躍的に変わる」という確信を得る。以来そのビジョンを持ち続け、生成AIが広く普及した現在は事務所の業務全体でAIの活用を進めている。2026年には日本弁護士連合会「弁護士業務改革シンポジウム」にパネリストとして登壇した。ブロックチェーン・Web3分野の法務や海外法人の設立支援にも取り組み、公益法人主催のセミナー等で講師を務める。
公正取引委員会・中小企業庁「適正取引推進講習会」講師、日本弁護士連合会代議員、東京弁護士会常議員を歴任。弁護士業務のかたわら、2014年に東京青年会議所に入会して以来、10年以上にわたりボランティア活動に取り組む。2017年からは国際的な社会奉仕団体であるライオンズクラブに所属し、2022年には東京数寄屋橋ライオンズクラブ第57代会長を務めた。献血の呼びかけ、障がい者スポーツ大会の支援、保護犬活動のほか、弁護士として小中学生への法教育や薬物乱用防止教育にも携わっている。