サマリー
紀州のドン・ファン事件で遺言書の有効性が最高裁で認められました。自筆証書遺言の要件や無効を争われるケース、相続トラブルの予防策を弁護士が解説します。
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和歌山県田辺市の資産家男性が2018年に死亡した、いわゆる「紀州のドン・ファン」事件を巡り、約13億円の遺産を田辺市に寄付する内容の遺言書の有効性が最高裁判所で争われていました。
「約13億円遺産を田辺市に寄付」“紀州のドン・ファン”の遺言書は有効 最高裁
出典:TBS NEWS DIG
2026年10月3日に報じられたこの最高裁判断により、遺言書の有効性を巡る長年の争いに決着がついたことになります。本記事では、この報道を手がかりに、遺言書が法的に有効と認められるための要件や、相続人・親族との間で遺言の有効性が争われやすいポイント、生前にできる紛争予防策について、弁護士の視点から解説します。
紀州のドン・ファン事件と遺言書を巡る裁判の経緯
報道によれば、この事件は和歌山県田辺市の資産家男性が2018年に急死し、その後「全財産を田辺市に寄付する」との内容が記された遺言書が見つかったことに端を発します。男性の死因を巡っては刑事事件としても大きく報道されましたが、民事の場面では、この遺言書が本人の意思に基づいて有効に作成されたものかどうかが、親族側と田辺市側との間で争われてきました。
親族側は遺言書の筆跡や作成経緯に疑義を呈し無効を主張していたとみられますが、最高裁判所は遺言書を有効と判断したと報じられています。約13億円という巨額の遺産の帰属先が、最高裁の判断により田辺市への寄付で確定したことになります。最高裁まで争いが続いたこと自体が、遺言書の有効性を巡る紛争がいかに長期化しやすいかを示す事例といえるでしょう。
遺言書が法的に有効と認められるための要件
遺言は、民法に定められた方式に従わなければ無効となります(民法960条)。実務上広く使われるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の二つです。
自筆証書遺言は、民法968条1項により、遺言者が「全文」「日付」「氏名」を自書し、押印することが要件とされています。財産目録については2019年の法改正により自書でなくてもよいとされましたが(同条2項)、本文部分の自書要件は維持されています。これに対し公正証書遺言は、公証人が関与して作成されるため(民法969条)、方式不備による無効のリスクが低く、証拠としての信用性も高いという特徴があります。
自筆証書遺言が裁判で無効を争われる典型的な理由としては、①自書・日付・氏名・押印などの方式不備、②遺言能力(民法963条、遺言時に意思能力があったこと)の欠如、③偽造・変造の疑い、④本人の真意に基づかない作成、などが挙げられます。今回の紀州のドン・ファン事件でも、親族側は遺言書の真正性や作成経緯に疑問を投げかけていたとみられますが、最高裁まで争った結果として遺言書の有効性が認められた以上、方式面・内容面の双方で法的要件を満たすと判断されたことになります。
相続人・親族との間で遺言の有効性が争われやすいケース
遺言の内容が特定の相続人に不利であったり、今回のように相続人以外の第三者(自治体や団体など)に遺産が渡る内容であったりする場合、遺された家族が「本人の意思ではないのではないか」「誰かに書かされたのではないか」と疑い、訴訟に発展するケースは少なくありません。特に遺言者が高齢であったり、死亡状況に不審な点があったりする事案では、遺言能力の有無が強く争われる傾向にあります。
こうした訴訟では、遺言書作成時の医師の診断記録、介護記録、作成時の状況を知る証人の証言などが重要な証拠となります。また、遺留分を侵害された相続人は、遺言そのものの無効を争うのとは別に、民法1046条に基づく「遺留分侵害額請求」を行うという選択肢もあります。これは遺言自体の効力を争うものではなく、最低限保障された取り分の金銭請求を行う制度であり、遺留分侵害額請求には「相続開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年」という消滅時効が定められている点に注意が必要です(民法1048条)。
相続争いを防ぐための生前対策
今回の事件のように遺言の有効性を巡って最高裁まで争いが続けば、解決までに長い年月と多大な労力がかかります。こうした事態を避けるためには、生前の段階で次のような対策を講じておくことが有効です。
第一に、可能な限り公正証書遺言を利用することです。公証人の関与により方式不備のリスクを減らせるほか、作成時に公証人が遺言者の意思能力を確認するため、後日の遺言能力を巡る争いも起こりにくくなります。第二に、遺言内容が特定の相続人の遺留分を侵害する可能性がある場合は、あらかじめ付言事項で理由を説明したり、専門家に相談のうえ遺留分に配慮した内容を検討したりすることが望まれます。第三に、認知症の発症が疑われる前の、判断能力が明確な時期に遺言を作成し、医師の診断書や関連記録を残しておくことも、後の紛争予防につながります。
まとめ
紀州のドン・ファン事件における最高裁の判断は、約13億円という巨額の遺産の帰属を遺言書の有効性によって確定させた点で、遺言制度の持つ重みを改めて示すものとなりました。遺言書は、方式・遺言能力・真意性のいずれかに疑義が生じると、相続人間や第三者との間で長期の争いに発展しかねません。
遺言書の作成方法や内容にお悩みの方、あるいはご家族が遺された遺言書の有効性に疑問をお持ちの方は、相続トラブルの予防・解決の実績が豊富な弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。