更新日:2026年9月7日 (月)

公開日:2026年9月7日 (月)

相続税の障害者控除とは?要件・計算方法や申告の要否を解説

相続税の障害者控除とは?要件・計算方法や申告の要否を解説 相続税の障害者控除とは?要件・計算方法や申告の要否を解説

サマリー

相続人に障害者がいる場合、「相続税が高額になったらどうしよう」「生活のための財産を遺せるだろうか」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。

相続税には、障害のある方の税負担を軽減し生活を支援するための「障害者控除」という制度が設けられています。要件を満たせば税額を大きく軽減でき、状況によっては申告が不要になるケースもあります。

この記事では、障害者控除の適用要件や控除額の計算方法、申告手続きの要否について分かりやすく解説します。

相続税の障害者控除とは?対象となる3つの要件

相続税の障害者控除とは、障害のある相続人の将来にわたる生活保障や医療費などの負担を考慮し、税負担を軽減するために設けられた税額控除の制度です。

障害をお持ちの方が財産を取得した際、一定の要件を満たすことで算出された相続税額から一定額を直接差し引くことができます。これにより、手元に残せる生活資金を確保しやすくなります。

障害者控除の適用を受けるための3つの要件

障害者控除の適用を受けるには、被相続人が亡くなった時点(相続開始時)において、次の3つの要件をすべて満たしている必要があります。

  • 日本国内に住所があること(または一定の要件を満たす日本国籍所有者など)
  • 財産を取得した時点で法定相続人(相続権のある人)であること
  • 財産を取得した時点で満85歳未満の障害者であること

1つ目の要件は居住形態に関するもので、原則として日本国内に住所を有していることが求められます。海外に居住している場合でも、日本国籍の有無や過去の居住歴によって対象となるケースがあります。

2つ目の要件は「法定相続人」であることです。遺言によって財産を譲り受けた(遺贈された)場合であっても、民法上の法定相続人でなければ障害者控除の適用を受けることはできません。

3つ目の要件は、相続開始時点で満85歳未満であり、かつ法令で定められた障害者に該当することです。年齢は満年齢で判定され、85歳に達している場合は控除額の計算上、対象外となります。

相続放棄をした場合の取り扱い

相続放棄を行うと、その人は「初めから相続人とならなかったもの」とみなされます。そのため、通常の法定相続人としての地位を失い、障害者控除の適用要件を満たさなくなります。

ただし、相続放棄をした障害者が遺言書によって遺贈を受けたり、死亡保険金などのみなし相続財産を取得したりした場合は例外となります。

本来であれば相続人となる立場であった人が遺贈等で財産を取得したときは、相続放棄をしていても障害者控除の適用が認められる取り扱いになっています。権利関係が複雑になりやすいため、事前の確認が重要です。

障害者控除額の計算方法|一般障害者と特別障害者の違い

相続税の障害者控除額は、対象となる障害者が満85歳に達するまでの年数に基づいて算出されます。障害の程度に応じて「一般障害者」と「特別障害者」に区分されており、それぞれ1年あたりの控除額が異なります。

一般障害者と特別障害者の判定基準

一般障害者と特別障害者のどちらに該当するかは、所持している手帳の等級や公的な認定状況によって判定されます。重度の障害に該当する場合は特別障害者として扱われます。

区分 対象となる主な判定基準 1年あたりの控除額
一般障害者 身体障害者手帳3〜6級、精神障害者保健福祉手帳2・3級、療育手帳(中軽度)など 10万円
特別障害者 身体障害者手帳1・2級、精神障害者保健福祉手帳1級、重度の知的障害(療育手帳Aなど)、成年被後見人など 20万円

また、障害者手帳の交付を受けていない65歳以上の方であっても、要介護認定等を受けており、市区町村長から「障害者控除対象者認定書」の交付を受けている場合は、控除の対象となることがあります。

控除額の計算式と年数の端数処理ルール

障害者控除額の基本的な計算式は、「満85歳になるまでの年数 × 10万円(特別障害者は20万円)」です。この年数を計算する際、月数などの端数の処理方法に特徴があります。

相続開始時の年齢に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨てて年数を算出するため、満85歳に達するまでの年数は実質的に1年未満が切り上げられます。

たとえば、相続開始時点で「42歳3か月」の特別障害者の方を例に考えてみましょう。この場合、端数の3か月を切り捨てて「42歳」として計算するため、85歳までの年数は「85歳 – 42歳 = 43年」となります。

特別障害者の場合は年数に20万円を乗じるため、「43年 × 20万円 = 860万円」が障害者控除額として算出されます。仮に一般障害者であれば「43年 × 10万円 = 430万円」が控除額となります。

控除額が引き切れない場合はどうなる?扶養義務者への引き継ぎ

障害者控除を計算した結果、控除額が障害者本人の算出相続税額を上回り、全額を引き切れないケースがあります。このような場合でも、控除しきれなかった残りの金額が無駄になるわけではありません。

相続税法では、障害者本人の税額から引き切れなかった残額を、その障害者を扶養している他の相続人(扶養義務者)の相続税額から差し引くことが認められています。

障害者本人の税額から控除しきれない残額は、同一の相続で財産を取得した扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。

控除を引き継げる「扶養義務者」の範囲

残額の引き継ぎが認められる扶養義務者とは、民法第877条に規定されている親族などを指します。具体的には、配偶者、直系血族(父母や祖父母、子や孫)、兄弟姉妹が該当します。

また、家庭裁判所の審判等により扶養義務を負うこととなった3親等内の親族や、同居して生計を一にしている3親等内の親族(伯父・叔母、甥・姪など)も対象に含まれる場合があります。これらの扶養義務者が今回の相続で財産を取得し、相続税が発生していれば残額を適用できます。

扶養義務者への引き継ぎの具体例

例えば、特別障害者である子の障害者控除額が800万円で、子自身の相続税額が200万円だった場合、控除しきれない残額は600万円となります。

このとき、同じ相続で財産を取得した母親や他の兄弟姉妹に相続税額が発生していれば、その600万円を上限として各人の税額から差し引くことができます。扶養義務者が複数人いる場合は、協議等によって差し引く割合を決めることが一般的です。

2回目以降の相続で障害者控除を受ける場合の計算制限

障害者控除は一生に一度しか使えない制度ではありませんが、過去に別の相続(例えば父親の相続)で障害者控除の適用を受けたことがある方が、その後の相続(母親の相続など)で再び控除を受ける場合には一定の制限が設けられています。

これは同一人に対する控除の二重適用を防ぐための措置です。具体的には、2回目の相続時点における満85歳までの年数に応じた控除額と、1回目の相続で実際に控除を受けた金額などを比較し、控除できる限度額が再計算されます。

過去に障害者控除の適用を受けている場合、2回目以降の相続では控除可能額が減額またはゼロになるケースがある点にご注意ください。

障害者控除の適用手続きと相続税申告の要否

相続税において障害者控除を適用する際、実際に税務署への申告手続きが必要となるかどうかは、控除適用後の税額や控除を受ける人の状況によって異なります。

相続税申告が不要になるケースと必要なケース

遺産総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を下回っている場合は、障害者控除の適用の有無にかかわらず申告は不要です。

遺産総額が基礎控除額を超えていても、障害者控除を適用した結果として相続人全員の納税額が0円になる場合、原則として相続税の申告書を提出する必要はありません。

障害者控除は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例とは異なり、「特例適用のために申告書の提出が必須」とはされていないためです。

ただし、障害者控除を適用してもなお税額が残る相続人がいる場合や、障害者本人で引き切れなかった控除額を他の扶養義務者から差し引く場合には注意が必要です。

他の扶養義務者が控除の引き継ぎを受ける場合や、納付すべき税額がある相続人が1人でもいる場合は、申告義務が生じます。

ケース 申告の要否
遺産総額が基礎控除額以下の場合 申告不要
障害者控除を適用して全員の税額が0円になる場合 原則として申告不要
障害者控除適用後も税額が残る相続人がいる場合 申告が必要
他の扶養義務者に残額を引き継いで適用する場合 申告が必要

申告手続きの際に必要となる主な書類

相続税の申告を行う際、障害者控除の適用を受けるためには、相続税申告書(第1表や第6表など)に加えて、障害の等級や区分を証明する公的な確認書類の添付が求められます。

一般的に必要とされる書類には、主に以下のようなものがあります。

  • 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳の写し
  • 要介護認定・要支援認定を受けている場合の「障害者控除対象者認定書」
  • 被相続人と相続人の関係を証明する戸籍謄本類
  • 成年後見人等の登記事項証明書(成年後見等の制度を利用している場合)

相続開始日時点で手帳等の交付申請中であった場合は、医師の診断書などで障害の状態を証明できるケースもあります。必要書類の判断に迷う場合は、事前に税務署や税理士などの士業へ確認しておくと安心です。

まとめ

相続税の障害者控除は、85歳未満の障害者である法定相続人が財産を取得した際に、税負担を軽減できる制度です。一般障害者と特別障害者の区分に応じた控除額が設定されており、本人の税額から引き切れない場合は扶養義務者の税額からも差し引くことができます。

控除の適用要件や具体的な税額計算、遺産分割における財産の配分に迷う場合は、弁護士などの知見を活用することも有益です。

障害のあるご家族の生活を守るための遺産分割協議や相続手続きに不安がある方は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へご相談ください。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

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