本コラムでは、2025年6月にUAE内閣が交付したabinet Decision No. 35 of 2025 on Determination of a Non-Resident Person’s Nexus in the Stateの概要とその影響、そして実務上の対応ポイントについて解説します。

通達の概要
2025年6月、UAE内閣は Cabinet Decision No. 35 of 2025 on Determination of a Non-Resident Person’s Nexus in the State を公布しました。
この通達は、非居住法人がUAE国内にネクサス(課税上の接点)を有するとみなされる条件を明確化したもので、特に UAE内の不動産(immovable property)に関する所得を対象としています。
通達によれば、法人がUAE国内の不動産から賃貸収入、売却益、その他の経済的利益を得ている場合、その法人は非居住者であってもネクサスが成立し、UAE法人税法の適用対象になります。
また、Qualifying Investment Fund(QIF)やREITを経由した投資についても、一定条件(例:決算後9か月以内に80%以上の利益を分配、投資家の分散要件など)を満たさない場合には、投資家に直接ネクサスが成立すると定めています。
対象となる法人
今回の通達により影響を受ける可能性があるのは、以下のような日本法人です。
日本法人がドバイやその他UAE首長国の不動産を直接保有し、賃貸収入や売却益を得ている場合。
QIFやREITなどの不動産投資ビークルを通じてUAE不動産に投資している場合で、分配比率や投資家分散要件を満たさない場合。
これらに該当する場合、法人の所在地が日本であっても、UAEの法人税課税対象となる可能性があります。
対象法人に発生するインパクト
対象法人にどのような税務上の義務や影響が発生するのでしょうか。
主な影響は以下のとおりです。
(1) 法人税課税義務
ネクサスが成立すると、UAE法人税法上の課税対象者となります。
標準税率は 課税所得375,000AED(約1,500万円)超に対して9%です。
所得が少額であっても法人税登録(TRN取得)は必須となる場合があります。
(2) 法人税登録・申告義務
Federal Tax Authority(FTA)への法人税登録が必要です。
会計帳簿の維持や法人税申告書の提出(年1回)も求められます。
未登録や申告遅延には罰金・ペナルティのリスクがあります。
(3) 二重課税の可能性と対策
日本-UAE間には租税条約がありますが、適用可否や外国税額控除の要否を事前に確認する必要があります。
誤った処理により、UAEと日本の双方で課税されるリスクがあります。
実務上の対応ポイント
通達を踏まえ、日本法人が取るべき具体的な対応は以下の通りです。
保有不動産の収益構造を把握
賃貸収入、売却予定、その他使用料収入の有無を整理して、収益構造を把握しましょう。
投資ビークル経由の場合は条件確認
QIFやREITの場合、分配比率・分配期限・投資家の分散要件を満たしているか確認しましょう。
UAEでの法人税登録可否を早期判断
ネクサス成立の可能性が高い場合は、早急にFTAへの登録手続きを行う必要があります。
二重課税防止条約の適用検討
UAEで課税された法人税を、日本の法人税額から控除できるかを確認しましょう。
まとめ(注意喚起)
これまで「非居住法人にはUAE法人税は関係ない」と考えていた場合でも、今回の通達により、日本法人がドバイ不動産から収益を得ている場合は課税対象となる可能性が高まっています。
特に、以下の場合は、早期に税務リスクを評価し、必要な登録・申告準備を進めることが不可欠です。
- 賃貸収益を得ている場合
- 不動産売却益が発生する予定がある場合
- QIF/REIT投資が要件を満たしていない場合
国際課税や海外不動産投資に関する税務対応は、専門的な知識と経験が求められます。ネクサス成立の判断や法人税登録の要否、二重課税の回避策などについてお困りの方は、ネクスパート法律事務所までお気軽にご相談ください。状況に応じた、実践的なサポートをご提供いたします。