
はじめに
2024年6月の法改正により、「投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)」に基づくLPS(投資事業有限責任組合)においても、暗号資産を投資対象とすることが可能になりました。
本記事では、LPS法の基本的な仕組みと、法改正により暗号資産への投資が可能となった法的ポイント、実務上の留意点等を解説します。
LPSとは
LPSとは、投資事業有限責任組合(Limited Partnership)の略称であり、事業者に対する投資事業を行うための組合であり、かつ組合員について業務執行を行う無限責任組合員(GP)と有限責任組合員(LP)とを別に設けた組合をいいます。
LPSの設立・運営・事業範囲等は「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(以下「LPS法」といいます。)によって定められています。
暗号資産の取得及び保有に関する事業
LPSが行える事業は、LPS法第3条第1項各号に限定列挙されており、従来は株式・新株予約権・債権等への投資が主な対象でした。
しかし、2024年6月の法改正により、第6号の2として以下が新たに追加されました。
(投資事業有限責任組合契約)
第三条 投資事業有限責任組合契約(以下「組合契約」という。)は、各当事者が出資を行い、共同で次に掲げる事業の全部又は一部を営むことを約することにより、その効力を生ずる。
(略)
六 事業者を相手方とする匿名組合契約(商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百三十五条の匿名組合契約をいう。)の出資の持分又は信託の受益権の取得及び保有
六の二 事業者のために発行される暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項に規定する暗号資産をいう。以下この項において同じ。)の取得及び保有
(略)
十 前各号の事業に付随する事業であって、政令で定めるもの
(略)
投資事業有限責任組合契約に関する法律第3条第1項第6号、同項第10号
ここでいう「暗号資産」は、資金決済法第2条14項に定義されるものです。
(定義)
第二条
14 この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法第二十九条の二第一項第八号に規定する権利を表示するものを除く。
一 物品等を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨、通貨建資産並びに電子決済手段(通貨建資産に該当するものを除く。)を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
資金決済に関する法律第2条第14項
暗号資産該当性に関しては、ガイドライン「Ⅰ-1-1 暗号資産の範囲及び該当性の判断基準」をご参照ください。
かかる定義からすると、暗号資産に該当しないNFTに関しては、「暗号資産」には該当しないものといえ第6号の2の事業には該当しないものといえます。
もっとも、LPS法第3条第10号においては、第6号の2に掲げる事業に付随する事業であって政令で定めるものについても、LPSが行うことができる旨が定められています。
この点、いわゆる「政令」としては、投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第3条第1項第4号および、これを受けた同施行規則第4条により、NFTやユーティリティトークン(法的には前払式支払手段の整理)の取得・保有も、LPSが行うことのできる付随事業に該当するとされています。
投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令
(付随事業)
第三条
四 法第三条第一項第六号の二に規定する暗号資産の保有に伴う暗号資産等(暗号資産(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第十四項に規定する暗号資産をいう。次号において同じ。)、電子決済手段(同条第五項に規定する電子決済手段をいう。同号において同じ。)又はこれら以外の財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限る。)であって電子情報処理組織を用いて移転することができるものとして経済産業省令で定めるものをいう。同号において同じ。)の取得及び保有並びに法第三条第一項第六号の二に規定する暗号資産又は当該暗号資産等の運用又は貸付けを行う事業
投資事業有限責任組合契約に関する法律施行令第3条
投資事業有限責任組合契約に関する法律施行規則
(令第三条第一項第四号の経済産業省令で定めるもの)
第四条 令第三条第一項第四号の経済産業省令で定めるものは、次の各号に掲げるものとする。
一 次に掲げる権利又は画像その他の情報を表示する財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものであり、かつ、当該財産的価値に係る識別符号により同種類の他の財産的価値と識別することができるものに限る。)であって電子情報処理組織を用いて移転することができるもの(第二項において「非代替性トークン」という。)
イ 施設を利用し又は役務の提供を受ける権利
ロ 物品等の利用に関する権利、引渡請求権その他これに類する権利
ハ 工業所有権又は著作権(これらの権利を利用する権利を含む。)
二 前払式支払手段(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第三条第一項に規定する前払式支払手段をいい、電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限る。)であって電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
2 前項第一号ロの物品等には、非代替性トークン及び同項第二号の前払式支払手段を含むものとみなして、この条の規定を適用する。
投資事業有限責任組合契約に関する法律施行規則第4条
また、LPS法施行令第3条第1項第4号の文言上、「暗号資産の保有に伴う暗号資産等の取得および保有」が認められているため、エアドロップなどにより別の暗号資産やNFTが付与された場合も、付随事業の範囲内と評価されます。
さらに、「暗号資産または当該暗号資産等の運用または貸付けを行う事業」も付随事業とされており、ステーキングやレンディングといった暗号資産を活用した資産運用もLPSによって行うことができると解されます。
「事業者のために発行される暗号資産」とは
次に、法第2条第6号の2においては、「事業者のために発行される暗号資産」と定義がされています。
かかる定義からすると以下のような論点が出てきます
既に発行された暗号資産
「事業者のために発行される」ものと評価できるか否かは、当該暗号資産の取得に係る契約の締結時点において、当該暗号資産の発行に向けられた関連当事者の一連の行為を相対的に観察したうえ、当該暗号資産をLPSにおいて取得することが結果的に事業者の資金調達に寄与すると評価し得るか否かという観点から判断されます。(令和7年7月2日 経済産業省 産業組織課「LPS法の解説」16Ⅱ2(6)(D)参照)
したがって、既に発行されているBTCやETH等の暗号資産であっても、これをLPSにおいて取得することが結果的に事業者の資金調達に寄与すると当該暗号資産の取得に係る契約の締結時点において評価し得るのであれば、「事業者のために発行される」暗号資産と評価することができるものといえます。
発行体と事業者の不一致
「事業者のために発行される暗号資産」であり、「事業者が発行する暗号資産」とは規定していないことからも、暗号資産の発行体と資金調達を行う事業者が一致しない場合であっても、「事業者のために発行される」ものかどうかの判断において、重要な意味を持つ要素とはなりません。
クロスボーダーでの資金供給
LPS法上、「事業者」とは以下のとおり定義されております。
第二条 この法律において「事業者」とは、法人(外国法人(本邦法人又は本邦人がその経営を実質的に支配し、又は経営に重要な影響を及ぼすものとして政令で定める者を除く。次条第一項第十一号において同じ。)を除く。)及び事業を行う個人をいう。
投資事業有限責任組合契約に関する法律第2条
したがって、国内法人が、外国法人と共同して資金調達を行う場合には、「事業者のために発行される暗号資産」に該当するかが問題となります。
この点、LPS法の所管官庁である経産省は、
- 事業者と外国法人が共同で資金調達を行い、調達された 資金がこれらの共同事業のために費消される場合等においては、発行された暗号資産について 「事業者のために発行される暗号資産」と「外国法人のために発行される暗号資産」の内訳を明確にすることは現実的に困難であること
- 厳格に海外投資上限規制の趣旨を貫徹することは、事業者への円滑な資金供給を促進するというLPS法の目的に適うと言い難いこと
から、発行された暗号資産について「事業者のために発行される暗号資産」と「外国法人のために発行される暗号資産」の内訳を明確にすることが現実的に困難である場合、当該暗号資産を一体的に「事業者のために発行される」暗号資産と評価することも許容されるものとしています。
将来的な暗号資産の譲渡等
SAFTやToken Warrant等の将来的な暗号資産の付与や購入する権利の付与等についても、現物暗号資産の売買と区別する必要性も乏しいため、「事業者のために発行される暗号資産」に該当するものといえます。
まとめ
LPSが暗号資産を投資対象とすることができることが明確化されたことで、LPSを活用したSTO、NFTファンド、ブロックチェーンプロジェクトへの投資など、今後さらなる法務ニーズが見込まれます。