日本のWeb3プロジェクトを阻害する3大要因

近時、Web3の領域では有力な起業家が日本を脱出しシンガポールやドバイなどの第三国でビジネスを立ち上げる事例が散見されます。その原因として、日本における法規制や税制があまりにも厳格であり、事業モデルによってはトークンを用いたビジネスを日本で実施することが事実上困難となる点が挙げられます。本稿では、日本の法規制や税制のうちどのような部分がWeb3領域の発展を阻害しているか、3点に絞って解説します。

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国外転出の事例

2021年には、日本発のパブリックブロックチェーンであるAstar Networkを開発するステイクステクノロジーズCEOの渡辺創太さんが日本を脱出しシンガポールでビジネスを立ち上げたことが大きな話題になりました。

その後も日本大手ゲーム会社が多く参加する日本発ブロックチェーンゲーム特化型プロジェクト「オアシス」がシンガポールを拠点として資金調達を実施するなど、数多くのWeb3プロジェクトがシンガポールやドバイを拠点として立ち上げられています。

日本ではなく、シンガポールやドバイでWeb3プロジェクトが立ち上げられる原因は様々ですが、主に日本における

  1. 期末時評価課税の問題
  2. ライセンス取得の難易度の高さ
  3. トークンに対する投資の制約

という3点が、日本においてWeb3プロジェクトを阻害する要因となっています。

日本においてWeb3プロジェクトを阻害する要因

期末時評価課税の問題

日本の税制では、法人が自社で発行したトークンの一部を保有する場合において、当該トークンが「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると、当該自社保有トークンが法人税法上期末時価評価の対象となるという大きな問題があります。

自社で発行したトークンを保有している状況なので、自社保有トークンから現金収入は発生していないにもかかわらず、「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると、当該自社保有トークンが期末時価評価され含み益に対して法人税が課されることとなる結果、多額の納税義務が発生するおそれがあります。

例えば、100億円分のトークンを発行し、20億円分を投資家に売り出し、80億円分を自社で保有した場合において当該トークンが「活発な市場が存在する暗号資産」に該当すると、100億円の利益があるものとみなした上で課税され、30億円の納税義務が発生することになります(税率30%と仮定)。

自社で保有するトークンは目的があって自社保有することが通常であり、処分してしまうとビジネスそのものが破綻してしまう可能性もあるため、トークンに流動性を持たせることを前提とするプロジェクトについては日本で実施することが非常に困難な状況にあります。

勿論、このような税制上の問題点は認識されており、改正に向けて様々な働きかけが行われていますが、まだまだ改正には時間がかかると考えられており、Web3領域における起業家の日本脱出の最大の要因となっています。

ライセンス取得の難易度の高さ

暗号資産を巡る環境の変化は目まぐるしく、どの国においても後追いする形で当局が法規制を導入している状況にあります。日本も例外ではなく、毎年新たな規制が新設されている状況にあります。

新たなテクノロジーに対して規制が新設・強化されることそれ自体は特別なことではなく、健全な産業成長のためには不可欠なプロセスと言えますが、日本の場合、規制の範囲が広く、かつ、ライセンスが発行されるまで時間がかかるという点が、Web3ビジネス立ち上げを阻害する大きな要因として指摘できます。

例えば、日本ではライセンス取得が必要となる暗号資産の定義がシンガポールと比較して広範であり、ライセンス取得が必要となる業務の範囲広くなってしまっている分野があります。ライセンスが必要となる事業範囲が広いということは、自由にできる事業の範囲が狭くなることを意味することも多いため、Web3ビジネスを制限なく立ち上げるという意味では、規制対象となる業務範囲が狭い国の方が有利と言えます。

また、日本ではライセンスの取得に長い期間を要するという問題があります。改善に向かっている問題ではありますが、まだまだ日本のスピード感は他国と比較すると遅いというのが現実です。勿論一概に比較することはできませんが、例えば、日本において金融庁からライセンスを受けるためには、少なくとも1年程度の期間はみておくことが必要ですが、これに対してドバイのDMCCというフリーゾーンでは、ライセンスが通常約4週間で発行されます。目まぐるしく変化するWeb3分野において、1年間待たなければならないということは致命的であり、世界で勝負するために日本からの脱出を余儀なくされるケースも珍しくありません。

トークンに対する投資の制約

また、トークンを利用した資金調達が、日本では法律上大きく制限されているという問題も見過ごすことはできません。

Web3ビジネスを立ち上げるにあたっては、ベンチャーキャピタル(VC)を含む投資家からの資金調達が必要となります。しかし、VCは投資事業有限責任組合契約に関する法律に基づく投資事業有限責任組合(いわゆるLPS)というビークルを用いて投資を行いますが、LPSによる投資対象には法律で列挙されているものに制限されており、暗号資産は投資対象に含まれていないため、VCによるトークンに対する投資は法律上できません。

世界的にはSAFTを用いたトークンによる資金調達がWeb 3領域における主流となっているにもかかわらず、日本のVCはそれができないことを意味します。実際に、日本発ブロックチェーンゲーム特化型プロジェクト「オアシス」はSAFTによって25億円調達しておりますが、日本のVCの名前は投資家として連ねられていません。

日本発のビジネスに関しては、日本のVCがキープレイヤーとなることが期待されますが、法律上の制限によりその投資が阻害されているのが現状です。このことが起業家の日本脱出を助長している一因であると考えられます。

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