NFTと商標権侵害②|日本の規制について

海外では、エルメスの有名なバッグ「バーキン」を模倣してNFT化したメタバーキン事件など、リアル商品がバーチャルの世界でNFTとして模倣し発売されることが、商標権侵害であるとして訴訟が提起されています。

それでは、日本において、リアルの商品を模倣したNFTが販売された場合、商標権侵害その他の権利侵害は認められるでしょうか?

商標権侵害にあたるか?

日本では、商標権侵害があるといえるためには、

  1. 登録商標そのものの利用ないし類似性があるか
  2. 商品等の類否(原告の登録商標の指定商品・役務と被告がその商標を使用する商品・役務が類似するかどうか)

によって、商標権侵害の成否を判断することになっています。

このうち、リアルな商品についての商標の効力がバーチャルな商品にも及ぶのかというところでは、②の要件が問題となります。

最近では、NIKEに買収されて話題を集めた、NFTブランド「RTFKT」がNIKEのスニーカーをモチーフにスニーカーNFTを出品したりもしています。

これはNIKEの関連会社が同社の許諾のもとで行っているため、全く問題はありませんが、例えば、これをNIKEと全く無関係の会社が出品した場合、商標権侵害となるでしょうか?

この場合に商標権侵害が成立するためには、

登録商標の指定商品である「スニーカー」(商標25類に該当)とNFT化された「スニーカー」が、互いに類似する商品であることが必要となるのです。

商品が類否しているかは、商品または役務の出所の誤認混同を生ずるかどうかを基準とされており(最判昭和36年6月27日民集第15巻6号1730頁)、類似の判断は、当該商標の指定商品または役務の取引者及び需要者が持つ通常の注意力を基準として判断します。

また、特許庁の商標審査基準は、商標の類否の判断は、商標の有する外観、称呼及び観念のそれぞれの判断要素を総合的に考察することを前提に、

「商品又は役務の類否は、商品又は役務が通常同一営業主により製造・販売又は提供されている等の事情により、出願商標及び引用商標に係る指定商品又は指定役務に同一又は類似の商標を使用するときは、同一営業主の製造・販売又は提供に係る商品又は役務と誤認されるおそれがあると認められる関係にあるかにより判断する。」

特許庁|類似商品・役務審査基準より抜粋

として、商品の類否については、次の基準を総合的に考慮するものとするとしています。

  1. 生産部門が一致するかどうか
  2. 販売部門が一致するかどうか
  3. 原材料及び品質が一致するかどうか
  4. 用途が一致するかどうか
  5. 需要者の範囲が一致するかどうか
  6. 完成品と部品との関係にあるかどうか

リアルのスニーカーは、履いた者の足を覆って守るなど、実際の機能や用途がありますが、NFTスニーカーは、単なるデジタル画像に過ぎないので、そのような用途はまったくありません。そのため、上記④が一致しません。

また、リアルのスニーカーとNFTのスニーカーでは、①生産部門、②販売部門、③原材料、⑤需要者もほとんどが異なり、もちろん、⑥の関係にもありません。

そうすると、リアルのスニーカーとNFTスニーカーは、商標法上、類似の商品等であるとはいえない可能性があると考えられます。

その結果、例えばある事業者がスニーカーについて保有している登録商標に基づき、同じロゴ等でNFTスニーカーを展開する他の事業者に対して商標権侵害を主張しても、負けてしまう可能性があります。

どのような対応をすべきか??

そのため、リアルでアパレル等(事例でいうとスニーカー)の商標25類を販売している企業が、今後自社ブランドを使ってNFTやメタバースでの商品を出品する予定であれば、その商標は、従前の25類に限らず、9類、35類、41類などで登録しておくことが重要です。

なお、スニーカーの商標権侵害については、海外の事例ですが、NIKEがストックX社の販売するスニーカーNFTを商標権侵害で提訴したものがあります。

不正競争防止法により侵害を主張できるか?

上記のスニーカーの例で、商標権侵害の主張が難しい場合でも、不正競争防止法により侵害を主張することが可能な場合もあります。

商標法と違い、不正競争防止法では、その要件との関係で、リアルとバーチャルでの区別なく適用できる可能性が高いため、有効な手段として考えられます。

NFTとの関係で、不正競争防止法が問題となりうるのは、

  1. 周知表示混同惹起行為(同法第2条第1項第1号)

他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為

  1. 著名表示冒用行為(同法第2条第1項第2号)

他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為

となります。

したがって、リアルスニーカーを取り扱う有名な企業に無断で、その企業のロゴ等を使用したNFTスニーカーを他社が販売した場合、そのロゴの周知性などの事情により、需要者(購入者)がこのNFTスニーカーは、有名なスニーカー企業が作ったものであると混同すれば、仮に、商標権侵害にあたらなくとも、販売等の差止めや損害賠償請求の対象となる可能性があります。

なお、全国的に需要者以外にも広く知られているような場合には、著名であるものとして、混同がなくとも不正競争防止法違反を主張できる可能性がります(②の著名表示冒用行為)。

まとめ

以上のように、世間的に広く知られている有名なブランドのロゴやデザイン等を利用することには、たとえリアルとバーチャルの世界をまたぐ場合であっても、不正競争防止法違反とされることもあります。

なお、NFTビジネスにおいては、二次創作の文化が形成されており、これにより、さらにファンが増えたりすることもあります。

そうすると、ビジネスの側面からは、どこまでの模倣品や二次創作を許容するのか、法的な問題とは別に検討が必要な事項となります。

このように、自社の製品の模倣品が出てきた場合には、商標権侵害の主張、あるいは、不正競争防止法による権利侵害の主張が考えられます。

ただし、まだまだNFTに関する紛争は実例も多くなく、法整備も追いついていない状況ですので、個別具体的な事例については、専門家に相談することをお勧めします。

二次創作と著作権フリー(CC0)については、また別のコラム(後日公開予定)で解説します。