「協議離婚なら弁護士に頼まなくても大丈夫」と考える方は多いでしょう。
たしかに、協議離婚は夫婦の合意があれば手続きを進められるため、実際に多くの方が弁護士の関与なく離婚を成立させています。
しかし、その背景には「早く終わらせたい一心で十分に話し合わなかった」といった事情もあります。
この記事では、弁護士に一度も相談せずに協議離婚を進めた場合に起こりがちな問題や、弁護士に依頼することで得られる具体的なメリットについて、調査データや実例を交えてわかりやすく解説します。
目次
協議離婚に弁護士は必要?
協議離婚に限らず、離婚手続きに弁護士への依頼は必須ではありません。
画像引用元:協議離婚に関する実態調査結果の概要|法務省
法務省が公表した協議離婚制度に関する実態調査結果の概要では、調査対象となった協議離婚を経験した30代~40代の男女(合計1000名)のうち約7割の方が、弁護士のサポートを一度も受けることなく離婚をしたことが報告されています。
画像引用元:協議離婚に関する実態調査結果の概要|法務省
弁護士に依頼(委任)しなかった方のうち約6割の方は、その理由について「弁護士なしでも解決できると思ったから」と回答しています。
ただし、実際に解決した内容が妥当な内容・条件であったかは不明確なところが残ります。
画像引用元:協議離婚に関する実態調査結果の概要|法務省
実際に、離婚後に振り返り、弁護士との無料法律相談や、離婚や別居に伴う法律知識、行政サービスなど離婚後の生活に関する情報提供などの支援があれば良かったと思う方も多いです。
多くの方が求めていた支援は、弁護士への相談や依頼によって補えたかもしれません。
弁護士に一度も相談せず協議離婚を進めた場合に起こりやすい問題
弁護士に相談せずに協議離婚を進めた方は、どこにつまずき、何に苦労したのでしょうか。
本章では、弁護士のサポートがないまま離婚手続きを進めた場合に起こりやすい問題を紹介します。
本来もらえるはずの離婚給付を取りこぼす
婚姻費用、親権、養育費、面会交流、財産分与などに関する知識が不十分であったために、本来もらえるはずの離婚給付が受け取れなかった方がいらっしゃいます。
画像引用元:協議離婚に関する実態調査結果の概要|法務省
例えば、前掲調査結果の概要によると、離婚前に別居をしたと回答した方のうち約4割の方が、別居中、夫婦の経済状況に差が生じた場合には、収入の多い方が他方に対して生活費(婚姻費用)を支払わなければならないことを、「知らなかった」と回答しています。
婚姻費用は、権利者が請求の意思を明確に示したときに、支払い義務が発生すると考えられています。そのため、別居後しばらく経ってから「そんな制度があると知らなかったから、別居時に遡って支払ってほしい」と主張しても、過去の婚姻費用の請求は認められない可能性があります。知識不足から時期を逃すことで、数十万円、あるいは数百万円単位の経済的損失が生じることもあり得ます。
親権や養育費、面会交流、財産分与についても、全体の5~6割の方「言葉の意味・内容はわかっていた」と回答した方が5~6割いた一方で、「法的な知識まで備えていた」と回答した方は2~3割にとどまることも報告されています。
離婚時に何を請求できるのかがわかっていても、なぜその請求をするのか、金額の根拠はなにかという点を説明するのが難しく、相手と話し合うことを諦める方も一定数いらっしゃいます。
譲歩すべきポイントを見誤って損をする
譲歩すべきポイントを見誤り、損をすることもあります。
例えば、相手が離婚に反対しており、裁判でも離婚が認められにくい場合には、合意を得るために財産分与の割合や対象を調整したり、解決金を支払ったりすることがあります。
こうした対応は実務でも行われていますが、弁護士の助言を受けずにご自身で交渉を進めると、相手に主導権を握られ、必要以上の譲歩を強いられるおそれがあります。
離婚を望む側は、交渉が長引くほど焦燥感が募り、「これだけは譲れない」と考えていた条件まで妥協してでも離婚を成立させようとする心理に傾きがちです。
離婚後、「相手が親権を譲らず、話し合いが平行線になったため、やむなく親権を渡してしまった」と悔やんで、法律事務所に相談に来られる方もいらっしゃいます。しかし、一度決めた親権者を「後悔している」「気持ちが変わった」という理由で、後から変更することはまず認められません。
離婚交渉の段階で、何を譲り、何を守るべきかを冷静に見極めるには、法的知識と客観的な視点が不可欠です。
自力で対応すると、冷静な判断を保てず、不利な条件での合意に至るリスクがあります。
離婚協議書の不備でトラブルへの迅速な対応が困難になる
近年では、政府広報オンラインなどでも注意喚起されているため、離婚時の取り決め内容を書面化することの重要性を認識している方も多いでしょう。
しかし、弁護士のサポートを得ずに書面を作成すると、不備が生じるリスクが高くなったり、相手が約束を守らなかった際に法的手段をとることが難しくなったりする可能性があります。
例えば、協議書に記載された内容が曖昧だと、その解釈をめぐって後日トラブルが生じる可能性があります。
調停や審判を利用せず、離婚協議書を執行認諾文言付公正証書として作成していない場合、相手が約束を破った際、現行法では強制執行の手続きに移れません。
画像引用元:協議離婚に関する実態調査結果の概要|法務省
実際に、前掲調査結果の概要では、養育費支払いの約束が守られなかったときに、強制執行を申立てなかった方の約2割が、その理由として「強制執行をするための書面がなかったから」と回答しています。
弁護士の関与がないまま作成された協議書は、形式の不備や、将来のトラブルに備えた文言の不足といったリスクを抱えやすいです。
協議離婚の代理交渉を弁護士に依頼するメリット
協議離婚の代理交渉を弁護士に依頼すれば、前章で紹介した問題の多くを未然に防げます。
ここでは、弁護士に依頼することで得られるメリットを紹介します。
「離婚時に取り決めるべきだった」という後悔を防げる
弁護士に依頼すれば、夫婦の状況に応じて必要な取り決めを、一つひとつ丁寧に検討できます。
養育費一つをとっても、支払期間や金額、支払方法のほか、子どもの進学や予期せぬ病気・ケガにより臨時的な支出が生じたときに備え、分担の在り方をあらかじめ明確にすることが望まれる場合もあります。
弁護士のサポートを得れば、親権、養育費、面会交流、財産分与といった基本的な事項から、日常生活では聞きなれず見落とされがちな年金分割まで、夫婦の事情に即した取り決めを網羅的に行えます。
前掲調査結果の概要によると、離婚時に取り決めをしなかった方の中には、「交渉が煩わしかったから」と回答した方も一定数いらっしゃいます。
弁護士に依頼すれば、負担に感じる交渉を任せられるため、精神的なストレスを軽減しながら、必要な取り決めを確実に進められます。
隠れた財産がないかプロの目線でチェックしてもらえる
財産分与の協議にあたっては、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産の全体像を把握する必要があります。
弁護士に依頼すれば、通帳の動きや収入・支出のバランスから不自然な点を見抜き、説明のつかない資金移動がないか、あなたが把握していない株式や生命保険等がないかなど、適切に確認してもらえるため、「知らないうちに財産が隠されていた」といったリスクを軽減できます。
配偶者のみが把握している財産が存在する場合、その情報のすべてを開示してくれないこともあり得ます。弁護士に依頼すれば、弁護士会照会制度によって、隠れた財産の存在やその残高を把握できる場合もあります。
その結果、公平な財産分与を実現できる可能性が高まるでしょう。
将来のトラブルに備えた離婚協議書を作成できる
弁護士に依頼すれば、離婚に至るまでの経緯や離婚後の生活設計を踏まえ、個々の事情に適した不備のない書面を作成してもらえます。
インターネット上に公開されたひな形を参考に、ご自身で離婚協議書を作成する方もいらっしゃるでしょう。しかし、これらのひな形は、あくまで一般的な例に過ぎず、個別の事情や将来のリスクを十分にカバーできていないことがほとんどです。
例えば、財産分与については、以下のような例文が掲載されていることが多いです。
□□は△△に対し、本件離婚に伴う財産分与として、金〇〇〇万円の支払義務があることを認め、これを〇年〇月〇日限り、△△が指定する下記口座に振り込む方法により支払う。 |
このテンプレートは、金銭による分与の場合のみを想定した内容です。そのため、不動産や自動車などを現物で分与する場合や学資保険の契約者変更を行う場合、適切な記載方法がわからず困ることもあるでしょう。名義変更に必要な書類の受け渡しや手続きへの協力について書面に明記していないと、相手が協力を拒み、手続きが滞るおそれもあります。
子どもと離れて暮らす方は、面会交流について、次のようなひな形を用いて書面を作成するかもしれません。
△△は、□□が子らと月〇回程度面会することを認める。面会の具体的な日時・場所・方法等については、子の福祉に十分配慮しながら、△△と□□が協議して定める。 |
しかし、この内容では、宿泊を伴う面会、長期休暇中の面会交流の日数の延長などについて、元配偶者と意見が対立した際に、ご自身の希望が叶わないこともあり得ます。
離婚後、弁護士に法律相談をされる方の中には、ご自身で作成した書面がかえって悩みの種となっている方もいらっしゃいます。
弁護士に依頼すれば、そうしたトラブルの芽を事前に摘み取りながら、夫婦の状況や取り決めに即したオーダーメイドの離婚協議書を作成してもらえるため、安心です。
協議離婚の代理交渉を弁護士に依頼する場合の費用相場
協議離婚の代理交渉にかかる弁護士費用の相場は、以下のとおりです。
費目 | 相場(目安) | |
法律相談料 | 30分5,500円~ | |
着手金 | 33万円~ | |
報酬金 | 離婚成立 | 33万円~ |
経済的利益 | 経済的利益の10~20%程度 | |
実費または事務手数料 | 数万円程度 |
親権、面会交流について争いがある場合は、依頼者の希望が実現した場合に、上記とは別に報酬金が発生することが一般的です。
費用は、依頼する弁護士により異なりますので、事前に費用の概算や内訳を確認しましょう。
協議離婚と弁護士への依頼に関するよくある質問
弁護士への依頼をご検討中の方から、よく寄せられる質問を紹介します。
夫婦の調整役として1人の弁護士に依頼できる?
現実的には難しいでしょう。
弁護士が、いまだ紛争が顕在化していない夫婦双方から依頼を受けて、離婚を含めた夫婦関係の調整に関与すること自体は、利益相反には当たらないと考えられています([解説 弁護士職務基本規定 第3版]81~82頁)。
ただし、弁護士が実際に調整役を引き受けるには、次のような厳格な条件を満たす必要があります。
- 当事者双方の信頼を得て中立を保つこと
- 調整が失敗した場合には速やかに辞任すること
- 以後はいずれの当事者の代理人にもなれないこと など、
離婚事件では、感情的な対立や利害の衝突が避けがたく、これらの条件を現実に満たすケースは稀です。調整役の弁護士はどちらかの味方にはなれないため、「弁護士費用を払っているのに味方をしてくれない」と感じることもあるでしょう。
調整が決裂すれば、弁護士は調整役を辞任しなければならず、以後の夫婦のどちらも同じ弁護士からサポートも受けられなくなります。結果として、途中で弁護士が関与できなくなるリスクが高いという点も見過ごせません。
このような事情から、弁護士が離婚に関して夫婦双方の調整役を引き受けるケースは、ほとんどありません。
夫婦それぞれが別の弁護士に依頼するのが現実的かつ適切です。
相手に弁護士がついたら自分も弁護士をつけるべき?
弁護士をつけることをおすすめします。
相手が弁護士に依頼すると、今後、離婚の話し合いは、あなたと相手の弁護士との間で進めていかなければなりません。
多くの方にとって、離婚は人生で初めての経験でしょう。自分の希望を伝えたとしても、「その根拠は?」と問われると、うまく対応できず、戸惑うことがあるかもしれません。
相手の弁護士は、これまでに数多くの離婚案件を取り扱ってきた経験豊富な人物かもしれません。知識と交渉力に差がある相手と一対一で話を進める場合、知らず知らずのうちに相手側に有利な内容で合意に至ることも考えられます。
相手に弁護士がついた時には、交渉の土俵を傾けないためにも、あなたも弁護士に依頼することを積極的に検討してみてください。
双方の弁護士同士が協議すると逆に解決までの期間が長引かない?
単純なスピードだけで見れば、弁護士が関与した場合の方が、解決までに時間がかかることもあります。
本人同士で協議を進める場合、「もう面倒だから」「早く終わらせたい」といった理由から、十分な話し合いを経ずに離婚が成立することも少なくありません。そのようなケースと比べると、弁護士が関与して、取り決めるべき事項を一つずつ丁寧に確認しながら進めていく分、時間がかかると感じることもあるでしょう。
ただし、この過程をしっかり踏むことで、後々のトラブルを未然に防ぎ、離婚後の生活を安定してスタートさせやすくなります。弁護士同士で協議を進めることで、感情的なやり取りが避けられ、合意形成がスムーズになる傾向もあります。
もっとも、DVなどが原因で早急に離婚を成立させる必要がある場合には、安全確保と離婚成立を優先し、その後に養育費や慰謝料などの請求を行うといった進め方が選ばれることもあります。
協議離婚の弁護士費用は相手に請求できる?
弁護士費用は、原則として依頼した本人が負担します。
相手が任意に費用を負担する意思を示していない限り、相手に請求するのは難しいでしょう。
まとめ
法律や制度への理解が不十分なまま協議離婚を進めると、本来受け取れるはずの離婚給付を取りこぼしたり、後にトラブルが生じたりすることがあります。
離婚分野に明るい弁護士に依頼すれば、法的な観点から必要な取り決めを漏れなく整理でき、交渉や書面作成も任せられるため、精神的な負担も軽減されます。
「弁護士が必要かどうか」で悩んだら、一度、法律相談を受けてみることをおすすめします。
ネクスパート法律事務所は、設立当時から離婚問題を注力分野とし、様々な事案を解決して参りました。
経験豊富な弁護士が、蓄積したノウハウを活用して、最適な解決を目指します。東京オフィスには、夫婦カウンセラーの資格を持つパラリーガルが在籍しており、法律面だけでなく心理面からもご依頼者様をサポートしております。
ご依頼者様に寄り添う、丁寧なサポートが当事務所の強みです。
離婚にお悩みの方は、ぜひネクスパート法律事務所にご相談ください。