卒婚とは、夫婦として戸籍上の関係を続けたまま、お互いを尊重し、それぞれが自由な生活を送る新しい夫婦の在り方です。
離婚と比べて、法的な負担が少ないなどのメリットがある一方で、生活費や将来の介護といった課題もあります。
加えて、事前にルールや取り決めをしっかりしておかないと、後々トラブルになったり、卒婚から離婚に発展してしまうこともあります。
この記事では、卒婚の基本的な考え方や進め方、失敗例、メリット・デメリットなどをわかりやすく解説します。
卒婚とは
卒婚とは、戸籍上は夫婦のまま、お互いの生き方を尊重しながら、自由で自立した生活を送る、新しい夫婦の形です。
単なる別居や夫婦関係の後退ではなく、これからの人生をより充実させるための前向きな選択肢として注目されています。
例えば住まいや家計を分けたり、互いの時間や趣味を大切にしたりしながら、それぞれが心地よく過ごせる距離感を見つけていくのが卒婚の特徴です。
卒婚のルールややり方
卒婚は、仮面夫婦ではなく、お互いが心地よく生活を続けていくための前向きな選択です。
継続していくには、事前にルールをしっかりと決めておくことが重要です。
ここでは、卒婚を円滑に進めるために決めておきたい基本事項を紹介します。
同居・別居
卒婚では、同じ家に住み続けるケースもあれば、別々に暮らすケースもあります。生活スタイルや経済状況に合わせて選択しましょう。
どちらにしても、お互いに干渉しすぎない距離感が重要になります。
「夫婦が別居したら終わり?円満に進めるコツや賢い別居の仕方とは」の記事も参考にしてください。
生活費の分担
卒婚後も生活費は必要になります。
別居する場合は家賃や光熱費をどう負担するか、同居を続ける場合も食費や雑費をどう分けるかなど、負担割合を明確に決めておきましょう。
将来の介護や医療費も含めて話し合っておくと安心です。
子どもや親族との関係
卒婚を良いものにするには、親族や身近な人たちの理解が欠かせません。まずは、夫婦として今後どのような関係でいるのかを話し合いましょう。
話し合った内容をきちんと伝えることで、周囲の人を困惑させなくて済みます。
例えば、戸籍上は夫婦のまま自由に暮らしているのか、事実上は離婚に近い関係なのかなど、説明の仕方によって、周囲の印象や関わり方も変わってきます。
財産の管理方法
日常生活に使う口座や貯金、年金、保険、不動産などの財産管理はトラブルになりやすい部分です。
共通の口座を分けるのか、必要な支出はどちらが担うのか、分担や管理方法について事前にルールを決めておきましょう。
後で言った・言わないで揉めたりしないように、約束は書面に残しておくのがおすすめです。
緊急時の対応
病気や事故、急に倒れたときなどにどうするかも話し合っておきましょう。
緊急連絡先、病院への付き添い、治療方針など、緊急時に備えた役割分担を明確にしておくことで、トラブルを避けやすくなります。
高齢であれば、急に亡くなったときに備えて、相続について話し合っておくのもおすすめです。
卒婚が失敗に終わるケースの例
不公平感が出て揉めた
卒婚は夫婦がそれぞれ自由に暮らす在り方ですが、片方に負担が偏ると不満が募りやすくなります。
例えば、夫が趣味や旅行を楽しんでいる一方で、妻が家事や親の介護を一手に担っているような状況では、不公平感から関係が悪化するかもしれません。
生活費の負担についても、お互いが稼いだ分で自立する形ならトラブルは少ないですが、収入差を調整するルールがあると、やがて不満が出てくることもあります。
周囲にうまく説明できず孤立した
卒婚はまだ浸透していないため、周囲に関係性をうまく伝えられないと、相手を戸惑わせてしまい、結果的に孤立する可能性があります。
こうした事態を防ぐためには、自分たちの卒婚の形を丁寧に伝え、理解を得る姿勢が大切です。
片方の気が変わって離婚へ
卒婚は、距離を保ちながら夫婦関係を続けるかたちであるため、通常の夫婦よりも、精神的な離婚に対するハードルが低くなる傾向にあります。
一度距離を置いて暮らすことで、相手への執着や責任感が薄れ、どちらか一方が「やっぱり完全に別れたい」と考えるケースもあります。
加えて、戸籍や相続、扶養などの法的な権利義務が残るため、他の人と再婚したくなった際には、卒婚では不都合が生じ、離婚を選ぶケースもあります。
「別居から離婚までの平均期間は何年?」の記事も参考にしてください。
介護問題で卒婚どころではなくなった
高齢になると、どちらかが病気や要介護状態になり、卒婚の自由な暮らしを維持することが難しくなる場合があります。
例えば、夫の介護が必要になって同居やサポートを求められるなどのケースです。
卒婚は、それぞれが自立した生活を送れることが前提です。
自立した生活が難しくなれば、卒婚が破綻し、元の生活に戻らざるを得ない場合もあります。
家庭内卒婚と家庭内別居の違い
家庭内卒婚と似た言葉に、家庭内別居があります。どちらも同じ家に住みながら距離を保つ点では共通していますが、その目的や背景には大きな違いがあります。
家庭内卒婚は、前向きな選択であるのに対し、家庭内別居は、関係が悪化した結果であるケースが多いのが特徴です。
以下に、両者の主な違いを比較した表をまとめました。
家庭内卒婚 | 家庭内別居 | |
目的 | お互いの人生を尊重しつつ、自立した関係を築く | 争いや不満から距離を置くための対処 |
生活費の扱い | 基本的に分けるか話し合って管理する | 共有のままが多く、不満が残りやすい |
家事の分担 | 役割分担を明確にするか、各自で行う | 一方が多くを担うケースが多い |
夫婦関係 | 法的には夫婦だが、心の距離は自由に決められる | 法的には夫婦だが、実質的に断絶状態 |
周囲への説明 | 家族や友人に卒婚であることを伝えることが多い | 基本的には隠すことが多い |
将来の展望 | 特に決まりはない | 最終的に離婚に至りやすい |
それぞれについて説明します。
家庭内卒婚とは
家庭内卒婚とは、同じ家に住みながらも、夫婦としての生活からは一歩引き、お互いに干渉せず自由に生きることを目的とした在り方です。
日々の家事や食事、行動は基本的に別で、夫婦それぞれが自立した生活を送ります。
ただし、完全に関係を断つわけではなく、互いを尊重し合いながら、必要なときには協力するという姿勢が前提です。
家庭内別居と似ていても、ポジティブな選択であることが大きな違いです。
家庭内別居とは
家庭内別居は、夫婦の関係が悪化し、表面的には同居しているものの、実質的には交流を断っている状態を指します。
同じ屋根の下で生活していても、会話がなかったり、寝室が完全に別だったりと、感情的にも距離ができているのが特徴です。
卒婚と違い、関係修復が困難なケースや、経済的事情から離婚できずに仕方なく続けている場合が多く、前向きな選択とは言いにくい傾向があります。
「家庭内別居とはどんな生活?夫や妻が抱えている気持ちとは」の記事も参考にしてください。
卒婚のメリット
自由な生活を得られる
卒婚を選ぶことで、夫婦それぞれが干渉されずに自分のペースで生活できるようになります。
趣味や人間関係、仕事などに制限を感じず、自分らしい生き方を実現できます。
一定の距離を保つことでストレスを減らし、精神的にも安定した日常を送れます。
家族の権利が残る
卒婚は戸籍上の婚姻関係を維持するため、法的には夫婦としての権利と義務が残ります。
配偶者控除の適用、相続権の維持、遺族年金の受給資格、健康保険の扶養関係など、離婚した場合に失われる権利を残せる点は大きなメリットです。
「離婚と別居どちらが得?離婚しないで別居するメリットデメリット」の記事も参考にしてください。
子どもや親族への影響が少ない
離婚と異なり、卒婚は家族関係の法的な変化がないため、子どもや親族に対して精神的・社会的な影響が少なくて済みます。
名字や戸籍を変える必要がないため、子どもの学校生活や親族との関係にも支障が出にくいのが特徴です。
卒婚のデメリット
離婚より金銭管理が難しい
卒婚では戸籍上の夫婦関係が残るため、収入や支出、財産の管理が曖昧になりがちです。
共通の口座や税金、扶養関係などをどう扱うかルールを明確にしていないと、後々トラブルになりやすくなります。
離婚と異なり、法的な枠組みがない分、当事者同士の取り決めが重要になります。
将来の介護問題が不透明
卒婚を始めた時点では、お互いに介護が必要になるかどうかはわかりません。
たとえ、介護には関与しないと決めていても、実際にその状況になったときには考えが変わることもあります。
加えて、家族や周囲から協力を求められる可能性もあります。
将来の生活が想定しづらく、見通しを立てにくい点が卒婚のデメリットです。
周囲に理解されにくい
卒婚はまだ一般的ではないため、親族や友人、職場の人たちに理解されず、誤解や偏見を持たれることもあります。
説明がうまくいかずに疎遠になる人が増えたり、もう離婚したのではと勘違いされたりすることもあります。
ケースバイケースですが、卒婚が精神的な負担になることもあります。
卒婚に関するよくある質問
50代・30代の卒婚のポイントは?
50代の卒婚は、老後を見据えて、自立した生活を送れるかどうかが大きなポイントです。
それまで専業主婦だった人にとっては、経済的な自立や住まいの確保が課題になることもあります。
30代の卒婚は、本当に卒婚でいいのか、離婚して再スタートを切るべきかなどを冷静に見極める必要があります。
再婚や新たな人生を選びやすい年齢だからこそ、卒婚に踏み切る前に、今後のライフプランを慎重に判断することが大切です。
「50代の離婚|離婚後の生活や一人暮らしの生活費・必要な準備を解説」の記事も参考にしてください。
卒婚と離婚の違いは?
卒婚は、戸籍上の婚姻関係を維持したまま、夫婦が一定の距離を取り、それぞれの生活を尊重し合う関係をいいます。
一方、離婚は法的に婚姻関係を解消するため、財産分与や親権などの手続きが必要になります。
卒婚は法律上は夫婦のままであるため、配偶者控除や遺族年金などの権利を残しつつ、夫婦の関係を見直せる点が大きな違いです。
まとめ
卒婚とは、法的には夫婦のまま、それぞれの自由な生活を尊重する新しい夫婦の在り方です。
離婚と異なり、法的負担が少なく、配偶者控除や相続などの権利も残せるメリットがあります。
一方で、金銭管理の複雑さや将来の介護問題、周囲の理解を得にくい点はデメリットといえるでしょう。
卒婚をうまく続けるには、事前のルールや取り決めをしっかりしたうえで、問題が発生した場合には柔軟に対応できるようにすることが大切です。