夫婦にとって、別居は簡単に決められることではありません。
関係を見直す良い機会になる一方で、そのまま離婚に進んでしまう可能性もあるため、不安を感じる人も多いでしょう。
ここでは、円満に別居を始めるためのコツや手続き、別居後の生活で注意すべきポイントを解説します。
目次
夫婦が別居したら終わりと言われる理由
別居によって心の距離ができるから
別居は物理的に距離ができるだけでなく、心理的な距離も生まれやすくなります。
会話や接触が減ることで、相手への関心や思いやりが薄れ、「このまま一人でいいかも」と感じてしまうことも考えられます。
別々に暮らすことで、関係を修復する意欲そのものが薄れていき、結果としてそのまま離婚につながってしまうケースが少なくありません。
「離婚と別居どちらが得?離婚しないで別居するメリットデメリット」の記事も参考にしてください。
冷静になることで修復困難を実感するから
一緒に暮らしていると、感情的になって冷静に判断できないことも多いですが、別居によって距離ができると、冷静に相手や自分を見つめ直せるようになります。
そして、あらためて考えた結果、「やっぱりこの人とは合わない」と確信したり、「もう戻りたくない」と感じたりすることがあります。
感情に流されない判断ができるからこそ、逆に関係修復が難しいと気づいてしまうのです。
離婚の準備期間となることが多いから
別居は、離婚前提ではなくても、結果的に離婚へ向けた準備期間になることが少なくありません。
具体的には、配偶者がいなくても生活していけるかのテストとなりやすいです。
住居や収入、子どもの生活環境などを整える中で、生活の自立が進み、離婚しても困らない状況ができていきます。
加えて、別居中に財産分与や養育費の話し合いが始まることもあり、実質的に離婚に向かって話が進んでいくケースが多いのが現実です。
「別居から離婚までの平均期間は何年?」の記事も参考にしてください。
離婚原因としての別居期間があるから
民法上、離婚理由として認められる、婚姻関係の破綻の中には、長期間の別居も含まれます。
具体的には、数年にわたる別居が継続していると、裁判で「夫婦関係はすでに破綻している」と判断され、相手の同意がなくても離婚が認められることがあります。
そのため、別居が続けば続くほど、法的にも離婚に近づいていきます。
「何年別居すれば離婚できる?別居のメリットと注意すべき点を解説」の記事も参考にしてください。
円満に別居を始めるコツ
別居をきっかけに夫婦関係が悪化してしまうケースも少なくありません。
ここでは、なるべくいい関係を保ちながら別居を始めるコツを紹介します。
喧嘩していないときに別居を申し出る
別居を申し出るタイミングは重要です。喧嘩で感情が高ぶっている最中に切り出すと、相手にきちんとこちらの気持ちが伝わらないかもしれません。
冷静なタイミングで伝えることで、本気の意志であることが伝わりやすくなり、相手も真剣に受け止めやすくなります。
別居の目的を明確に伝える
別居をする理由が曖昧なままだと、相手は不安を感じたり、関係が終わったと思い込んでしまうことがあります。
そのため、「離婚したいわけではなく、少し距離を置いて冷静に関係を見直したい」といった具体的な目的を明確に伝えることが大切です。
あくまで夫婦関係の改善や冷却期間としての別居であることを伝えれば、相手の理解も得やすく、後のトラブルも防ぎやすくなります。
別居期間や連絡ルールなどを決めておく
できるだけ事前に、別居期間の目安や連絡の頻度・手段を話し合い、ルールを決めておきましょう。
子どもがいる場合は、育児の分担や面会の頻度なども含めて取り決めておくと安心です。
こうしたルールがあることで、別居中もお互いの信頼関係を維持しやすくなります。
金銭面や面会は別居前に決めておく
別居をすると、生活費の分担や子どもとの面会など、これまでとは異なる問題が出てきます。
特に生活費(婚姻費用)は、収入差がある場合にトラブルになりやすいため、事前に取り決めておくべきです。
子どもがいる場合は、どちらが育てるのか、もう一方がどれくらい会うのかも決めておきましょう。
お金と子どもの問題を曖昧にせず話し合うことで、後のトラブルを防ぐことができます。
「面会交流のルールはどのように決める?取り決めるべきルールを紹介」の記事も参考にしてください。
賢い別居の方法とは
生活費と住居を確保してからにする
別居を始めるには、まず自分と子どもが安心して暮らせる住まいと、生活費の見通しを立てる必要があります。
特に収入がない場合は、婚姻費用の請求や支援制度の利用も検討しましょう。
住む場所やお金の準備ができていない状態での別居は、精神的にも経済的にも追い詰められる原因になります。
浮気やDVの証拠は別居前に確保する
相手の不貞行為や暴力を理由に離婚や慰謝料を請求したい場合、別居前に証拠を集めておくことが重要です。
別居後は証拠の入手が難しくなるうえ、相手が警戒する可能性もあります。
日記や録音、写真、SNSの記録などが有効な場合もあるため、できる範囲で客観的な資料を残しておきましょう。
離婚後に証拠を確保したい場合には、弁護士や探偵に相談するのがおすすめです。
「モラハラで離婚をするなら証拠を集めよう!有効な証拠と注意点について解説」の記事も参考にしてください。
親権が欲しければ一緒に別居する
子どもの親権を希望する場合は、子どもと一緒に別居することが非常に重要です。
別居時に子どもと暮らしていないと、後の親権争いで不利になる可能性があります。
家庭裁判所では、現状維持の原則が重視されるため、普段の生活実態や育児実績が親権判断に大きく影響します。
親権を取るつもりなら、別居後も子どもと一緒に暮らすことが重要です。
「親権者とは|親権者になれる人や意味をわかりやすく解説」の記事も参考にしてください。
別居・家庭内別居・卒婚の違い
夫婦が距離を置いて暮らすスタイルには、別居のほかにも、家庭内別居や卒婚といった形があります。
いずれも法的には婚姻関係を続けたままですが、生活の仕方や夫婦の関係性には違いがあります。
ここでは、それぞれの特徴や違いについてわかりやすく整理します。
住居 | 主な目的や特徴 | |
別居 | 別々に暮らす | 冷却期間・離婚準備・関係見直し |
家庭内別居 | 同居 | 子どもや世間体のために同居、生活は別々 |
卒婚 | どちらでも | 干渉せず自由に暮らすことを選ぶ合意スタイル |
別居:結婚したまま別々に暮らす
別居は、法的には婚姻関係を維持しながら、実生活は物理的に離れて暮らす状態です。
関係を冷却して見直すための期間や、離婚の準備段階として選ばれることもあります。
住民票を移すかどうかは任意で、婚姻費用の分担や子どもの親権など、生活上のルールを事前に決めておくことが重要です。
別居期間が長期に及ぶことで、法定離婚事由とされる可能性があるため、慎重な判断が求められます。
家庭内別居:同居しているが生活は別にする
家庭内別居は、同じ家に住みながらも会話や接触を避け、生活空間や日常の行動を完全に分けるスタイルです。
主に子どもへの影響や経済的な理由、世間体などから離婚や物理的な別居を選ばないケースに多く見られます。
一見普通に暮らしているようでも、実質的には夫婦関係が破綻している場合もあります。
「家庭内別居とはどんな生活?夫や妻が抱えている気持ちとは」の記事も参考にしてください。
卒婚:夫婦のまま別々に自由に暮らす
卒婚とは、婚姻関係を続けながらも、お互いの生活や人生に干渉せず、自由な形で暮らしていくことを合意のもとに選ぶあり方です。
近年は特に熟年夫婦に多く、自分らしい生き方を大切にしたいという思いから選ばれることが増えています。
愛情や信頼があるからこそ成立するケースも見られ、離婚とも別居とも異なる新しい夫婦のかたちといえるでしょう。
夫と別居したいときの手続きの流れ
夫と別居をしたいと考えたときは、ただ家を出るだけではなく、事前準備や取り決めをしっかり行うことが重要です。
以下の流れを参考に、できるだけスムーズに進めましょう。
【①別居の目的をはっきりさせる】
・関係修復のための冷却期間なのか
・離婚に向けた準備なのか
・DV、モラハラからの避難なのか
もう離婚するつもりなのか、距離をおいて修復したいのかなど、別居の目的を明確にすることが大切です。
【②住まいと生活費の見通しを立てる】
・実家に戻る or 新しく住まいを借りる
・自分の収入で暮らせるかを確認
・収入が少ない場合は「婚姻費用」の請求も検討
婚姻費用を含めても生活が成り立たない場合は、別居の開始時期を再検討すべきです。
【③別居に関する取り決めをしておく】
・生活費(婚姻費用)の分担
・子どもがいる場合は親権・面会交流のルール
・別居期間の目安や連絡の頻度など
別居に関する取り決めは、口約束ではなく、書面に残すようにしましょう。
【④別居を実行する】
・必要な荷物を整理、移動
・子どもと一緒に出る場合は学校や保育園への連絡も忘れずに
・DVなど身の危険がある場合は引っ越しを優先し、後から手続きをする
【⑤別居後に行う主な手続き】
・住民票の移動(必要に応じて)
・健康保険・年金・銀行などの住所変更
・児童扶養手当や支援制度の申請(子どもと暮らす場合)
必要な手続きやもらえる手当がわからない場合は、市区町村の窓口や弁護士に相談しましょう。
【⑥必要に応じて弁護士や専門機関に相談】
・話し合いが難航している場合
・DV・モラハラを受けている場合
・離婚や親権の調停を検討している場合
別居をはじめたものの、夫婦間のトラブルや金銭問題が解決していない場合には、弁護士に相談をしましょう。
「別居で夫が出ていく際の生活費や法的責任は?夫の心理や離婚の判断」の記事も参考にしてください。
夫婦の別居に関するよくある質問
卒婚と別居の違いは?
卒婚は、夫婦関係を続けながらも、干渉し合わずに自由に生きることをお互いに認め合うあり方です。
一方、別居は必ずしも合意があるとは限らず、関係の見直しや離婚準備のために距離を置くことも含まれます。
子持ち夫婦が別居するときの注意点は?
子どもがいる場合は、親権や養育費、面会交流のルールを事前にしっかり話し合っておくことが重要です。
子どもの気持ちにも配慮し、学校や保育園との連携も忘れずに行いましょう。
熟年夫婦が別居をする理由で多いのは?
長年連れ添った熟年夫婦の別居は、価値観の違いや生活リズムのズレ、義両親の介護問題、老後の自由な暮らしを求める気持ちが理由になることが多いです。
離婚ではなく卒婚を選ぶケースも増えています。
「熟年離婚とは|メリットデメリットや熟年離婚する夫・妻の特徴」の記事も参考にしてください。
まとめ
夫婦の別居は離婚のきっかけにもなり得る一方で、冷静に関係を見直す貴重な時間にもなります。
重要なのは、必要な取り決めをきちんと交わし、不必要なトラブルを生まないようにすること、そして、別居後の生活に困らないようにきちんと準備をすることです。
目的を明確にし、必要に応じて弁護士のサポートを受けることで、円満な別居につなげることができます。