夫婦関係の修復を望む場合に利用されるのが、円満調停です。
離婚ではなく、もう一度やり直したいと考える人が、家庭裁判所を通じて冷静に話し合うための制度で、離婚を避けたいと考えている方にとっては選択肢のひとつになります。
ここでは、円満調停の基本からメリット・デメリット、手続きの流れ、注意点までわかりやすく解説します。
目次
円満調停とは
まずは円満調停の概要について説明します。
正式名称は”夫婦関係調整調停(円満)“
円満調停の正式名称は、夫婦関係調整調停(円満)です。
離婚を前提とする夫婦関係調整調停(離婚)とは異なり、夫婦関係の継続・修復を目的としている点が大きな違いです。
- 夫婦関係調整調停(円満) =円満調停
- 夫婦関係調整調停(離婚) =離婚調停
離婚に進む前に一度関係を見直したいと考える人が、裁判所を通じて冷静に話し合いの機会を得るための制度です。
「離婚調停の流れ・費用・弁護士に依頼するメリットを解説|Q&Aも紹介」の記事も参考にしてください。
夫婦関係の修復を目指し裁判所で話し合う
円満調停では、家庭裁判所で調停委員が間に入り、夫婦双方の言い分を聞きながら、関係改善の糸口を探ります。
通常は当事者が交互に調停室に入り、直接顔を合わせずに話し合いが進められるため、感情的な対立を避けやすいのも特徴です。
あくまで目的は、関係の修復であり、離婚の手続きではありません。
円満調停で話し合う内容の例
円満調停では、夫婦関係の改善に向けて以下のような内容を話し合います。
- 家事・育児の分担や協力体制
- 生活費や金銭管理に関するルール
- 別居中の連絡方法や帰宅の頻度
- 子どもとの面会や養育方針
- 相手への不満や気になる行動
一方で、以下のような、離婚を前提とした話題は、円満調停では原則扱いません。
- 離婚の合意やその可否
- 財産分与や慰謝料の金額
- 離婚後の親権や養育費の取り決め
あくまで、関係修復が目的であり、離婚の条件交渉を行う場ではない点を覚えておきましょう。
円満調停のメリット
次に、円満調停のメリットを紹介します。
夫婦問題を冷静に話し合える
夫婦間の話し合いは感情的になりやすく、建設的な対話が難しいこともあります。
円満調停では、家庭裁判所という第三者がいる場で進められるため、冷静な雰囲気の中で話すことができます。
加えて、当事者が直接対面せず交互に調停室へ入る形式が多く、感情的な衝突を避けやすいのも特徴です。
話し合いが苦手な夫婦でも、落ち着いて問題の整理と意思の伝達がしやすくなります。
調停委員が公平に言い分を聞いてくれる
円満調停では、家庭裁判所に選任された男女1名ずつの調停委員が、中立・公平な立場で夫婦それぞれの話を丁寧に聞いてくれます。
感情や一方的な主張に偏ることなく、問題点を整理し、合意点を探るサポートをしてくれるため、問題を客観的に見直すきっかけになります。
安心して自分の意見を伝えることができるのも大きな利点です。
別居中でも利用できる
円満調停は、すでに別居している夫婦でも申し立てることができます。
別居によって距離ができた場合でも、裁判所を通じて正式に話し合いの場を持つことで、関係修復の可能性を探ることができます。
別居中の生活費の負担や子どもとの連絡、再同居の可否など、現実的な問題についても調停で整理できるため、実生活の再構築に向けた第一歩として有効です。
円満調停のデメリット
続けて、円満調停のデメリットも解説します。
片方の離婚の意思が固いと調停の意味がない
円満調停は夫婦関係の修復を目的とした制度ですが、相手がすでに離婚を強く望んでいる場合は、調停自体が形だけのものになってしまうことがあります。
相手に話し合う意思がなかったり、そもそも出席しない場合もあり、その場合は調停が不成立となって終了するケースも考えられます。
修復の見込みがない場合は、早い段階で判断が必要になることもあります。
裁判所を通すことで関係が悪化するおそれがある
家庭内の問題を裁判所に持ち込むことで、相手に不快感や反発心を与えてしまうケースもあります。
「なぜ裁判所に?」と相手に思われることで、態度が硬化する可能性もゼロではありません。
とくに、調停を申し立てられた側が事前の相談を受けていないと、不満に思う可能性が高まるため、調停に入る前にある程度の説明や心構えが必要です。
調停が長引くと費用や時間がかさむ
調停は通常月1回のペースで行われ、1回の話し合いでは終わらないことが多いため、解決までに数ヶ月かかる場合があります。
長期化すると、仕事の調整や精神的な負担が増えるほか、弁護士に依頼している場合はその分の費用も積み重なります。
円満調停は比較的低コストな制度ですが、時間的・経済的コストも無視できません。
「離婚調停が不成立になる割合とその後の流れ」の記事も参考にしてください。
円満調停の申し立ての流れ
次に、円満調停の流れについて、なるべくイメージしやすいように説明します。
必要書類・費用を準備する
円満調停を申し立てる際には、下記のような書類や費用を用意する必要があります。
どれも比較的簡単に準備できるものです。
内容 | |
必要書類 | ・申立書(家庭裁判所で入手または公式サイトからダウンロード) ・戸籍謄本(発行から3ヶ月以内のもの) |
申立費用 | ・収入印紙1,200円分 |
郵便切手代 | ・家庭裁判所ごとに異なる(数百円〜1,000円程度) ※具体的な金額は事前に確認を |
書類の記入方法や提出方法は、家庭裁判所の窓口や公式サイトに案内があります。
心配な人は事前に電話で問い合わせておくと安心です。
管轄の家庭裁判所に申し込む
書類がそろったら、相手の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
郵送または直接提出する方法があります。申立てが受理されれば、調停の準備が進みます。
難しい手続きではないため、ほとんどの方が自分で行っていますが、心配であれば弁護士に相談するのも一つの方法です。
裁判所から期日の通知が届く
申し立てが完了すると、数週間ほどで家庭裁判所から第1回調停の、期日通知書が届きます。
期日は申し立てから1〜2か月後になることが一般的です。相手にも同じ通知が届き、双方が出席する日程が決まります。
日程変更を希望する場合は、早めに裁判所に連絡をしましょう。
調停に出席して話し合う
当日は家庭裁判所に出向き、調停委員との話し合いが行われます。
多くの場合、夫婦が交互に調停室へ入り、直接顔を合わせることなく進められます。
調停委員は夫婦それぞれの話を聞き、中立の立場から話し合いをサポートしてくれます。
1回で終わることは少なく、数回にわたって行われるのが一般的です。
合意すれば調停成立
話し合いの中で関係修復の方向性や、今後の生活に関する取り決めについて合意ができれば、調停成立となります。
成立後は、その合意内容に沿って生活を見直していくことになります。
調停調書は公的な効力があるため、後のトラブルを防ぐうえでも安心材料になります。
合意できなければ離婚調停へ移行
調停を重ねても関係修復が難しいと判断された場合は、円満調停は不成立となります。
そのまま離婚調停に移行することも可能で、申し立て直す手間が省けるケースもあります。
実際には、円満調停から離婚調停へ切り替わる例も少なくありません。
修復か離婚かを見極める一つのきっかけにもなります。
「離婚調停を長引かせるメリットはある?知っておきたい注意点を解説」の記事も参考にしてください。
円満調停はしないほうがいいと言われる主なケース
DVやモラハラで対等な関係を築けていない
相手からの暴力(DV)や精神的な支配(モラハラ)がある場合は、冷静な話し合いが難しく、円満調停は適していません。
調停の場でさえも、相手に支配されてしまう可能性があります。
安全の確保が最優先となるため、無理に調停を進めるのではなく、弁護士や支援機関への相談を優先すべき状況です。
すでに別居や離婚の準備が進んでいる
すでに別居が長期間に及び、離婚に向けた準備や意思が固まっている場合は、円満調停を行っても関係修復が現実的ではないことがあります。
このような場合は、話し合いの方向性を変えて、離婚条件について協議する離婚調停へ移行したほうが建設的なケースも多いです。
相手が調停に応じるつもりがない
相手がそもそも家庭裁判所に出席する気がない、あるいは話し合い自体を拒否している場合、円満調停は成り立ちません。
相手が欠席を続ければ調停は不成立となり、時間と労力だけがかかってしまいます。
事前に、相手が話し合いに応じる意志があるかどうかを把握することが重要です。
円満調停で弁護士に相談・依頼するメリット
弁護士に依頼しなくても手続きは可能ですが、不安な場合は専門家に相談することで安心して調停に臨むことができます。
具体的に以下のようなメリットがあります。
申し立ての手続きなどをサポートしてもらえる
調停を申し立てる際の書類の作成や提出手続きに不安がある場合、弁護士に相談することでスムーズに準備を進めることができます。
提出先の家庭裁判所の確認や、申立書に書くべき内容の整理など、細かな部分もプロがチェックしてくれるため安心です。
特に初めて裁判所を利用する方にとっては心強い存在になるでしょう。
調停の場に同席してもらえる
調停には原則本人が出席しますが、弁護士に依頼していれば同席してもらうことが可能です。
相手とのやりとりに不安がある場合や、うまく話せる自信がないときにも、弁護士が間に入ってフォローしてくれるため、精神的な負担を軽減できます。
調停委員とのやりとりもスムーズになり、話が整理されやすくなります。
相手に対して本気度が伝わる
弁護士を立てることで、相手に対して「本気で関係修復を望んでいる」という強い意思表示になります。
相手が軽く考えていたり、調停に消極的だった場合でも、態度が変わるきっかけになることもあります。
逆に、話し合いが進まないときの抑止力にもなり、対等な立場でやり取りしやすくなる点もメリットです。
離婚問題に発展してもサポートしてもらえる
円満調停が不成立となり、そのまま離婚調停に移行する場合でも、すでに依頼している弁護士が継続してサポートしてくれます。
最初から事情を把握しているため、スムーズに対応を切り替えられます。
関係修復と離婚、どちらの可能性もある状況では、最初から弁護士に相談しておくと安心です。
「家事調停を弁護士に依頼するメリットは何か」の記事も参考にしてください。
円満調停に関するよくある質問
円満調停は意味ない?
相手に修復の意思がない場合は意味がないと感じることもありますが、調停を通して冷静に話し合えるきっかけになる場合もあります。
状況によっては、離婚か修復かを判断する材料にもなります。
円満調停を申し立てられたら?
家庭裁判所から通知が届いたら、無視せず出席することが大切です。
顔を合わせずに調停委員を介して話す形式が多いため、落ち着いて自分の考えを伝えることができます。
まとめ
円満調停は、離婚ではなく夫婦関係の修復を望む人が、裁判所を通じて冷静に話し合うための制度です。
家庭裁判所で調停委員を挟み、夫婦が交互に主張を伝える形式で進められるため、感情的な対立を避けながら建設的な対話が可能です。
関係を見直したいと思っている方にとっては、一人で抱え込まずに状況を整理する貴重な機会にもなります。
ただし、相手に修復の意思がない場合は調停が不成立となる可能性もあるため、自分たちの状況に応じて利用を検討することが大切です。
迷ったときは、弁護士への相談も視野に入れてみましょう。