芸能人の離婚発表の際にもよく利用される性格の不一致という言葉、一度は耳にしたことがあるでしょう。
離婚に至る事情は、当事者同士にしか分からないものです。理由について詮索してくる周囲の雑音をシャットアウトするため、やむなく性格の不一致という言葉を使う人もいるのではないでしょうか。
曖昧でモヤモヤした気持ちが残る性格の不一致という言葉。
この記事では、性格の不一致を理由に離婚したら慰謝料の請求ができるのか、もしできるのなら相場はどのぐらいなのかに焦点を当てて解説します。
目次
性格の不一致が原因で離婚はできるのか?
当事者同士が合意すれば、性格の不一致が理由でも離婚できます。
しかし、夫婦のどちらかが離婚に反対していると、裁判での離婚請求は難しいかもしれません。
当事者同士が合意すれば、離婚は可能
夫婦間で合意ができれば、性格の不一致が理由でも離婚できます。
協議離婚の要件は、離婚意思の合致(実質的要件)と戸籍法に基づく届出(形式的要件)があればよく、法定離婚事由は不要だからです。
配偶者の不倫、DVのように分かりやすい理由と違い、性格の不一致はぼんやりした分かりづらい理由だととらえられがちです。離婚経験者の中には、結婚前に性格の不一致ぐらい分かるだろうと言われた人も少なくないと思います。
結婚前に性格の不一致が分かるのが理想的ですが、現実では難しいものです。一緒に生活して初めて分かる部分もありますし、相手への不満が積み重なっていくことでどちらかの性格が変わっていってしまうパターンもあります。
こうした事情は当事者同士でしか分からないことですから、夫婦で話し合いをして、これ以上結婚生活を維持していくのは難しいね…と合意ができれば、離婚できます。
裁判になった場合は、性格の不一致のみを理由に離婚はできない
夫婦間で合意に至らず裁判になったら、性格の不一致のみを理由とした離婚請求は認められにくいです。
なぜなら、裁判で離婚を認めてもらうには法定離婚事由が必要であるところ、性格の不一致は、法定離婚事由に該当しないからです。
法定離婚事由とは、法的に認められる離婚の理由です。
具体的には下記の5つが定められています。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みのない強度の精神病
- 婚姻を継続しがたい重大な事由
2021年に公表された司法統計年報(家事編) によると、離婚を申し立てた動機として、最も多く挙げられたのは、性格の不一致でした。性格の不一致は、もっとも多く主張される理由ですが、このことだけで婚姻の継続が不可能だと主張しても、ただちに離婚が認められることはほとんどありません。
夫婦の性格や考え方・価値観が違っても、双方の努力により円満な夫婦関係の修復が可能なら、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとは言えないからです。
しかし、過去の裁判例には、性格の不一致に起因して夫婦関係が回復不能なまでに破綻すれば、婚姻を継続しがたい重大な事由に該当するとして、裁判所が離婚を認めているケースもあります。
ここで一例を紹介します。
Aさん、Bさんという夫婦がいて、夫のAさんは妻のBさんの性格にストレスを感じて離婚を考えるようになりました。しかしBさんは離婚に合意できず、裁判で争うことになりました。
Aさんは婚姻を継続しがたい重大な事由として、主に以下の点について主張しました。 ・BはAに対して自らの生活習慣を一方的に押し付けた ・BはAの「夫婦は相互に譲り合うべきだ」という要望に譲歩しない態度を貫いた ・BはAの風呂の入り方など細かい生活習慣にまで苦情を述べた ・Bの連れ子であるXの入学式や授業参観への出席を拒否された ・自転車や自動車の使用を拒否された そんなBさんに対しておとなしい性格のAさんは徐々に委縮し、精神的に追いつめられるようになり、動悸、不安、焦燥感、劣等感、入眠障害の症状が認められるようになりました。BさんはAさんが精神的に追い詰められ身体的に上記のような症状が見られたものの、Aさんの疾患について理解しようとせず、態度を改めることがありませんでした。 細かいことに口を出し、ストレートな物言いをするBさんと、おとなしい性格で言いたいことを内面にためてしまうAさん。いわゆる2人には性格の不一致がみられ、そのために起こったのは精神的ストレスによるAさんの心因反応でした。 |
裁判所はAさん、Bさん双方の性格、物の考え方、見方の違いを併せ考え、今後正常な婚姻関係を築きあげていくことは困難だと結論を出しました(神戸地裁平成15年 5月30日判決)。
性格の不一致を理由に慰謝料請求はできるのか?
性格の不一致のみを理由に離婚した場合、基本的に慰謝料は認められません。
ただし、性格の不一致だけでなく不倫、DV、モラハラなどの不法行為があれば、裁判でも慰謝料請求が認められることがあります。
裁判では性格の不一致だけを理由とした慰謝料は請求できない
性格の不一致のみを理由に離婚しようとして裁判になった場合、慰謝料請求が認められることはほとんどありません。
なぜなら、離婚慰謝料は、婚姻生活を破綻させる原因となった有責行為により生じた精神的苦痛や、離婚により配偶者の地位を失うことから生じる精神的苦痛に対して支払われるものだからです。
性格の不一致による離婚の場合は、基本的には夫婦のどちらかに婚姻生活を破綻させたことの責任があるわけではないため、慰謝料は発生しません。
性格の不一致がDVや不貞等の引き金になった場合は慰謝料を請求できる
性格の不一致が起因したDVや不倫などの不法行為があり、それが原因で離婚に至った場合は、有責配偶者に対する慰謝料請求が認められる場合があります。
過去の裁判で、性格の不一致を理由に離婚を求めた夫が、修復を試みようとした妻の要請に応じず、一方的に婚姻関係を破棄したことが不法行為にあたるとし、慰謝料の一部支払いを認めた事例があります(東京地裁平成24年 1月19日判決)。
詳細は以下のとおりです。
Aさん(離婚時35歳)とBさん(離婚時43歳)は、平成21年3月3日に婚姻し、翌年長男X(離婚時1歳)が生まれました。Xが生まれて間もなく、AさんはXを連れて実家に帰り、平成23年、Xの親権者をAさんと定めて協議離婚しました。
離婚に至るまでの経緯は、以下のとおりです。 子育てに関する意見の対立が原因で口論となった後、BさんはAさんと口を聞くことをせず、2日後に突然Bさんに対して、「家を出て実家へ帰ってほしい」と告げました。 やむを得ず子どもとともに実家に帰ったAさんですが、Bさんに連絡を取って夫婦関係の修復に努めました。しかしBさんは、Aさんのことを自分の非を認めず謝罪できない人間だと決めつけ、Aさんとの話し合いに応じず、一方的に離婚届を送ってきました。 AさんはBさんの自己中心的で何事にも固執する性格が原因で離婚に至ったと考え、精神的な損害を受けたと慰謝料請求の裁判を起こしました。 |
裁判所は、婚姻は夫婦相互の協力と扶助で維持すべきもので、性格の不一致を理由に婚姻関係を修復する努力を怠り、相手方の修復の要請に応じることなく婚姻関係を破棄したことは不法行為にあたるとして、Aさんが請求した慰謝料の一部の支払いを認めました。
補足|慰謝料請求ができなくても財産分与は可能
慰謝料請求ができなくても、財産分与は請求できます。
財産分与は、離婚をした夫婦の一方が他方に対して財産の分与を請求できる制度です。
- 財産分与には、次の3つの意味合いがあると考えられていますが、特に1つめが中心的な要素とされています。夫婦が共同生活を送ってきた中で築いた財産を公平に分配する
- 離婚後の生活を保障する
- 離婚原因を作ったことへの損害を賠償する
財産分与は、夫婦間の話し合いで決められますが、話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に対して調停や審判を申し立てられます。離婚訴訟に附帯して財産分与を申立てることもあります。
財産分与の対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して得た財産すべてです。共同名義の財産だけでなく、どちらか一方の名義になっていたとしても、夫婦で協力して得た財産と認められる財産は、分与の対象となります。
財産分与は、離婚と同時に分与してもよいですし、離婚後に請求もできます。ただし、離婚成立から2年が経過すると家庭裁判所に申し立てができなくなるので注意しましょう。
財産分与の詳細は、「離婚時に財産分与の対象とならないものは何か?」をご参照ください。
性格の不一致で離婚した場合でも慰謝料を請求できるケースと金額の相場
性格の不一致で離婚する場合、基本的に慰謝料が認められることはありません。
ただし、一方の当事者に夫婦関係を壊すほどの不法行為があり、それが性格の不一致を発端とするものであれば、慰謝料請求が認められることがあります。
その場合、金額の相場はどのぐらいになるのか、以下で述べたいと思います。
性格の不一致で離婚しても慰謝料がもらえるケースとは?
性格の不一致が原因で夫婦喧嘩が絶えず、その結果、相手が不倫をした、DVや暴言を受けるようになった、無視された、一方的に家を出て行ったなど、婚姻関係を破綻させるほどの不法行為にまで発展した場合は、不法行為により受けた精神的損害を慰謝料として請求できます。
先述の裁判例(東京地裁平成24年 1月19日判決)でも、裁判所は、性格の不一致を理由に婚姻関係の修復を求めてきた相手を無視して一方的に婚姻関係を破棄することは、不法行為にあたると判断し、慰謝料請求を認めています。
夫婦間の話し合いや調停において、離婚の解決金といった名目で慰謝料を取り決めた場合には、慰謝料を受け取れることもあります。
例えば、夫婦の一方が性格の不一致を理由に離婚を申し出たものの、相手が同意しない場合、離婚に同意してもらうために解決金という名目で金銭を支払うパターンです。
離婚を申し出た者は、お金を払ってでも離婚したいと考えている可能性があります。離婚をする条件として解決金を提案するのも一つの方法です。
ケース別離婚慰謝料の相場
ここでは、離婚に至った原因別に、離婚慰謝料の相場の金額を紹介します。
不貞行為(不倫) |
100万円~300万円 |
DV |
50万円~300万円 |
夫婦の義務を果たさない悪意の遺棄(浪費癖など) |
50万円~300万円 |
性交渉の拒否 |
0円~100万円 |
ちなみに先述の裁判例(東京地裁平成24年 1月19日判決)では、修復を試みようとした妻の要請に応じず、一方的に婚姻関係を破棄したことを不法行為と判断し、100万円の慰謝料請求が認められています。
まとめ
結婚生活を送る上で大事なのは互いを尊重し、ある程度譲歩することです。
違う環境で育ってきた他人同士が一緒に生活するのですから、意見がぶつかり合うこともあるでしょう。長く結婚生活を続けている人のほとんどは、自分の意見だけを主張せず、相手の意見に耳を傾ける努力を少なからずしていると思います。
しかし、相手が自分の意見だけを主張するワンマンな性格だったり、歩み寄ることができないほど考え方が違ったりする場合は、離婚の2文字が頭をよぎるでしょう。それはごく自然なことですし、性格の不一致は、離婚を考えるきっかけとして最もポピュラーなものかもしれません。
実際は、性格の不一致だけが原因であることは少なく、そこからいろいろな問題が起き、真の離婚原因になっていることが多いです。
もし真剣に離婚を考え、相手方から慰謝料を取りたいと考えている人は、真の離婚原因を自分の中できちんと整理することをおすすめします。
ネクスパート法律事務所では、離婚問題に詳しい弁護士が在籍しています。あなたの想いを組んで全力でサポートをしますので、ぜひ一度ご相談ください。