離婚時に養育費の取り決めをしたのにも関わらず、支払いが滞ることがあります。

養育費を支払う側(義務者)に何らかの理由があって、取り決めどおりに養育費を支払えない場合、踏み倒す以外に取りうる手段はあるのでしょうか?

養育費を踏み倒された場合、養育費の支払いを受ける側(権利者)は、どのように対応すればよいでしょうか?

この記事では、主に以下の点について解説します。

  • 養育費踏み倒しのリスク|義務者側
  • 踏み倒せずに減額を求める手続き|義務者側
  • 養育費の踏み倒しを防ぐためにできること|権利者側
  • 養育費を踏み倒されたときに取りうる法的措置|権利者側

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養育費踏み倒しのリスク|払わないとどうなる?

ここでは、養育費を支払わないとどうなるのか、踏み倒しのリスクについて解説します。

養育費の支払いは義務

養育費は、子どもの監護や教育のために必要な費用です。離婚によって親権者でなくなった親でも子どもの親であることに変わりはないので、親として養育費の支払い義務があります。

養育費を払わないと遅延損害金が発生する

養育費は金銭債権ですので、支払いが1日でも遅れたら債務不履行とみなされ、遅延損害金が発生します。遅延損害金の法定利率は年3%(令和2年3月31日以前は年5%)と規定されていますが、養育費の取り決めをした際に遅延損害金の利率を決めていたら、その利率が優先されます。

養育費を踏み倒すと財産差し押さえのリスクが生じる

養育費を踏み倒すと、強制執行の手続きが取られて財産を差し押さえられる可能性があります。

養育費の不払いが社会問題となったため、20204月の民事執行法の改正で財産開示手続きが実効性のあるものになりました。勤務先や金融機関など第三者からの財産の情報提供が可能となり、強制的に養育費を回収する仕組みが整いました。

具体的には下記の財産が差し押さえの対象となります。

債権

給与、預貯金、生命保険が該当します。

不動産

所有している土地や建物が該当します。

動産

現金(66万円を越えるもの)、車、骨とう品、宝石類が該当します。

給与を差し押さえられた場合には、養育費の未払いで強制執行されたことが勤務先に知られ、社会的立場が悪くなるリスクがあります。

養育費の減額事由があるなら踏み倒さずに交渉・調停を!

ここでは、養育費の減額事由があるなら交渉・調停を検討することについて解説します。

養育費が減額・免除される事由とは?

養育費に関する取り決め後、収入の変化などを理由に減額が認められることがあります。

例えば、義務者に、リストラや病気、けがを理由として収入が途絶えたもしくは収入が減った、再婚して子どもが誕生したといった事情ができた場合です。

権利者が再婚し、再婚相手が子どもと養子縁組をした、収入が増加したといった状況である場合にも、養育費の減額が認められる可能性があります。

減額・免除を求める方法

養育費の減額・免除を求めるには、段階を経て交渉をしましょう。

権利者と直接交渉する

まずは権利者と直接話し合いをしましょう。当事者同士の話し合いで合意ができれば、養育費の減額はいつでもできます。

養育費減額調停を申し立てる

相手方と話し合いをしても合意ができない場合は、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てます。

養育費減額調停とは、調停委員や裁判官が間に入って養育費の減額について話し合う手続きです。合意ができれば減額が成立し、合意できなければ養育費減額審判に移行して家庭裁判所が減額の可否について判断をします。

関連記事:養育費調停とは|申立ての流れや調停で聞かれること

養育費の踏み倒しを防ぐためにすべきことは?

ここでは、養育費の踏み倒しを防ぐためにすべきことについて解説します。

義務者に直接請求する

養育費の不払いが起きたら、まずは義務者本人に電話やメール、手紙等で養育費の支払いを督促しましょう。その際には支払い期限をきちんと伝えることが必要です。

その後も養育費の支払いがなく、返信もなければ内容証明郵便を出して養育費の支払いを求めます。

養育費請求調停を申し立てる

内容証明郵便を出しても相手方が何も対応をしない場合、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。申し立て後、家庭裁判所が調停期日を調整して、当事者双方に調停期日呼出状を送付します。調停開始まで申し立てから1か月ほどかかります。

履行勧告・履行命令を申し立てる

調停・審判・裁判で決定した養育費の支払いが滞った場合は、履行勧告・履行命令を申し立てることで、回収できることがあります。

履行勧告

履行勧告は、調停・審判で決めた養育費が不払いになったときに、家庭裁判所から義務者に支払いを促してもらえる制度です。

養育費の取り決めを行った家庭裁判所に対して、口頭や書面で申し出をします。その際に手数料はかかりません。家庭裁判所は、実際に養育費の不払いが起きているのか事実関係を調査するため、預金通帳の写しや養育費の取り決めを行った時の書類も準備しましょう。

履行命令

履行勧告をしても養育費が支払われない場合は、家庭裁判所に対して履行命令を申し立てます。履行命令は、家庭裁判所が義務者に支払いを命じる制度です。手続きはほぼ履行勧告と同じですが、500円の手数料と数千円の郵券代がかかります。

義務者がこの命令に従わなければ、10万円以下の過料が科せられます。

公正証書や調停証書がある場合は、強制執行を申し立てる

養育費の取り決めをした際、公正証書(執行認諾文言がある場合)や調停証書といった強制執行力のある書面(債務名義)があれば、支払いが滞った場合、速やかに強制執行の手続きに移れます。

義務者に差し押さえ可能な財産があれば、養育費の回収を図れます。

民事執行法の改正で養育費を踏み倒しに厳しい罰則が!

2020年4月に民事執行法が改正になり、養育費を踏み倒した場合に厳しい罰則が科せられるようになりました。

公正証書でも財産開示手続きが利用できる

財産開示手続きとは、債務者(義務者)が持っている財産の情報を開示させる制度です。

改正前は、財産開示手続きには調停証書が必要でしたが、改正後は公正証書でもこの制度を利用できるようになりました。

財産開示の拒否や虚偽に対して罰則が強化された

義務者が財産開示を拒否し、正当な理由なく期日に出頭しない場合や虚偽の説明をした場合、改正前の罰則は30万円以下の過料だったのに対し、改正後は6か月以下の懲役または50万円以下の罰金となりました。

金融機関に対して、情報提供を命じる手続きが新設

改正前は、裁判所が債務者本人から財産状況を聞き出す方法をとっていましたが、改正後は裁判所が第三者に情報の開示を求めることが可能になりました。具体的には債務者の口座がある金融機関に対して情報の開示が求められます。

財産開示手続き後、市町村などに対して給与支払者の情報提供を命じる手続きが新設

情報開示の手続きをした後、裁判所は債務者の関係する市町村などに対して、給与支払者の情報提供を命じる手続きをとることができるようになりました。

関連記事:養育費の未払い分を請求する方法と差し押さえできる条件

養育費の踏み倒しに対する法的措置|強制執行で財産を差し押さえる方法とは?

ここでは、養育費の支払いが滞った場合に、強制執行で財産を差し押さえる方法について解説します。

強制執行で財産を差し押さえできる条件

強制執行で財産を差し押さえるには、以下すべての条件が必要です。

  • 義務者に支払い能力がある
  • 義務者の現住所を知っている
  • 債務名義を取得している
  • 義務者の勤務先や預貯金口座など財産に関する情報を知っている

強制執行の申立ての方法

強制執行は、金銭の支払いを目的とする金銭債権執行とそれ以外の非金銭債権執行に大別されます。金銭債権執行の代表的なものには、次の3つの手続きがあります。

  • 債権執行:債務者が有する給与債権や預貯金債権などの債権を対象とする手続き
  • 不動産執行:債務者が所有する不動産を対象とする手続き
  • 動産執行:債務者が所有する動産を対象とする手続き

債権執行では、債務者の住所地を管轄する地方裁判所に債権差押命令申立書を提出します。

不動産執行は目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所、動産執行は目的動産の所在地を管轄する地方裁判所の執行官室に申立てます。

申立てに必要な書類や手続きの流れは、管轄裁判所のウェブサイト等をご参照ください。

養育費の踏み倒しの放置はNG!消滅時効に注意

養育費は、原則として、権利を行使できることを知った時から5で消滅時効にかかります。

養育費の踏み倒しを避けるためにも、養育費の支払いが滞ったら、放置せずなるべく早く弁護士に相談して適切に対応しましょう。

養育費の踏み倒しについて、弁護士に相談するメリットは?

ここでは、養育費の踏み倒しについて弁護士に相談するメリットについて解説します。

義務者側のメリット

義務者が弁護士に相談するメリットは主に下記の2点です。

養育費を減額・免除できる事由の存否を判断してもらえる

養育費の減額や免除ができるか、弁護士であれば的確な判断ができます。

強制執行を避けるための交渉や調停を対応してもらえる

権利者が給与債権を差し押さえると、勤務先に養育費を滞納している事実がバレてしまいます。勤務先には裁判所への書面の提出等の手間がかかるため、社内で肩身の狭い思いをすることもあるでしょう。

給与の差し押さえをはじめとした強制執行を回避するためには、滞納している養育費の支払いについて、早期に権利者と話し合い、誠意を見せることが重要です。

弁護士に相談すれば、強制執行を避けるために、どのように対応をすればよいかアドバイスを得られます。

ご自身での交渉に不安がある場合には、弁護士に依頼することで、交渉や養育費減額調停の申立てなども代理してもらえます。

権利者側のメリット

権利者が弁護士に相談するメリットは主に下記の2点です。

代理人として相手方と交渉してもらえる

養育費を滞納している義務者と直接会って話をするのは、精神的に負担がかかります。弁護士に依頼をすれば、代理人として交渉を対応してくれます。

強制執行をする場合も手続きを任せられる

義務者が養育費の支払いに応じない場合、強制執行により回収を図ることがあります。強制執行をするためには、差し押さえ可能な財産を調査しなければならず、申立てには様々な書類が必要です。

弁護士に依頼すれば、財産の調査や申立て書類の作成を含めた複雑な手続きを任せられます。

まとめ

養育費は、通常、長期間にわたって支払いが続くので、義務者の生活環境や収入の変化で滞納が生じることがあります。離婚をする際には、こうしたリスクに備えておくことが重要です。

弁護士であれば、養育費が踏み倒されないように何ができるのか、的確なアドバイスが可能です。子どもの成長にとって重要な養育費をきちんと確保するためにも、養育費のことで困ったことがあれば、早めに弁護士に相談することをおすすめします。