サマリー
精神的DVとは、一般的に、暴言・無視・人格否定などの言動によって相手に精神的苦痛を与えるDV(ドメスティックバイオレンス)の一種とされるもので、主に配偶者や恋人などの親密な関係において行われる精神的暴力を指します。
精神的DVは、民法770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があり、婚姻関係の破綻が認められる場合には、離婚原因となることがあります。
また、行為の違法性が認められる場合には、不法行為責任(民法709条)に基づき、精神的苦痛に対する慰謝料を請求できる可能性もあります。
本記事では、
・精神的DVの定義や具体例
:精神的DV被害のチェックポイント・判断基準
・精神的DVの証拠の集め方
・精神的DVを理由とした離婚・慰謝料請求のポイント
について、法律の観点から分かりやすく解説します。
精神的DVに悩んでいる方が状況を整理し、適切な対応を検討するための参考となれば幸いです。
精神的DVとは【モラハラとの関係と法律上の考え方】
精神的DVとは、一般的に、殴る・蹴るといった身体的暴力ではなく、言葉や態度、無視などによって配偶者や恋人などの尊厳を著しく傷つけ、精神的な苦痛を与える行為とされます。
外傷が残らないため周囲に気づかれにくく、被害者自身も「自分が悪いのではないか」と自責の念に駆られ、心理的支配(コントロール)下に置かれやすいのが大きな特徴です。
精神的DV(モラハラ)とは
精神的DVは一般的に「モラハラ(モラルハラスメント)」とも呼ばれ、言葉や態度によって相手の自尊心を傷つけ、心理的に支配する行為とされます。
精神的DVとモラハラの違い【法律上の扱い】
【精神的DVとモラハラの違い(比較)】
| 項目 | 精神的DV | モラハラ |
|---|---|---|
| 意味 | 暴言・無視・人格否定などにより相手に精神的苦痛を与えるDV(ドメスティックバイオレンス)の一種 | 道徳や倫理に反する嫌がらせや精神的攻撃を指す一般的な言葉 |
| 用語の性質 | DVの一類型として法律問題になることがある | 法律上の正式な用語ではない |
| 主な関係性 | 夫婦・恋人など親密な関係で問題となることが多い | 職場・家庭・学校など幅広い人間関係で使われる |
| 法律上の扱い | 継続的な精神的苦痛が認められる場合、離婚理由や慰謝料請求の根拠になる可能性がある | 単独の法律用語ではないが、行為の内容によっては精神的DVや不法行為として評価されることがある |
「精神的DV」と「モラハラ(モラルハラスメント)」は、どちらも言葉や態度によって配偶者や恋人、職場、家庭、学校などの関係にある相手に精神的苦痛を与える行為を指します。
精神的DVが問題となる法律|DV防止法・民法
精神的DVは、主に以下の2つの法律によって法的責任が問われます。
① 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)
かつて保護命令は主に「身体に対する暴力」や「生命・身体に対する脅迫」があった場合に限定されていました。
しかし、2024年4月1日施行の改正DV防止法により、その対象が大幅に拡大されました。
現在では、身体的暴力や生命・身体への脅迫だけでなく、生命・身体・自由・名誉・財産に対し害を加える旨を告知してする脅迫があり、更なる被害によって生命または心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合には、裁判所が保護命令を発令できる場合があります。
ただし、すべての精神的暴力が直ちに保護命令制度の対象になるわけではなく、裁判所が個別の事案における危険性・脅迫性を総合的に判断します。
2024年4月1日施行の改正DV防止法では、対象の拡大に加え、接近禁止命令の期間も「6か月」から「1年」に延長されました。
これにより、深刻な精神的DVに悩む被害者の安全を、より早期かつ広範囲に確保することが可能となりました。
② 民法770条1項5号
裁判で離婚を認める事由として、民法第770条1項5号に「婚姻を継続し難い重大な事由」が定められています。
執拗な暴言や無視によって婚姻関係破綻に至ったと判断されれば、この規定に基づき裁判離婚が認められる可能性があります。
精神的DVは犯罪になるのか
精神的DVは、身体的暴力に比べるとただちに刑事罰の対象になるとは限りませんが、その内容や態様によっては、以下のような犯罪が成立する可能性があります。
脅迫罪(刑法222条)
「別れるなら親を殺す」「SNSに恥ずかしい写真をばらまく」など、相手やその親族の生命・身体・名誉・財産などに危害を加える旨の害悪を告知し、一般人に恐怖心を生じさせるような場合には、刑法第222条の脅迫罪が成立する可能性があります。
名誉毀損罪(刑法230条)
不特定または多数の第三者が認識できる状態(公然性)で具体的な事実を摘示し、相手の社会的評価を低下させた場合には、刑法第230条の名誉毀損罪が成立する可能性があります。
侮辱罪(刑法231条)
具体的な事実を示さなくても、第三者が認識できる状態(公然性)で相手を罵倒するなどして社会的評価を害した場合には、刑法第231条の侮辱罪が成立する可能性があります。
名誉毀損罪と異なり、具体的な事実の摘示がなくても成立し得る点が特徴です。
不同意わいせつ罪(刑法176条)
相手が拒絶している、または恐怖や心理的支配などにより同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にあるにもかかわらず、わいせつな行為をした場合には、刑法第176条の不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
不同意性交等罪(刑法177条)
相手が拒絶している、または恐怖や支配関係などにより同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にあるにもかかわらず性交等の行為を行った場合には、刑法第177条の不同意性交等罪が成立する可能性があります。
傷害罪(刑法204条)
精神的DVの結果として、不安障害や抑うつ状態、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などの精神疾患を発症し、医師の診断書などの資料から相手の言動との因果関係が認められる場合には、精神的な健康被害も「傷害」と評価され、刑法第204条の傷害罪として処罰の対象となる可能性があります。
具体的な刑事責任の有無は、証拠関係を踏まえて裁判所が個別に判断します。
精神的DVは最も多いDV被害のひとつ〜統計データから見る実態
精神的DVは特別なケースではなく、内閣府の公表資料によれば、DV相談プラスに寄せられた相談では、精神的DVを含む内容が高い割合を占めています。
内閣府「DV相談プラス」の利用状況(令和6年度公表・令和5年度実績)内閣府「DV相談プラス」の利用状況(令和5年度)

内閣府が公表したデータによると、DV相談の現場では、精神的DV(モラハラ・心理的虐待)が高い割合で見られます。
【相談対応件数の推移】
- 令和4年度:41,276件
- 令和5年度:41,160件
(※寄せられた相談に対応し、相談票に記入した件数)
内閣府の公表資料によれば、DV相談プラスに寄せられた相談では、相談内容の約7割が精神的DVを含んだ内容とされています。
統計からわかること
このデータは、身体的な暴力(殴る・蹴る)がなくても、暴言や人格否定、無視、威圧的な態度などによる精神的苦痛に悩む方が多い現実を浮き彫りにしています。
精神的DVは外部から被害が見えにくく、「痣(あざ)がないのに相談していいのだろうか」と躊躇してしまう方も少なくありません。
このような相談が多いという事実は、身体的暴力がない場合でも深刻な被害として相談や支援の対象になり得ることを示しています。
独りで悩まず、早い段階で配偶者暴力相談支援センターやDV相談窓口、弁護士などの専門機関へ相談することが、解決への第一歩となります。
参照:令和6年度「DV相談プラス事業における相談状況調査」報告書(概要)
精神的DVの具体例【どこからDVになる?判断基準】
精神的DVは、暴言や無視などの言動が継続し、配偶者や恋人などに強い精神的苦痛を与える場合、法的に問題となる可能性があります。
「身体的に殴られていないからDVではない」と思い込むのは危険で、言葉や態度による精神的暴力でもDVと認められる場合があります。
継続的に相手を恐怖や心理的支配の下に置く言動がある場合、精神的DVに該当する可能性があります。
精神的DVの代表的な具体例
精神的DV(モラハラ)には、いくつかの典型的なパターンが存在します。
これらは複数が組み合わさることで、被害者を精神的に追い込み、孤立状態にさせることがあります。
① 暴言
「死ね」「生きている価値がない」「お前はバカだ」といった直接的な罵倒です。
これらは単なる怒りの発露ではなく、相手に「自分はダメな人間だ」と思い込ませ、精神的苦痛や心理的支配を与える人格攻撃です。
② 無視行為
数日間、あるいは数週間にわたって一切の口をきかない、食事を作っても手をつけないなど、存在そのものを否定する行為です。
これにより家庭内に慢性的なストレスと強い心理的圧迫が生じます。
③ 過度な干渉・人格否定
家事の仕上がり、育児の方針、仕事の内容などを執拗に責め立てます。
「お前のやり方は間違っている」と否定し続けることで、自分のルールを押し通し、心理的支配や精神的圧迫を強めます。
④ 行動の監視
スマホ監視、通話履歴のチェック、行動報告要求(誰とどこにいるか逐一報告させる)、外出制限などが含まれ、相手の行動をコントロールする監視行為に当たります。
精神的DVでよくある言葉一覧
精神的DVでは、次のような言葉が繰り返し使われ、心理的圧迫や支配の手段となることがあります。
- 「誰のおかげで生活できているんだ」
- 「お前は何をやってもダメだ」
- 「そんなこともできないのか」
- 「出ていけ」
- 「お前のせいで怒っている」 など
精神的DVの判断基準【どこからDVになる?】
精神的DVかどうかは、単に一度きりの口論があったかどうかではなく、言動の内容や継続性、相手に与える影響などを踏まえて総合的に判断されます。
一般的には、次のような事情が認められる場合、精神的DVとして法的に問題となる可能性があります。
- 暴言や無視などの行為が継続的に行われている
- 相手に強い恐怖や精神的苦痛を感じている
- 外出や交友関係を制限するなど、行動を心理的に支配している
- 夫婦関係が悪化し、婚姻生活の継続が困難な状態(婚姻関係破綻の可能性)になっている
このような事情がある場合、精神的DVとして法的に問題となる可能性があります。
特に、継続的な暴言や人格否定、過度な監視などによって精神的苦痛が生じている場合には、離婚原因や慰謝料請求の理由として認められることもあります。
ただし、精神的DVに該当するかどうかは個別の事情によって判断されるため、具体的な状況に応じて弁護士などの専門家に相談し、法的助言を受けることも重要です。
精神的DVと単なる夫婦喧嘩の違い
DVと単なる夫婦喧嘩を見分ける決定的な違いは、夫婦間に「対等性」と「自由」があるかどうか、すなわち支配関係や服従の有無にあります。
| 項目 | 単なる夫婦喧嘩 | 精神的DV(支配) |
|---|---|---|
| 立場 | 対等であり、お互いに意見が言える | 明確な上下関係(支配・服従)がある |
| 感情 | 一時的な怒り。時間が経てば収まる | 常に恐怖感や緊張感が漂っている |
| 解決 | 歩み寄りや妥協点を見いだせる | 一方が屈するまで攻撃が止まらない |
| 生活への影響 | 喧嘩以外の時間は日常を送れる | 常に監視されているようで自由がない |
相手に意見を言う際に「何を言われるか分からない」「怒らせるのが怖い」と恐怖を感じ、自分の言動を極端に制限している状態は、単なる喧嘩ではなく、心理的拘束や精神的圧迫を伴う精神的DVが疑われる状況と考えられます。
精神的DVチェックリスト|被害のサインとセルフチェック
精神的DV(モラハラ)の恐ろしさは、被害者が自分の心理的支配や潜在的DVの被害を受けていると自覚しにくい点にあります。
以下の項目は、多くの被害者に見られる共通の被害兆候であり、精神的圧迫のセルフチェックに役立ちます。
精神的DVセルフチェック
まずは、現在の生活状況やパートナーとの関係性を振り返ってみましょう。
次の項目に当てはまる場合、心理的拘束や行動制限を伴う精神的DVの被害を受けている可能性があります。
【態度の支配】
- [ ] 相手が帰宅する音がすると強い緊張を感じる。
- [ ] 相手の顔色を常に伺い、機嫌を損ねないよう言葉を選んで生活している。
- [ ] 自分の意見を言うと、数時間に及ぶ長時間説教や人格否定を受けるため、黙るようになった。
- [ ] 気に入らないことがあると何日も無視行為をされ、存在を否定される。
【行動の制限】
- [ ] スマホ監視(LINEのチェックやSNSのフォロワー管理)を強要される。
- [ ] 友人や実家との連絡を嫌がられ、交友関係制限をされている。
- [ ] どこで誰と会うか、何時に帰るかを細かく報告させられ、外出制限がある。
【心理的追い込み】
- [ ] 何か問題が起きると、すべて「お前が悪い」「お前のせいで俺(私)は怒っている」と責任転嫁される。
- [ ] 「そんなこともできないのか」「生きている価値がない」といった人格攻撃を日常的に受けている。
精神的DVを受け続けるリスク
精神的DVを放置し、我慢し続けることには、長期被害や強い心理的負荷など、高いリスクが伴います。
心理的依存(共依存関係)の深化
長期間の心理的支配や関係性の影響により、「この人には私がいなければダメだ」「自分にも悪いところがある」と思い込まされ、心理的拘束や共依存の状態に陥る傾向があります。
これにより、被害から逃れるための気力が奪われていきます。
深刻な精神疾患の発症
慢性的ストレスは、重度のうつ病やPTSD症状などの精神的健康リスクを引き起こすおそれがあります。
一度深く傷ついた心は、回復までに数年、あるいはそれ以上の長期的心理的影響を伴うことも少なくありません。
子どもへの影響(面前DV)
子どもの前で配偶者に暴言を吐く行為は「面前DV」と呼ばれ、心理的虐待として児童虐待に該当する可能性があり、児童相談所等への相談や通告の対象となる場合があります。
社会的孤立
加害者による家族関係遮断や外部との接触制限により、助けを求められる相手がいない心理的孤立状態となり、避難や自立がますます困難になり、支援困難や社会的制約も生じます。
精神的DVの証拠の集め方|録音・LINE・日記など有効な証拠
精神的DVは目に見えないため、裁判や慰謝料請求を見据えて、客観的な証拠となり得る資料を残しておくことが重要です。
加害者が「そのような発言はしていない」などと否定する場合でも、録音やメッセージの記録など客観的な資料が残っていれば、精神的DVの事実を裏付ける証拠として裁判所の判断において考慮される可能性があります。
精神的DVの証拠になるもの
精神的DVの立証において、法的に有効な証拠となり得る代表的なものを挙げます。
LINE・メール・SNS
暴言や人格否定のメッセージ履歴は、精神的DVの状況を示す客観的資料として、裁判所の判断において重要な証拠となる可能性があります。
「死ね」「役立たず」といった言葉だけでなく、執拗な行動報告の要求や返信が遅れたことに対する過度な責め立ても保存することが推奨されます。
録音データ・音声記録
罵倒や長時間説教の音声を録音したデータも、発言内容を客観的に示す証拠として裁判所の判断で考慮される可能性があります。
日記・被害メモ
「いつ」「どこで」「どのような理由で」「何を言われ、何をされたか」を詳細に記録した日常メモも証拠になり得ます。
当時の恐怖心や体調の変化も併記することが推奨されます。
医師の診断書・診療記録
心療内科や精神科での診療記録や通院履歴も、精神的DVによる健康被害との因果関係を判断する際の資料として考慮されることがあります。
証拠として弱いもの
証拠があれば必ず有効というわけではありません。
以下のようなものは、単独では「婚姻関係が破綻している」と裁判上判断されるには不十分な場合があります。
断片的な記録
一度だけの口論の録音や日時が不明確なメモは、証拠として弱く評価されることがあります。
精神的DVの立証には、加害行為が継続的であることを示す必要があります。
不貞行為などとは異なり、精神的DVは積み重ねが重要視されます。
一つひとつは小さな出来事に見えても、それが長期間続くことで婚姻関係が破綻したと言えるかどうかがポイントです。
日時や背景が不明確なメモ
いつの出来事か不明な書き置きや前後関係が不明瞭なメモは、裁判で証拠としての信頼性が低いと判断されやすいです。
第三者の伝聞
「友人が『あなたの夫は怖そうだね』と言っていた」といった主観的な伝聞は、裁判上、直接的な証拠としての力は弱いとされます。
精神的DVで離婚できる?
精神的DVの内容や程度によっては、離婚原因として認められる可能性があります。
特に、暴言や無視、心理的支配などにより婚姻関係の破綻が認められる場合には、離婚理由として問題となることがあります。
相手が離婚を拒否している場合でも、家庭裁判所での調停や裁判などの法的手段を通じて、離婚手続きを進めることができる場合があります。
精神的DVは離婚理由になる
日本における離婚手続きは、主に協議離婚、調停離婚、裁判離婚の3段階に分かれます。
協議離婚
お互いの合意がある場合、法律上の「不貞行為」などの離婚原因がなくても、精神的DVを理由として離婚することが可能です。
協議離婚では、法律上の離婚原因がなくても双方の合意によって離婚が成立します。
調停離婚
相手が協議に応じない場合には、家庭裁判所の調停手続きを通じて離婚を進めることができます。
日本の離婚制度では、原則として裁判の前に離婚調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
精神的DVが理由の場合、調停委員が夫婦関係の状況や被害の程度を確認し、慰謝料や財産分与などの離婚条件について調整しながら、合意による解決を目指します。
裁判離婚
相手が離婚を拒否し続ける場合には、家庭裁判所での離婚訴訟(裁判離婚)が必要になることがあります。
裁判離婚では、民法第770条1項5号に定める「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかが主な争点となります。
執拗な暴言や無視、心理的支配により夫婦の協力関係が修復困難なほど破綻している場合には、婚姻関係の破綻が認められ、裁判所の判断により離婚が認められる可能性があります。
裁判では、被害者が受けた精神的苦痛や婚姻関係の破綻状況を示す客観的証拠が重要になります。
精神的DVを理由に離婚や慰謝料請求を主張する側が、その事実を裏付ける証拠を提出して立証していく必要があります。
裁判で精神的DVが認められる基準
単なる「性格の不一致」や「一時的な夫婦喧嘩」と、法的に認められる「精神的DV」の境界線は、その言動の継続性・悪質性・結果にあります。
- 継続性:一過性の怒りではなく、数か月、数年にわたり慢性的に繰り返されているか。
- 悪質性:相手を人間として尊重せず、自尊心低下を狙った人格否定や、過度な行動制限が含まれているか。
- 重大な結果:被害者が抑うつ状態やPTSD症状を患うなど、心身に深刻なダメージを負っているか。
裁判所はこれらの事情を総合的に考慮し、証拠に基づいて判断します。
被害者が受けた精神的苦痛や家庭環境の破綻状況を裏付ける客観的証拠は、裁判所の心証形成において重要な要素となります。
精神的DVの慰謝料相場|いくら請求できる?裁判例も解説
精神的DVによる精神的苦痛に対しては、加害者に対し損害賠償請求(慰謝料請求)を行うことができる場合があります。
これは、配偶者の違法な行為による損害として、不法行為責任(民法第709条)に基づき請求されるのが一般的です。
慰謝料は、被害者が受けた精神的苦痛を金銭によって慰謝するための損害賠償ですが、その金額を算定する際には、被害状況や婚姻関係の経緯などの事情を裁判所が総合的に評価する必要があります。
精神的DV慰謝料の相場
精神的DVの慰謝料額は事案による差が大きく、一概に相場を示すことは難しいものの、裁判例や実務上の傾向では、数十万円から200万円前後で判断される例が見られます。
ただし、具体的な金額は婚姻期間、DVの頻度や悪質性、精神的苦痛の程度など、個別の事情によって大きく異なります。
身体的DV(殴る・蹴る)を伴わない精神的暴力のみの場合には、暴言や心理的支配の事実を裏付ける証拠の有無が、慰謝料の金額判断に大きく影響する傾向があります。
精神的苦痛の程度や婚姻関係への影響を客観的証拠によって示すことができれば、事案によっては高額の慰謝料が認められる場合もあります。
慰謝料が高くなるケース
裁判所が慰謝料額を算定する際には、さまざまな事情が総合的に考慮されます。
特に以下の要素がある場合には、行為の悪質性が高いと評価され、慰謝料増額の要因となる可能性があります。
①加害期間が長期にわたる
数年、十数年と長期間にわたって人格攻撃や心理的支配が続いていた場合。
②精神疾患を発症している
DVが原因で抑うつ状態、不安障害、PTSD症状などを発症し、医師の診断書や心療内科の診療記録、通院履歴などの医学的資料が存在する場合。
③子どもへの悪影響がある
子どもの前で罵倒を繰り返す(面前DV)など、家庭環境悪化の責任が重い場合。
④他の有責事由との併存
精神的DVに加え、相手の不貞行為(浮気)や生活費を渡さない経済的支配など、配偶者の有責行為が重なっている場合。
⑤被害者が社会的・経済的に孤立させられていた事情
被害者を孤立状態に追い込み、離婚後の生活基盤を破壊するような執拗な攻撃があった場合。
精神的DV(モラハラ)で比較的高額の慰謝料が認められた裁判例
【東京地裁令和元年9月10日判決として紹介される事例】
精神的DV(モラハラ)において、どのような言動が違法とみなされ、どの程度の慰謝料が認められるのか。参考になる近年の裁判例をご紹介します。
【事件の概要】
妻(原告)が、夫(被告)から日常的に暴言を吐かれ、精神的苦痛を受けたとして、離婚に伴う慰謝料等を請求した事案です。
【裁判所が認定した言動】
裁判所は、夫による以下のような言動を、社会通念上許容される範囲を超えるモラルハラスメント行為と評価しました。
- 激しい暴言:「死ね」「バカ」「クズ」「親の教育が悪すぎる」「子供をおろせ」といった人格否定。
- 不合理な攻撃:取り皿を使うかどうかで1時間以上怒鳴り続ける、体調不良で寝ている妻に対し「日頃の行いが悪い」と責める。
【裁判所の判断と慰謝料額】
裁判所は、これらの行為が社会的に許容される範囲を逸脱していると判断しました。
- 認められた慰謝料:200万円
- 弁護士費用:20万円
- 合計:220万円
この事案では、身体的な暴力がなくても、暴言の内容や頻度、妊娠中という状況などを総合的に考慮し、比較的高額な慰謝料が認められています。
このように精神的DVでも慰謝料が認められる場合があります。
ただし、すべての暴言が直ちに違法となるわけではなく、言動の内容・頻度・夫婦関係への影響などが総合的に判断されます。
精神的DVを受けたときの対処法
精神的DVは、時間が経過するほど被害者の精神を消耗させ、心理的支配が強まる傾向があります。
長期間続くと、自尊心の低下や無力感が強まり、状況から抜け出すことが難しくなるケースも少なくありません。
ここでは、現在の状況から抜け出し、安全を確保しながら自分自身を守るための具体的な対処法や相談方法について解説します。
すぐに取るべき行動
重要なのは、「独りで抱え込まないこと」です。
精神的DVは外部から見えにくいため、信頼できる第三者や専門機関に相談することが重要とされています。
客観的な視点を取り戻す
信頼できる友人や知人、または専門家に話をすることで、自分が置かれている状況を客観的に見直すきっかけになります。
第三者の視点を得ることで、精神的DVの可能性に気づくケースもあります。
被害の記録を開始する
すぐに家を出る決心がついていなくても、日々の暴言や無視行為を記録し始めることが推奨されます。
これらの記録は、離婚や慰謝料請求などを検討する際に、事実を整理したり証拠として活用できる場合があります。
自分の感情を否定しない
「辛い」「怖い」と感じることは、精神的DVによる心理的ストレスに対する自然な反応といえます。
その感情を無理に否定せず、自分の状態を大切にすることが重要です。
安全を確保する方法
精神的DVが激化し、身の危険や精神的限界を感じる場合には、別居や避難などで安全を確保することも選択肢の一つとして考えられます。
避難準備
相手に気づかれないよう、少しずつ準備を進めます。
現金、通帳、健康保険証、身分証明書などの重要書類と、これまでに集めた証拠記録をまとめておきましょう。
一時保護とシェルターの利用
配偶者暴力相談支援センターや女性相談センターなどが提供する一時保護施設、民間シェルターが利用できる場合は、緊急的に安全な場所へ避難することも可能です。
保護命令の申し立て
今後の身体的暴力の危険性が高い、あるいは執拗なつきまといが予想される場合には、DV防止法に基づき、裁判所に対して接近禁止命令などの保護命令を申し立てることで、法的に身を守る手段を取ることができます。
精神的DVの相談先
精神的DVの被害は外部から見えにくく、「この程度でDV相談をしてよいのだろうか」と悩む方も少なくありません。
特に、精神的暴力は身体的暴力と異なり外傷が残らないため、被害者自身がDV被害であると認識しにくいケースも多いといわれています。
しかし、精神的DVの問題は一人で抱え込まず、行政の相談窓口や公的支援機関、警察、弁護士などの専門機関に相談することが重要とされています。
早い段階で第三者に相談することで、安全確保や支援制度の利用につながる可能性があります。
【相談先の役割】
| 相談先 | 主な役割 | こんなとき |
|---|---|---|
| 配偶者暴力相談支援センター | DV相談・避難支援・生活支援 | 逃げ場所や相談先を探したい |
| 警察 | 安全確保・加害者への警告 | 身の危険がある、脅迫されている |
| 弁護士 | 離婚・慰謝料など法的対応 | 離婚や法的解決を考えている |
配偶者暴力相談支援センター
配偶者暴力相談支援センターは、DV防止法(正式名称:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)に基づき、各自治体などに設置されている公的なDV相談機関です。
主な支援内容は次のとおりです。
- DVに関する電話相談・面接相談
- 緊急時の一時保護施設やシェルターの紹介
- 福祉制度や生活再建に関する支援
「まず誰かに相談したい」「安全な場所に避難したい」といった場合に、公的支援機関として活用できる場合があります。
警察
精神的DVが身体的暴力に発展するおそれがある場合や、身の危険を感じる場合には、警察への被害相談や緊急避難の検討も重要になります。
緊急の危険がある場合には 110番通報 を行いましょう。
また、緊急でない場合でも、警察署の生活安全課ではDV相談を受け付けています。
警察に相談した記録は、後に裁判所でDV防止法に基づく保護命令の申し立てなどの参考資料として活用される場合があります。
どこに電話すればいいか迷った場合には、全国共通の短縮ダイヤル『#8008(はれれば)』(DV相談ナビ)を利用する方法があります。
公式案内では、お近くの都道府県配偶者暴力相談支援センターにつながるとされています。
弁護士
精神的DVを理由に離婚や慰謝料請求を検討している場合、弁護士に相談することで、法的手段や手続きの選択肢について助言を受けられる可能性があります。
特に、精神的DVが原因で婚姻関係の破綻が生じている場合には、民法第770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかや、不法行為責任(民法第709条)に基づく慰謝料請求の可能性について検討されることがあります。
弁護士に相談することで、精神的DVを理由とする離婚や慰謝料請求など、次のような法的問題について専門的な助言を受けることができます。
- 離婚の見通し
- 慰謝料請求の可能性
- 財産分与・養育費などの条件
- 離婚手続きの進め方
弁護士が代理人となることで、相手との交渉や、家庭裁判所での離婚調停、裁判所での離婚訴訟などの手続についてサポートを受けることができます。
離婚調停と離婚訴訟では適用される手続法も異なるため、具体的な進め方は事案に応じた確認が必要です。
精神的DVについて弁護士に相談するメリット
精神的DV(モラハラ)の問題では、離婚や慰謝料請求などの法的問題が生じることがあります。
弁護士に相談することで、DVや離婚問題に関する法律や裁判例、実務上の運用を踏まえた対応方法について助言を受けることができます。
証拠収集のサポート
精神的DVは身体的暴力と異なり外傷などの痕跡が残りにくいため、被害の立証が難しいといわれています。
そのため、裁判所で事実関係を判断してもらうためには、証拠の収集や整理などの客観的資料を準備することが重要になる場合があります。
弁護士に相談することで、LINEやメール、録音データ、被害メモなどの資料のうち、どのような証拠が裁判上重要な意味を持つ可能性があるのか、また証拠としてどのように整理・保存すべきかについて助言を受けることができます。
慰謝料や離婚条件の整理
精神的DVによる離婚では、慰謝料のほか、財産分与や養育費、婚姻費用などの問題が生じることがあります。
また、未成年の子どもがいる場合には、親権や面会交流など「子の福祉」を考慮した離婚条件の整理も必要になる場合があります。
弁護士に相談することで、これらの権利関係について法律や裁判例、裁判所の一般的な判断傾向などを参考にした見通しについて助言を受けることができます。
交渉や手続きのサポート
精神的DVの被害者にとって、加害者と直接話し合うことは心理的支配や過去の精神的苦痛を想起させる可能性があり、大きな精神的負担になる場合があります。
弁護士が代理人となることで、相手との離婚交渉や家庭裁判所での離婚調停・離婚訴訟などの手続について、法律に基づいたサポートや助言を受けることができます。
精神的DVに関するよくある質問
精神的DV(モラハラ)の被害に遭われている方が抱きやすい疑問について、実務的な視点から解説します。
Q1.精神的DVだけで離婚できますか?
A1.精神的DVのみを理由として離婚が認められる可能性があります。
身体的な暴力がなくても、精神的DVが原因で民法第770条1項5号の「婚姻を継続し難い重大な事由」があると認められた場合には、裁判離婚が認められる可能性があります。
裁判所は、単なる性格の不一致ではなく、一方が相手を心理的支配下に置き、平穏な共同生活が完全に破壊されている(婚姻関係破綻)かどうかを判断基準とします。
執拗な人格否定、経済的支配、長期間の無視などが継続的に行われていることを証拠によって示すことができれば、裁判所が婚姻関係の破綻を認め、離婚が認められる可能性があります。
Q2.精神的DVの証拠がない場合は?
A2.現時点で十分な証拠がない場合でも、後から証拠を整理・収集できるケースがあります。
被害メモ・日記
今日から、何を言われ、どう感じたかを詳細に記録してください。
デジタル記録
過去のLINEのメッセージ履歴やメールを整理し、暴言が含まれるものを保存(スクリーンショットなど)してください。
医療機関の受診
眠れない、動悸がするといった症状があるなら心療内科を受診しましょう。
通院履歴や診断書は、精神的苦痛の存在を客観的に示す資料として裁判所で考慮される場合があります。
第三者の証言
相談していた友人や、実家の両親の証言も、状況を裏付ける証拠になり得ます。
Q3.精神的DVは警察に相談できますか
A3.精神的DVについて警察に相談することは可能です。
状況によっては、早い段階で相談しておくことが重要になる場合もあります。
各警察署の「生活安全課」には、DVの相談窓口が設置されています。
警察に相談しても直ちに逮捕に至るとは限りませんが、相談記録を残しておくことが、その後の安全確保や法的対応を検討する際の資料になる場合があります。
また、事案の内容に応じて、警察が加害者に対して注意喚起や対応を行うことがあります。
まとめ|精神的DVに悩んだら早めの相談を
精神的DVの問題は、時間の経過だけで自然に解決するとは限りません。
「いつか優しくなってくれるはず」「私がもっと頑張ればいい」と考えても、状況が自然に改善するとは限りません。
耐え続けるほどにあなたの自尊心は削られ、孤立状態が深まってしまいます。
一人で抱え込まず、弁護士などの専門家へ相談することで、今後の対応について具体的な選択肢を検討することができます。
ネクスパート法律事務所では、離婚問題に強い弁護士が在籍しています。
ご来所による面談はもちろん、仕事が忙しくて相談に行けない人や遠方にお住まいの方のためにオンライン法律相談サービスも実施しています。
ぜひ一度ご相談ください。
コラム監修者
SHIZU ISHIDA
所属:東京オフィス
広島県広島市出身。青山学院大学心理学科、東海大学法科大学院卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、刑事、民事、法人案件等幅広い分野の専門知識を習得。弁護士登録10年目にしてネクスパート法律事務所に入所し、現在は主に離婚事件に注力している。