別居中であっても離婚が成立していない場合には、収入の多い方が低い方の婚姻生活が維持できるように婚姻費用を支払う必要があります。日本においては夫側の収入が高いことが多いため、一般的には夫から妻へ婚姻費用を支払うことになります。しかし、別居中で夫婦間がすでに紛争化しているケースも多く、婚姻費用の支払いを拒否される場合があります。(参考:婚姻費用の支払いは拒否できる?)
夫婦関係が継続中である以上はお互いが扶助しあう義務が残されており、支払いに応じない場合には家庭裁判所へ「婚姻費用の分担請求調停」を申し立てることも可能です。そこで、この記事では家庭裁判所における婚姻費用の分担請求調停とは何か、調停の流れや調停委員から聞かれることなどを中心に解説します。
ネクスパート法律事務所が
問題解決に向けて全力でサポートいたします
目次
婚姻費用の分担請求調停とは
婚姻費用の分担請求調停とは、婚姻費用の請求が夫婦間の話し合いでまとまらない場合に、家庭裁判所へ申し立てを行うことで話し合いを進める方法です。調停の基本は言い争うことではなく、円満な解決を目指すことです。調停委員2名と裁判官1名の下で解決を模索していきます。
婚姻費用と聞くとお子様への養育費を連想するかもしれませんが、お子様がいなくても請求できます。大まかにまとめると「離婚までに生じる生活費全般」について家庭裁判所を通して請求するもの、と捉えておきましょう。
調停では、夫婦の現在の資産や収入の状況などが聞き取りされ、適切な婚姻費用の額を算出し解決案が提案されます。もちろん、調停は必ずしも合意が強制されるものではないので、調停が不成立となった場合には審判に移行します。
・婚姻費用の分担請求調停 | 裁判所
・婚姻費用とは|別居中の生活費を分担する義務や養育費との違い
婚姻費用の分担請求調停で事前に準備すべきこと
家庭裁判所へ婚姻費用の分担請求調停を申し立てる場合には、事前にどんな準備を行う必要があるでしょうか。この項では必要な準備物や調停への心構えについて触れていきます。
申立てに必要な書類とは
申立てに必要な書類は以下の通りです。
- 申立書原本及びその写し
- 連絡先等の届出書
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 夫婦の戸籍謄本
- 収入関係を証明するもの
- 収入印紙と郵券
申立てに関する書類はご自身で記入することを想定しており、わかりやすく作られています。記入に関しては家庭裁判所にてアドバイスを受けることも可能です。また、申立てに必要な書類は、こちらの裁判所のホームページにまとめられています。
1. 申立書原本及びその写し
調停を申し立てる書類の「表紙」部分です。申立人の住所氏名や相手方の住所氏名などを記載します。お子様がいる場合には、お子様に関する情報も記載します。
申立書には「申し立ての趣旨」や「申し立ての理由」などを細かく記載する欄もあり、現在の夫婦間における婚姻費用の支払い状況などを書き入れてきます。この情報をもとに調停がスタートするので、正確に記載しましょう。
2. 連絡先等の届出書(必要に応じて非開示の希望に関する申出書)
調停を開始すると、裁判所が書類を送付や日中に電話連絡を行う必要があるため連絡先を確認します。日中連絡が可能な電話番号などを記載するほか、相手方に知られたくなり情報がある場合には「非開示の希望に関する申出書」を提出します。DVなどの事情があって別居している場合には、相手方に住所や電話番号が裁判所を経由して漏れないように配慮を求めることが可能です。
3. 事情説明書
事情説明書とは、婚姻費用の分担請求に至った経緯を細かく記載する用紙です。請求に至ったきっかけや現在の収入状況を記載します。
(こちらのページでダウンロードできます。)
4. 進行に関する照会回答書
調停を今後進行していくにあたり、裁判所が知りたい現在の夫婦状況やDVの有無などを記載します。
5. 夫婦の戸籍謄本 1通
※抄本ではありませんので注意しましょう。
6. 収入関係を証明するもの
婚姻費用の計算には裁判所側が現在の収入状況を把握する必要があるため、収入関係を客観的に証明できる資料を提出します。源泉徴収票や給料明細などを用意します。
7. 収入印紙と郵券
※申立て予定の裁判所に必要枚数と内訳を確認しましょう
調停で聞かれることとは
婚姻費用の分担請求調停では、調停委員2名と裁判官1名が話し合いの進行役となります。提出した事情説明書や収入状況に関する資料等を基にしてさまざまな質問を受けます。
有利な結果を得るためには何を聞かれ、どう答えるかは非常に重要です。では、調停ではどんな質問をされるのでしょうか。一般的な質問内容は以下の3つの通りです。
1. 収入に関する質問
婚姻費用はお金に直結している問題のため双方の収入状況に関しては細かく質問を受けます。前出ですが、婚姻費用とは収入の多い方が少ない方へ支払うものですが、考慮すべき点はないか調停委員は質問をすることが一般的です。収入が多くても医療費や住宅ローンが高額などの事情があれば配慮がなされることがあります。
2. 結婚に至った経緯や現在の状況
結婚から別居に至った背景についてもヒアリングされます。DVなどの事情があればそうした事実も伝えていきます。婚姻費用に関しての調停を行った理由なども聞かれますので、答えを用意しておきましょう。
3. お子様に関すること
お子様がいる場合は婚姻費用の額にも大きく影響するため、現在の養育状況に関することも聞き取りされます。学校に関する費用や医療費、塾や部活に関する費用も答えていきます。
この他にも調停委員の求めに応じて答えていきます。調停に臨まれるのは初めての方が多く、緊張するのも当然ですがしっかり事前に準備をして答えていくようにしましょう。
婚姻費用分担請求調停の流れ
婚姻費用の分担請求調停はどのような流れで行われるでしょうか。一般的な流れについて解説しますので是非ご参考ください。
家庭裁判所に申し立てる
家庭裁判所へ必要書類を準備したら、申立てを行います。書類は受領されると不備をチェックされ、問題が無ければ調停の期日調整へ移行します。
第一回期日の日程調整
第一回目期日の日程調整が裁判所主導で行われます。ご自身で相手方へ連絡を行う必要がありません。申立てからおおよそ1か月程度あとに調整されますが、社会情勢などの影響で期日が先延ばしになることもあるのでしっかりと確認しましょう。
第一回期日の実施
期日が開始されます。調停は審判よりも長く、1回に付き2時間以上かかることもありますので、十分な余裕をもって臨みましょう。
第二回目以降の期日
双方の言い分をヒアリングしていくため、調停は複数回行われることが一般的です。複数回の話し合いを経て、合意に至れば調停が成立します。
調停成立
一般的に3~4回目程度で調停が合意できれば調停成立です。成立後は調停調書を作成し、合意内容を書面化します。調停調書は裁判所で作る書類のため、口約束やメモ書きとは異なり法的な効力があります。調停合意に至ったにも関わらず婚姻費用の支払いがなされない場合には、調停調書を使って強制執行を行うことも可能です。
不成立なら審判に移行
調停を申立てした側も、申立てされた側も、調停の内容に納得がいかなければ不成立にすることができます。無理に合意をする必要はなく、審判に移行します。
婚姻費用分担請求調停にかかる費用
婚姻費用の分担請求調停には、おおよそいくら程度の費用がかかるのでしょうか。申立てに関する費用は2つに分けて考えます。1つは裁判所への費用、もう1つは弁護士費用です。
申立てにかかる費用
家庭裁判所への必要書類でも触れましたが、申立ての際には必要書類とセットで印紙と郵券を提出する必要があります。例として、東京家庭裁判所の場合は収入印紙1,200円と郵券1,022円(100円×2枚,84円×8枚,10円×14枚,1円×10枚)を用意します。郵券は書類送付に使われる切手代です。管轄の家庭裁判所によって費用が異なる場合があるので、書類提出の前に確認をしましょう。
弁護士費用
婚姻費用の分担請求調停に関してはご自身で調停に臨むことも可能ですが、離婚調停と並行で行うことも多く大変な負担になります。調停委員への対策や準備、連絡窓口を弁護士へ依頼できるメリットもあるため依頼を検討しましょう。
弁護士費用の一般的な相場は、着手金30万~40万前後に報酬金が加算されます。調停に出頭する日当も追加されますが、離婚調停と並行している場合には弁護士費用を調整するケースもありますので、詳しくは弁護士に確認しましょう。
・離婚の弁護士費用の相場はいくら?費用を安く抑えるには
・離婚・不倫慰謝料の弁護士費用|ネクスパート法律事務所
婚姻費用分担請求調停にデメリットはある?
婚姻費用を調停で行う場合には何かデメリットはあるでしょうか。婚姻費用は協議を重ねても難航することが多く、調停に移行した方が話し合いに目途が付くためメリットの方が大きいでしょう。また、調停調書が得られれば強制執行への手段も得ることになります。
生活がひっ迫するなどの事情があれば、婚姻費用は調停や審判の結果を待たなくても仮払いを求めることも可能です。しかし、早期の決着が難しい場合には審判に移行するため問題が長期化することがあります。また、相手方に現在収入が無ければ調停を行っても婚姻費用が得られない可能性があるので注意が必要です。
・養育費の強制執行とは|デメリットとお金がとれない場合の対処法
まとめ
この記事では婚姻費用の分担請求調停について調停の流れや聞かれることなどを焦点に詳しく解説しました。婚姻費用は生活やお子様のためにも欠かせない費用であり、別居中だからこそ求める必要がある費用です。婚姻費用はさかのぼって請求をすることが難しいため、別居と同時に調停へ移行することがおすすめです。詳しくはお気軽に、離婚や婚姻費用などに強い弁護士へご質問ください。