突然、裁判所から訴状が届き動揺していることでしょう。
貞操権侵害で訴えられたら、まずは必ず訴状の中身を確認しましょう。訴状が届いただけでは、あなたに何かしらの制裁が与えられるわけではありません。
訴状に書かれている内容は、あくまで相手(原告)の主張であって、あなたの認識と異なる部分もあるでしょう。しかし、訴状が届いたのに、無視すると、相手(原告)の主張通りの判決が下される可能性があります。
貞操権侵害で訴えられた場合には、何かしらの対応をする必要があります。
この記事では、主に次のことについて解説しています。
- 貞操権侵害で訴えられたらまずすべき3つのこと
- 貞操権侵害で訴えられたら反論時に確認すべき4つのポイント
ぜひ参考にしてください。
目次
貞操権侵害で訴えられたらまずすべき3つのこと
貞操権侵害で訴えられたらまずすべきことは、次の3つです。
- 訴状を読み相手の主張内容を確認する
- 答弁書の提出期限を確認する
- 裁判期日を確認する
以下、詳しく見ていきましょう。
訴状を読み相手の主張内容を確認する
1つめは、訴状を読み相手の主張内容を確認することです。
相手がどのような主張をし、どのような請求をしているのかを確認しましょう。
「嘘ばかり書いてあって許せない。」「一方的な主張だから無視したい。」
訴状を読むと、多くの人がこのような怒りの感情を抱く傾向にあります。
訴状に書かれている内容は、あくまで相手(原告)の主張であって、裁判所が認めた内容ではありません。訴状に書かれている内容が、全て嘘である可能性もゼロではありません。
では、なぜ裁判所がそのような訴状を受理して、あなたに送ってきたのかというと、訴状に書かれた内容を認めるか・認めないかは、あなたの反論や双方の証拠を元に、裁判の中で決めていくからです。
訴状に書かれた相手の主張に対して、あなたの主張・反論を答弁書という形で提出することで、裁判が進んでいきます。
したがって、まずは訴状の中身を確認し、相手の主張と自分の認識を整理しましょう。
答弁書の提出期限を確認する
2つめは、答弁書の提出期限を確認することです。
裁判所から届いた書類の中に、第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状という書面が入っています。その書面に、答弁書の提出期限が記載されていますから、その日付を確認しましょう。
答弁書とは、訴状に記載された相手(原告)の言い分に対して、あなた(被告)の言い分を記載して裁判所に提出する最初の書面です。訴状に記載されている内容のどこが間違っていて、どこが正しいのかを書き、その他にもあなたの言い分がある場合には記載しましょう。
裁判所から同封されている答弁書の記入例や、当事務所の「答弁書の書き方|初めてでも簡単に作れる記入例&テンプレート付き」を参考に、答弁書を作成しましょう。
相手に弁護士が付いている場合には、ある程度の証拠が揃っており、勝訴の見込みがあるとして訴訟を提起していることが考えられます。そのため、あなたとしても認識が違う・反論をしたいと考えている場合には、この段階で弁護士に相談することをおすすめします。
なお、答弁書の提出期限を過ぎてしまった場合でも、第1回口頭弁論期日の開始時間前までは答弁書を受け付けてもらえます。したがって、答弁書の作成が間に合わない場合には、事前に裁判所に連絡を入れることをおすすめします。
裁判期日を確認する
3つめは、裁判期日を確認することです。
先ほどと同様に、第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状に、第1回口頭弁論期日の日時が記載されていますから、確認しましょう。
この日に仕事の都合等でどうしても出席できない場合、裁判所に連絡してみましょう。日付を変更してもらえる場合があります。
期日が変更できない場合でも、答弁書を提出すれば、第1回口頭弁論期日に限り、裁判に出席できなくても、答弁書に記載した内容が法廷で述べられたものとみなされます(擬制陳述)。第1回口頭弁論期日はあなた(被告)の予定を聞かずに設定されることから、出席できない場合の特別な扱いが法律で定められています。
第1回口頭弁論期日に出席するのが望ましいですが、出席できない場合には、必ず答弁書を提出しましょう。
貞操権侵害で訴えられたら無視は禁物
訴状が届いたにもかかわらず無視をすると、あなたの言い分はなく、訴状に記載された内容を認めたものとして、相手(原告)の主張通りの判決が下される可能性があります。
訴状に記載された内容が事実と異なる場合や納得のいかない場合には、答弁書を提出し、裁判期日に出席するようにしましょう。
貞操権侵害で訴えられたら反論時に確認すべき4つのポイント
貞操権侵害で訴えられたら、本当に貞操権侵害が成立するのかを確認しましょう。
貞操権侵害が成立するには、次の3つの要件が必要です。
- ①性的関係があった
- ②相手の意思に反する性交渉だった
- ③相手の性的な判断の自由や自己決定権を不法に侵害した
裁判では、相手とあなたとの間に、これらの要件に該当する事情があったかが審理されます。
これらの要件に該当する事情があったかを判断するにあたっては、次の4つがポイントとなります。
- 性的関係があったかどうか
- 積極的に独身であると誤解させたかどうか
- 結婚を期待させるような言動があったかどうか
- 相手があなたを独身と信じたことに合理的な理由があるかどうか
これら4つのポイントをご自身の交際態様と照らし合わせて、反論すべき点があるかを検討してみましょう。
性的関係があったかどうか
1つめのポイントは、性的関係があったかどうかです。
貞操権侵害が成立するには、相手との間に性的関係があったことが必要です。
そもそも貞操権とは、自分が性的関係を持つ相手を自分で決める権利です。性的関係があってはじめて、貞操権の侵害が生じます。そのため、たとえ独身であると偽って交際していたとしても、プラトニックな関係の場合には、原則として貞操権侵害は成立しません。
相手との間に性的関係がなかった場合には、その旨を反論しましょう。
積極的に独身であると誤解させたかどうか
2つめのポイントは、積極的に独身であると誤解させたかどうかです。
誰と性的関係を持つかを自分で決める前提として、ある特定の事実を知っていれば決して性的関係を持たなかったという場合に、貞操権侵害に該当しうるものと考えられます。
つまり、相手が既婚者であると知っていれば性的関係を持たなかったにもかかわらず、独身であると騙されたことで性的関係に及んだ場合には、本章冒頭の②意思に反する性交渉だったこと、③性的な判断の自由や自己決定権を不法に侵害されたことの2つの要件に該当すると判断される可能性があります。
明示的に独身である旨を発言していなくても、独身であると誤解させる行動があった場合にも、貞操権侵害が成立する場合があります。
令和 4年 8月25日東京地裁判決においても、積極的に独身であると偽ったことはなく、既婚者であることを告げなかった場合でも、妻子ある男性であれば通常は取らない行動をしている等の事情がある場合には、貞操権侵害の成立が認められています。
この裁判では、次のような事情から、あたかも独身であるかのように誤信させる言動があったものと認められるとされています。
- 原告の家族と宿泊を伴う旅行に行ったり、海外でも原告の家族と共に観光したりしていた
- 深夜に原告宅を訪問したり、原告宅の鍵を受領したりしていた
独身であるかの話を全くしたこともなく、相手が勝手に独身であると信じ込んだ等の事情がある場合には、その旨を反論しましょう。
結婚を期待させるような言動があったかどうか
3つめのポイントは、結婚を期待させるような言動があったかどうかです。
たとえ独身と偽って性的関係に及んだ場合でも、必ずしもすべてのケースで違法と評価されるわけではありません。
裁判実務では、結婚に希望を抱かせ、少なくとも結婚を前提とした交際であった場合に、貞操権侵害を認めている傾向にあります。
一度も結婚の話をしていない場合には、結婚するか否かに関わらず性的関係を持っていた、つまり相手が独身であるかどうかは関係がなく交際をしていたことから、本章冒頭の③性的な判断の自由や自己決定権を不法に侵害されたとは言えないと考えられるからです。
結婚を期待させるような言動があったことで、結婚を前提に性的関係を持った場合には、③性的な判断の自由や自己決定権を不法に侵害されたことに該当すると判断される可能性があるでしょう。
令和 3年11月25日東京地裁判決では、妻子があるにもかかわらずマッチングサイトに登録し、独身を装って女性と性交渉をするという被告の行動は、社会的に不適切であったといわざるを得ないとしつつも、次のようなことから婚姻に向けた期待が形成されるような事情があったとも認め難いとし、貞操権侵害の成立を否定しています。
- 原告と被告はわずか数日間に2回しか会っていない
- その都度性交渉をしたとしても、両者が婚姻を前提とした交際をしたとはいえない
ワンナイトラブの関係であった場合や結婚の意思はないことを明言していた等の事情がある場合には、その旨を反論しましょう。
相手があなたを独身と信じたことに合理的な理由があるかどうか
4つめのポイントは、相手があなたを独身と信じたことに合理的な理由があるかどうかです。
たとえ独身と偽って性的関係に及んだ場合でも、相手が嘘だと気付いていた場合や、嘘なのではないかと疑念を抱いていた場合には、貞操権侵害が否定されます。
相手が独身と信じたことに落ち度があれば貞操権侵害が認められない、もしくは認められた場合でも慰謝料が低額になる場合があります。
相手があなたを独身と信じたことに合理的な理由があるかどうかは、次のような要素から個別具体的に判断されます。
- 交際開始の経緯
- 相手の社会的地位・年齢
- あなたの年齢、婚姻歴の有無
- あなたの対応等
例えば、独身限定の婚活パーティーで出会った場合には、相手があなたを独身と信じたことに合理的な理由があると判断される可能性は高いでしょう。
「結婚を前提に付き合って欲しい。」と言っていた場合でも、土日や祝日には会えない、あなたの家に一度も招いていない状況で、ある程度の年齢や社会経験のある人であれば、「もしかして既婚者なのでは?」と気づける余地があったと判断される可能性もあるでしょう。
相手が、あなたのことを既婚者ではないかと疑念を抱いていたことを示すやり取り等があった場合には、その旨を主張しましょう。
貞操権侵害で訴えられたら早めに弁護士に相談を
貞操権侵害で訴えられたら早めに弁護士に相談することをおすすめします。
貞操権侵害が成立するかどうかは、個別具体的な事情が考慮される部分が多く、反論の仕方によって裁判の結果が大きく変わることもあります。
弁護士であれば、貞操権侵害が成立する事案であるのかどうかを、法的知識や過去の裁判例等を踏まえて適切に判断できるでしょう。
貞操権侵害で訴えられた人の中には、「配偶者にバレずに解決したい。」という要望を持っています。本人訴訟の場合には、裁判所からの電話や郵便は全てご自宅に届くことから、配偶者にバレるリスクも高くなるでしょう。
弁護士に依頼した場合、裁判所からの連絡窓口は原則として全て弁護士宛になります。
バレるリスクがゼロになるわけではありませんが、本人訴訟よりもバレるリスクを抑えられるでしょう。
まとめ
貞操権侵害で訴えられたら、まずは訴状の中身を確認しましょう。
訴訟を提起された以上、その内容が事実でも、嘘でも、何かしらの対応をする必要がありますから、ひとりでの対応に不安がある場合には、一度弁護士にご相談ください。
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