ネット上で慰謝料請求について調べてみると、求償権の放棄という言葉が度々登場してくるでしょう。
配偶者とは離婚をせずに、不倫相手にのみ慰謝料請求を検討している場合には、求償権の放棄についてきちんと理解しておく必要があります。
この記事では、次のことについて解説しています。
- 不倫慰謝料の求償権の放棄とは
- 求償権を放棄させるメリット・デメリット
- 求償権を放棄させる方法
ぜひ参考にしてください。
目次
不倫慰謝料の求償権の放棄とは?
求償権の放棄とは、求償権をあらかじめ放棄することです。
求償権は、不貞をした当事者の一方が慰謝料の全額を被害者に支払ったときに、不貞をしたもう一方の当事者に対して、支払った慰謝料の一部を請求できる権利です。
求償権について、詳しくはKW「図でわかる!不貞慰謝料の求償権とは?知っておくべきポイントを解説」の記事をご参照ください。
事前に求償権の放棄をすると、求償権を行使できなくなります。
求償権は、不貞をした当事者間に発生する権利義務であって、不貞の被害者であるあなたが権利義務の主体にはなりません。
では、なぜ慰謝料を請求する際に求償権の放棄が問題になるのかを見ていきましょう。
求償権の放棄が問題となる理由
求償権の放棄が問題になるのは、あなたが離婚をせずに不倫相手にのみ慰謝料請求した場合、求償権が行使されてしまうと家計内でお金が出入りする事態が生じるからです。
不倫相手にのみ慰謝料請求をし、不倫相手がそれに応じて、あなたに対して慰謝料全額を支払った場合には、不倫相手は、あなたの配偶者に対する求償権を取得します。
例えば、あなたが不倫相手に対して慰謝料200万円を請求し、不倫相手が慰謝料200万円全額を支払ったとします。
不倫相手は、慰謝料全額を支払ったことで、配偶者に対して、責任割合に応じた額(責任割合が半々の場合は)である100万円を請求できる権利を取得します。
配偶者と離婚しない場合、夫婦は同一家計であるケースが多いでしょう。
この場合、家計に200万円入った後で、同一家計から100万円支払わなければならない事態が発生します。
このように、不倫相手から慰謝料を獲得できても、求償権が行使されてしまうと、あなたの配偶者が不倫相手にお金を支払う義務が生じます。
このような問題を防ぐために、求償権の放棄をさせる必要があります。
不倫相手に求償権を放棄させるメリット
不倫相手に求償権を放棄させるメリットは、次の2つです。
- 後から求償権を行使される心配がない
- 不倫慰謝料に関する問題を一度で清算できる
以下、詳しく見ていきましょう。
後から求償権を行使される心配がない
後から求償権を行使される心配がない点です。
求償権は、不倫相手があなたに慰謝料を支払った時点で発生しますので、それ以降、あなたの配偶者に対して求償権を行使してくる可能性があります。
求償権には時効があり、慰謝料を支払った日から5年が経過すると時効が完成し、原則求償権は行使できなくなります。
逆に言えば、5年間は求償権が行使できるので、あなたからしたら、いつ求償権が行使されるのかわからない状態が5年も続いてしまいます。
数年後に不倫相手から突然連絡が来ることも考えられるでしょう。お金の問題も当然ありますが、あなたからしたら一刻も早く不倫相手のことを忘れたい、関係を絶ちたいと考えることと思います。
求償権を放棄させることで、後から求償権を行使される心配がなくなります。
不倫慰謝料に関する問題を一度で清算できる
不倫慰謝料に関する問題を一度で清算できる点です。
後に求償権が行使されることになれば、せっかく慰謝料請求の際に話し合いをし、お金の支払いまで行ったのに、もう一度連絡を取り合い、お金を支払う手続きを行う必要があります。
慰謝料請求の場面と求償権行使の場面とで、二度手続きが生じます。
求償権を放棄させることで、このような手間を回避し、不倫慰謝料に関する問題を一度で清算できるでしょう。
不倫相手に求償権を放棄させるデメリット
不倫相手に求償権を放棄させるデメリットは、次の2つです。
- 相応の慰謝料減額に応じなければならない可能性が高い
- 配偶者が自発的に不倫相手に金銭を支払う可能性がある
以下、詳しく見ていきましょう。
相応の慰謝料減額に応じなければならない可能性が高い
相応の慰謝料減額に応じなければならない可能性が高い点です。
単に求償権を放棄してほしいと言ったところで、不倫相手が応じる可能性は低いでしょう。
不倫相手からしたら、求償権を放棄してしまえば、あなたの配偶者に慰謝料の一部を請求できなくなるわけですからデメリットが大きいでしょう。
一般的に、求償権の放棄と合わせて、相応の慰謝料減額について話し合われることが多いです。200万円の慰謝料を支払ったら、責任割合が半々の場合には、求償権を行使することで100万円を受け取れます。つまり実質的な負担は100万円です。
求償権の放棄を前提とする場合には、慰謝料100万円しか支払えないというのが不倫相手の言い分として挙げられるでしょう。
求償権を放棄させる場合には、それに応じて慰謝料の減額を求められる可能性が高いでしょう。
配偶者が自発的に不倫相手に金銭を支払う可能性がある
配偶者が自発的に不倫相手に金銭を支払う可能性がある点です。
あなたとあなたの配偶者、不倫相手の三者間で話し合った結果、求償権の放棄が合意できたとします。それにもかかわらず、配偶者があなたに隠れて、自発的に不倫相手に対して金銭を支払ってしまうケースも少なくありません。
不倫相手に対する情や申し訳ない気持ちからこっそり支払ってしまうケースや、不倫相手から執拗に迫られ、仕方なく支払ってしまうケースもあります。
求償権を放棄する代わりに減額に応じたのにも関わらず、配偶者が自発的に金銭を支払ってしまったら、結果家計に残るお金が大幅に少なくなるでしょう。
求償権を放棄させる方法
求償権を放棄させる方法について見ていきましょう。
求償権放棄について三者間で話し合う
まずは求償権放棄について三者間で話し合いましょう。
慰謝料請求権と求償権で、主体となる当事者が異なります。
慰謝料請求権は、慰謝料を請求した側・慰謝料を請求された側に関わる権利です。
求償権は、慰謝料を請求された側・不貞をした既婚者に関わる権利です。
したがって、求償権を放棄させる場合には、三者間で話し合いましょう。
話し合いがまとまったら示談書に記載する
話し合いがまとまったら示談書に記載しましょう。
求償権は、慰謝料を請求した側・慰謝料を請求された側だけでなく、不貞をした既婚者にも影響を与えます。後で、言った・言ってないとトラブルが起きやすいのも特徴です。
後にトラブルを起こさないために、求償権に関する合意内容は示談書にきちんと記載しましょう。
求償権放棄の条項の記載例
求償権放棄の条項の記載例をご紹介します。
なお、当事者の表記については次のとおりです。
- 慰謝料を請求する側(あなた):甲
- 慰謝料を請求される側(不倫相手):乙
- あなたの配偶者:丙
シンプルな記載例です。
乙は、丙に対する求償権を放棄する。
求償権の内容を特定した形の記載例です。
乙は、第〇項の慰謝料の支払いにかかる丙に対する求償権を放棄する。
求償権の放棄に加えて、求償権の放棄の合意に違反して求償権が行使された際には違約金を支払うことを合意した場合の記載例です。
乙は、丙に対する、本件不貞行為に基づく慰謝料支払債務に関して、求償権を行使しないことを約束する。乙が、前項に違反し、丙に対して求償権を行使したときは、乙が丙に対して請求した金額と同額を、甲に対して直ちに支払うものとする。
まとめ
求償権の放棄についてお分かりいただけましたでしょうか。
配偶者と離婚をせずに不倫相手にのみ慰謝料請求する場合、求償権を放棄させなかったことで、受け取った慰謝料の一部を配偶者が不倫相手に支払わなければならない事態が生じてしまいます。
配偶者と離婚をせずに不倫相手にのみ慰謝料請求する場合には、求償権放棄について話し合う必要があるでしょう。
ご自身での交渉に不安がある場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。
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