公務員という職業柄、特に世間の目も厳しく、不倫が発覚すると何らかの特別な処分がなされるのでは?と考える方もいるでしょう。
公務員の不倫が発覚した場合であっても、退職を迫られることは、原則ありません。
しかし、交際態様によっては何らかの処分を受ける可能性はあるでしょう。公務員の不倫には、会社員の不倫とは異なるリスクもあります。
この記事では、主に公務員の不倫のリスクについて、法的な根拠も合わせて解説しています。ぜひ参考にしてください。
目次
公務員が不倫をしたらどうなる?職業別のリスクを解説
公務員の不倫が発覚した場合であっても、退職を迫られることは、原則ありません。
公務員の場合、失職や懲戒処分に該当する事由については、法律や規則等で定められており、職種によって、適用される法律や規則等が異なります。
以下、職業別に解説しています。
国家公務員の場合
国家公務員の処分について、失職と懲戒に分けて説明していきます。
失職について
国家公務員の場合、不倫を理由に失職することは、原則ありません。
国家公務員がクビになる条件は、欠格事由として法律で定められています(国家公務員法38条)。
(欠格条項)
第三十八条 次の各号のいずれかに該当する者は、人事院規則で定める場合を除くほか、官職に就く能力を有しない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事院の人事官又は事務総長の職にあって、第百九条から第百十二条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
不倫は、国家公務員法38条に定められた欠格事由には該当しませんから、国家公務員の場合は、原則、不倫を理由にクビにはなりません。
懲戒について
国家公務員の場合、不倫を理由に懲戒処分を受けることは、原則ありません。
国家公務員の懲戒事由は、法律で定められています(国家公務員法82条)。
(懲戒の場合)
第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
公務員が不倫をしただけでは、懲戒処分を受けることはありませんが、次のような行動を取っていた場合には何らかの処分が下される可能性があります。
- 仕事中に業務用のパソコンで不倫相手と連絡を取り合っていた
- 仕事中に職場で不倫相手と肉体関係を持っていた
実際に、勤務時間中に業務用パソコンで私用メールを送り合い、都庁舎内でわいせつ行為をしたとして、都の職員が停職処分となった事例もあります。
参照:勤務中に業務用パソコンで私用メール、庁舎内でわいせつ行為の都職員男女を懲戒処分:東京新聞 TOKYO Web (tokyo-np.co.jp)
地方公務員の場合
地方公務員の処分について、失職と懲戒に分けて説明していきます。
失職について
地方公務員の場合、不倫を理由に失職することは、原則ありません。
国家公務員と同様に、地方公務員がクビになる条件は、欠格事由として法律で定められています(地方公務員法16条)。
(欠格条項)
第十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあって、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者
不倫は、地方公務員法16条に定められた欠格事由には該当しませんから、地方公務員の場合は、原則、不倫を理由にクビにはなりません。
懲戒について
地方公務員の場合、不倫を理由に懲戒処分を受けることは、原則ありません。
地方公務員の懲戒事由は、法律で定められています(地方公務員法29条)。
(懲戒)
第二十九条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。
一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合
二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合
三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合
地方公務員が不倫をしただけでは、クビになることや懲戒処分を受けることはありませんが、国家公務員と同様に、交際態様によっては何らかの処分が下される可能性があります。
警察官の場合
警察官には、国家公務員、地方公務員のどちらもいますが、警察庁が別途定める懲戒処分の指針が適用されることから、何らかの懲戒処分を受ける可能性があります。
警察庁が公表している懲戒処分の指針には、公務の信用を失墜するような不相応な借財、不適切な異性交際等の不健全な生活態度をとることは懲戒処分の対象になるとの記載があります。
不適切な異性交際等の不健全な生活態度には、不倫も含まれると考えられます。
したがって、警察官の場合は、何らかの懲戒処分を受ける可能性があります。
教師の場合
教師にも、国家公務員、地方公務員のどちらもいますが、各都道府県の教育委員会が別途定める懲戒処分の指針が適用されることから、何らかの懲戒処分を受ける可能性があります。
例えば、東京都の場合、東京都教育委員会が、教職員の主な非行に対する標準的な処分量定を定めており、教師の処分について次の表のとおり定めています。
児童・生徒に対して |
同意の有無を問わず、性交又は性交類似行為を行った場合(未遂を含む。) | 免職 |
同意の有無を問わず、直接若しくは着衣の上から性的な部位(性器等若しくはその周辺部、でん部又は胸部)に触れる、又はキスをした場合 | 免職 | |
保護者に対して |
同意の有無を問わず、性交又は性交類似行為を行った場合(未遂を含む。) | 免職 |
同意の有無を問わず、直接又は着衣の上から、性的な部位(性器等若しくはその周辺部、でん部又は胸部)に触れる、又はキスをした場合 | 免職 停職 減給 |
参照:教職員の主な非行に対する標準的な処分量定|東京都教育委員会ホームページ (tokyo.lg.jp)
したがって、教師の場合は、児童や生徒、その保護者と不倫した場合には、免職や定職、減給の処分を受ける可能性があります。
消防士の場合
消防士の場合は、地方公務員法が適用されますので、地方公務員と同様に、不倫を理由にクビや懲戒処分になる可能性は、原則ありません。
公務員の不倫が職務専念義務違反にあたる可能性
職務専念義務とは、勤務時間および職務上の注意力のすべてを職責遂行のために用い、職務のみに従事する義務です(国家公務員法101条、地方公務員法35条)。
例えば、勤務時間中に不貞行為に及んだ場合には、職務専念義務違反に抵触するとして、懲戒処分される可能性があるでしょう。
公務員の不倫が信用失墜行為にあたる可能性
信用失墜行為とは、官職の信用を傷つけ、または官職全体の不名誉となるような行為です。信用失墜行為には、職務上の行為だけではなく、勤務時間外の私生活上の行為も含まれると解されています。
例えば、妻子のある公立高校教師の立場でありながら、教え子であった女子生徒と在学中から親密な交際を始め、卒業後間もなく肉体関係を持つに至った行為が、信用失墜行為に該当するとして、実際に懲戒処分された判例があります(大阪地裁平成2年8月10日判決)。
公務員同士の不倫はバレた場合のリスクが大きい!
公務員の場合、多くの人が定年まで働くことを想定しているでしょう。
民間企業と比較して、転職する人の割合が少ないのが特徴です。
公務員同士の不倫が発覚した場合であっても、双方が同じ部署で働き続けることもあるでしょう。
不倫関係にあった人と一緒に仕事をしなければならず、職場の人にも不倫がバレている場合には、周囲の視線も冷たいでしょうから、精神的に大きな負担になるでしょう。
職場の規模が小さい地方の市役所等では、人の入れ替わりも少なく、人間関係も狭いことから、噂も広まりやすいでしょう。
退職せざるを得なくなったり、最悪の場合には、引っ越しをせざるを得なくなったりするでしょう。
公務員の不倫が起きやすい2つの理由
公務員というと真面目なイメージを抱く人も多いかもしれません。
もちろん、多くの公務員はイメージどおりであることがほとんどですが、不倫をしている公務員がゼロなわけではないでしょう。
公務員の不倫が起きやすい理由としては、主に次の2つが挙げられます。
- 収入が比較的安定しているのでモテる
- 単身赴任が多い
以下、詳しく見ていきましょう。
収入が比較的安定しているのでモテる
公務員は安定しているというイメージを抱いている人は多いでしょう。
収入が安定しているということは、それだけ好意を寄せてくる異性も多くなります。
婚活市場でも、公務員という職業は人気です。モテることは悪いことではありませんから、独身と偽って婚活市場で不倫を楽しむといった人もいるでしょう。
単身赴任が多い
職種にもよりますが、特に国家公務員の場合には、地方への転勤を命じられることが多くあります。単身赴任を選択する人も多いです。
単身赴任になると、配偶者の目もなくなることから、開放的な気分になり、不倫に走る傾向があります。
詳しくは、「単身赴任は不倫に走りやすい?慰謝料請求する場合の2つの注意点」の記事をご参照ください。
配偶者の不倫相手が公務員だった!職場に報告してもよい?
最近、配偶者の行動が怪しいなと感じたため、こっそり証拠を集めていたところ、配偶者の不倫相手が公務員だった!なんて方もいるでしょう。
「公務員という立場であるにもかかわらず、不倫をしているなんてありえない!」
「職場にバラして、社会的な制裁を与えたい!」
このような考えを抱く方もいるでしょう。
職場に不倫をバラすような行為はやめましょう。
不倫をバラしたことで、あなたが不利になってしまうことにもなりかねません。
刑事責任を問われる可能性も
職場に不倫をバラした場合、名誉棄損に問われる可能性があります。
「不倫を認めないなら、職場にバラしてやる!」と脅した場合には、脅迫罪に問われる可能性もあります。
不倫をされたあなたからしたら、職場にも何かしらの対処をしてほしいと考えるかもしれませんが、不倫は、不倫をした当事者とその配偶者の間の問題であって、職場に何らかの処分を要求したり、責任を取らせたりはできません。
配偶者の不倫相手が公務員の場合には慰謝料請求に力を入れましょう
配偶者の不倫相手が公務員の場合には、社会的な立場から、あまり問題を大きくしたくないと考え、示談に応じる可能性が高いでしょう。
公務員の場合には、収入も安定していますから、相場よりも高い慰謝料を獲得できる可能性もあります。
したがって、慰謝料請求に力を入れることをおすすめします。
まとめ
不倫によって懲戒処分をされないためには、職場にバレる前に関係を解消することです。
あなたが今、公務員という立場であるにもかかわらず、不倫をしているのなら、早めの関係解消をおすすめします。
関係解消の際には、その後に不倫していたことがバレるリスクを減らすために、次のことに注意しましょう。
- 不倫相手ときちんと話し合って、お互い納得の上で別れる
- 不倫相手との関係を推認する証拠は処分する
公務員という職業柄、不倫がバレた場合には、社会的信用も大きく低下するでしょう。さらに、職場にバレてしまったような場合には、職場での評価も大きく低下するでしょう。
不倫が発覚してしまい、慰謝料請求されているが、できるだけ職場にバレないように解決したいと考えている場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士が介入することで、職場にバレるリスクを軽減できるでしょう。
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