更新日:2026年3月5日 (木)
公開日:2025年1月14日 (火)
法定養育費とは?民法改正で取り決め不要になるのかを解説
サマリー
離婚に際して養育費の取り決めを行わないまま離婚に至るケースは少なくありません。
2024年の民法改正により、離婚時に取り決めがない場合でも一定額を請求できる「法定養育費」制度が新設されることになりました。
しかし、制度が導入されると事前の取り決めが不要になるのか、どの程度の金額が請求できるのかなど、疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
この記事では、法定養育費の概要や対象となる要件、請求できる期間や金額の目安、事前に協議を行う重要性について解説します。
法定養育費とは?民法改正による制度創設の背景と開始時期

法定養育費制度の概要と新設の趣旨
法定養育費とは、離婚時に養育費の具体的な取り決めを行っていなかった場合でも、離婚後の一定期間について法務省令で定められた金額の支払いを請求できるようにする制度です。
養育費の取り決めは離婚届を提出するための必須要件とされていないため、取り決めをしないまま離婚に至るケースも少なくありませんでした。
しかし、離婚後に改めて養育費を請求しようとしても、相手方から支払いを拒否される事態が生じることがあります。
取り決めがない状態から養育費を回収するには、家庭裁判所での調停や審判を経て債務名義を取得し、不払いがあれば強制執行を申し立てるという段階を踏む必要があります。
これらの手続きには一定の時間を要するため、子の監護を行う親にとって負担が大きく、請求を断念する要因の一つとなっていました。
こうした課題に対応するため、協議等による正式な取り決めができるまでの間における応急的な措置として、一定額の請求を可能にする法定養育費制度が設けられました。
改正民法の公布と施行のスケジュール
法定養育費を盛り込んだ改正民法は、2024年5月24日に公布されました。
この改正法は公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることとされています。
そのため、法定養育費制度は遅くとも2026年5月までに施行され、実際の運用が開始される見込みとなっています。
施行日以降の離婚や認知等において、新たなルールが順次適用されることになります。
法定養育費の対象者と請求できる期間(始期・終期)
法定養育費の請求権者となる対象者
法定養育費の請求権者となるのは、養育費の分担についての定めをせずに離婚し、離婚時から引き続き子の監護を主として行っている親です。
離婚時に取り決めを行わなかった理由については特に問われません。
この規定は協議離婚だけでなく、裁判上の離婚や家庭裁判所による婚姻取消、父が子を認知した場合などにも準用されます。
いずれのケースでも、実際に子の監護を主として担当している親が請求の主体となります。
また、改正法の施行により離婚後の共同親権が選択された場合であっても、実際に子と同居するなどして物理的な監護を主に担っている親が請求権者となると考えられます。
法定養育費を請求できる期間(始期と終期)
現行の裁判実務では、養育費の請求は原則として請求時以降の分に限られ、過去に遡っての請求は認められにくい傾向があります。
しかし、法定養育費制度では、離婚の時に遡って請求することが認められています。
法定養育費は離婚時に遡って請求可能とされており、父が認知した場合は認知の日が発生の始期となります。
一方、法定養育費の請求期間の終期は、父母間で協議により養育費の取り決めをした日、家庭裁判所の審判が確定した日、または子が成年に達した日のいずれか早い日となります。
なお、法定養育費の発生の始期や終期が月の初日または末日以外である場合、その月の支払額は日割り計算によって算出されます。
協議や調停等で別途合意する場合は、子が成年を迎えた後も支払期間を設定することが可能です。
| 項目 | 法定養育費における取り扱い |
|---|---|
| 請求権者 | 取り決めなく離婚し、引き続き子の監護を主として行う親(認知等の場合も含む) |
| 支払の始期 | 離婚の時(父による認知の場合は認知の日)に遡及 |
| 支払の終期 | 協議成立日・審判確定日・子の成年到達日のいずれか早い日 |
| 月の途中の計算 | 始期や終期が月途中の場合は日割り計算で算出 |
法定養育費の金額の目安と不払い時の差押え(一般先取特権)
法定養育費の具体的な金額や、万が一支払いが滞った場合の回収方法について関心を持つ方も多いでしょう。
改正民法では、迅速な権利保護と実効性の確保を目的とした新たな規定が設けられています。
法定養育費の金額の算定基準と目安
改正民法において、法定養育費の金額は「子の最低限度の生活の維持に要する標準的な額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額」と規定されています。
具体的な算定方式や金額の詳細は今後の法務省令で定められますが、生活保護基準などを参考にした水準になることが想定されています。
義務者の個別の収入状況などを細かく反映する仕組みではないため、裁判実務で用いられる養育費算定表に基づいて算出された金額よりも低めになる傾向が予想されます。
法定養育費はあくまで取り決めができるまでの最低限の生活保障という位置づけであり、十分な養育費を確保するには個別の取り決めが重要となります。
一般先取特権の付与と財産の差押え
法定養育費が支払われない場合、義務者の財産を差し押さえるための実効的な手段として「一般先取特権」の規定が活用される見込みです。
一般先取特権とは、債務者の総財産から他の債権者に優先して弁済を受けられる権利です。従来の制度では、強制執行を行うために調停調書や公正証書などの「債務名義」を取得する必要があり、相応の時間と労力を要していました。
法改正によって養育費債権に一般先取特権が付与されると、事前に債務名義を取得していなくても、権利の存在を示す文書等に基づいて裁判所に執行手続きの申立てが可能となる見込みです。
これにより、不払いが生じた際の回収手続きが迅速化されると期待されています。
支払義務者の資力状況による支払拒絶と減免
制度が新設されたとしても、あらゆる状況において法定養育費の全額が支払われるとは限りません。
法律上、支払義務者の資力に応じた抗弁や減免の規定も用意されています。
具体的には、子と離れて暮らす親が支払能力を欠いている場合や、法定養育費を支払うことで自身の生活が著しく切迫することを証明した場合には、支払いの全部または一部を拒絶することが認められています。
また、すでに発生した法定養育費についても、家庭裁判所の手続きを通じて免除や支払猶予などの判断がなされる規定が設けられています。
義務者の経済状況によっては回収が困難となる可能性もある点に注意が必要です。
法定養育費に関するよくある疑問(施行前の離婚・既存の合意との関係)
Q. 改正民法の施行前に離婚した場合も法定養育費を請求できますか?
改正民法の施行日より前に離婚が成立している場合は、法定養育費制度の適用対象外となる見込みです。
新設される制度は、原則として施行日以後に離婚した父母に適用されます。
同様に、施行前に家庭裁判所で婚姻が取り消された場合や、父による子の認知が行われた場合についても、過去に遡って法定養育費を請求することはできないとされています。
Q. 離婚時の取り決め額が法定養育費より低い場合、法定養育費を請求できますか?
離婚時に父母間で合意した養育費の金額が、法務省令で定められる法定養育費の基準額を下回っていたとしても、法定養育費への差し替え請求は原則として認められません。
法定養育費は、あくまで養育費の取り決めをしないまま離婚に至った場合の補充的な仕組みです。
当事者間で有効に成立した合意がある場合は、その合意内容が優先して適用されます。
既存の取り決めを無視して法定養育費に基づき差押え等の執行手続きを申し立てた場合、債務者から合意の存在を理由に執行停止などが申し立てられる可能性があります。
Q. 施行前に養育費を取り決めずに離婚した場合はどのように請求すればよいですか?
法施行前に養育費を取り決めずに離婚したケースでは法定養育費は利用できませんが、従来どおり民法の扶養義務に基づき、相手方に対して養育費の支払いを求めることができます。
まずは元配偶者との間で金額や支払い方法について協議を行い、話し合いによる合意が困難な場合は、家庭裁判所に養育費請求の調停や審判を申し立てる手続きを進めることになります。
家庭裁判所の手続きでは、原則として調停申立時など請求の意思を明確にした時点以降の分が認められる実務傾向にあるため、取り決めがない場合は早めに対応を検討することが大切です。
法定養育費があっても事前の取り決めが推奨される理由と弁護士への相談

法定養育費は最低限の補償にとどまる
法定養育費制度が導入された後も、離婚時に夫婦間で養育費を取り決める重要性は変わりません。
法定養育費は、事前の合意がない期間における応急的な措置として位置づけられており、子の最低限度の生活維持を念頭に置いた標準的な金額が設定される見込みです。
法定養育費の算定では支払義務者の実際の収入状況が個別に考慮されないため、裁判実務で用いられる算定表などに基づく金額と比較して、受け取れる額が低くなる傾向が予想されます。
子どもの健全な成育や教育に必要な費用を適切に確保するためには、双方の収入や生活実態を踏まえて個別に協議し、合意を形成することが大切です。
円滑な協議や合意書の作成に向けた弁護士への相談
離婚に際しては、感情的な対立や関係性の問題から、当事者同士で養育費について冷静に話し合うことが難しいケースも少なくありません。
直接の対話が困難な場合や条件面で折り合いがつかない場合は、弁護士への相談を検討するのも選択肢の一つです。
弁護士に相談することで、裁判所の算定基準や各家庭の個別事情を踏まえた適正額の試算について助言を受けられます。
また、当事者間の合意内容を明確にし、将来的なトラブルを防ぐための合意書作成についても支援を受けられます。
法改正後は一般先取特権を活用した権利実現も視野に入りますが、手続きを円滑に進めるためには事前の準備が重要です。
夫婦間での協議が難航している場合や取り決めの内容に不安がある場合は、一度弁護士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。