更新日:2026年7月29日 (水)
公開日:2026年7月29日 (水)
未遂とは?成立する犯罪一覧と種類、中止犯との違いや量刑を解説
サマリー
未遂(みすい)とは、特定の罪を犯す意図をもって犯罪の実行に着手(実行行為の一部または全部に着手)したものの、結果としてその目的を遂げず、犯罪を完成(既遂)させられなかった状態を指します。
この記事では、未遂行為について専門的な視点からわかりやすく解説します。
・刑法上の未遂罪が成立するための要件
・障害未遂と中止未遂(中止犯)の決定的な違い
・未遂で処罰される代表的な犯罪(殺人未遂・窃盗未遂など)の実例
・既遂と比較した、実際の量刑(刑の減軽)の仕組み
なお、実際の刑事手続における処分や量刑の見通しは、個別具体的な事案の性質によって実務上の判断が異なるため、不安な場合は早期に弁護士などの専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが重要です。
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未遂罪とは?|犯罪行為に着手したものの完成(既遂)に至らなかった状態

未遂罪とは、刑法43条に規定されているとおり、犯罪の実行に着手したものの、何らかの障害や予期せぬ事情によって、犯罪の完成に至らなかった場合に成立する犯罪です。
例えば、殺人の故意を持って相手をナイフで刺したものの(実行の着手)、幸いにも急所を外れて軽傷で済んだり、迅速な救急搬送によって一命を取り留めたりした場合(殺害という結果の不発生)などが、殺人未遂罪の典型例に該当します。
犯罪がすべての要件を満たして完全に成立した状態を「既遂(きすい)」と呼ぶのに対し、未遂はその一歩手前、すなわち「実行の着手は認めるが、結果が発生していない段階」を指します。
日本の刑法では、すべての犯罪で未遂が処罰されるわけではなく、法律に特段の定めがある場合に限り処罰されます。
未遂罪が成立するための「実行の着手」とは何か

刑事手続において未遂罪が成立するためには、前提として法律上の「実行の着手」があったと客観的に認められる必要があります。
実行の着手とは、判例・実務上、特定の犯罪(構成要件)が完了した際の結果を発生させる「直接的かつ現実的な危険性」を内包し、法益侵害の現実的危険が生じる行為に着手した時点を指します。
この段階に達して初めて未遂罪の処罰対象となり、単に頭の中で犯罪の計画を立てたり、犯行に必要な道具を買い揃えたりする手前の段階(予備行為)とは、明確に区別されます。
どの行為のどの時点をもって「実行の着手」と評価すべきかは、犯罪の種類(罪名)や犯行の具体的な態様、凶器の有無、過去の最高裁判所の判例などを踏まえ、個別具体的な状況に応じて極めて慎重に判断されます。
「未遂罪」と「予備罪(よびざい)」の違い

未遂罪と予備罪の大きな違いは、前述した「実行の着手」にまで至っているか否かという点です。
法律上、犯罪の準備段階(予備)は、特別に処罰規定が設けられている場合を除き、原則として処罰されません。
殺人罪や現住建造物等放火罪、強盗罪といった、人間の生命や社会の安全を脅かす一部の重大犯罪に限り、例外的にその準備行為自体を独立して処罰する「予備罪(殺人予備罪など)」の規定が設けられています。
例えば、人を殺害するために銃や毒物を購入する行為は、まだ殺害行為そのものを開始していないため「予備」にあたります。
これに対し、その銃を被害者に向けて発砲したものの命中しなかった場合などが「未遂」となります。
つまり、実行の着手を境にして、それ以前の段階が予備、それ以降の段階が未遂として区別されます。
未遂罪の2つの種類と刑罰の決まり方|障害未遂と中止未遂(中止犯)

未遂罪は、刑法上、その犯罪が完成しなかった(既遂に至らなかった)具体的な原因や動機によって、「障害未遂」と「中止未遂(中止犯)」の2種類に分けられます。
裁判においてこのどちらの種類として認定されるかによって、科される刑罰の重さには、実務上大きな差が生じることになります。
障害未遂|外的要因によって犯罪を達成できなかったケース
障害未遂とは、被疑者が犯罪を最後まで完遂しようと意図して実行に着手したものの、本人の意思とは関係のない外部的な障壁や偶発的なトラブルによって、結果的に目的を達成できなかった場合を指します。
空き巣目的で民家に侵入して物色していたところを住人に見つかってそのまま逃走したケース(窃盗未遂罪)がこれに該当します。
また、外部の人間による妨害だけでなく、本人の主観的な勘違いによって結果が発生しなかった場合も、実務上は障害未遂として扱われます。
例えば、金品が入っていると思って金庫や財布を開披したものの、結果的に中に金品が入っていなかった場合でも、金品を窃取しようとする具体的な行為に着手している以上、窃盗未遂罪が成立し得ます。
この場合、刑罰は減軽される可能性がありますが、必ず減軽されるわけではありません(任意的減軽)。
中止未遂(中止犯)|自らの意思で犯罪行為をやめたケース
中止未遂(中止犯)とは、犯罪の実行に着手した被疑者が、犯罪を最後まで完成させられる状況であったにもかかわらず、途中で「自らの意思(自発的な意思)」によって犯行を断念した、あるいは犯罪がもたらす結果の発生を自ら防いだ場合に成立します。
例えば、激昂して相手を刃物で刺してしまったものの(実行の着手)、直後に激しい後悔や同情の念に駆られ、自ら進んで119番通報をして救急車を呼び、適切な医療処置を受けさせて被害者の死亡という結果を防いだ(一命を取り留めさせた)というケースが、実務上の中止未遂の典型例です。
このように、すでに結果発生の危険が生じている段階では、本人の「真摯な努力(結果を阻むための積極的な行動)」によって既遂に至らなかったことが要件となります。
中止犯の成立において重要なのは、周囲の状況に強制されることなく、あくまで本人の自発的な意思に基づき、かつ結果発生を防止するための真摯な努力を行ったという点です
そのため、「遠くから警察官のサイレンが聞こえたので怖くなって逃げた」といったように、外部的事情により中止せざるを得なかった場合には、中止未遂ではなく障害未遂と評価されます。
中止未遂が成立した場合、刑法上、その刑が(必ず)減軽または免除されると定められています(必要的減免)。
【一覧】未遂でも処罰される可能性がある主な犯罪(代表例)
日本の法律では、すべての犯罪に未遂罪が適用されるわけではありません。
処罰の対象となるのは、刑法の各条文に「未遂を罰する」と明記されている犯罪に限られます。
実務上、どのような犯罪に未遂の規定があり、どの犯罪にないのか、代表的な例を以下の【一覧表】に整理しました。
| 区分 | 未遂でも処罰される代表的な犯罪(規定あり) | 未遂では処罰されない代表的な犯罪(規定なし) |
|---|---|---|
| 生命・身体に関する罪 | 殺人罪、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪など | 脅迫罪、過失致死傷罪など |
| 財産・経済に関する罪 | 窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、強盗罪など | 遺失物等横領罪(占有離脱物横領)、器物損壊罪など |
| 社会・公衆に関する罪 | 現住建造物等放火罪、通貨偽造罪など | 公務執行妨害罪、名誉毀損罪、侮辱罪など |
未遂を罰する規定がある犯罪|殺人罪や窃盗罪など
法律で未遂を罰すると定められている犯罪は数多く存在します。
特に、他人の生命や身体、個人の重大な財産といった、社会的に保護すべき重要な権利(法益)に対して直接的かつ深刻な侵害を及ぼす危険性が高い罪については、結果が伴わなくともその実行に着手した時点で処罰の対象となるのが実務上の原則です。
実務上、未遂罪が適用される代表的な犯罪には、以下のようなものがあります。
- 生命・身体を脅かす罪:殺人罪
- 性的な自由を侵害する罪:不同意わいせつ罪、不同意性交等罪
- 財産を侵害する罪(財産犯):窃盗罪、詐欺罪、恐喝罪、強盗罪
- 社会の平穏を脅かす罪:現住建造物等放火罪 など
これらの罪は、たとえ目的を達成できなかったとしても、行為に着手した時点で社会的な危険性が高いと判断されるため、未遂であっても処罰規定が設けられています。
未遂を罰する規定がない犯罪|器物損壊罪や過失犯など
一方で、どれだけ悪質な行為の企てであっても、刑法上、未遂行為を処罰する規定そのものが存在しない犯罪も実務上存在します。
代表的な例としては、器物損壊罪などが挙げられます。
これらの犯罪では、法律が予定する結果が発生して初めて罪が成立します。
例えば、他人の財物を壊そうとしたものの無傷で済んだ場合、刑法上に器物損壊未遂罪の規定はないため同罪で処罰されることはありません(器物損壊罪は不処罰となります)。
未遂罪の刑罰の重さ|既遂に比べてどれくらい軽くなる?
未遂罪の刑罰(量刑)は、犯罪が既遂に達した場合に比べて軽くなるのが通常であり、刑法上は減軽または免除が認められています。
ただし、どの程度軽くなるかは、未遂の種類(障害未遂・中止未遂)や、行為態様、結果回避の程度など具体的事情によって異なります。
未遂罪で刑罰が減軽または免除される場合のルール
未遂罪の刑罰に関するルールは、刑法43条に定められています。
犯罪の実行に着手したものの、犯人の意思によらない理由で目的を達成できなかった「障害未遂」の場合、その刑を「減軽することができる」と定められています。
実際に刑を軽くするかどうかは担当裁判官の裁量(判断)に委ねられています。
そのため、動機や犯行態様が悪質である場合などには、裁量により減軽が行われないこともあり得ますが、未遂であること自体は通常、量刑上の重要な考慮要素となります。
これに対し、自らの意思で犯罪をやめた「中止未遂」の場合は、その刑を「減軽し、又は免除する」と定められています。
こちらは必要的減免とされ、必ず減軽または免除のいずれかが認められます。
実際の量刑に影響を与えやすい具体的な要素
裁判官が未遂罪の最終的な量刑を決定する際には、法律の規定に加えて様々な要素が考慮されます。
例えば、犯行の計画性や動機、使用された凶器の有無といった犯行態様は、重要な考慮要素となります。
また、結果的に被害が発生していなくても、既遂にどの程度接近していたか、実行行為の進行度も重要な考慮要素となります。
さらに、被害者との示談が成立しているか、犯人が深く反省しているか、前科の有無なども量刑に影響を与える要素となります。
これらの事情を総合的に評価して、最終的な刑罰が判断されます。
未遂罪でも逮捕されるのか?逮捕後の刑事手続きの流れ
未遂犯が処罰対象となる犯罪では、既遂に至らなくても逮捕される可能性があります。
逮捕後の手続きは、基本的に既遂事件と変わりません。
① 警察による逮捕から送致(48時間以内)
警察に逮捕されると、身柄を拘束された状態で集中的な取調べを受けます。
警察は逮捕から48時間以内に、事件の証拠や被疑者の身柄を検察官へ引き継ぐ「検察官送致(身柄送致)」の手続きを行います。
② 検察官による勾留請求(24時間以内)
事件を引き継いだ検察官は、引き続き身柄を拘束して捜査を続ける必要があるかを判断し、送致から24時間以内(かつ逮捕から総計72時間以内)に、裁判官に対して「勾留(こうりゅう)請求」を行います。
③ 裁判官による勾留決定(原則10日間・最大20日間)
裁判官が勾留を認めると、まずは原則として10日間、さらに捜査が長引く場合は最大でさらに10日間延長されます。
これにより、逮捕期間と合わせて最長で23日程度、身柄拘束が続く可能性があります。
④ 起訴・不起訴の判断と刑事裁判
身柄拘束の満期を迎える前に、検察官が刑事裁判にかける「起訴」か、事件を終了させる「不起訴」かを決定します。
起訴された場合には有罪判決に至るケースも多く、未遂事件であっても前科が付く可能性があります。
逮捕後は短期間で重要な判断が進むため、早期の身柄解放や不起訴処分の可能性を高めるためにも、できるだけ早い段階で刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが重要です。
弁護士は、被害者との示談交渉や、勾留回避に向けた意見提出など、状況に応じた弁護活動を行います。
「未遂とは」に関するよくある質問FAQ
ここでは、未遂に関してよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
犯罪の「実行の着手」はどの時点で認められますか?
実行の着手は、判例・実務上、犯罪結果を発生させる現実的な危険性を有する行為を開始した時点で認められるとされています。
単に犯行の道具を準備する「予備行為」の段階とは異なり、行為の持つ危険性が著しく高まった段階を指します。
例えば殺人罪のケースであれば、明確な殺意を持って「被害者にナイフを突きつけた、あるいは振りかざした瞬間」はもちろん、判例によっては「就寝中の被害者を殺害するために、刃物を持ってその枕元に忍び寄った段階」でも実行の着手(殺人未遂)が認められることがあります。
どの行為をもって着手と評価するかは、犯罪の種類や犯行の具体的態様、過去の判例を基に、個別の事案ごとに判断されます。
自らの意思でやめれば、必ず中止未遂になりますか?
いいえ、本人の主観だけでなく、客観的な状況から「真に自発的な中止」といえるかで判断されるため、必ず認められるとは限りません。
中止未遂が成立するためには、外部からの影響ではなく、真に自発的な意思で犯罪を中止したことが必要です。
例えば、犯行中に誰かに見つかりそうになったから逃げたという場合は、外的要因によるものと判断され、障害未遂とされる可能性が高いです。
未遂罪で有罪になった場合、前科はつきますか?
はい、未遂罪で起訴され、裁判で罰金刑以上の有罪判決が確定すれば前科がつきます。
たとえ犯罪の目的を達成できなかったとしても、有罪であることに変わりはありません。
一方で、捜査の結果、不起訴処分となったり、裁判で無罪判決となったりした場合には、前科はつきません。
まとめ
未遂罪は、刑法に定められた犯罪形態の一つであり、犯罪の実行に着手したものの結果を遂げられなかった場合に成立します。
未遂には、外的要因による「障害未遂」と、自らの意思でやめる「中止未遂」があります。
未遂事件であっても、逮捕・勾留・起訴へ進む可能性は十分にあります。
一方で、早い段階から適切な弁護活動を行うことで、身柄解放や不起訴につながる可能性もあります。
刑事事件は初動対応が重要となるため、不安がある場合は、できるだけ早く刑事事件に詳しい弁護士へ相談することが大切です。
ネクスパート法律事務所では、刑事事件に強い弁護士が多数在籍しています。
初回相談は30分無料です。
ぜひ一度ご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。