更新日:2026年7月8日 (水)

公開日:2024年3月14日 (木)

遺言は撤回できる?遺言撤回の方法・注意点・文例を詳しく解説

遺言は撤回できる?遺言撤回の方法・注意点・文例を詳しく解説 遺言は撤回できる?遺言撤回の方法・注意点・文例を詳しく解説

サマリー

「一度書いた遺言書は一生変えられないのではないか」「公正証書遺言で作成した以上、もう撤回できないのではないか」と不安に感じていませんか。遺言書の撤回や書き換えについて、相続や民法の知識がないと判断に迷う方も少なくありません。

結論からいえば、遺言書は一度作成しても撤回することが可能です。民法1022条は、遺言者が生存している限り、遺言の方式に従って、いつでもその全部または一部を撤回できると定めています。したがって、生活環境や家族関係、財産状況の変化に応じて、遺言の撤回(全部・一部)や内容の変更(書き換え)を行うことは、法律上認められています。

もっとも、遺言の撤回も遺言の作成と同様に方式が厳格に定められており、民法所定の方式要件を満たさない場合には、撤回の効力は否定され、結果として旧遺言が有効に残るおそれがあります。特に公正証書遺言や自筆証書遺言といった遺言の方式ごとに実務上の取扱いが異なるため、遺言の種類に応じた適切な対応が不可欠です。

本記事では、「遺言は本当に撤回できるのか」「公正証書で作った場合の扱いはどうなるのか」「遺言の書き換え方法や文例はあるのか」といった疑問に答えながら、条文(民法第1022条以下)に基づく法的根拠、遺言撤回の具体的な方法、文例、実務上の注意点や無効リスクについて、相続実務の観点からわかりやすく解説します。

遺言は撤回できる?

遺言は、遺言者が生存している限り、民法第1022条に基づき、いつでもその全部または一部を撤回することができます。
遺言は相続開始時(死亡時)に効力が生じる単独行為であり、作成から相続開始までの間に事情が変化することが当然に想定されています。そのため、気持ちの変化、家族構成の変更、財産の増減など、撤回の理由は法律上制限されておらず、原則として遺言者の最終意思が尊重される仕組みとなっています。

もっとも、重要なのは撤回も遺言と同様に民法で定められた方式要件に従う必要があるという点です。口頭で家族に伝える、単なるメモに「前の遺言は無効とする」と記すといった方法では、原則として法的に有効な撤回とは認められません。方式を欠く場合には撤回自体が無効と評価され、後日の相続手続や遺産分割協議の場面で遺言の効力が争われる可能性もあります。

実務上は、結婚・離婚・再婚、子どもの出生、推定相続人の死亡、介護状況の変化、事業承継方針の見直しなど、相続関係や法定相続分に影響を及ぼす事情が生じたタイミングで、遺言内容の点検や撤回・変更を検討することが一般的です。遺言が現状と乖離したまま放置されると、相続人間の紛争や遺留分侵害額請求を巡るトラブルの一因となるおそれがあります。

以下では、遺言を撤回できる法的根拠(民法第1022条・1023条・1026条など)と、遺言者に保障された撤回権の具体的な内容について、条文に基づいて整理します。

生存中であれば理由を問わずいつでも自由に撤回・書き換えができる

遺言者は、生存中であればいつでも、自ら作成した遺言の全部または一部を撤回・変更することができます。
これは民法第1022条において、「遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる」と明文で定められているためです。撤回の理由について法律上の制限は設けられておらず、動機や事情の合理性が問われることも原則としてありません。

遺言は、遺言者の死亡時に効力が生じる法律行為であり(民法上の単独行為)、作成から相続開始までの間に財産状況や家族関係、心境が変化することは当然想定されています。そのため民法は、遺言者の最終意思を尊重する観点から、広範な撤回・変更の自由を認めています。

例えば、過去に「長男に全財産を相続させる」と記載したものの、その後の事情変更により内容を見直したいと考えた場合、新たに適法な方式で遺言書を作成すれば、後の遺言が優先します。前の遺言と内容が抵触する部分については、後の遺言によって撤回されたものとみなされるのが実務上の取扱いです(民法1023条の趣旨)。

もっとも、撤回の意思があっても、法律上の方式を満たさなければ効力は生じません。撤回を確実に有効なものとするためには、新たな遺言書を適法に作成する、方式に従って訂正する、または法律上撤回とみなされる行為を行うなど、民法に沿った手続を取る必要があります。

個別事情によって判断が分かれる場合もあるため、不安がある場合は弁護士等の専門家に確認することが望ましいでしょう。

遺言書に書いた「撤回しない」という約束も法的に無効(民法1026条)

遺言書の中に「この遺言は将来にわたって撤回しない」と記載したり、特定の相続人との間で「遺言を書き換えない」といった合意や念書を交わしたりしていたとしても、その約束自体に法的拘束力はありません。

民法1026条は、「遺言の撤回権を放棄することはできない」と明確に定めています。すなわち、遺言者は将来にわたって撤回しないという契約を有効に成立させることはできず、撤回権の放棄も認められていません。

そのため、たとえ生前に「絶対に撤回しない」と合意していたとしても、後に適法な方式で新たな遺言書を作成すれば、原則としてその新しい遺言が有効となります。相続は遺言者の死亡によって初めて効力が生じる制度であり、民法は遺言者の最終意思の尊重を基本原則としています。そのため、生前の段階で将来にわたる意思内容を契約等によって固定することはできないと一般に解されています。

この制度は、遺言者の自己決定権を保障し、周囲からの不当な圧力によって意思変更が妨げられることを防ぐ趣旨を有します。遺言の撤回権は遺言者に強く保障された権利であり、契約や念書によって制限することはできません。

遺言の撤回と無効・取消しとの違い

遺言の効力が問題となる場面では、撤回だけでなく無効、取消しという法的概念も関係します。これらは意味や効果が大きく異なり、相続実務や家庭裁判所での紛争において混同されやすいため、正確に区別して理解することが重要です。

まず撤回とは、遺言者が自らの自由意思に基づき、既に作成した遺言の全部または一部を将来に向けてやめる、または内容を変更することをいいます。民法第1022条により、遺言は遺言者の生存中であればいつでも撤回できるとされており、民法所定の方式(自筆証書遺言・公正証書遺言など)に従って行われれば、実務上は有効に成立すると考えられています。

これに対し無効とは、当初から法律上の成立要件を満しておらず、法的効力が認められない状態をいいます。典型例としては、自筆証書遺言における方式違反(民法968条)――たとえば日付の記載がない、署名がない、本文が自書されていない場合――や、遺言能力が認められない場合(民法961条)などが挙げられます。遺言能力とは、遺言の内容を理解し判断できる能力をいい、作成当時の判断能力が争点となることもあります。無効と判断された場合、その遺言は初めから効力を生じないと扱われます。

さらに取消しとは、詐欺や強迫などの取消事由がある場合に、法律上の手続を経てその効力を失わせることをいいます(民法96条の趣旨の類推適用)。遺言作成過程に瑕疵があったかどうか、真意に基づくものかどうかが争点となることが多く、相続人間での訴訟や調停に発展するケースも見られます。取消しは、主張する側に立証責任が生じる点も実務上重要です。

このように、撤回は遺言者の意思による将来効の変更であるのに対し、無効や取消しは法律上の要件や作成過程の問題に基づき効力を否定する制度です。相続開始後に遺言の有効性が争われると、法定相続分や遺留分への影響も生じ得るため、個別事情に応じた慎重な検討が必要です。

不安がある場合は、相続実務に精通した弁護士などの専門家へ早期に相談することが、紛争予防の観点からも有効といえるでしょう。

遺言を撤回する3つの具体的な方法

遺言を有効に撤回するためには、単に「遺言を撤回する」と口頭で述べるだけでは足りません。遺言は厳格な要式行為であり、撤回についても民法第1022条以下に定められた方式や法理に従う必要があります。方式や要件を欠く場合には撤回の効力が否定される可能性があるため注意が必要です。

実務上、遺言を撤回する主な方法は次の3つです。

  • 新しい遺言書を作成する
  • 遺言書を物理的に破棄する
  • 遺言と抵触する行為(生前処分など)を行う

どの方法が最も確実かは個別事情によって異なりますが、紛争予防の観点からは慎重な対応が求められます。以下で、それぞれの法的根拠と実務上の注意点を解説します。

新しい遺言書を作成する

最も確実で、実務上広く用いられている方法は、新たに適法な方式で別の遺言書を作成することです。

複数の遺言が存在する場合、前後の遺言内容が抵触(矛盾)する部分については、後の遺言によって前の遺言が撤回されたものとみなされます(民法1023条1項)。そのため、実務上は日付の新しい遺言が優先して効力を有することになります。

たとえ古い遺言が公正証書遺言であり、新しい遺言が自筆証書遺言であったとしても、後の遺言が民法所定の方式を満たしていれば、原則としてその内容が優先します。

たとえば、旧遺言で「不動産Aを長男に相続させる」とし、新遺言で「不動産Aを次男に相続させる」と定めた場合、その抵触部分については後の指定が有効と評価されるのが一般的です。

なお、新しい遺言に「以前の遺言をすべて撤回する」といった包括的な撤回条項を明示しなくても、内容が抵触する限度で撤回の効果は生じます。ただし、抵触しない部分は引き続き効力を有する可能性があるため、相続人間の解釈争いを防ぐ観点からは、包括的な撤回条項を明記することが実務上は望ましいとされています。

注意すべき点は、新しい遺言が方式不備により無効と判断されるリスクです。新遺言が無効となった場合、結果として古い遺言が有効のまま残る可能性があります。特に自筆証書遺言では、日付の特定、署名、押印、全文自書といった基本的要件(民法968条)を欠くと無効となるおそれがあります。

形式面の不備は後から補正できない場合もあるため、作成時には十分な確認が必要です。

遺言書を物理的に破棄する

遺言者が手元にある遺言書を物理的に破棄する行為も、一定の要件のもとで撤回とみなされます。

民法1024条は、遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分について遺言を撤回したものとみなすと定めています。したがって、故意による破棄であることが重要な要件となります。

単なる紛失や、第三者による無断廃棄の場合は、原則として遺言者の撤回意思に基づく行為とはいえず、法的な撤回とは評価されないのが一般的です。後日、撤回の成否が争われた場合には、遺言者の意思と行為との対応関係が立証上の争点となる可能性があります。

典型例としては、自筆証書遺言を自らシュレッダーにかける焼却するなど、通常は復元が困難な方法で処分する場合が挙げられます。他方、単に一部を破ったにすぎない場合や、内容を撮影した写真が残っている場合には、「撤回の意思があったのか」「破棄主体は誰か」といった点をめぐり紛争に発展することもあります。

また、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、手元の正本・謄本を破棄しても当然に撤回とはなりません。法務局の自筆証書遺言保管制度を利用している場合も同様に、保管記録が残るため、単なる物理的破棄だけでは足りないケースがあります。このような場合には、新たな遺言書を適法に作成する方法が一般的に選択されます。

遺言と抵触する行為(生前処分など)を行う

遺言内容と、その後に行った法律行為が抵触する場合にも、その抵触部分については撤回とみなされます。

民法1023条2項は、遺言が遺言後の生前処分(売却・贈与など)その他の法律行為と抵触する場合には、その限度で遺言を撤回したものとみなすと規定しています。

遺言は相続開始時(死亡時)に存在する財産に対して効力を及ぼすため、前提となる財産がすでに処分されている場合には、指定どおりの承継を実現することができません。この趣旨から、後行行為と両立しない部分について撤回の効果が認められます。

たとえば、「特定の骨董品をAに遺贈する」と定めていた場合でも、その骨董品を生前に第三者へ売却したり廃棄したりすれば、その部分は抵触すると評価される可能性があります。

もっとも、実務上はどこまでが抵触に当たるのかが争点となりやすいところです。共有持分の一部譲渡、担保権の設定、不動産の買換え(資産の組み換え)など、間接的に影響を及ぼす行為については、具体的事情により評価が分かれることがあります。

そのため、遺言内容と異なる処分を行った場合には、そのまま放置せず、新たな遺言書を作成して意思と財産状況の整合性を明確にしておくことが、相続人間の紛争予防につながります。遺言執行者や法定相続人は相続開始時点の財産しか確認できないため、最終的な分配方針を明確にしておくことが、相続トラブルの回避という観点からも重要といえるでしょう。

具体的な事案によって結論が異なる場合があります。撤回方法の選択に迷う場合は、相続実務に精通した弁護士などの専門家に相談することが望ましいといえます。

【方式別】失敗しないための遺言撤回手続きと注意点

遺言の撤回方法は、遺言の方式(自筆証書遺言・公正証書遺言など)によって実務上の対応が異なります。方式ごとのルールを誤ると、撤回したつもりでも古い遺言が有効に残るという事態が生じるおそれがあります。

特に、法務局の保管制度や公証役場での保管制度が関係する場合は注意が必要です。ここでは、自筆証書遺言と公正証書遺言について、撤回手続きの具体的ポイントと紛争予防上の注意点を整理します。

① 自筆証書遺言|保管場所(自宅・法務局)による手順の違い

自筆証書遺言の撤回は、保管方法によって実務対応が異なります。

・自宅などで自己保管している場合

遺言者が手元の原本を故意に破棄したときは、民法1024条により、その破棄した部分について撤回とみなされる可能性があります。

もっとも、後日相続開始後に「本当に遺言者が破棄したのか」「撤回の意思があったのか」が争点となることもあります。撤回の事実や時期について立証が問題となる場合もあるため、確実性を重視するのであれば、新たな遺言書を適法に作成し、「従前の遺言を撤回する」旨を明示する方法が実務上はより安全と考えられています。

なお、自筆証書遺言は相続開始後に家庭裁判所での検認手続が必要となるため(保管制度利用の場合を除く)、古い遺言が残っていると手続きが複雑化する可能性があります。

・法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合

2020年7月10日施行の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、手元の控えを破棄しても、法務局(遺言書保管所)に保管されている原本は法的に存続します。

この場合の撤回方法は、主に次のとおりです。

  • 管轄の遺言書保管所へ本人が出頭し「遺言書の保管の撤回」を申請する
  • 新しい遺言書を作成し、民法1023条1項に基づき、従前の遺言と抵触させる、または包括的撤回条項を明記する

保管制度を利用している遺言は発見可能性が高いため、「放置すれば自然に無効になる」ということはありません。撤回や書き換えを行った場合は、最新の遺言がどれかを明確にし、相続人や遺言執行者が誤認しない状態を整えておくことが、紛争予防の観点から重要です。

② 公正証書遺言|正本の破棄だけでは無効!公証役場での手続き

公正証書遺言の原本は、公証役場で原則120年間保管されます。そのため、手元にある正本や謄本を破棄しても、遺言自体を撤回したことにはなりません。

公正証書遺言を撤回する方法としては、主に次の2つがあります。

  • 公証役場で「撤回を内容とする公正証書」を作成する
  • 新たな遺言書(自筆証書遺言を含む)を適法に作成し、従前の公正証書遺言を撤回する旨を明記する(民法1023条1項)

実務上は、証拠の明確性や将来の発見可能性を考慮し、再度公正証書で新しい遺言を作成して上書きする方法が選択されることが少なくありません。

また、古い謄本や写しが相続人の手元に残っていると、「これが最終意思である」と誤解され、遺産分割協議や遺言執行の場面で混乱を招く可能性があります。撤回後は、次のような実務等も重要です。

  • どの遺言が最新であるかを明確にしておく
  • 古い写しの所在や扱いを整理する
  • 必要に応じて相続人に説明しておく

遺言の撤回は、法律上有効であることだけでなく、相続人や関係者に誤解を与えないことまで含めて設計することが重要です。

具体的事情によって最適な方法は異なるため、不安がある場合は相続実務に精通した弁護士等の専門家へ相談することが望ましいといえます。

遺言撤回の文例を紹介

遺言を撤回する場合は、「どの遺言を」「どこまで」撤回するのかを明確に特定することが重要です。特定が不十分な場合、相続開始後に法定相続人や受遺者の間で解釈争いが生じる可能性があります。

日付だけでなく、次のような情報を併せて記載すると、紛争予防につながります。

  • 遺言の方式(自筆証書遺言・公正証書遺言など)
  • 作成場所
  • 公証役場名や証書番号(公正証書遺言の場合)

以下では、全部撤回と一部撤回の文例を紹介します。

※注意点
文例はあくまで参考例です。自筆証書遺言として作成する場合には、民法968条所定の方式要件(全文自書・日付の特定・署名・押印など)を満たさなければ無効となる可能性があります。文言が適切であっても、方式違反があれば撤回の効力は認められません。
また、一部撤回は特に解釈上の争点が生じやすい分野です。変更箇所が多数に及ぶ場合は、部分的な修正を重ねるよりも、遺言全体を作り直して一本化する方法が、実務上は紛争予防に資することが多いと考えられています。

① 全部撤回の場合

全部撤回では、対象となる遺言を具体的に特定したうえで、「全部撤回する」と明示します。

遺言が複数存在する可能性がある場合、特定が不十分だと「どの遺言を撤回したのか」が争点となるおそれがあります。

【文例】
「遺言者は、令和〇年〇月〇日付で作成した自筆証書遺言を全部撤回する。」

公正証書遺言を撤回する場合には、次のように作成場所や証書番号を補足すると、より明確です。

【文例(公正証書遺言の場合)】
「遺言者は、令和〇年〇月〇日、〇〇公証役場において作成した第〇号の公正証書遺言を全部撤回する。」

このように対象を具体的に示したうえで、新たな遺言として必要な方式要件(日付・署名・押印など)を備える必要があります。新遺言が方式不備により無効と判断された場合、旧遺言が有効に残る可能性がある点にも注意が必要です。

② 一部撤回の場合

一部撤回では、「どの条項のどの部分を撤回するのか」を具体的に示し、あわせて新しい内容を明示するのが基本です。

条番号がある場合は条番号で特定し、条番号がない場合は対象財産や受遺者(相続させる相手)を明示して特定します。

【文例】
「遺言者は、令和〇年〇月〇日付遺言の第〇条を撤回し、次のとおり改める。
第〇条 〇〇不動産は長男Aに相続させる。
その余の部分は、従前の遺言のとおりとする。」

このように、

  • 撤回部分の特定
  • 新しい内容の明示
  • 残す部分の確認

をセットで記載すると、解釈の余地を小さくすることができます。

もっとも、一部撤回を行うと、旧遺言の一部は引き続き有効に存続します。そのため、相続手続においては旧遺言と新遺言の双方を確認する必要が生じることが少なくありません。遺言執行者の指定がある場合や、遺留分との関係が問題となる場合には、より慎重な整理が求められます。

撤回後は

  • どの遺言が最終意思を示すものかを明確にする
  • 保管場所(自宅・法務局・公証役場)を整理する
  • 不要な写しの扱いを検討する

といった実務上の配慮も重要です。

遺言撤回の文例はあくまで出発点にすぎません。実際には財産構成、相続関係、既存の遺言の内容との整合性を踏まえ、解釈の余地を極力残さない表現を用いることが紛争予防の観点から重要です。個別事情によって最適な記載方法は異なるため、不安がある場合は相続実務に精通した弁護士等の専門家に相談することが望ましいといえます。

「撤回の撤回」の罠|一度撤回した遺言は原則として復活しない

いったん遺言を有効に撤回した後、「やはり元の内容に戻したい」と考えることがあります。

しかし、原則として、一度撤回された遺言は自動的には復活しません。

民法1025条は、遺言が有効に撤回された場合、その後に撤回行為がさらに撤回されたり、取り消されたり、効力を失ったとしても、もとの遺言の効力は回復しないと定めています。

これがいわゆる撤回の撤回は原則として認められないというルールです。

例外的に、

  • 撤回行為自体が詐欺や強迫によってなされた場合
  • 当初の遺言を復活させる意思が、後の遺言書の内容から極めて明白に読み取れる場合

などについては、実質的に旧遺言の効力を認め得るかが議論されることがあります。

もっとも、これらは例外的かつ限定的な場面にとどまります。実務上は遺言無効確認訴訟等で争われることが多く、解決までに相当の時間と費用を要する可能性があります。

したがって、元の内容に戻したい場合は、復活に期待するのではなく、最新の日付で改めて同内容の遺言書を作成し直すことが、最も確実で安全な方法といえます。

認知症や判断能力の低下が撤回無効を招く法的リスク

遺言の撤回や書き換えにおいて、見落とされがちなのが遺言能力の問題です。

民法963条は、遺言者は遺言をする時にその能力を有しなければならないと定めています。この要件は、新たな遺言の作成時だけでなく、遺言を撤回する場合にも妥当すると解されています。

そのため、認知症の進行などにより、自らの行為の意味や結果を理解できない状態で撤回や変更を行った場合、その行為自体が無効と判断される可能性があります。

もっとも、認知症と診断されたからといって直ちに遺言能力が否定されるわけではありません。判断能力の有無は、遺言作成(または撤回)当時の具体的状況に基づき、個別に判断されます。

実際には、相続開始後に撤回時には判断能力がなかったとして遺言無効確認訴訟が提起されるケースも少なくありません。

このような紛争を防ぐためには、

  • 判断能力が十分といえる時期に手続きを完了させる
  • 医師の診断書やカルテを確保しておく
  • 公証人が関与する公正証書遺言の方式を利用する

といった対応が有効と考えられます。

遺言は内容が正しいことだけでなく、争われにくい形で残すことも同じくらい重要です。

それが結果として相続人の負担を軽減し、無用な紛争を未然に防ぐことにつながります。

遺言撤回・書き換えにかかる費用

遺言をどの方法で撤回・書き換えるかによって、必要となる費用は大きく異なります。まずは、おおまかな費用感と、どこにコストが発生するのかを把握しておきましょう。

① 費用がほとんどかからないケース

自筆証書遺言を自分で書き直す、または手元にある自筆証書遺言を故意に破棄するといった方法であれば、原則として公的な手数料はかかりません。

もっとも、自筆証書遺言には厳格な方式要件があります。方式を誤ると撤回自体が無効となるリスクがあります。

費用を抑えられる反面、無効リスクや紛争リスクの管理は基本的に自己責任になる点に注意が必要です。

② 公正証書遺言で作り直す場合の公証人手数料

公正証書遺言を新たに作成して撤回・上書きする場合は、公証人手数料が発生します。

この手数料は、公証人手数料令に基づき、遺言の対象となる財産の価額(目的の価額)に応じて定められています。

目安は次のとおりです。

相続財産の総額 手数料
50万円以下 3,000円
50万円を超え100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 13,000円
500万円を超え1,000万円以下 20,000円
1,000万円を超え3,000万円以下 26,000円
3,000万円を超え5,000万円以下 33,000円
5,000万円を超え1億円以下 49,000円
1億円を超え3億円以下 49,000円に超過額5,000万円までごとに15,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 109,000円に超過額5,000万円までごとに13,000円を加算した額
10億円を超える場合 291,000円に超過額5,000万円までごとに9,000円を加算した額

※実際には「受遺者・相続人ごと」に取得する財産の価額を基準として算定される仕組みです。そのため、単純に総額だけで決まるとは限りません。

また、公正証書遺言を作成する場合、基本手数料のほかに次のような費用がかかります。

  • 公正証書原本を紙に出力する場合、3枚を超えると1枚あたり300円加算
  • 正本・謄本に相当する電子データの交付:各1通あたり2,500円
  • 書面で交付する場合:枚数×300円
  • 証人2名の立会費用(依頼する場合は1名あたり1万円前後が目安)
  • 戸籍謄本、登記事項証明書、固定資産評価証明書などの取得費用

財産が多い、不動産が複数ある、相続人が多数いるといった場合は、必要書類が増えるため、取得費用も相応に増える傾向があります。

③ 専門家へ依頼する場合の費用

弁護士や司法書士などの専門家に依頼する場合は、以下のような費用が発生します。

  • 相談料
  • 遺言書作成支援の報酬
  • 相続対策全体の設計費用

費用相場は一律ではなく、以下のような事情があるほど、検討事項が増えるため報酬も高額になる傾向があります。

  • 不動産の数が多い
  • 相続人間の関係が複雑
  • 事業承継が絡む
  • 将来的な紛争リスクが高い

遺言の撤回や書き換えで重要なのは、最も安い方法を選ぶことではなく、将来争われにくい方法を選ぶことです。

短期的なコストだけでなく、以下のようなリスクも含めて総合的に判断することが、結果として相続人の負担軽減と円滑な相続につながります。

  • 方式不備による無効リスク
  • 判断能力を巡る紛争リスク
  • 相続人間の対立リスク

弁護士など専門家に相談すべきケース

遺言の撤回や書き換えは、自分で行うことも可能です。しかし、次のようなケースでは、専門家に相談することが強く推奨されます。

  • 内容の偏りが大きい場合
  • 後から争われやすい事情がある場合

以下で、詳しく解説します。

内容の偏りが大きい場合

特定の相続人に多くの財産を残す、内縁のパートナーや第三者に遺贈するなど、分配に大きな偏りがある場合は、遺留分侵害額請求を受ける可能性があります(民法1046条)。

設計を誤ると、相続開始後に金銭請求や調停・訴訟へ発展し、相続人間の関係が深刻に悪化することもあるため、事前に遺留分を踏まえた分配設計を行うことが重要です。

・財産関係が複雑な場合

以下のようなケースでは、単に「誰に渡すか」だけでなく、実際に名義変更が可能か、代償金は必要か、税務上の影響はどうかといった点まで見据えた文言設計が求められます。

  • 不動産が複数ある
  • 共有名義の財産がある
  • 事業用資産が含まれる
  • 借入金や保証債務がある

特に事業承継が絡む場合は、相続対策全体の設計が必要になることもあります。

後から争われやすい事情がある場合

以下のような事情がある場合、遺言の無効や取消しを主張されるリスクが高まります。

  • 判断能力に不安がある
  • 家族関係が悪化している
  • 過去に相続をめぐる争いがあった

このような場合には、公正証書遺言の形式を選択する、作成過程を記録として残すなど、証拠保全の観点からの対策が重要になります。

迷ったときは、撤回できるかどうかだけでなく、将来争われない形で意思を残せるかという視点まで含めて専門家に相談することが有効です。

まとめ

遺言は、生存中であればいつでも全部または一部の撤回・書き換えが可能です(民法第1022条)。

主な撤回方法は、

  • 新しい遺言書を作成する
  • 遺言書を故意に破棄する
  • 遺言内容と矛盾する処分行為を行う

といったものです。

もっとも、公正証書遺言は正本を破棄しても撤回にならないなど、方式ごとの違いを理解したうえで進める必要があります。

さらに、撤回や書き換えが遺留分、家族関係、判断能力の問題と結びつくと、紛争リスクは一気に高まります。

無効リスクを回避し、最新の意思を明確かつ安全な形で残すためには、重要な局面で専門家の支援を受けることが有効です。

遺言の撤回や書き換えを検討されている方は、ネクスパート法律事務所にご相談ください。

ご事情やご希望を丁寧にお伺いしたうえで、法的リスクを踏まえた適切な方法をご提案いたします。
初回相談は30分無料、リモート相談にも対応しております。まずはお気軽にお問い合わせください。

 

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:東京オフィス

広島県広島市出身。修道高校、慶應義塾大学商学部、青山学院大学法科大学院を卒業後、新司法試験に合格し最高裁判所司法研修所を修了。弁護士として法曹界に入り、個人・法人問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。ネクスパート法律事務所の代表弁護士として、依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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