更新日:2026年10月18日 (日)

公開日:2026年10月18日 (日)

声の生成AIガイドラインとは?日本俳優連合の公表内容と国内外の裁判例を弁護士が解説

声の生成AIガイドラインとは?日本俳優連合の公表内容と国内外の裁判例を弁護士が解説 声の生成AIガイドラインとは?日本俳優連合の公表内容と国内外の裁判例を弁護士が解説

サマリー

2026年10月15日、俳優・声優が加盟する協同組合日本俳優連合(日俳連)が「音声に関する生成AI利用ガイドライン Ver 1.0」を公表しました。生成AIによって実演家の声を再現・生成する技術が広がるなか、声の学習・生成・利用について、事前の通知と書面による同意、適正な対価、故人の声の扱い、違反時の措置などを全22条で定めたものです。

その直前の2026年9月30日には、声優の津田健次郎さんが生成AIで声を模倣されたとして動画の削除を求めた訴訟で、東京地方裁判所が「声もパブリシティ権の保護対象になり得る」との考え方を示しました。海外でも、米国・中国・インドの裁判所が、AIによる声の無断利用に対して判断を示しています。

本記事では、ガイドラインの要点、日本俳優連合の概要、声の生成AIをめぐる国内外の裁判例を解説します。あわせて、企業や個人が他人の声をAIで利用する際に注意すべき点を、弁護士の立場からご説明します。

日本俳優連合「音声に関する生成AI利用ガイドライン」が公表されました

ガイドライン公表の概要と背景

2026年10月15日、協同組合日本俳優連合は「音声に関する生成AI利用ガイドライン Ver 1.0」(以下「本ガイドライン」といいます)を公表し、同日に記者会見を行いました。

前文では、声には実演家の人格や個性、長年培ってきた表現技術が宿っていると述べています。そのうえで、公開作品などから収集された音声が本人の許諾なくAI学習に使われ、生成された音声が本人の関与しない作品やサービスで使われていると指摘しています。

また、著作権法第91条の録音権・録画権は実演そのものの複製を前提としており、声の特徴を学習して新しい音声を生成するAIには十分に対応できていないとしています。声の権利を包括的に定めた法律がないなか、業界の自主的な基準として策定されたものです。

国際的には、国際俳優連盟(FIA)が2025年11月に「AIの濫用から実演家を保護する決議」を採択し、「インフォームド・コンセント(個別具体的な同意)」「透明性」「公正な対価」の3大原則を掲げています。本ガイドラインは、こうした国内外の議論を踏まえて作られています。

ガイドラインの全体構成

本ガイドラインは全6部・22条で構成されています。

部 主な内容 条文
第1部 総則 目的、用語の定義、無断生成AI音声とみなす規定、適用範囲 第1条〜第4条
第2部 AI利用の原則 人間の実演家優先の原則、故人の音声データの利用 第5条〜第6条
第3部 AI利用のルール 事前通知、書面による同意、変更時の再同意、クレジット表記、不利益取扱いの禁止、同意の有効期間、禁止事項 第7条〜第13条
第4部 特則 アニメ・吹き替え等の日本語版音声作品、多言語化・海外展開 第14条〜第15条
第5部 対価・管理・各種措置 学習料・使用料等の対価、データ管理、監査・ログ開示請求、配信停止・削除請求、違反時の措置 第16条〜第20条
第6部 雑則 権利義務の承継、ガイドラインの改定 第21条〜第22条

日本俳優連合の公表ページでは、特に重要な課題として「事前の許諾」「対価」「多言語化」「物故者(故人)」の4点を挙げています。

「声」「デジタル・レプリカ」など重要な用語の定義

第2条では、本ガイドラインで使う用語を定義しています。主なものは次のとおりです。

  • 実演家:俳優、声優など「声」を生業とする者
  • 実演家の声:地声だけでなく、演技としての声、歌声、アドリブ、息遣いや笑い声・悲鳴なども含みます
  • 事業者:AI利用をして事業を行う者で、法人か個人かを問いません。フリーランス、同人クリエイター、個人配信者、所属事務所も含まれ得ます
  • 音声データ:本番の音声に加え、NGテイクや編集前の素材、声から抽出した特徴量などの数値データも含みます
  • デジタル・レプリカ:特定の実演家の声を再現し、本人を代替する音声モデルと、そこから生成される音声です
  • シンセティック・パフォーマー:架空の人格や名称を与えて使われる合成音声です

注目すべきなのは、実演家の氏名や役柄名をプロンプト(指示文)で指定して声を生成する行為も対象に含めている点です。本人の音声を学習させていなくても、「○○さん風の声で」とAIに指示すれば、本ガイドラインの対象になり得ます。

無断生成AI音声とみなす規定と適用範囲

第3条は、特定の実演家を再現する意図がなかったとしても、生成された音声が一般の視聴者にとって本人の地声や実演と区別しにくいほど似ており、事業者がそれを知りながら(または通常の注意を払えば知り得たのに)提供・配信した場合には、「無断生成AI音声」とみなすと定めています。複数人の音声を混ぜて生成したかどうかや、名称・キャラクター設定などの表示方法は問いません。

架空の人格として作られたシンセティック・パフォーマーであっても、学習データに実演家の音声データが一部でも含まれていれば、同様に扱われます。

第4条は、学習・開発段階のデータ利用にも適用されるとし、開発や配信が日本国外で行われる場合も対象としています。海外の委託先やライセンス先が違反した場合も、事業者が連帯して責任を負うとしています。

人間の実演家優先の原則と故人の音声データ

第5条は、音声作品の制作では人間の実演家の起用を最優先とする基本原則を定めています。事業者は、後述の協議機関との協議や合意を経ずに、人間の実演家が担うべき配役や雇用機会をAI音声で代替してはならないとしています。

第6条は、故人(亡くなった実演家)の声のAI利用を原則として禁止しています。例外は、故人が生前に出演していたシリーズ作品で、亡くなった時点ですでに続編の制作が具体的に始まっていた場合や、本人が生前に出演に合意していたプロジェクトに限られます。その場合でも、次の要件をすべて満たす必要があります。

  1. 人間の実演家による代替や引き継ぎが客観的に不可能な、最小限の範囲(未完成部分の補完など)にとどめること
  2. 遺族(法定相続人)と生前の所属事務所から、利用目的・範囲・期間について事前に書面で同意を得ること
  3. 生前と同等以上の適正な利用料を遺族に支払うこと

遺族も所属事務所もいない場合や連絡が著しく困難な場合は、継続作品であっても利用できません。故人が生前に関与していなかった新作・広告・イベントなどでの利用は、一切認められないとしています。

AI利用の事前通知と段階ごとの書面による同意

第7条は、事業者が実演家に関するAI利用を行う場合、実演家と所属事務所に、書面(電磁的記録を含みます)で事前に通知することを求めています。通知の期限は次のとおりです。

  • 新しいデジタル・レプリカの開発やAIモデルの学習を目的とする場合:音声データの提供日、収録開始日または開発着手日の遅くとも7日前まで
  • 同意済みのAIモデルを使って特定のプロジェクト内で音声を出力・編集する場合:AI利用またはセッション開始時間の遅くとも48時間前まで

通知には、対象プロジェクトと目的・期間、技術方式、性的・政治的表現などへの利用の有無、単独学習か混合学習か、同意撤回時の削除手順などを含める必要があります。

第8条は、本ガイドラインの中心となる同意のルールです。包括的・広範な利用目的での一括同意(いわゆるバイアウト契約)は、いかなる場合も行ってはならず、契約書や定型文に書かれていても無効なものと扱うとしています。口頭の同意、暗黙の了解、事後の承諾も無効です。同意は、契約書とは別の承諾書を用意し、少なくとも次の3段階ごとに、実演家本人から書面で個別に取得しなければなりません。

  1. 解析・学習段階:音声データをAIに学習させる段階、またはプロンプト等を入力する段階
  2. 生成・構築段階:実演家の声を再現するデジタル・レプリカ等を作り、保存・管理する段階
  3. プロジェクト利用段階:生成した音声を特定の作品で出力し、販売・配信する段階

広告・宣伝に使う場合は、キャンペーンごとにセリフなどの利用内容について個別の同意が必要です。新シーズンなどでの利用も、必要になった時点で改めて同意を得なければなりません。

第9条は、合意した内容を変更する場合や、目的外の再編集・二次利用を行う場合にも、改めて書面で同意を得ることを求めています。

クレジット表記・同意の有効期間・禁止事項

第10条は、生成AI音声を利用する場合に、①AIで生成された音声である旨、②使用したAIの事業者名・製品名・モデル名、③元になった音声データを提供した実演家の氏名(芸名)、をクレジットとして明記することを求めています。実演家は、自分の氏名を表示しないことや、変名での表記を求めることができます。

第11条は、実演家が同意を拒否・撤回したことなどを理由に、事業者や所属事務所が出演機会やオーディションで不利益に扱うこと(報復やキャスティングからの排除など)を禁じています。

第12条は、同意の有効期間を原則として最長1年とし、更新時には条件を再協議して改めて書面で同意を得ることを求めています。無期限の同意は無効なものと扱うとしています。

第13条は、次の行為を禁止事項として挙げています。

  • テレビ・ラジオ、配信サービス、SNS、動画共有サイトなどから実演家の音声を無断でスクレイピングし、AIの学習に使うこと
  • 許諾の範囲を超えた音声データの販売・譲渡や目的外の流用(関連会社や海外の開発ベンダーへの提供、クラウド事業者による再学習を許す形での提供を含みます)
  • 収録済みの実演を、事前の通知なくAI音声に置き換えること(いわゆるサイレント差し替え)
  • 政治・宗教的な宣伝や成人向けコンテンツでの、本人の意思確認がない利用
  • 名誉・信用やパブリシティ権を侵害するおそれのある利用、公序良俗に反する利用

アニメ・吹き替えと多言語化に関する特則

第14条は、アニメや吹き替えなど演技表現が求められる日本語版音声作品では、原則としてAIで実演家を代替しないよう求めています。例外的に使う場合は、関係するすべての権利者の許諾と書面での個別契約が必要です。ノイズ除去やリップシンクのための最小限の調整は、合意の範囲内で認められます。

第15条は、日本語版音声作品をAIで多言語化(自動吹き替えなど)して海外展開する場合に、変換する言語ごとに実演家の個別の同意を得ることを求めています。あわせて、演技のニュアンスや文化的文脈を損なう不適切な改変をしないこと、配信先の国の実演家組合(米国のSAG-AFTRAなど)の協約にも配慮することを求めています。

対価・データ管理・違反時の措置

第16条は、AI利用は従来の労務提供と異なり、声を「再生産・拡張が可能な無形資産」に変えるものだという認識に立ち、通常の出演料とは別に、次の対価を定めるよう求めています。

対価の種類 内容
学習・開発料 AIの学習・開発のために音声データを提供する、またはデジタル・レプリカ等の構築に同意する場合の対価
生成AI使用料 生成した音声を特定の作品やプロジェクトで利用する場合の対価
追加使用料 生成した音声をテレビCMや広告・宣伝などに利用する場合の、作品ごとの対価
多言語化使用料 音声作品をAIで多言語化して海外展開する場合の対価

対価の協議がまとまらない場合、事業者はAI利用を行ってはならないとされています。

第17条は、暗号化やアクセス権限の限定、ログの記録などによるデータ管理を求めています。同意の撤回が合意された場合は、30日以内に音声データ等を削除し、学習済みモデルの利用を停止しなければなりません。

第18条は、権利侵害の疑いがある場合に、実演家が学習データやプロンプト、提供先などの開示を請求でき、事業者は原則14日以内に開示すべきとしています。開示を拒んだりログを消去したりした場合は、無断利用と故意・重過失が推定されるとしています。

第19条は、SNSなどで無断生成AI音声と疑われるコンテンツを見つけた場合に、実演家が事業者に配信停止・削除、出自などの情報提供、再発防止策の策定・報告を請求できるとしています。

第20条は、違反があった場合、実演家が配信停止と学習済みモデルの廃棄を請求でき、事業者は無断利用の開始日にさかのぼって売上相当額を「特別損害賠償金」として支払うとしています。人間の配役をAI音声で代替する場合には、関係団体で構成する「音声AI取引適正化委員会」(仮称)の事前承認が必要とされています。なお、正規に許諾されたAI音声を個人の配信や同人活動で使う場合など、一部の例外も設けられています。

ガイドラインの法的な位置づけ

本ガイドラインは、業界団体が定めた自主的な基準であり、法律ではありません。そのため、「無効なものと取り扱う」「売上相当額を特別損害賠償金として支払う」「故意・重大な過失を推定する」といった定めは、それだけで裁判所や当事者を法的に拘束するものではありません。これらが法的な効力を持つのは、原則として、事業者と実演家・所属事務所との契約に取り込まれた場合です。

もっとも、俳優・声優の業界団体が示した基準として、今後の出演契約や利用許諾契約の交渉で参照される場面が増えると考えられます。声優や俳優を起用する企業、AI音声サービスを提供・利用する企業は、既存の契約や運用を見直すきっかけにすべき文書です。

日本俳優連合とは

日本俳優連合の概要

協同組合日本俳優連合(略称:日俳連)は、約2,600人の俳優・声優が加盟する協同組合です。理事長は水谷八重子さんで、東京都新宿区西新宿の芸能花伝舎に拠点を置いています。日本の俳優・声優一人ひとりを支える組合として、実演家の権利を守るための提言や情報発信を行っています。

本ガイドラインの策定の経緯や、日本俳優連合が特に重視する課題は、日本俳優連合の公式サイトのページ「音声に関する生成AI利用ガイドライン」で紹介されています。同ページによれば、無断で収集(スクレイピング)された音声データが機械学習に使われ、合成音声が無断で商業利用されている現状を受けて、透明性と公平性を担保する自主的な基準として本ガイドラインを策定したとされています。今後は、本ガイドラインを業界のルールとして定着させるとともに、「声の権利」の法制化に向けた政府機関への働きかけを強める方針です。

生成AIに関する日本俳優連合のこれまでの取組み

日本俳優連合は、本ガイドライン以前から生成AIの問題に取り組んできました。公式サイトでは、次のような取組みが公表されています。

公表時期 取組み
2026年10月 「音声に関する生成AI利用ガイドライン」の公表
2026年7月 法務省の生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する指針についての見解
2026年2月 音声データの無断利用に関する注意喚起
2024年10月 「生成AIについての公開質問状」への回答の発表
2023年6月 「生成系AI技術の活用に関する提言」

声の生成AIをめぐる国内外の裁判例

声の生成AIをめぐっては、日本でも海外でも裁判所の判断が出始めています。ここでは、裁判所、官公庁、法律事務所などの信頼できる情報源で確認できた主な事例をご紹介します。

【日本】声優・津田健次郎さんの訴訟(東京地裁令和8年9月30日判決)

声優の津田健次郎さんは、生成AIで作られたとみられる自身の声に似たナレーション付きの動画について、動画投稿サイト「TikTok」の運営会社に削除を求める訴えを起こしました。請求の根拠は、不正競争防止法とパブリシティ権です。運営会社は、問題の声は「普遍的な男性の声」にすぎないこと、自社は投稿の場を提供しているだけであること、動画はすでに削除されていることなどを主張しました。

東京地方裁判所は、声は肖像と同じく個人の人格の象徴であるという考え方を示しました。そのうえで、声の無断使用がパブリシティ権の侵害になるのは、①その声に商品の販売等を促進する顧客吸引力があり、②使用が専らその顧客吸引力の利用を目的とする場合であるとしました。これは、氏名や肖像についてパブリシティ権を認めた「ピンク・レディー事件」の最高裁判決(平成24年2月2日)の枠組みを、声にも当てはめたものといえます。声がパブリシティ権の保護対象になり得るとした裁判所の判断は、初めてと報じられています。

もっとも、結論としては請求が棄却されました。投稿者が令和8年5月29日にアカウントを削除し、同年6月28日の経過で動画データもサーバーから削除されたと認定され、削除を命じる対象がなくなっていたためです。そのため、問題の声が津田さんの声に似ているか、運営会社に削除義務があったか、不正競争防止法違反が成立するかといった点は判断されていません。

本判決は地裁の一判断ですが、AIで著名人の声を模倣して利用する行為がパブリシティ権の侵害になり得ることを示した点で重要です。また、投稿が削除されると証拠も失われるため、被害を受けた側は早めに記録を残すことが大切です。

(参考:明倫国際法律事務所「「声」もパブリシティ権で守られる ~東京地裁が示した初めての判断と、生成AI時代の企業実務~」)

【日本】法務省「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」

裁判例ではありませんが、津田さんの判決に先立つ令和8年8月、法務省は「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 ―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」を公表しました。この報告書は、声が「肖像等」に含まれ、パブリシティ権や「肖像等をみだりに利用されない権利」の保護対象になると整理しています。また、無断利用を容易にするサービスを提供した事業者も、一定の場合には共同不法行為責任(民法第719条第2項)を負い得るとしています。

【米国】Lehrman v. Lovo事件(ニューヨーク南部地区連邦地裁)

ニューヨークの声優2名が、AI音声企業Lovoを訴えた事件です。声優らは「研究用」と説明されて録音を提供しましたが、実際にはその声から作られたAI音声が商用に販売されていました。

裁判所は2025年7月、被告の訴え却下の申立てについて、一部を認め、一部を退ける判断を示しました。声そのものは著作権では保護されず、商標としての機能もないとして、連邦法に基づく請求の多くを退けました。一方で、声の無断の商業利用を禁じるニューヨーク州法(パブリシティ権)、契約違反、消費者保護法に基づく請求は審理を続けることを認めました。声の保護には著作権法よりもパブリシティ権や契約が重要であることを示した事例です。

(参考:裁判所の決定文、Skadden、Loeb & Loeb)

【中国】AI音声による人格権侵害事件(北京インターネット法院)

声優の録音が、本人に無断でAI音声合成製品に加工・販売された事件です。北京インターネット法院は2024年4月、AIで生成された声でも、一般の人が本人を識別できる場合には、本人の声の権利(人格権)が及ぶと判断しました。

また、制作会社が録音物の著作権を持っていても、声をAIに使うには本人の明示的な同意が必要だとし、制作会社とAI企業に謝罪と損害賠償(合計25万人民元)を命じました。日本の実務にも参考になる事例です。

(参考:WIPO Lex、Marks & Clerk、Linklaters)

【インド】Arijit Singh事件・Asha Bhosle事件(ボンベイ高等裁判所)

インドでは、著名な歌手の声をAIでクローンする行為に対して、裁判所が相次いで差止めを命じています。

2024年のArijit Singh事件では、歌手の声をAIで再現するプラットフォームなどに対し、本人の同意なく氏名・声・肖像などを使うことを禁じる暫定的差止命令が出されました。

2025年9月29日のAsha Bhosle事件では、他人の声を著名人の声に変換できるAIツールを無断で提供すること自体が、人格権の侵害になると判断され、暫定的差止命令が出されました。

(参考:AZB & Partners、SCC Online)

国内外の裁判例から見える共通のポイント

国によって法律上の構成は異なりますが、共通するのは次の3点です。

  1. 声そのものは著作権では保護されにくく、パブリシティ権や人格権によって保護されること
  2. AIで生成した声でも、本人の声だと識別できれば権利侵害になり得ること
  3. 録音の権利や漠然とした利用許諾があっても、AIでの利用には本人の明確な同意が必要とされること

他人の声をAIで利用する際の注意点と弁護士への相談

他人の声をAIで利用する前に必ず事前の許諾を得ましょう

本ガイドラインと国内外の裁判例を踏まえると、他人の声をAIで利用する際の基本は、「本人から事前に許諾を得ること」です。津田さんの訴訟で示されたとおり、著名人の声をAIで無断に模倣して利用すれば、パブリシティ権の侵害になり得ます。また、法務省の報告書が示すように、著名人でなくても、声をみだりに利用されない権利(人格権)の侵害が問題になる可能性があります。

「AIが作った声だから問題ない」「本人の録音は使っていない」という考えは危険です。特定の人物の声をプロンプトで指定した場合や、結果として本人と区別できないほど似た声になった場合も、トラブルの原因になります。AI音声を広告や動画配信などで使う場合は、特定の人の声に似ていないかを確認し、必要に応じて本人や所属事務所から書面で許諾を得てください。

利用許諾契約書で定めておくべき主な事項

声の利用許諾は、口頭ではなく書面の契約で明確にしておくべきです。本ガイドラインも、包括的な一括同意や口頭の同意を無効なものと扱うとしています。利用許諾契約書では、少なくとも次の事項を定めておくことをおすすめします。

  • 利用目的と、対象となる作品・媒体・地域
  • 学習、音声モデルの作成、生成音声の利用といった段階ごとの許諾範囲
  • 利用期間と更新の手続き
  • 対価の額と計算方法(学習料、使用料、追加使用料など)
  • クレジット表記の方法
  • 政治・宗教的な宣伝や成人向けコンテンツなど、利用を禁止する用途
  • 第三者への提供や再委託の可否
  • 許諾の撤回や契約終了時の、音声データとAIモデルの削除方法
  • 違反があった場合の利用停止や損害賠償

声優やタレントを起用する企業、AI音声サービスを提供する企業では、既存の出演契約や業務委託契約に、AI利用に関する条項が適切に定められているかを見直すことも検討しましょう。

声を無断で利用された場合の対応

自分や自社の所属タレントの声が無断でAIに利用された場合は、まず証拠を確保することが大切です。津田さんの訴訟では、投稿者が動画を削除したため、権利侵害の有無が判断されませんでした。URL、音声や動画のデータ、投稿日時、再生数などを早めに保存しておきましょう。そのうえで、プラットフォームへの削除申出、発信者情報開示請求、損害賠償請求などを検討することになります。

声の生成AIに関するご相談はネクスパート法律事務所へ

声の生成AIをめぐる法律問題は、声の権利を直接定めた法律がなく、裁判例もまだ少ない新しい分野です。他人の声をAIで利用する際は、トラブルを防ぐために、必ず事前にご本人から許諾を得ましょう。

ネクスパート法律事務所では、声の利用許諾契約書の作成やチェック、AI音声の利用に関する法的リスクの確認、声の無断利用への対応などのご相談をお受けしています。声の生成AIに関するご質問や利用許諾契約書の作成については、お問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

コラム監修者

Shunsuke Teragaki

Shunsuke Teragaki

所属:代表(東京オフィス)

広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。

2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。

また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。

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