更新日:2024年7月12日 (金)

公開日:2024年7月12日 (金)

借主向け|賃貸の立退き要求は拒否できる?立退き料の基礎知識

借主向け|賃貸の立退き要求は拒否できる?立退き料の基礎知識 借主向け|賃貸の立退き要求は拒否できる?立退き料の基礎知識

サマリー

賃料の滞納などがないにもかかわらず、貸主から突然立ち退きを求められ、退去しなければならないのか不安に感じている方もいるのではないでしょうか。普通借家契約では借主に落ち度がない限り、貸主側の一方的な都合による立退き要求を原則として拒否できます。また、立ち退きに応じる場合でも「正当事由」や「立退き料」の取り扱いが重要な検討要素となります。この記事では、立退き要求を拒否できる条件や正当事由の考え方、立退き料の基礎知識について解説します。

賃貸借契約で期間満了を理由とする立退き要求は拒否できるか

賃貸借契約において、貸主から期間満了を理由に退去を求められた場合、契約の種類によって対応や法的な効果が大きく異なります。

普通借家契約における更新の原則

賃貸住宅や店舗・事務所などで結ばれる一般的な賃貸借契約(普通借家契約)では、契約期間が2年などに定められているケースが多く見られます。しかし、契約期間が満了したからといって、貸主の要求どおりに必ず退去しなければならないわけではありません。

借地借家法のもとでは借主の居住権や使用権が保護されており、賃料の滞納や用法違反などの明確な契約違反がない限り、期間満了時にも原則として契約は更新されます。

貸主からの一方的な立退き要求があっても、借主側が合意しない限り原則として拒否することが可能です。

定期建物賃貸借契約(定期借家)との違いに注意

注意が必要な点として、契約形態が「定期建物賃貸借契約(定期借家契約)」であるかどうかの確認が挙げられます。定期借家契約は更新がない契約形態であり、期間満了によって契約が終了することが原則です。

定期借家契約の場合、貸主と借主の双方が合意して再契約を結ばない限り、期間満了に伴い明け渡しを行う必要があります。そのため、立退きを求められた際は、まず手元の契約書で契約種別を確認することが重要です。

契約種別 期間満了時の原則 貸主からの立退き要求への対応
普通借家契約 契約は原則として更新される 借主に落ち度がなければ原則として拒否できる
定期建物賃貸借契約(定期借家) 期間満了により契約が終了する 再契約の合意がない限り原則として退去が必要

普通借家契約を結んでいる場合、貸主が契約の更新拒絶や解約申し入れを行うには、後述する法律上の「正当事由」が求められます。貸主側の個人的な都合のみで一方的に退去を迫ることは認められていません。

貸主から契約終了を求めるために必要な「正当事由」とは

貸主が普通借家契約の更新拒絶や解約申し入れを法的に主張するためには、借地借家法に定められた「正当事由」が存在することが求められます。

借主に賃料滞納などの落ち度がない場合、貸主側の主観的な希望や一方的な都合のみをもって契約を終了させることは原則として認められません。客観的かつ合理的な理由が備わっているかどうかが厳格に問われます。

貸主側に考慮される主な事情

貸主側の事情として考慮される代表的な要素が、貸主自身やその親族が生活や事業のためにその建物を自ら使用する必要性(自己使用の必要性)です。

また、建物の老朽化が進んでおり、耐震性や安全確保の観点から建て替えや大規模な修繕を行わなければならない事情も重要な判断材料となります。そのほか、土地や建物の有効活用・用途変更を計画している事情なども考慮要素に含まれます。

借主側の利用の必要性との比較検討

正当事由の判断は、貸主側の都合だけで決まるものではありません。借主側がその建物を引き続き利用しなければならない事情も同様に考慮され、双方の必要性が比較検討されます。

居住用物件であれば生活の本拠としての重要性や転居に伴う生活環境の変化が考慮され、店舗や事務所などの事業用物件であれば既存の顧客基盤や移転による営業上の損失などが考慮されます。

正当事由の有無は、貸主側が明け渡しを求める理由と借主側が利用を継続する理由を天秤にかけ、総合的に判断される仕組みとなっています。

立退き料の法的意味と金額が決まる仕組み

立退きにおいて提示される立退き料には明確な法的位置づけがあり、その金額は様々な要素を考慮して総合的に検討されます。

立退き料の法的な位置づけ

立退き料は、貸主側の事情だけでは解約や更新拒絶を正当化するのに十分でない場合に、その「正当事由の不足分を補う金銭」として法的に位置づけられています。

貸主側の解約理由と借主側の利用の必要性を比較した際、不足する正当事由を金銭給付によって補完する役割を果たします。

したがって、借主に落ち度がない場合であっても、法律上あらかじめ定額の立退き料を請求できる権利が独立して規定されているわけではありません。あくまで正当事由の有無を判断する際の補完的要素として扱われます。

立退き料の算定基準と考慮される要素

立退き料には一律に適用される明確な相場や計算式は存在せず、物件の種類や契約の経緯、退去に伴って借主が被る不利益の程度などを総合的に考慮して金額が検討されます。

住居用の物件においては、主に次のような実費や不利益が算定の基礎となることが一般的です。

  • 新居を探して契約するための費用(仲介手数料、礼金、敷金などの初期費用)
  • 荷物の運搬や移転に伴う引越し実費
  • 新居と旧住居との家賃差額(一定期間分)

店舗やオフィスなどの事業用物件の場合は、住居に比べて考慮すべき項目が多岐にわたります。移転に伴う什器の運搬費用や新店舗の内装工事費用に加えて、移転期間中の休業損害や、場所の変更による売上減少を見据えた営業補償などが検討対象となります。

正当事由の強弱による立退き料の要否

立退き料の提示が必要となるかどうか、またその水準がどの程度になるかは、貸主側と借主側の正当事由の強弱のバランスに大きく左右されます。

貸主側の自己使用の必要性が低く、借主側の利用継続の必要性が高い場合には、合意形成のために相当な額の立退き料が提示される傾向があります。一方で、建物の老朽化による倒壊の危険が極めて高いなど、貸主側の理由が十分に強力である場合には、立退き料が少額にとどまる、あるいは立退き料なしで退去が認められるケースもあります。

このように立退き料は状況に応じて要否や金額が変動するため、双方の具体的な事情に照らして判断することが重要です。

立退きを求められた際に借主が確認・注意すべきポイント

貸主や管理会社から立退きを求められた場合、動揺してすぐに返答をしてしまったり、言われるがまま書類に署名・押印したりすることは避ける必要があります。

まずは落ち着いて契約関係や相手方の意図を確認し、自身に生じる不利益を正確に整理することが大切です。

1. 賃貸借契約書で契約形態を確認する

最初に行うべき対応は、手元にある賃貸借契約書を確認し、締結している契約が「普通建物賃貸借契約」か「定期建物賃貸借契約」かを確かめることです。

普通建物賃貸借契約であれば、借地借家法による更新保護が働くため、借主が合意しない限り原則として契約終了とはなりません。一方で、定期建物賃貸借契約の場合は期間満了によって契約が終了する形式となるため、まずは契約条項の確認が前提となります。

2. 安易に合意せず、貸主側の理由と提案条件を書面で把握する

立退き要請を受けた際、口頭でのやり取りだけで退去を承諾したり、明渡しに関する合意書などに安易に署名・押印したりしないよう注意が必要です。

口頭や書面で一度合意してしまうと、後からその合意を覆すことが困難になる場合があります。

貸主がなぜ契約終了を求めているのか(自己使用、老朽化による建て替えなど)の理由や、移転期日、立退き料に関する具体的な提案がある場合は、口頭ではなく書面での提示を求めることが望ましい対応といえます。

3. 移転に伴う実質的な不利益や費用を整理する

退去を検討する場合や条件交渉を行う場合に備えて、立ち退きによってどのような費用や損失が生じるのかをあらかじめ洗い出しておくことが重要です。

住居として利用している場合は、次の住居を探すための仲介手数料や引越し費用、新居の敷金・礼金、家賃の差額などが主な項目となります。

店舗や事務所として利用している事業者の場合は、新規物件の内装工事費用や什器の移転費用のほか、移転期間中の営業休止による減収や顧客離れによる影響など、多岐にわたる不利益が生じる可能性があります。こうした要素を項目ごとに整理し、領収書や見積書などを手元に保管しておくことが円滑な話し合いにつながります。

立退きトラブルにおける弁護士への相談

立退きをめぐる貸主との話し合いでは、法的な知識や客観的な状況判断が重要となる場面が多くあります。

法的な見通しと提示条件の妥当性の判断

貸主から立退きを求められた際、貸主側の主張する理由に法律上の「正当事由」が備わっているかどうかを個人で判断することは容易ではありません。弁護士に相談することで、建物の利用状況や老朽化の程度、借主側の利用の必要性などを総合的に照らし合わせ、法的見通しを客観的に把握できます。

また、貸主側から立退き料の提示があった場合でも、その金額や算出根拠が移転実費や営業上の損失などを適切に反映しているかを確認できます。法的な観点から提示内容の妥当性をあらかじめ検討しておくことは、その後の対応方針を決める上で重要です。

直接交渉の負担軽減と適切な条件調整

立ち退きをめぐる協議を貸主や管理会社と直接進める場合、度重なる連絡や退去の催促によって精神的な負担が大きくなる傾向があります。弁護士へ依頼した場合は代理人として窓口を一本化できるため、直接のやり取りによる心理的プレッシャーを軽減できます。

さらに、借主側の生活環境や事業実態に応じた不利益を法的な根拠に基づいて相手方に伝えることで、感情的な対立を避け、冷静かつ現実的な条件調整を目指すことが可能になります。

条件不合意や不当な要求への対応

貸主側の提示条件に納得がいかない場合や、合意に至らないまま一方的に退去を迫られるような状況では、適切な対応手順を把握しておく必要があります。強引な明渡し要求に対してどのように意思表示を行うべきか、具体的な助言を受けることができます。

立退きをめぐる協議で不安が生じた際は、安易に合意する前に弁護士へ相談し、法的権利や選択肢を整理することが有効な対処となります。

最終的に合意して退去する場合であっても、契約関係を維持する場合であっても、早い段階で弁護士の見解を確認しておくことで、不利益な条件での退去を回避しやすくなります。

まとめ

普通借家契約を結んでいる場合、借主に落ち度がなければ、貸主からの一方的な立退き要求を原則として拒否することができます。貸主が更新拒絶や解約を成立させるには正当事由が必要であり、立退き料はその正当事由を補完するものとして扱われます。

立退きを求められた際は、契約内容を再確認した上で、口頭での合意や安易な書類への署名・押印を避け、移転に伴う実質的な不利益を把握することが大切です。

提示された条件の妥当性に疑問がある場合や対応に不安がある場合は、早い段階で弁護士などの専門家に相談し、適切な助言を受けることをおすすめします。

コラム監修者

RUI SATO

RUI SATO

所属:代表(東京オフィス)

明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。

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