サマリー
熟年離婚が過去最高に。財産分与の基礎知識やトラブル防止策、弁護士に相談すべきタイミングを弁護士法人ネクスパート法律事務所が解説します。
長年連れ添った夫婦が離婚を選ぶ「熟年離婚」の件数が、過去最高の割合に達していると報じられています。
「別れを切り出すのは7~8割が女性」“熟年離婚”の割合が過去最高に 修復のステップを踏まずに離婚するケースが増加 財産分与を巡りトラブルも
出典:FNNプライムオンライン
2026年10月12日に配信されたこの報道では、離婚を切り出すのは7~8割が女性であること、夫婦関係の修復を試みるステップを踏まずに離婚に至るケースが増えていること、そして財産分与を巡るトラブルが目立っていることが指摘されています。一方で中高年の婚活市場は活況を呈しているとも報じられており、人生後半における結婚観・離婚観の変化がうかがえます。本コラムでは、この報道を踏まえ、熟年離婚における財産分与の法的な仕組みとトラブル防止策について解説します。
熟年離婚が増加している背景
結婚生活が長期化した夫婦の離婚、いわゆる熟年離婚は、子の独立や定年退職といった生活環境の変化が引き金になることが多いとされています。今回の報道でも、修復のステップを踏まずに離婚に至るケースが増えているとされており、長年にわたり蓄積した不満が、話し合いの機会を経ないまま離婚という結論に直結してしまう傾向がうかがえます。
熟年離婚は婚姻期間が長いほど財産関係が複雑になりやすく、離婚協議の初期段階から財産分与を見据えた準備が不可欠です。特に不動産、退職金、年金分割など、若年層の離婚にはあまり登場しない論点が絡むため、感情的な対立に加えて経済的な対立も深刻化しやすいという特徴があります。
財産分与の法的根拠と対象範囲
財産分与は民法768条に規定されており、離婚した当事者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができます。対象となるのは、婚姻中に夫婦が協力して築いた「共有財産」であり、名義がどちらか一方になっていても、実質的に夫婦の協力によって形成された財産であれば分与の対象となります(いわゆる実質共有財産論)。
具体的には、預貯金、不動産、有価証券、保険の解約返戻金相当額、自動車などが典型例です。熟年離婚で特に争点になりやすいのが退職金と年金分割です。退職金については、すでに支給済みのものはもちろん、将来支給が見込まれる退職金についても、婚姻期間に対応する部分が財産分与の対象となり得るとする裁判例が積み重ねられています。
年金分割については、財産分与とは別の制度として厚生年金保険法に定められており、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬)を当事者間で分割する手続きです。合意分割(当事者の合意または家庭裁判所の決定による)と3号分割(2008年4月以降の専業主婦(夫)期間について当然に2分の1となる分割)の2種類があり、年金分割の請求には離婚成立日の翌日から起算して原則2年という期限が設けられている点に注意が必要です。
財産分与でトラブルになりやすいポイント
報道でも財産分与を巡るトラブルが増加していると指摘されていますが、実務上トラブルになりやすい典型例は以下のとおりです。
第一に、特有財産との区別です。民法762条1項により、婚姻前から有していた財産や、相続・贈与によって取得した財産は「特有財産」とされ、原則として財産分与の対象外となります。しかし、長期間の婚姻生活の中で特有財産と共有財産が混在し、区別が困難になっているケースが少なくありません。預金通帳の履歴や不動産の購入経緯を遡って証拠として整理する必要があります。
第二に、財産の開示・把握の問題です。配偶者が財産の全容を開示しない、あるいは一部を隠匿しているのではないかと疑われるケースもあります。弁護士を通じて金融機関への照会(弁護士会照会・民事訴訟法上の文書送付嘱託等)を行うことで、財産の実態を明らかにできる場合があります。
第三に、分与割合です。裁判実務では財産分与の割合は原則として2分の1ずつとする「2分の1ルール」が基本的な考え方とされています。専業主婦(夫)であった場合でも、家事労働等による財産形成への貢献が認められるため、この原則が適用されるのが一般的です。もっとも、一方の特殊な才覚や努力によって高額な資産が形成された場合などは、割合が修正されることもあります。
離婚協議における注意点と弁護士に相談すべき理由
報道にあるように修復のステップを経ずに離婚に踏み切るケースが増えている中では、感情的な勢いで財産分与の取り決めを曖昧にしたまま離婚届を提出してしまう危険があります。財産分与は離婚後でも請求できますが、民法768条2項により財産分与の請求は離婚成立から2年以内に行わなければならないという期間制限(除斥期間)があるため、早期の対応が不可欠です。
また、協議離婚で財産分与の内容を口約束のみで済ませてしまうと、後から約束が履行されないトラブルも起こり得ます。合意内容は離婚協議書として書面化し、可能であれば強制執行認諾文言付きの公正証書にしておくことで、将来の不履行時にも強制執行による回収が可能になります。
財産の種類が多岐にわたる熟年離婚では、不動産の評価方法、退職金の計算方法、年金分割の按分割合など、専門的な判断が必要な場面が多くあります。弁護士に相談することで、財産の調査・評価から交渉、調停・審判への対応まで一貫したサポートを受けることができ、不利な条件での合意を防ぐことにつながります。
まとめ
熟年離婚の増加という社会的な傾向の背景には、婚姻期間の長さゆえに複雑化した財産関係があり、それが財産分与を巡るトラブルの増加にもつながっています。民法768条に基づく財産分与の仕組み、退職金・年金分割の取り扱い、2分の1ルールや2年の除斥期間といった基本知識を押さえた上で、早い段階から計画的に準備を進めることが重要です。
熟年離婚や財産分与でお困りの場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所までご相談ください。
コラム監修者
RUI SATO
所属:代表(東京オフィス)
明治大学付属中野高校卒業、明治大学法学部・法科大学院修了。2012年弁護士登録(東京弁護士会)、2016年ネクスパート法律事務所を創設。一般民事・企業法務に加え、ブロックチェーン分野にも注力し、海外法人設立支援業務などにも取り組む。AIを活用した弁護士業務の改善・事業開発に取り組み、一般社団法人 イノベーション法務支援機構代表理事就任。公正取引委員会・中小企業庁講師、日弁連代議員、東京弁護士会常議員等を歴任。