サマリー
遺言によって財産を受け取る人を「受遺者」と呼びます。法定相続人ではない方へ財産を遺したい場合や、遺言でご自身が財産の受取人に指定された際、相続人との違いや発生する権利義務について疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
受遺者には「包括受遺者」と「特定受遺者」の2種類があり、借金などの債務を負う範囲や放棄の手続きなどが大きく異なります。
この記事では、受遺者の基本的な定義をはじめ、相続人との違いや種類ごとの注意点、相続税の扱いについて分かりやすく解説します。
受遺者とは?相続人や受贈者との違い
受遺者(じゅいしゃ)とは、遺言によって無償または一定の負担付きで財産を譲り受ける人や法人のことを指します。遺言によって財産を与える行為を「遺贈(いぞう)」と呼び、遺贈を受ける主体が受遺者となります。
受遺者は自然人(個人)に限られず、NPO法人や学校法人、自治体などの法人を指定することも可能です。遺言者の意思によって自由に指定できる点が特徴です。
法定相続人との違い
法定相続人と受遺者の最大の違いは、財産を受け取る権利の根拠です。法定相続人は民法で定められた血族関係や配偶者関係に基づいて財産を承継しますが、受遺者は遺言者の指定に基づいて財産を受け取ります。
そのため、法律上の親族関係がない友人、内縁の配偶者、お世話になった介護者などであっても、遺言書に記載されていれば受遺者として財産を受け取ることができます。
受遺者は血縁関係や婚姻関係の有無を問わず、遺言によって自由に指定できます。
受贈者との違い
受遺者としばしば混同される言葉に「受贈者(じゅぞうしゃ)」があります。両者の法的な違いは、財産移転の形態が「契約」か「単独行為」かという点にあります。
受贈者は、生前贈与や死因贈与といった「贈与契約」に基づいて財産を受け取る相手方です。契約であるため、贈与者と受贈者の双方による合意が必要となります。
一方、遺言による遺贈は遺言者単独の意思表示によって効力が生じる「単独行為」です。そのため、受遺者があらかじめ承諾していなくても遺贈自体は成立します。
| 区分 | 根拠となる行為 | 成立の要件 | 対象となる相手 |
|---|---|---|---|
| 受遺者 | 遺言(遺贈) | 遺言者の単独行為(生前の合意不要) | 個人・法人を問わず自由に指定可能 |
| 法定相続人 | 民法の規定(相続) | 被相続人の死亡(法律上の身分関係) | 配偶者および一定範囲の血族 |
| 受贈者 | 贈与契約(生前・死因) | 双方の合意(契約の締結) | 契約の合意をした個人・法人 |
受遺者の2つの種類|包括受遺者と特定受遺者
遺言によって財産を受け取る受遺者は、財産の指定方法によって「包括受遺者」と「特定受遺者」の2種類に分かれます。どちらの受遺者になるかによって、負うべき責任や必要な手続きが大きく異なります。
包括受遺者とは|割合で指定され債務も承継する
包括受遺者とは、「全財産の半分を遺贈する」「遺産の3分の1を譲る」といったように、遺産の全体に対する割合で指定された受遺者のことです。
民法の規定により、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するとされています。そのため、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や未払金といったマイナスの財産(債務)も指定割合に応じて承継することになります。
包括受遺者は法定相続人と同一の立場となるため、借金などの債務も引き継ぐ義務が生じます。
また、遺産分割協議への参加が必要となり、遺産が具体的に確定するまでは他の相続人と協議を行わなければなりません。
特定受遺者とは|特定の財産のみを受け取る
特定受遺者とは、「自宅の土地建物を遺贈する」「〇〇銀行の預金を譲る」といったように、具体的な財産を個別に指定されて受け取る受遺者のことです。
特定受遺者は指定された特定の財産のみを受け取る権利を得るため、遺言書で別途負担が指定されていない限り、原則として被相続人の借金や債務を引き継ぐことはありません。
さらに、遺産分割協議に参加する必要もなく、遺言執行者や他の相続人から指定された財産の引き渡しや名義変更の手続きを受ける立場にとどまります。
包括受遺者と特定受遺者の違い(比較と放棄手続き)
包括受遺者と特定受遺者では、権利義務の範囲だけでなく、財産の受け取りを拒否する「放棄」の手続きや期限においても明確な違いがあります。
| 項目 | 包括受遺者 | 特定受遺者 |
|---|---|---|
| 財産の指定方法 | 全部または一定の割合 | 特定の個別の財産 |
| マイナス財産の承継 | 承継する(割合に応じて負担) | 原則として承継しない |
| 遺産分割協議 | 参加が必要 | 参加は不要 |
| 放棄の方法 | 家庭裁判所への申述 | 相続人等への意思表示 |
| 放棄の期限 | 自己のために遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内 | 原則として期限なし(催告時は指定期間内) |
包括受遺者が遺贈を放棄する場合は、相続放棄と同様に、自己のために遺贈の開始があったことを知った時から原則3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述を行う必要があります。
一方、特定受遺者の放棄は家庭裁判所を通す必要がなく、遺言執行者や他の相続人に対して口頭や書面で「遺贈を受け取らない」という意思表示をするだけで完了します。
包括受遺者と特定受遺者では放棄の期限や裁判所手続きの要否が異なるため、受遺者となった際はどちらに該当するか確認することが肝要です。
受遺者になる際・指定する際の注意点
遺言書で受遺者を指定する場合や、ご自身が受遺者として指定された場合には、事前に把握しておくべき法的な注意点や手続き上の留意点が存在します。
遺留分侵害額請求を受けるリスク
兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子ども、直系尊属など)には、法律上最低限取得できる遺産の割合として「遺留分」が認められています。遺言によって受遺者に多くの財産が渡ることで、相続人の遺留分が侵害されることがあります。
遺留分を侵害された相続人は、受遺者に対して侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺贈によって不動産などの現物を受け取った場合でも、遺留分の精算は原則として金銭で行う必要があるため、受遺者に金銭的な負担が生じる可能性があります。
遺言執行者がいない場合の手続き負担
不動産などの特定遺贈を受けた場合、所有権移転登記などの名義変更手続きが必要となります。遺言書の中で「遺言執行者」が指定されていない場合、受遺者単独での申請ができず、法定相続人全員の協力を得て手続きを進めなければならないケースがあります。
相続人との関係性によっては書類への署名や押印が得られず、手続きが難航することもあります。受遺者を指定して遺言書を作成する際は、円滑な名義変更のために遺言執行者もあわせて指定しておくことが望ましいといえます。
受遺者が遺言者より先に亡くなった場合の効力
遺言者が亡くなる前に受遺者が先に亡くなってしまった場合、民法の規定により、原則としてその遺贈の効力は失効します。法定相続であれば子が代わりに相続する「代襲相続」の制度がありますが、遺贈においては原則として代襲相続は発生しません。
失効した財産は法定相続人による遺産分割の対象に戻ることになります。受遺者が先に死亡した場合でもその子などに財産を譲りたいときは、「受遺者が先に死亡したときはその子に遺贈する」といった予備的遺言(補充遺贈)を記載しておく対策が考えられます。
受遺者にかかる相続税のポイント
遺言によって財産を取得した場合、受遺者が法定相続人であっても第三者であっても、受け取った財産には原則として相続税が課税されます。生前贈与による贈与税ではなく、遺言者の死亡によって効力が生じるため相続税の対象となります。
基礎控除の計算と受遺者の扱い
相続税には「3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)」という基礎控除が設けられています。遺産の総額がこの基礎控除額を超える場合に、相続税の申告および納税が必要です。
注意が必要なのは、法定相続人以外の受遺者が財産を受け取る場合でも、基礎控除の計算式にある「法定相続人の数」には含まれないという点です。受遺者が何人指定されていても、法律上の相続人の数が増えるわけではないため、基礎控除額が拡大することはありません。
相続税額の2割加算の対象になるケース
財産を取得した人が、被相続人の「配偶者」および「一親等の血族(実子、養子、両親など)」以外である場合、算出された相続税額に2割が加算される仕組みになっています。
血縁関係のない第三者や内縁の配偶者、兄弟姉妹、代襲相続人ではない孫などが受遺者となる場合、相続税額が2割加算されます。
この制度は、偶然に財産を取得した人への負担調整や、世代を飛ばした遺産承継に対する税の公平性を図るために定められています。法定相続人以外の方へ遺贈を行う場合は、受遺者側の税負担が通常よりも重くなる点を想定しておく必要があります。
各種特例や控除の適用可否
相続税には税負担を軽減する特例や控除が複数用意されていますが、受遺者の属性や身分によって利用できるかどうかが大きく異なります。
| 特例・控除の名称 | 受遺者への適用の可否・注意点 |
|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 法律上の配偶者のみ適用可能。内縁の配偶者や事実婚の受遺者には適用されません。 |
| 小規模宅地等の特例 | 被相続人の親族である受遺者など、一定の居住・事業要件を満たす場合に適用可能です。第三者受遺者は原則として対象外です。 |
| 未成年者控除・障害者控除 | 法定相続人のみが対象となるため、相続人ではない受遺者は要件に該当しても原則適用できません。 |
このように、法定相続人であれば受けられる優遇措置が第三者の受遺者には適用されないケースが多いため、納税資金の確保を含めた綿密な確認が求められます。
まとめ
受遺者は遺言によって財産を取得する立場であり、法定相続人以外でも指定が可能です。ただし、包括遺贈か特定遺贈かによって、債務を承継するリスクや放棄手続きの要件が大きく異なります。
遺留分への配慮や相続税の2割加算など、法的な注意点も多岐にわたります。
遺贈を活用した遺言書の作成や、受遺者としての権利・義務の手続きに関して疑問や不安がある場合は、弁護士法人ネクスパート法律事務所へご相談ください。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。