サマリー
交通事故によるむちうちの施術で接骨院(整骨院)に通うなか、整形外科の受診が少ないことで後遺障害等級の認定にどのような影響が出るのか不安に感じる方もいらっしゃるでしょう。接骨院の施術者は医師ではないため、審査に欠かせない医学的資料の準備において課題が生じることがあります。この記事では、接骨院のみの通院が後遺障害認定に与える影響や理由、整形外科との受診バランス、認定手続きの流れや症状固定前の対応について解説します。
むちうちにおける後遺障害等級認定の基本的な仕組み
交通事故によってむちうち(頸椎捻挫や腰椎捻挫など)を負い、一定期間の通院治療を継続しても痛みやしびれなどの症状が残ることがあります。このように治療を尽くしても完治に至らない場合、その症状の程度を自賠責保険の基準に照らして評価する手続きが後遺障害等級認定です。
後遺障害等級の認定審査は、加害者側の任意保険会社が判断するのではなく、中立的な第三者機関である「損害保険料率算出機構」が行います。原則として提出された書面や画像資料をもとに審査が進められる仕組みとなっています。
むちうちで想定される主な後遺障害等級
むちうちによる神経症状で想定される後遺障害等級としては、主に「14級9号」と「12級13号」が挙げられます。それぞれの等級は、残存した症状の程度や医学的な立証状況によって区別されています。
| 等級 | 法令上の規定 | 認定の目安・主な要件 |
|---|---|---|
| 14級9号 | 局部に神経症状を残すもの | 他覚的所見が乏しい場合でも、事故の態様や治療経過、自覚症状の一貫性・連続性などが総合的に考慮される |
| 12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの | MRIなどの画像所見や神経学的検査により、自覚症状の原因が医学的に裏付けられる |
14級9号は、画像検査で明らかな異常が確認できない場合であっても、受傷当初から一貫した自覚症状を訴え、適切な頻度で通院を継続していることなどが考慮されます。
一方、12級13号では、骨折や脱臼、神経根の圧迫といった客観的な異常が画像検査や神経学的検査で医学的に証明できるかどうかが重要な焦点となります。
等級認定の審査において重視される医学的資料
損害保険料率算出機構による審査は書面審査が原則であるため、被害者本人の自覚症状の訴えだけでなく、それを裏付ける客観的な医学的資料が重視されます。
後遺障害等級の審査では、医師が作成する診断書や各種検査結果などの医学的な客観的記録が重要な判断材料となります。
具体的には、症状固定時に医師が作成する「後遺障害診断書」をはじめ、事故直後からの治療経過が記録された診療報酬明細書やカルテ、レントゲン・MRIなどの画像データ、腱反射や徒手筋力テストなどの神経学的検査所見が該当します。これらの医学的資料に矛盾や途切れがないかどうかが審査の鍵となります。
接骨院(整骨院)だけの通院が認定に影響しやすいとされる理由
柔道整復師は後遺障害診断書を作成できない点
接骨院(整骨院)で施術を担当する柔道整復師は国家資格を有していますが、医師ではありません。医師法等の関係法令に基づき、傷病に関する診断書を作成する権限は医師のみに認められています。
後遺障害等級の認定手続きを進めるためには、所定の様式による後遺障害診断書の提出が必要となります。接骨院にしか通院していない場合、症状固定の時期を迎えても診断書の作成を依頼できる医師がおらず、手続き自体が進められなくなるリスクがあります。
画像検査や神経学的検査などの医学的資料が不足しやすい点
後遺障害等級の審査においては、レントゲンやMRIなどの画像検査や、各種の神経学的検査(腱反射やジャクソンテストなど)の結果が客観的な判断材料として重視されます。
これらの検査は医療機関の設備を用い、医師の指示と判断のもとで実施されるものです。接骨院での施術記録や施術証明書などは作成されるものの、医療機関で行われる検査結果の代わりとして扱われることは難しいとされています。
自覚症状の一貫性・連続性を示す医学的経過記録の重要性
むちうちによる神経症状は他覚的な異常が画像に現れにくいことも多いため、受傷直後からどのような症状が継続していたかという経過の記録が重要な要素になります。
医師による診療録(カルテ)に症状の推移が定期的に記録されていないと、自覚症状の一貫性や連続性を客観的に立証することが困難になり、審査において不利な要素として捉えられる可能性があると考えられています。
整形外科と接骨院を併用する場合の一般的な留意点
交通事故によるむちうちの治療では、整形外科への定期的な受診を続けながら、日常的な痛みの緩和などを目的に接骨院を併用する方法が採られることがあります。医療機関による医学的管理と、接骨院での施術を組み合わせる考え方です。
通院の順序や頻度に法律上の明確な基準があるわけではありませんが、一般的には整形外科での診察を治療の軸に据え、接骨院への通院は補助的な位置づけとすることが多いとされています。
整形外科の受診間隔が空くことへの留意点
接骨院への通院頻度が高くなる一方で、整形外科の受診間隔が数週間や数か月単位で極端に空いてしまうと、医学的な経過観察が途切れたと見なされるリスクがあります。
整形外科への通院を行わず接骨院だけに偏った通院を続けることは、後遺障害認定の観点からも避けることが望ましいと考えられています。
定期的に医師の診察を受けていれば、症状の推移や治療の必要性が診療録に記録され、後の手続きにおいて自覚症状の一貫性を示す客観的な材料となりやすくなります。
治療費の支払いを巡る保険会社とのやり取り
相手方の任意保険会社との関係においても、通院先や通院頻度は治療費の支払対象を判断する重要な要素になります。接骨院の施術費用については、整形外科医の指示や承諾の有無が保険会社から確認される場合があります。
保険会社から通院状況や施術の必要性について確認を求められた際に備え、どの医療機関や接骨院にいつ通ったのか、どのような自覚症状があったのかを通院記録として整理しておくことが有用とされています。
整形外科と接骨院のそれぞれの役割を把握し、主治医と相談しながら通院計画を進めることが重要です。
後遺障害等級認定の手続きの流れと必要書類
症状固定の考え方と医師による判断
後遺障害等級の認定を申請するにあたっては、まず「症状固定」という段階を迎えることが一般的な前提となります。症状固定とは、適切な治療を継続して行ってもこれ以上の改善が見込めなくなった状態を指し、この時点でなお残存している症状が後遺障害の審査対象となります。
症状固定の時期は、患者の自覚症状の推移や画像検査・神経学的検査などの客観的所見を踏まえ、担当の医師が医学的な見地から判断するものとされています。
症状固定の判断は医師が行うものであり、保険会社から治療費の支払終了を打診された時期と必ずしも一致するわけではありません。
申請時に必要とされる主な書類
後遺障害等級の認定審査では、事故状況や治療経過、残存している症状の程度を客観的に裏付けるための各種書類の提出が求められます。提出された資料をもとに、損害保険料率算出機構において書面審査が進められます。
| 書類の種類 | 主な内容・役割 |
|---|---|
| 後遺障害診断書 | 医師が症状固定時の自覚症状や他覚所見、検査結果などを記載した書類 |
| 診療報酬明細書等 | 通院期間や通院日数、実施された治療内容が確認できる記録 |
| 画像検査資料 | レントゲンやMRIなど、客観的な他覚所見を示す画像データ |
| 交通事故証明書等 | 事故発生の日時や場所、当事者など事故の事実関係を証明する資料 |
これらの書類のなかでも、後遺障害診断書は認定審査における中心的な資料と位置づけられています。医師によって症状固定時の状態や治療経過が詳細に記載されているかどうかが重要視されます。
被害者請求と事前認定の特徴と違い
後遺障害等級認定の申請方法には、大きく分けて「被害者請求」と「事前認定」という二つの進め方があります。いずれの方法を選択した場合であっても、審査を行う機関は同一であり、医学的資料の内容が重視される点に違いはありません。
被害者請求は、被害者自身が必要な書類を収集し、自賠責保険に対して直接申請を行う方法です。提出する資料の内容を事前に把握しやすい利点がある反面、書類の収集や作成の手間がかかる傾向があります。
一方の事前認定は、相手方の任意保険会社が後遺障害診断書などの提出書類を取りまとめ、自賠責保険への申請手続きを代行する方法です。被害者側の手続き負担は軽減されるものの、どのような資料が提出されているかを事前に細かく確認しにくい側面があります。
接骨院のみの通院歴がある場合の対応と弁護士への相談
交通事故後に接骨院への通院が中心となっていた場合でも、症状固定の診断が下される前であれば、整形外科を受診して医学的な管理を受ける対応が検討されます。
症状固定と判断された後では、過去に不足していた画像検査や診察記録などの医学的資料を遡って補うことが難しくなる傾向があります。
そのため、まだ治療を継続している段階で医師の診察を受け、必要な検査の実施や今後の通院計画について相談することが重要とされています。
整形外科を受診する際に整理しておきたい情報
接骨院を中心とした通院歴がある状態で整形外科を受診する際は、これまでの経過をできる限り具体的に医師へ伝えることが望ましいとされています。
事故直後からどのような部位にどのような痛みやしびれが生じていたのか、接骨院でどのような施術をどの程度の頻度で受けてきたのかを整理しておくことが役立ちます。
また、現在の自覚症状の強さや天候・時間帯による変化、日常生活や仕事への具体的な支障を詳しく伝えることで、医師が症状の一貫性や推移を把握しやすくなると考えられます。
通院方法や手続きの確認における弁護士への相談
接骨院のみの通院期間が長い場合、後遺障害等級認定の手続きに向けてどのような資料が必要となるか、判断に迷うことも少なくありません。
このような状況では、交通事故の損害賠償実務を取り扱う弁護士に相談し、通院方法や必要書類の整理方法について助言を受けることも一つの方法です。
弁護士に相談することで、これまでの通院記録を踏まえた手続きの流れや、適切な医学的資料を揃えるための留意点について一般的な見通しを確認することができます。
コラム監修者
Shunsuke Teragaki
所属:代表(東京オフィス)
広島県広島市出身。修道中学・高校を経て、慶應義塾大学商学部で経営・会計・商取引を学ぶ。その後、青山学院大学法科大学院を修了して2011年に新司法試験に合格し、最高裁判所司法研修所を修了(65期)。2013年1月に第二東京弁護士会に弁護士登録し、都内法律事務所で個人・法人を問わず幅広い分野の相談・交渉に取り組む。
2016年1月に佐藤塁と共にネクスパート法律事務所を創業し、共同代表として、東京オフィスを拠点に、企業のコーポレート法務、M&A・事業承継、薬事・医事法務を中心に取り扱う。商学部で培った経営の視点を生かし、法的な可否にとどまらず、事業への影響や実行可能性まで含めた選択肢を示すことを重視している。
また、一般社団法人薬機法医療法規格協会の代表理事、一般社団法人日本美容サロン協議会の監事、一般社団法人睡眠ヘルスケア協議会の外部有識者(認証評価委員)を務め、医療・美容・ヘルスケア分野の広告規制や業界の自主的なルールづくりにも関わっている。依頼者に最適な見通しと戦略的な解決策を示すことを信条とし、丁寧かつ粘り強い対応で信頼を築いている。