更新日:2026年8月25日 (火)
公開日:2026年8月25日 (火)
株式共有時の議決権行使と招集通知の送付における会社法上の注意点
サマリー
株主が亡くなり株式が相続人の共有となった場合、会社側で議決権を行使する相続人を選ぶことはできません。共有株式の議決権は、相続人が権利行使者1人を定めて会社に通知しなければ行使できず、会社の同意で補うことにも最高裁判例による限界があります。
招集通知の送付ルールとあわせて、会社がとるべき対応を解説します。
企業の経営や法務において、株主の逝去に伴う手続は極めて慎重な対応が求められる論点の一つとされています。
特に株主名簿の名義変更が完了していない段階で定時株主総会を迎える場合、残された相続人への招集通知の送付や、議決権の行使を誰がどのように行うべきかという問題が発生します。本記事では、株式が相続によって共有状態となった場合の会社法上のルールと、実務において企業がとるべき適切な対応について、実際のご相談内容を参考とした事例に基づき解説します。
ご相談の内容
株主の一人が逝去されました。この株主には3人の相続人がいることが判明していますが、株主名簿の名義変更(名義書換)の手続はまだ完了していません。
このような状況の中で、近いうちに定時株主総会を開催し、招集通知を送付しなければならない時期を迎えることになりました。名義変更が未了の状態で株主総会を進めるにあたり、会社側で混乱を避けるために、相続人3人の中から1人を議決権行使者として選定し、その人に議決権を行使してもらうという対応をとっても法律上問題はないでしょうか。
回答の結論
結論として、会社側が主導して相続人の中から議決権行使者を選定することは、法律上できません。
会社法の規定における解釈では、株式が共有状態にある場合、相続人の方々自らが協議などによって権利を行使する1人を選定し、会社に対して通知をしなければ議決権を行使することはできないとされています。したがって、会社側が特定の相続人を指定して議決権を行使させることは認められません。
一方で、株主総会の招集通知の送付については、原則として相続人側で受領する代表者を1人決めて会社に通知する必要がありますが、そのような通知がない場合には、会社は相続人のうちの任意の1人に対して送付すれば足りる扱いとなります。ただし、議決権の行使そのものについては、あくまで相続人間の協議などで1人を選定し、会社に通知がなされない限りは権利を行使させることができない点に注意が必要です。
法的な根拠と考え方
今回の事例のように、株主が逝去して相続人が複数存在する場合、遺産分割協議が調うまでの間、その株式は相続人全員の「共有」の状況にあるものとみなされます。この株式の共有状態における法律上の取扱いについて、会社法126条および106条に規定が存在します。
まず、株主総会の招集通知をはじめとする会社からの通知や催告については、会社法126条3項および4項において次のように定められています。
3 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。
4 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
会社法126条3項・4項(抜粋)
法令の定めに従うと、相続人から通知がない局面においては、会社は相続人のうちの1人に招集通知を送付すれば法律上の要件を満たすことになります。
しかし、議決権行使などの権利行使については、会社法106条によって次のように厳格な手続が求められています。
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
会社法106条
法律上、共有者間で権利行使者を1人定め、その氏名を会社に通知しない限り、原則として株式に関する権利を行使することはできない扱いとなります。
なお、同条のただし書には「会社が同意した場合はこの限りでない」という旨の記載があり、一見すると、会社が同意することで共有者の一人による議決権行使が有効となるように思われます。
しかし、最高裁の判例によると、民法が定める共有に関する規定(民法251条・252条)を遵守することなく、共有者の一人が持分の過半数を有しているわけではないのにもかかわらず、独断で共有株式の全部について議決権を行使した場合にまで、会社側が同意を与えればその議決権行使が有効になるわけではない(最判平成27年2月19日民集69巻1号25頁)ものとされており、単に会社の同意があるのみでは、有効とならない余地が残ります。
民法上、議決権の行使は共有物の「管理行為」に該当すると考えられており、持分の過半数による決定が必要とされています。この民法上の手続を無視した個別の独断による議決権行使に対し、会社が裁量で同意を与えて有効にすることは認められないため、会社が独断で特定の相続人を選定することも同様にできないと考えられます。
類似ケースでの注意点
法律上の要件としては、相続人からの通知がない場合に「相続人のうちの1人」に招集通知を送付すれば要件を満たすことになりますが、実務上の対応としては注意が必要です。
特定の1人にしか送付しなかった場合、他の相続人が株主総会の開催自体を知らされなかったとして、感情的な対立を招くリスクや、手続の公平性を巡ってトラブルに発展する可能性があるため、実際の企業実務においては、後々の紛争や不満を回避する観点から、判明している相続人全員に対して個別に招集通知を送付することが一般的です。
また、会社側の同意権を安易に行使して特定の相続人に議決権を行使させる行為は、株主総会決議の効力を覆すリスクを孕みます。
もしも不適切な議決権行使を認めてしまった場合、後から他の株主や相続人によって株主総会決議取消しの訴え(会社法831条)が提起され、総会で決議した内容が取り消されるような重大な支障が生じるおそれがあります。遺産分割協議が長引いている場合であっても、会社側から特定の誰かを指定するのではなく、あくまで相続人側で正式な手続(権利行使者の選定と通知)を求めていただく姿勢を維持することが望ましいといえます。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
株主が逝去して株式が共有状態となった場合、会社側が議決権を行使する人を指定することはできません。議決権を行使するためには、相続人側で協議のうえ1人の権利行使者を定め、会社に通知していただく必要があります。招集通知の送付については、通知がない限り相続人の1人に送れば法律上は足りますが、実務としてはトラブル防止のために相続人全員へ送付する対応が一般的です。手続を誤ると株主総会決議の効力が揺らぐリスクがあるため、慎重な対応が求められます。
株主が逝去した後に迎える株主総会では、相続人間の関係性や遺産の分割状況によって、企業側が予期せぬ法的トラブルに巻き込まれるケースが少なくありません。会社法の条文を形式的に適用するだけでは、実務上生じる細かな疑問や、親族間の対立によるリスクに十分対応できない場合があります。
経験豊富な弁護士に事前に相談をすることで、個別の事案に応じた適切な対応や、株主・相続人に対するアプローチの仕方について具体的なアドバイスを受けることができます。また、通知書面などのリーガルチェックを事前に行うことで、株主総会の決議が後に争われるリスクを低減し、安定した企業経営を維持するためのサポートを得られる点が大きなメリットとなります。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。