更新日:2026年8月24日 (月)

公開日:2026年8月24日 (月)

住宅リースバックに関するガイドラインが策定|今年10月施行の内容と関連裁判例を解説

住宅リースバックに関するガイドラインが策定|今年10月施行の内容と関連裁判例を解説 住宅リースバックに関するガイドラインが策定|今年10月施行の内容と関連裁判例を解説

サマリー

令和8年7月、国土交通省が住宅のリースバック取引に関する宅建業法の解釈を示すガイドラインを公表しました。
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/002013677.pdf

令和8年10月1日から適用され、勧誘の際に売買・賃貸借の双方について告げるべき事項が具体化されています。
対象となる取引の範囲、違反した場合の帰結、事業者の責任が認められた裁判例をあわせて解説します。

令和8年7月、国土交通省により、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます。)の解釈を示した「リースバックに関するガイドライン」が公表されました。住宅のリースバック取引について、令和8年10月1日から適用されることとされ、事業者が売主に対して告げるべき事項が具体的に示されました。

ガイドラインは、宅建業者に対して新たな法的義務を課すものではありませんが、リースバック取引の適正化のため宅建業法の解釈について明確化する趣旨で策定されました。

リースバック取引を行う事業者は、ガイドラインに示された事項を中心として、宅建業法上の義務を遵守する必要があります。

リースバックとは?

「自宅を売ってまとまった資金にしたいものの、住み慣れた家からは離れたくない。」リースバックは、こうした希望に応える取引です。自宅などを事業者に売却して代金を受け取り、その事業者に賃料を支払いながら、同じ家にそのまま住み続けることができます。

借入ではないので返済の心配がなく、所有者でなくなることで固定資産税や大規模修繕費の負担がなくなる場合もあります。条件次第では、後から買い戻すことも可能です。資産が自宅に偏りがちな高齢者にとって、転居せずに老後資金を用意できる手段として利用が広がっています。

他方で、トラブルも少なくありません。売った後になって、毎月の賃料が思ったより高く、賃料の支払総額が短期間で売却代金を上回ることに気付いた事例や、解約を申し出たら高額な違約金を求められた事例が報告されており、国民生活センターも強引な勧誘に注意するよう呼びかけています。後ほど紹介する裁判例の売主も、いずれも高齢の年金生活者でした。

リースバック取引をめぐる課題

国土交通省不動産・建設経済局不動産業課「住宅のリースバック取引における宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方(リースバックに関するガイドライン)」(令和8年7月。以下「ガイドライン」といいます。)は、住宅のリースバックを次のように説明しています。

「住宅の所有者がその所有する住宅を売却して売却代金を得て、売却後は当該住宅の所有者となった者(以下「事業者」という。)に毎月賃料を支払うことで、それまで住んでいた住宅に引き続き住むという契約形態」

ガイドライン1頁

ガイドラインは、全国の消費生活センターなどへの相談件数を挙げたうえで、賃料が高額で支払賃料の合計額が短期間で売却価格を超えることに契約後に気付いた事例や、売買契約の解約を申し出たところ高額な違約金を請求された事例を挙げており、取引内容の理解に欠かせない情報が売主に適切に告げられずに契約が行われることを問題視し、こうした事情を策定の背景として述べています。

なお、消費者向けの資料としては、令和4年に国交省が公表した「住宅のリースバックに関するガイドブック」があります。ガイドライン公表前の資料ですが、トラブル事例と利用時の確認事項が平易にまとめられており、売主への説明の材料として参照できます。このほか、令和7年には国交省が消費者庁と連携し、国民生活センターを通じて消費者向けの啓発資料を公表しています(独立行政法人国民生活センター「強引に勧められる住宅のリースバック契約にご注意!-本当に「そのまま“ずっと”住み続けられる」契約ですか?-」)。

ガイドラインの位置づけと対象となる取引

ガイドラインは、リースバック取引に適用される宅建業法の規定について、解釈の明確化を図るものです。新たな義務を創設するのではなく、既存の条文をリースバック取引に当てはめるとどうなるかを示した文書と整理できます。

対象は、相手方の居住の用に供されている宅地建物について、売買と賃貸借が契約関係として不可分一体となっているもののうち、売買の買主が宅建業者であるもの、または売買を宅建業者が媒介もしくは代理するものです(ガイドライン2)。

範囲が形式的な線引きで区切られていない点に注意が必要です。売買契約と賃貸借契約を締結した時期が異なる場合や、買主と貸主が同一でない場合であっても、売却後も相手方が引き続きその住宅に居住することを目的とするものであれば対象に含まれます。契約の締結時期をずらしたり、賃貸人を別の会社としたりしても、適用から外れる扱いにはなりません。

適用される条文は、31条(業務処理の原則)、37条(書面の交付)、47条1号および47条の2(業務に関する禁止事項)です。売買の買主が宅建業者であり、かつ別の宅建業者が媒介等をする場合には、それぞれの宅建業者に適用されます。

勧誘に際して告げるべき事項

47条1号は、契約の締結について勧誘をするに際し、取引条件など相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について故意に事実を告げない行為を禁止しています。ガイドラインは、リースバック取引では売買と賃貸借が不可分一体であることを踏まえ、賃貸借の内容も相手方の判断に重大な影響を及ぼす事項に当たるとしました。

売買については、次の事項が挙げられています(ガイドライン3②(i))。

  1. 代金以外に授受される金銭の額および当該金銭の授受の目的
  2. 契約の解除に関する事項
  3. 損害賠償額の予定または違約金に関する事項
  4. 買戻し特約の有無およびその内容その他の相手方等が知らない場合に不利益となりうる事項

賃貸借について挙げられている16項目のうち(ガイドライン3②(ii))、賃貸借の重要事項説明で一般に扱われる項目(引渡しの時期・契約の解除・損害賠償額の予定または違約金・契約期間および契約の更新に関する事項)に加え、リースバック取引に固有の項目として、次の2点が挙げられている点は見落とせません。

  1. 宅建業者が第三者に物件を譲渡する可能性およびその場合の賃貸借関係への影響
  2. 修繕費用の負担区分その他の相手方等が知らない場合に不利益となりうる事項

転売の可能性は、通常の賃貸借の法定説明事項には含まれていない項目です。買い受けた物件を早期に転売する事業モデルを採っている場合、その見込みを売主に告げないまま契約を締結すると、47条1号に抵触する可能性があります。

なお、これら列挙された事項以外は告げなくてよいという趣旨ではなく、相手方から関心や質問が寄せられた事項についても、業務上一般に要求される通常の注意を用いて可能な範囲で調査し、告げることが必要とされています。

義務ではないが望ましいとされた事項

ガイドラインは、法に基づく義務として一律に整理するものではないとしたうえで、次の対応を望ましいものとして挙げています。

  1. 売買価額および借賃の額の算定根拠に関する事項の説明
  2. 借賃の額など借主が負担することとされた代金と、売却により売主が受領する代金との関係に関する説明(例:売却代金が賃料等の何か月分に相当するか等)
  3. 告知事項を記載した書面の交付

2点目については、売却代金が賃料の何か月分に相当するかを示すことが例として挙げられています。書面の交付は義務とされていないものの、告げた内容を後から確認できる形で残しておくことは、事業者側のリスク低減の観点でも重要となります。

なお、売買の媒介等をする宅建業者については、媒介契約書面に記載する価額について意見を述べるときに、その根拠を明らかにする義務があります(34条の2第2項)。

宅建業法のこれらの規定に違反した場合

告げるべき事項について事実と異なる説明を行い、または故意に告げない行為は47条1号に抵触し、監督官庁からの指示、業務停止命令や免許の取消しを受ける可能性があります。さらに79条の2および80条により、拘禁刑もしくは罰金刑、またはこれらが同時に科される可能性があります。

過失により告げなかった場合についても、信義を旨とし誠実に業務を行うべきことを定めた31条1項に抵触するおそれがあるとされています。担当者が知らなかったという説明では足りない構造になっており、告げるべき事項を社内で整理しておく必要があります。

勧誘の方法についても、47条の2により、利益を生ずることが確実であると誤解させる断定的判断の提供、判断に必要な時間を与えることの拒否、契約を締結しない旨の意思を示した相手方への勧誘の継続、威迫する行為などが禁止されています。

関連する裁判例

ガイドラインの公表前の事案ですが、リースバック取引について事業者の責任が認められた裁判例があります。

東京地判令和4年2月28日は、競売手続が進行していた自宅の所有者が不動産担保ローンの勧誘を受けたところ、融資ではなくリースバックに誘導され、市場価格より著しく低廉な500万円で売却させられた事案です。裁判所は、転売して利益を得る企図の下に、売主の望む内容とはかけ離れた方向へ誘導したと認定し、買主たる事業者らの共同不法行為の成立を認めて844万8,535円の連帯での支払を命じました。

この事案では、定期借家の期間が当初の説明から契約時に短縮され、契約の22日後に事業者側の都合で再度変更されたこと、物件が契約から1か月足らずで第三者へ転売されたことが認定されています。ガイドラインが告げるべき事項として挙げた契約期間および契約の更新に関する事項や、第三者に物件を譲渡する可能性に対応する事実が、違法性の判断材料になった形です。

東京地判令和5年11月27日は、査定額が2,300万円を超える自宅を500万円で売却し、あわせて1年以内に退去すべき定期建物賃貸借契約を締結した事案です。裁判所は、売買代金および退去義務という重要な事項について事実と異なることを告げられ、売主が誤認して契約に応じたとして、消費者契約法4条1項1号による売買契約の取消しを認めました。定期建物賃貸借の適用を受ける旨と、売却により実際に受け取る金額の意味は、いずれもガイドラインが告知や説明の対象として挙げた事項です。

ガイドライン自体は宅建業法の解釈を示す文書であり、民事上の効力を直接左右するものではありません。もっとも、2つの裁判例が示すように、ガイドラインで求められる事項を遵守することは、リースバックを扱う宅建業者にとっては、契約の効力に関する紛争の予防にも寄与することといえます。

まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ

まず、自社の取引がガイドラインの対象に当たるかを確認し、対象となる場合は、告げるべき事項が説明資料や契約書式に反映されているかを点検することが必要となります。

営業担当者が口頭で説明している内容と書面の記載が食い違っていないか、売買価額や賃料の算定根拠を記録として残す運用が整っているかも、あわせて確認しておきたい点です。

ネクスパート法律事務所では、契約法務・労務・役員の責任・クレーム対応・新規事業法務など幅広い領域について、ご相談を承っております。貴社の事業に弁護士が継続的に関与することで、判断の精度を高め、トラブルの芽を早期に発見できます。ぜひお気軽にお問い合わせください。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

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