更新日:2026年8月7日 (金)
公開日:2026年8月7日 (金)
訪問購入業者3社に特定商取引法に基づく業務停止命令-そもそも「訪問購入」とは?
サマリー
自宅に突然訪ねてきた業者に、指輪や時計をその場で買い取られてしまう。
こうした取引について、令和8年8月5日、九州経済産業局が訪問購入業者3社と代表取締役2名に対する行政処分を公表しました。
訪問購入とは、物品の購入を業として営む事業者が、消費者の自宅などを訪ねて物品を買い取る取引をいいます(特定商取引法58条の4)。消費者の側からみると、訪問購入は訪問販売よりも警戒しにくい面があります。商品を買わされるわけではなく、不要品を引き取ってもらえる話として受け取りやすいためです。もっとも、いったん物品を引き渡すと事実上取り戻しにくくなるため、特定商取引法は、平成24年改正以降、訪問購入について独自の規制を置いています。
本記事ではこれらの規制の概要と今回の処分についてご説明します。
自宅に突然訪ねてきた業者に、指輪や時計をその場で買い取られてしまう。
こうした取引について、令和8年8月5日、九州経済産業局が訪問購入業者3社と代表取締役2名に対する行政処分を公表しました。買取を扱う事業者にとって、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号。以下「特定商取引法」といいます。)が訪問購入に課している規制は、営業手法そのものを左右します。
訪問購入とは
訪問購入とは、物品の購入を業として営む事業者が、消費者の自宅などを訪ねて物品を買い取る取引をいいます(特定商取引法58条の4)。聞き馴染みのある「訪問販売」とは、売る側と買う側が入れ替わった関係にあり、押し売りに対して「押し買い」と呼ばれることもあります。
対象となる物品は、宝石、貴金属、時計といった中古品が典型です。今回処分を受けた3社も、これらの物品を消費者宅で買い取っていました。
消費者の側からみると、訪問購入は訪問販売よりも警戒しにくい面があります。商品を買わされるわけではなく、不要品を引き取ってもらえる話として受け取りやすいためです。もっとも、いったん物品を引き渡すと事実上取り戻しにくくなるため、特定商取引法は、平成24年改正以降、訪問購入について独自の規制を置いています。
(関連記事:【最新】買取サービスにも景品表示法の規制が適用!知らないと危険な5つの広告パターン)
特定商取引法が訪問購入業者に課す主な規制
今回の処分で違反が認定された規制を整理すると、訪問購入を行う事業者には次の義務が課されています。
- 勧誘に先立ち、購入業者の氏名または名称、売買契約の締結について勧誘をする目的である旨、および勧誘に係る物品の種類を相手方に明らかにすること(58条の5)
- 勧誘の要請をしていない相手方に対して勧誘をしないこと(58条の6第1項)
- 勧誘に先立ち、相手方に勧誘を受ける意思があることを確認すること(同2項)
- 契約を締結しない旨の意思を示した相手方に、勧誘を続けないこと(同3項)
- 代金を支払い、物品の引渡しを受けたときに、契約の内容を明らかにする書面を交付すること(58条の8第2項)
- 物品の引渡しを受ける際、クーリング・オフ期間は引渡しを拒むことができる旨を告げること(58条の9)
このうち上記2の規定は、要請を受けていない相手方への勧誘そのものを禁止するものであり、訪問購入の規制の中核にあたります。「勧誘の要請」については、例えば、広告等を見た消費者から「○○を売りたいので、契約について話を聞きたい。」と話があったときなどに認められるものとされており(消費者庁・経済産業省「特定商取引に関する法律等の施行について」(令和6年11月19日消費者庁次長・経済産業省大臣官房商務・サービス審議官通達)107頁)、こういった要請がなく、飛び込みで訪ねて買取を持ちかける営業は、それだけで違反となります。
クーリング・オフは訪問販売の制度として知られていますが、訪問購入にもクーリング・オフの定めがあり、書面を受領した日から起算して8日以内は消費者側から契約を解除できます。売った物が戻らなければ解除の意味が薄れるため、この期間中は物品の引渡しを拒めることとされ、その旨を告げることまで事業者の義務とされています(58条の9)。
今回の事案では、書面を受領した日から起算して8日以内のクーリング・オフ期間中は電磁的記録によって契約を解除できること、およびその解除は通知を発した時に効力を生ずることが書面に記載されておらず、記載不備として違反が認定されました。
(参照:特商法上の特定継続的役務提供契約とサブスクリプション)
今回の行政処分の内容
九州経済産業局は令和8年8月4日、株式会社R-group、株式会社キャピタルリンクおよび株式会社Two-callに対し、令和8年8月5日から令和9年5月4日までの9か月間、訪問購入に関する勧誘、申込みの受付および契約締結を停止するよう命じました(58条の13第1項)。あわせて、法令遵守体制の整備その他の再発防止策を講じることを指示しています(58条の12第1項)。
3社は連携共同し、最初の訪問で不要品の買取を勧誘して再訪の承諾のみを取り付けたうえで、後日別の従業員が訪問して貴金属の買取を勧誘していました。この一連の行為について、九州経済産業局は、訪問購入に係る取引の公正および売買契約の相手方の利益が著しく害されるおそれがあると認定しています。R-groupおよびTwo-callの代表取締役と、キャピタルリンクの代表取締役に対しても、同じ期間の業務禁止命令が出されました(58条の13の2第1項)。
処分の内容は、消費者庁のウェブサイトでも公表されています(参照:特定商取引法に基づく行政処分について(令和8年8月5日、消費者庁))。
買取事業を営む事業者が留意すべき点
規制の内容を踏まえると、営業所以外の場所で買取の勧誘を行う場合の手順としては、以下のように整理されます(実務書(阿部高明『逐条解説 特定商取引法 第Ⅱ巻』(青林書院、2022年)330頁)参照)。
①勧誘の要請 → ②氏名等の明示 → ③勧誘受諾意思の確認 → ④勧誘
飛び込みで訪ねて買取を持ちかける営業は、この①を欠くため、以降の手順を守っても違反となります。営業所での勧誘であれば要請は不要で、氏名等の明示から始めることになります。電話やダイレクトメールによる勧誘は営業所等以外の場所における勧誘にあたらないため、要請がなくても行えるものとされています(同330頁)。
明示すべき事項は、購入業者の氏名または名称、売買契約の締結について勧誘をする目的である旨、勧誘に係る物品の種類の3点です(58条の5)。名乗るだけでは足りず、買取の勧誘が目的であることと、買い受けようとする物品の種類まで伝える必要があります。
今回の事案で問題とされた「なにかいらないものがあれば持って行きます」という切り出し方は、名称も勧誘目的も物品の種類も告げていない点で、この3点をいずれも満たしていません。
実際に声をかけるのが従業員や委託先であっても、義務者は購入業者であり(58条の5)、業務停止命令や指示を受けるのも購入業者です。今回の処分でも、勧誘を行ったのは各社の従業員でしたが、名宛人は3社と代表取締役2名でした。声のかけ方の文言と、承諾を得た範囲の記録方法を社内で統一しておくことが、実務上の備えになります。
なお、自動車、携行が容易でない家庭用電気機械器具、家具、書籍、有価証券、レコードやCD等の記録媒体は、訪問購入の規制対象から除かれています(特定商取引に関する法律施行令34条)。取り扱う商材によって適用の有無が変わるため、自社の取扱品目を確認しておく必要があります(参照:特定商取引に関する法律施行令)。
まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ
訪問購入は、消費者宅を訪ねて物品を買い取る取引であり、特定商取引法上、訪問販売とは別の規制を受けます。要請のない勧誘が禁止されているため、飛び込み訪問を前提とした買取営業は成り立ちにくい構造になっています。書面の記載事項や引渡し拒絶の告知といった細部の不備も処分の理由となり、今回は9か月の業務停止と代表取締役個人への業務禁止命令にまで至りました。買取事業を営む場合は、勧誘の入り口から書面の様式まで、規制に沿った運用になっているかを確認しておく必要があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。