更新日:2026年8月5日 (水)

公開日:2026年8月5日 (水)

普通株式を優先株式に転換する手続と必要書類を弁護士が解説

普通株式を優先株式に転換する手続と必要書類を弁護士が解説 普通株式を優先株式に転換する手続と必要書類を弁護士が解説

サマリー

企業が成長段階に応じた資金調達を行う際や、事業承継を進める過程において、既存の「普通株式」の一部を、権利内容の異なる「優先株式(種類株式)」に変更(転換)したいというニーズが生じることがあります。

しかし、会社法上、発行済株式を直接別の種類株式へと「転換」する手続について、直接的な明文規定は設けられていません。実務上は、どのような手続と書類を用意すればこれが可能になるのでしょうか。登記先例や各種文献の見解を交えながら詳しく解説します。

普通株式を優先株式に転換することは可能か

会社法上、既に発行されている普通株式の一部を優先株式などの種類株式に変更する手続について、直接規定した文言はありません。しかし、法務局の見解である登記先例(昭和50年4月30日民四2249号)においては、一定の条件を充たすことで、普通株式のみを発行している株式会社が発行済みの普通株式の一部を種類株式に変更することが認められています。

この先例では、以下の3つの要件(書類)を満たす必要があるとされています。

  1. 種類株式の追加にかかる定款変更決議を行った株主総会議事録と、当該株主総会議事録にかかる株主リスト
  2. 株式会社と、種類株式に変更する株式を保有する株主との間の合意書
  3. 他の株主の全員の同意書

このように、実務上は「株主総会の決議」に加えて、「対象株主との合意」および「他の全株主の同意」を揃えることで、既存の株式の内容を変更(転換)することが可能です。

もっとも、A種種類株式を既に発行している場合などで、新しく別の種類の株式(例えばAA型種種類株式など)に転換するのではなく、既存の定款規定に基づいて普通株式の一部を既存のA種種類株式に変更する場合には、上記の「1.定款変更決議」そのものは不要となる場合があります。ただし、既存の種類株主への影響を考慮した別の保護手続が求められることになります。

普通株式を優先株式へ転換するための必要手続と書類

普通株式の一部を、既に定款に規定のある「A種種類株式」へ転換する場合、実務上は手続の適法性を担保するため、以下に挙げる書類および手続を全て経る形で進めることが安全であると考えられます。

必要となる書類および合意

  1. 臨時株主総会議事録および当該議事録にかかる株主リスト
    普通株式をA種種類株式に転換する旨の決議。当該議案については原則として全株主の同意が必要となります。また、株主リストについて、複数議案がある場合では、当該議案のもの(全同意)と他の議案のものとで分ける必要があります。
  2. 普通種類株主総会議事録および当該議事録にかかる株主リスト
    転換元となる種類株主総会。当該議案については原則として全株主の同意が必要となります。また、株主リストについて、複数議案がある場合、上記①同様。
  3. A種種類株主総会議事録および当該議事録にかかる株主リスト
    転換先となる種類株主総会。特別決議(会社法322条1項1号ロ・324条2項4号)が必要となります。また、株主リストについて、複数議案がある場合、上記①同様。
  4. 代表取締役と会社との間での合意書
    株式の内容変更(転換)に応じる当事者間の合意があったことを証する書面です。
  5. その他の普通種類株主全員の同意書
    株主間の公平性を担保するために、普通株を保有する他の株主全員の同意があったことを証する書面です。
  6. 既存のA種種類株主全員の同意書(推奨)
    転換先の種類株式を保有する種類株主による、当該種類株式の総数増加に伴う影響への同意があったことを証する書面です。必須ではないものの、株主数が少ないのであればかかる同意書を回収することが望ましいです。

実務において注意すべき法的論点と解釈

なぜ上記のように、複数の種類株主総会の決議や、他の株主全員の同意書まで必要になるのでしょうか。商業登記の実務において有力とされる文献の解説を紐解くと、その理由と法的な背景が明確になります。

「既に発行済みの種類株式の内容を変更してこれを優先株式とする場合も,同様であり,株主総会の特別決議により定款を変更し,当該種類株式(通常は,この者に有利になる。)又は他の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは,更に,その種類株主総会の特別決議をも得る必要がある」

松井信憲『商業登記ハンドブック〔第5版〕』(商事法務、2025年)247頁

また、今回のケースのように定款変更そのものを経ずに、既存の定款規定に基づいて普通株式の一部をA種種類株式に変更する場合であっても、他の株主に不利益を及ぼすおそれがある以上、同様の保護手続が必要であると解されています。

「発行済種類株式の一部の内容を変更することにより、他の種類株式を保有する種類株主にもたらされる不利益の程度は、前記1の定款変更を経た場合と異ならない(中略)。そこで、発行済種類株式の一部の内容変更によって損害を受けるおそれのある他の種類株主がいる場合には、当該種類株主を構成員とする種類株主総会の特別決議を要すると考えるべきである(会324条2項4号)」

弥永真生ほか『会社法実務相談』(商事法務、2016年)339頁

「株式の内容の変更によりある種類の株主の種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、当該種類株主の種類株主総会の特別決議が必要となる(会社法第322条第1項第1号ロ・第324条第2項第4号)。」「A種株式の内容を全部取得条項付種類株式に変更する際には、普通株主およびA種株主双方に『損害を及ぼすおそれ』があると考えられるため、それぞれ種類株主総会決議を経ておく必要がある」

森本滋『募集株式発行の法と実務』(商事法務、2016年)354頁

今回のケースに当てはめると、普通株式からA種種類株式への変更が行われることで、以下の影響が生じます。

  • 他の普通株主への影響
    代表取締役Xが優先的な権利を得るため、残余財産の分配等において普通株主全体の地位が相対的に低下するおそれがあります。
  • 既存のA種種類株主への影響
    A種種類株式の発行総数が増加することにより、1株あたりの残余財産分配額が減少するなど、経済的な不利益(損害)を受けるおそれがあります。

したがって、会社法322条1項の精神、および実務上のリスク回避の観点から、普通種類株主総会(転換元・全同意)およびA種種類株主総会(転換先・特別決議)の双方において適切な手続を経ることが不可欠となります。

手続の適法性・安全性を高めるための実務対応

前述のとおり、文献や先例を厳密に精査すると、「A種種類株式を保有する株主全員からの個別の同意書」までを直接義務付ける明確な記述は見当たりません。しかし、本件のような中小・中堅規模の非公開会社においては、株主ごとの利害対立が将来的な法的紛争に発展するリスクを最小限に抑える必要があります。

結果として、既存の普通株主およびA種種類株主の全員から「同意書」を回収し、全ての株主総会(臨時株主総会、普通種類株主総会、A種種類株主総会)を全会一致で承認させる形をとることが、最も安全かつ瑕疵のない実務対応といえます。

参考:本手続にかかる登録免許税

本件のように普通株式を優先株式に転換する(種類株式の内容変更・発行数の変更等に伴う変更登記)手続は、原則として申請1件につき3万円の登録免許税がかかります(登録免許税法別表第1第24号(1)(ツ)に該当)。

まとめ・ご相談はネクスパート法律事務所へ

発行済みの普通株式を優先株式に転換する手続は、会社法上の明文規定がないからこそ、登記先例や学説・実務書の綿密な解釈に基づいた慎重な書類作成が求められます。手続に不備があると、後々の株主間トラブルの原因となるだけでなく、法務局で補正を求められ、あるいは登記が却下されるリスクもあります。

ネクスパート法律事務所では、コーポレートガバナンスや商業登記に関する豊富な経験を有する弁護士が、貴社の状況に合わせた最適な手続・議事録等の作成をサポートいたします。株式の権利内容変更や種類株式の発行をご検討中の経営者・法務担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の事案に対する法的助言ではありません。具体的な対応については弁護士にご相談ください。

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