更新日:2025年8月15日 (金)

公開日:2025年8月15日 (金)

【弁護士解説】もう手形は使えない!支払方法の原則「現金払い」と「60日ルール」【令和8年施行・取適法】

【弁護士解説】もう手形は使えない!支払方法の原則「現金払い」と「60日ルール」【令和8年施行・取適法】 【弁護士解説】もう手形は使えない!支払方法の原則「現金払い」と「60日ルール」【令和8年施行・取適法】

サマリー

令和8年1月1日、約半世紀にわたり日本の事業者間取引の基盤となってきた下請法が、「中小受託取引適正化法(取適法)」として大きく生まれ変わります。

この改正は単なる名称変更ではありません。特に支払方法に関するルールは根本から見直され、多くの企業にとって実務上の大きなインパクトがあります。

本記事では、取適法の中でも特に重要な「手形払いの原則禁止」と「支払サイトの考え方」に焦点を当て、企業が何をすべきかを具体的に解説します。

なぜ支払方法のルールが大きく変わるのか?

今回の法改正の大きな目的の一つは、長年、中小企業の資金繰りを圧迫する要因とされてきた商慣行を是正することにあります。

特に、割引料を支払わなければすぐに現金化できない「手形払い」は、実質的に中小企業(取適法では「中小受託事業者」)にコストを負担させ、資金繰りを悪化させる大きな要因でした。
たとえ支払期日が「受領後60日以内」と定められていても、手形サイトが120日であれば、中小受託事業者が実際に現金を手にするのは取引から半年近く先になるケースも珍しくありませんでした。

このような状況を解消し、中小受託事業者が労力の対価を速やかに、かつ満額で受け取れる公正な取引環境を整備すること。これが、支払ルールが抜本的に見直される背景です。

取適法の新しい支払ルールは「60日以内の現金払い」が鉄則に

取適法における支払いの大原則は、非常にシンプルです。

それは、「給付を受領した日から起算して60日以内に、現金で支払う」というものです。

「支払期日を60日以内とする」ルール自体は現行の下請法から変わりません。

しかし、後述する手形払いの禁止により、この「60日」が持つ意味が大きく変わります。

これまでは手形サイトを含めると現金化まで100日以上かかることもありましたが、今後は取引の完了(給付の受領)から遅くとも60日後には、中小受託事業者の銀行口座に代金が満額振り込まれている状態が原則となります。
これは、発注側(委託事業者)の資金繰りに極めて大きな影響を与える、実質的な支払サイトの短縮と言えます。

原則禁止となる支払方法とは?ケース別で解説

取適法では、従来の「支払遅延」の禁止行為の一類型として、中小受託事業者が支払期日までに満額の現金を受け取れない支払方法が、原則としてすべて禁止されます。

具体的には、以下のようなケースが支払遅延に該当し、違法となります。

  • 手形(約束手形・為替手形)の交付

手形による支払いは、全面的に禁止されます。たとえ中小受託事業者の同意があったとしても、手形を交付した時点で取適法違反となります。

  • 電子記録債権(でんさい)

「手形がダメなら、でんさいに切り替えれば良い」と安易に考えるのは危険です。電子記録債権であっても、支払期日までに中小受託事業者が割引料等の手数料を負担しなければ現金化できない仕組みのものは、禁止されます。支払期日に満額の現金が自動的に振り込まれる仕組みでなければなりません。

  • ファクタリング

ファクタリングの利用を前提とした支払いも同様です。委託事業者が中小受託事業者に対し、手数料を負担するファクタリングを利用しなければ期日前に現金化できないような運用を行うことは、実質的な支払遅延とみなされ、禁止されます。

  • 相殺

親事業者が一方的に買掛金と売掛金を相殺することも、支払遅延に該当する可能性があります。相殺が認められるには、事前に書面等で相殺に関する合意がなされており、かつ相殺額や算定根拠が明確であるなど、厳格な要件を満たす必要があります。

 
ポイントは、「支払期日までに」「手数料等の負担なく」「満額を現金で」受け取れるかどうか、という点です。
この基準を満たさない支払方法は、すべて違法となるリスクがあります。

企業が今すぐ着手すべき実務対応

この大きなルール変更に対応するため、すべての企業、特に発注を行う立場の委託事業者は、早急な準備が必要です。

  • 資金繰り計画の抜本的な見直し

手形サイトを前提とした資金繰りは通用しなくなります。支払サイトが実質的に短縮されることを見据え、早急にキャッシュフロー計画を再検討する必要があります。

  • 経理・支払プロセスの変更

手形の発行業務を完全に停止し、銀行振込を原則とする支払プロセスへの移行を完了させなければなりません。

  • 取引基本契約書の見直し

多くの契約書には支払方法に関する条項があります。「手形または現金で支払う」といった記載が残っている場合、取適法の施行に備えて「銀行振込により支払う」といった形に修正する必要があります。

  • 社内規程の改訂と従業員への周知

経理規程や購買規程などを改訂し、営業担当者や購買担当者など、取引に関わるすべての従業員に新しいルールを周知徹底することが不可欠です。

まとめ:支払ルールの変更は全事業者に影響が及びます

令和8年1月1日に施行される取適法は、特に支払方法に関して、長年の商慣行を覆す大きな変更をもたらします。

手形払いが原則禁止され、「60日以内の現金払いが徹底されることは、中小企業の資金繰りを健全化する一方で、発注側企業には資金繰りの見直しという喫緊の課題を突き付けます。

自社が「委託事業者」に該当するのか、現在の支払方法や契約書に問題はないか、少しでも不安があれば、法改正が施行される前に専門家である弁護士に相談し、適切な対応を取ることをお勧めします。

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