景表法は、事業者の販売価格について一般消費者に実際のものや競争事業者よりも著しく有利であると誤認される表示を不当表示(有利誤認表示)として規制しており、有利誤認表示の一つとして、不当な二重価格表示を禁止しています。
対象となる価格表示・表示媒体
事業者の事業形態を問わず、事業者が、一般消費者に対して商品やサービスを供給する際に行う価格表示のすべてを対象としています。
また、価格表示については、商品の値札、店頭における表示、チラシ広告、新聞・テレビによる広告、インターネットによる広告等、一般消費者に対して行われる価格表示であれば、それがどのような表示媒体により行われるものであるかを問いません。
二重価格表示とは
二重価格表示とは、事業者が販売価格にその販売価格よりも高い他の価格(比較対照価格)を併記して表示するものです。
以下のような場合については、不当表示に該当するおそれがあります。
事実と異なる表示を比較対照価格として表示する場合
二重価格表示が行われる場合の比較対照価格は、事実に基づいて表示する必要があります。同一でない商品の価格を比較対象価格として使用する場合や、比較対象に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合など、比較対照価格が虚偽のものである場合には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがあります。
過去の販売価格等を比較対照価格とする二重価格表示について
以下のような価格を「通常価格」として最近相当期間にわたって販売されていた価格であるとの印象を与えて比較対象価格を使用する場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
- 実際に販売されていた価格よりも高い価格
- 販売実績の全くない商品・短期間しか販売した実績のない商品の価格
- 過去の販売期間のうち短期間において販売された価格
また、過去において販売されていた価格を具体的な販売期間を明示せず、あるいは、実際とは異なる販売期間を表示して比較対照価格を使用することは、不当表示に該当するおそれがあります。
なお、野菜や生鮮食品など、タイムサービスや閉店間際の売れ残りを回避するために割引販売をする場合は、それまで販売されていた商品そのものの価格を引き下げるもので、同一性が明らかなので、不当表示には該当しません。
具体例
「当店通常価格1万8000円を1万2000円」と表示しているが、実際には、今回初めて販売される場合。
「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とは
「相当期間」については、必ずしも連続した期間に限定されるものではありません。断続的にセールが実施される場合は、比較対照価格で販売されていた期間を全体として評価します。
また、「販売されていた」とは、実際に消費者に購入された実績までは必要ではなく、事業者が通常の販売活動において販売していたことをいいます。
ただし、一定の期間販売していたとしても、通常の販売場所とは異なる場所に陳列してあるなど単に比較対照価格とするための実績作りとして一時的に販売していたとみられるような場合には、「販売されていた」とはみられません。
「最近相当期間にわたって販売されていた価格」の判断
比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるかどうかは、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されますが、8週間未満の場合は、商品が販売されていた期間の過半を占めている必要があります。
ただし、上記の要件を満たす場合であっても、販売期間が2週間未満の場合には、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえません。
- セール開始時点から8週間前の期間
- 価格使用が8週間未満の場合は、商品が販売されていた期間の過半
将来の販売価格を比較対象価格とする二重価格表示について
新商品の販売において、販売開始直後のセール期間などで、セール期間終了後の販売価格(将来の販売価格)を比較対象価格として表示されることがあります。
このように将来の販売価格を比較対照価格として表示する際に、事業者が比較対象価格として表示された将来の販売価格で販売する確実な予定を有していない場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
将来の販売価格で販売する確実な予定
将来の販売価格で販売する「確実な予定」を有しているかどうかは販売計画の内容にもとづいて判断されます。セール期間経過後に比較対象価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画(「合理的かつ確実に実施される販売計画」)を、セール期間を通じて有していなければ、「確実な予定」はないとされるおそれがあります。
また、以下のような販売計画については、「合理的」な販売計画とはいえないため、「確実な予定」はないと判断されるおそれがあります。
- 販売計画の内容が、それを実行しても計画のとおり将来の販売価格て販売することができる見込みが客観的にみて乏しい場合
- 将来の販売価格で販売するか否か自体について、二重価格表示の開始子に事業者が改めて判断するものになっている場合や、不確実な事情にゆだねられている場合
セール期間経過後に将来の販売価格で販売していない場合(商品自体の販売をしていない場合も含む)には、「確実な予定」がないと推認されます。
ただし、以下の事情をすべて満たす場合には、将来の販売価格で販売できない特段の事情があると認められますので、「確実な予定」がないと判断されません、
- 合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータが存在すること
- 天変地異・店舗損壊・流通網寸断などの事業者の責めに帰すことができない不可抗力で販売できなくなった場合
将来の販売価格での販売期間
セール期間経過後に比較対象価格とされた将来の販売価格で販売したのがごく短期間であった場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
ごく短期間であったかどうかは具体的な事例ごとに個別に判断されますが、比較対象価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続した場合は、ごく短期間であったとは判断されません。
なお、クリスマスケーキ・恵方巻・年越しそば等の特定の期間又は特定の日に需要が集中する商品については、将来の販売価格での販売期間が2週間未満であっても、通常は不当表示と判断されません。
希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、希望小売価格よりも高い価格を希望小売価格として表示し、あるいは、希望小売価格が設定されていないにも関わらず、任意の価格を希望小売価格として表示するなど、製造業者等により設定されあらかじめカタログ等により公表されているとは言え相価格を希望小売価格として称して比較対照価格に使用した場合、不当表示に該当するおそれがあります。
具体例
「メーカー希望小売価格3万円の品割引価格2万5000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、メーカーは希望小売価格を設定していない場合。
競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
自己の販売価格の安さを強調するために、最近の市価よりも高い価格を市価として比較対照価格に使用すること、あるいは、競争事業者の販売価格よりも高い価格を競争事業者の販売価格として比較対照価格に使用することは、不当表示に該当するおそれがあります。
具体例
A販売店が、「B販売店11万円の品 8万8000円」と表示しているが、実際には、当該商品と同一の商品について、B販売店では最近時において7万7000円で販売されている場合。
他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
会員制の販売方法において、非会員価格を比較対照価格に使用する場合、不当表示に該当するおそれがあります。
具体例
「非会員価格5万円 会員価格2万円」と表示しているが、実際には、購入を希望する一般消費者は誰でも会員になることができ、非会員価格で販売されることはほとんどない場合。
まとめ
ここでは、景表法によって禁止されている有利誤認表示の一類型である二重価格表示について見てきました。
事業者にとって、提供する商品・サービスがお買い得であることをアピールし、顧客の購買意欲を刺激することは重要です。しかし、これが行き過ぎてしまい、顧客に誤解を与えるようなものとなってしまう場合には、一定のペナルティや企業イメージの毀損を受けることがあります。
ですので、販売戦略や販売計画を立てる場合には、景表法に配慮する必要があります。

「このような表現は大丈夫かな?」「この商品をこうやって訴求したいけど、景表法に違反しないかな?」などのご不安がございましたら、是非ともご相談ください。