医師・専門家の推薦広告はNG?「医薬関係者等の推せん」規制を徹底解説

「〇〇大学病院の医師が推薦!」

「美容家△△先生も認めた実力」

「厚生労働省認可の最新技術」

化粧品や健康食品、美容機器などの広告で、このような専門家や公的機関の権威を借りた表現を見かけたことはないでしょうか。消費者に安心感や信頼性を与え、強い訴求力を持つこれらの表現ですが、実は医薬品医療機器等法(薬機法)の規制上、大きなリスクを孕んでいます。

今回は、薬機法広告規制の中でも特に判断が難しく、「医薬関係者等の推せん」の禁止について、根拠となるルールを紐解きながら、どこまでが許されてどこからがNGなのか、具体例を交えて徹底的に解説します。

広告担当者、マーケター、アフィリエイター、インフルエンサーの方は、意図せず法令違反を犯してしまうことのないよう、ぜひ最後までご覧ください。

目次

なぜ「医薬関係者等の推せん」は原則禁止なのか?

そもそも、なぜ専門家が「良い」と推薦することまで法律で規制する必要があるのでしょうか。

その理由は、医薬品等の広告が一般消費者の認識に与える影響の大きさにあります。

医師や薬局、公的な機関などが推薦していると聞けば、多くの消費者は「国や専門家が効果や安全性を保証しているのだから、間違いなく良い製品だ」と過度に信頼し、冷静な商品選択ができなくなるおそれがあります。

たとえ推薦していることが事実であったとしても、消費者の過度な期待を煽り、本来必要のない製品まで購入させてしまう可能性があるため、医薬品等の適正な広告を確保する観点から原則として禁止されているのです。

このルールを定めているのが、薬機法第66条の規定を具体化した「医薬品等適正広告基準」の第4の10「医薬関係者等の推せん」です。

医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局、その他医薬品等の効能効果等に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。

ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。

「医薬品等適正広告基準」の第4の10「医薬関係者等の推せん」

条項だけでは少し分かりにくいので、ここからは「誰が?」「何をすると?」NGになるのかを分解して見ていきましょう。

規制対象となる「推せん者」の範囲は非常に広い

まず注意すべきなのは、規制対象となる「医薬関係者等」の範囲が、私たちが想像するよりもずっと広いという点です。

医薬関係者、理容師、美容師

これは最も分かりやすい例です。具体的には以下のような職業の方々が該当します。

  • 医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師など
  • 理容師、美容師

病院、診療所、薬局

特定の医療機関や薬局がその製品を選んで使用している、といった広告も禁止です。

  • 例:「〇〇大学病院の皮膚科で採用されている化粧水」「全国の△△薬局チェーンで推奨品として販売中」

公務所、学校、学会を含む団体

ここが特に注意を要するポイントです。医薬品等の効能効果に関し、世間の人々の認識に大きな影響を与える団体も規制対象に含まれます。

重要なのは、この範囲が「厳格な意味の医薬関係に限定されない」という点です。

  • 公務所: 厚生労働省、経済産業省、消費者庁、都道府県、市町村など。
  • 学校: 〇〇大学、〇〇専門学校など。
  • 学会: 日本〇〇医学会、日本△△薬学会など。
  • その他: 特定のNPO法人、消費者団体なども含まれる可能性があります。

美容ライター、美容家などの「専門家」

化粧品広告で頻繁に登場する「美容の専門家」はどうでしょうか。

これについては「化粧品等の適正広告ガイドライン」に以下のように補足があります。

美容ライター、美容家(専門家、研究家等を謳う著名人を包含する)が、広告(推薦)する行為について直ちに違反とする趣旨ではないが、化粧品等の効能効果に関し、世人の認識に相当の影響を与えると考えられる場合には本項に抵触するおそれがあるので注意すること。

化粧品等の適正広告ガイドライン

つまり、「美容家」という肩書だけで直ちに違反になるわけではないが、その人が世間に与える影響力が大きく、消費者がその人の推薦をもって製品の効果を過信してしまうような場合は、規制に抵触する可能性がある、ということです。

「〇〇さんプロデュース」「△△さん監修」といった表現は、このグレーゾーンに位置します。その専門家の知名度や社会的影響力、そして広告における見せ方によって、違反と判断されるリスクが変動するため、慎重な検討が必要です。

禁止される「推せん」行為の具体例

では、具体的にどのような行為(表現)が「推せん」とみなされ、禁止されるのでしょうか。基準では以下の行為が例示されています。

  • 指定
  • 公認
  • 推せん
  • 指導
  • 選用

これらを具体的な広告表現に落とし込むと、以下のようになります。これらはたとえ事実であってもNGです。

  • 「〇〇医師が開発段階から指導し、完成した美容液」
  • 「△△大学病院の臨床データで効果が認められ、正式採用」
  • 「日本アンチエイジング学会の指定成分を高配合」
  • 「美容師の手荒れを防ぐために全国のサロンが選用」

注意すべき特殊な「推せん」表現

上記の直接的な表現以外にも、注意すべきケースが2つあります。

「厚生労働省認可(許可・承認等)」の表現

「この製品は厚生労働省に承認された医薬部外品です」といった事実は、製品の分類を示す上で重要な情報です。しかし、これを広告で強調し、あたかも国(公務所)が製品の有効性や安全性を「公認・推薦」しているかのように見せることは、この規制に抵触します。

医薬品としての承認を受けている事実と、それを広告で謳うことは全く別の問題です。製品のパッケージ等に必要な表示として記載することと、広告で「国の推薦」を匂わせる表現をすることは明確に区別しなければなりません。

「特許」に関する表現

「特許取得の独自製法」「特許第〇〇号」といった表現も、使い方を誤ると規制に抵触します。

特許は特許庁(公務所)が認めるものです。そのため、特許取得を謳うことが、「国がその技術や効果を公認した」という誤解を消費者に与えるおそれがあるためです。

特許に関する表現は、事実であったとしても「医薬関係者等の推せん」にあたり、原則として広告できません。もし事実でない場合は、さらに悪質な虚偽広告として扱われます。

権利侵害の防止など、特殊な目的で特許について広告したい場合は、医薬品等の広告とは明確に分離して行う必要があります。

「推せん」が例外的に許されるケースとは?

原則禁止の「医薬関係者等の推せん」ですが、医薬品等適正広告基準の第4の10では、ごく僅かながら例外を認めています

【ただし書き】
公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。

これは一体どのようなケースでしょうか。解説では、以下のような具体例が挙げられています。

  • 市町村が、ネズミやゴキブリなどの衛生害虫を駆除する事業を行う際に、特定の殺虫剤の使用を住民に推薦する場合

この例からも分かる通り、例外が適用されるのは、個別の企業や個人の利益のためではなく、地域住民の健康や安全を守るという公衆衛生上の目的があり、かつ公的機関が主体となって情報を発信するような、極めて限定的な場面です。

一般的な化粧品や健康食品、医薬品の商業広告において、この例外規定が適用されることはまずないと考えてよいでしょう。

広告担当者が知っておくべきQ&A

最後に、実務でよく疑問に挙がる点をQ&A形式でまとめました。

Q1. 推薦しているのが「事実」であれば、広告で謳っても問題ないですよね?

A1. いいえ、問題になります。

本規制の最も重要なポイントは、たとえ推薦が事実であったとしても、原則として広告で謳うことはできないという点です。あくまで消費者に与える影響の大きさを鑑みての禁止です。

なお、もし推薦の事実自体がなかった場合、それは本規制の違反であると同時に、薬機法第66条第1項で禁止される「虚偽広告」にも該当します。

Q2. 美容師が自分のお店でお客様に「このシャンプーいいですよ」と勧めるのもダメですか?

A2. それは問題ありません。

この規制は、不特定多数の消費者に向けた「広告」を対象としています。化粧品広告ガイドラインにも「美容師等が店頭販売において化粧品の使用方法の実演を行う場合等を禁止する趣旨ではない」と明記されています。

対面でのカウンセリングや実演販売における個別の推奨行為までを禁止するものではありません。

Q3. 結局のところ、「専門家監修」という広告は安全なのでしょうか?

A3. 安全とは言えません。「抵触するおそれがある」グレーな表現です。

前述の通り、美容家や専門家の推薦は、その人の影響力次第で違反とみなされる可能性があります。安全性を高めるためには、以下の点に注意する必要があります。

  • 「監修」を根拠に効果効能を保証しない: 「専門家が監修したから、こんなに効果がある」という見せ方はNGです。
  • 監修の範囲を明確にする: 専門家が具体的に何(成分の選定、テクスチャー、デザインなど)を監修したのかを、客観的な事実として紹介するに留めるべきです。
  • 専門家の肩書に注意: 「皮膚科医」など医薬関係者の肩書を持つ専門家が化粧品を監修した場合、その推薦広告はより厳しく判断される傾向にあります。

まとめ

今回は、薬機法広告における「医薬関係者等の推せん」の禁止について解説しました。最後に重要なポイントをまとめます。

  • 医師、美容師、病院、学会、公的機関などによる医薬品等の推薦広告は、たとえ事実でも原則禁止
  • 対象となる「推せん者」の範囲は広く、影響力のある美容家や専門家も含まれる可能性がある。
  • 「指定」「公認」「指導」「選用」といった表現は「推せん」とみなされる。
  • 「厚生労働省承認」「特許取得」といった表現も、国の推薦を想起させるため規制対象となる。
  • 例外が認められるのは、公衆衛生の維持を目的とした極めて限定的なケースのみ
  • 「専門家監修」はグレーゾーンであり、専門家の権威を借りて効果を保証するような表現はNG

広告を作成する際は、専門家の権威に安易に頼るのではなく、製品そのものが持つ客観的な事実やデータに基づいて、消費者にその魅力を伝えるという原点に立ち返ることが重要です。

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