令和7年8月15日、厚生労働省は「美容医療に関する取扱いについて」を発出し、美容医療における法令違反の具体例と法解釈を整理しました。
無資格の「カウンセラー」が治療方針を決定する、看護師のみで施術を行う、メールだけで処方するなど、美容医療の現場で問題となっている事例が具体的に示されています。
本記事では、通知で示された7つの違法事例と、違反した場合の行政対応を解説します。
通知の背景
厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」では、自由診療で行われる美容医療の不適切な事例への対応が検討されてきました。
令和6年11月の報告書では、次のような問題点が指摘されています。
- 患者が「カウンセラー」のみと相談し、決定した治療内容をそのまま医師が実施している
- 医師法等に違反する行為か否かの判断基準が不明確である
- 保健所がどのような場合に立入検査できるのか明確でない
これらを受け、本通知では法令上の解釈が整理されました。
通知で示された7つの違法事例
通知では、美容医療における法令違反について7つの項目が整理されています。
無資格者による診断・カウンセリング
【違反法令】医師法第17条
医師・看護師等の免許を持たない「カウンセラー」が、患者の状況に応じて治療方法を選択・提案する行為は、医行為に該当します。
違法となる具体例は次のとおりです。
- 患者の希望を聞き取り、具体的な治療方法を選択・提案・決定する行為
- 形式的には料金説明でも、実質的に治療方法を提案している場合
- 脱毛、アートメイク、HIFU施術などの医行為
- 侵襲を伴う検体採取(採血など)
看護師等のみによる治療行為
看護師等は、医師の指示の下でのみ診療の補助を行えます。医師の指示なく医行為を行えば違法です。
違法となる具体例は次のとおりです。
- 医師の指示なく脱毛、アートメイク、HIFU施術等を行う
- 看護師が診察を行う
- 看護師が治療方法を選択・提案・決定する
メール・チャットのみによる診療
【違反法令】医師法第20条
オンライン診療指針では、リアルタイムの視覚・聴覚情報を含む手段を採用すること、文字・写真・録画動画のみで完結してはならないことが定められています。
メールやチャットのみで診断・処方を行うことは、医師法第20条違反となるおそれがあります。
診療録の作成・保存義務違反
【違反法令】医師法第24条
医師は診療をしたときは遅滞なく診療録を作成し、5年間保存しなければなりません。
違法となる具体例は次のとおりです。
- 診療を行ったにもかかわらず診療録を作成していない
- 診療録の記載事項が医師法施行規則第23条の要件を満たしていない
違反した場合は50万円以下の罰金が科されます。
管理者の管理義務違反
【違反法令】医療法第15条
病院等の管理者は、従業者を監督し、管理・運営に必要な注意をしなければなりません。
管理者は原則として診療時間中常勤すべきとされており、長期間にわたり不在で管理者の責務を果たせない場合は違法となります。
医療安全確保に関する違反
【違反法令】医療法第6条の12、医療法施行規則第1条の11
病院等の管理者は、医療の安全を確保するための措置を講じなければなりません。
違法となる具体例は次のとおりです。
- 医療安全管理のための指針を整備していない
- 医療安全管理のための職員研修を実施していない(年2回程度の定期開催が望ましいとされています)
- 医薬品安全管理責任者を配置していない
医療広告規制違反
【違反法令】医療法第6条の5
医療広告では、広告可能事項以外は原則として禁止されています。
禁止される広告は次のとおりです。
- 虚偽広告
「絶対に安全」「必ず綺麗になる」、加工した術前術後写真など - 比較優良広告
「日本一」「No.1」、著名人との関係性を強調する広告 - 誇大広告
科学的根拠が乏しい情報で特定の治療に誘導するもの - 体験談広告
患者の主観に基づく治療効果の体験談 - ビフォーアフター写真
治療内容・費用・リスク等の説明なく写真のみを掲載
違反に対する行政対応
通知では、法令違反に対する行政対応についても整理されています。
保健所による立入検査
患者等からの情報提供に基づき、法令違反の疑いがあると認めるときは、保健所は医療法第25条第2項に基づき立入検査を行えます。
立入検査への不協力(報告懈怠、虚偽報告、検査拒否等)は刑事罰の対象となります。
都道府県知事による処分
法令違反がある場合、次の処分が行われる可能性があります。
警察への告発
医師法・保助看法違反や医療法上の刑事罰に該当する行為を確認し、犯罪があると思料するときは、刑事訴訟法第239条に基づき警察への告発が行われます。
まとめ
本通知により、美容医療における法令違反の判断基準が明確化されました。
無資格者によるカウンセリング、看護師のみによる施術、メールのみでの診療など、従来グレーゾーンとされていた行為が明確に違法とされています。
美容医療を提供する医療機関においては、本通知の内容を踏まえ、法令遵守体制を点検することが重要です。

